イオルとジュリウスは先の調査任務から帰還し、直ぐにアナグラ内にある支部長室、研究者兼ここ極東支部最高責任者の支部長を務めるペイラー榊のもとへ来ていた。
実際、謎のゴッドイーターとピターを見たのはイオルだけなのでジュリウスと榊博士は彼の報告を黙って聞いていた。
「成る程、謎のゴッドイーターか…」
「あの動きからしてかなりの戦闘センスの持ち主だと思います。ピターと一人で相対して傷一つ負ってない人物だったのでゴッドイーターの中でもトップクラスの自分かと」
「イオル、本当に顔も見えなかったのか?」
「残念ながら全然。声と身長から女性って分かったぐらいで他には何にも。所属も名前も答えなかったから脱走兵の可能性は濃厚かもしれません」
「ふむ。分かった。イオル君、ジュリウス君は引き続きピターの行方とそのゴッドイーターについての調査任務をお願いするよ。今度そのゴッドイーターに相対した時は捕縛を優先してくれるかい」
「了解しました」
ピターを追っていた彼女に会うには自分達もピターを追うのが早いだろう。
この広い大地でピターと人間、どちらが見つけるのが簡単かと言われればそれは巨体のピターに決まっている。
支部長室から出てエントランスへ戻るとブラッドの面々が揃って自分達を待っていた。
「あ!隊長ー!お疲れー!」
「謎のゴッドイーターか…。このロミオ様が捕まえてやろうか?!」
「黙ってろロミオ。それにお前には無理だ」
「隊長、ジュリウス、大変だったみたいですね、お疲れ様でした」
「ピターか。今度の出撃の際は私も是非手伝わせてくれ」
上から香月ナナ、ロミオ・レオーニ、ギルバート・マクレイン、シエル・アランソン、リヴィ・コレットである。
全員ブラッドのメンバーで今回の謎のゴッドイーターの件に興味津々らしくイオル達を待っていたとのことであった。
イオルはこのブラッドしか知らないがギルなんかは所属異動があってここに来た訳だし若しかしたら謎のゴッドイーターについても何か知っているかもしれない。
それにシエルは色々な知識を知っているからかプロファイルも得意だったりする。
イオルが一人で考えるよりやはり皆んなの意見を貰えれば謎のゴッドイーターへの手掛かりに繋がるかもしれない。
「皆んなももう聞いてると思うんだけど謎のゴッドイーター。これについての皆んなの意見が聞きたいんだ。分かってるのは女性で凄く強い」
「隊長…情報が端的な上に少な過ぎます…」
「う、ご、ごめん。身長はたぶんシエルぐらいで剣も銃も使ってたから第二世代の神機使いだよ。自分の情報をあまり伝えたくなかったのかフードを目深く被って名前も所属も言わなかったんだ」
「んーっと、ジュリウスは見てないの?」
「ああ。俺が来た時にはピターもそのゴッドイーターも居なかったんだ」
「それではジュリウスも役に立たないな」
「ゔ、その通りだがリヴィは手厳しい」
「俺も残念ながら役に立てそうにはないな。シエルと同じ様な身長の女ゴッドイーターなんてゴロゴロいたから。それに俺に寄ってくるのはセクシー系ばっかだったし、あんたの話を聞いた限りじゃあマイペースでふわふわした女だろ」
「え、なんでギルここで自慢入れてきてんの。お姉様系ばっか寄って来るってなに。羨ましい!」
結局の所、手掛かりになりそうな意見は出ず、雑談をしている内に本題からズレてしまった。
雑談を続ける途中、ブラッドの横をクレイドルで極東一の古株、金のガントレットがトレードマークの雨宮リンドウがひょっこりと顔を出した。
「おー、おー、ブラッド諸君。何やら盛り上がってるね、何やってんの」
「あ、リンドウさん!あのね、皆んなで隊長が遭遇したっていう謎のゴッドイーターについて考えてたんだ。リンドウさんは何か意見ない?」
「そういえば榊博士がそんな感じの話ししてたな。あんま聞いてなかったけど特徴とかなんかあんのか?」
簡単に先程の特徴をリンドウに伝えると彼は腕を組んで少し頭をひねるとニヤリと笑った気がした。
何か知っているのか聞くと首を振ってから「まあ、頑張れよ」と手を振って階段下へと降りて行った。
そのままエントランスでの雑談は流れ解散となって今日の謎のゴッドイーターの正体は掴めぬまま翌日を迎え、その日の夕方、アナグラ内に警報音が鳴り響いた。
「贖罪の街にて大型アラガミ出現。昨日ブラッド隊隊長が遭遇したディアウス・ピターと思われます。アナグラ内にいるゴッドイーターは至急エントランスまで集合願います」
そのアナウンスから数分後に任務に出ていなかったメンバーによるブリーフィングが始まり、出撃メンバーにイオル、ナナ、ソーマ、そして極東支部第一部隊隊長の藤木コウタという編成が決まった。
ソーマは何故か始終難しい顔をしており、何処となく機嫌が悪そうでコウタが彼を宥めていた。
「ソーマ、任務だぞ。心配なのは分かるけど一回忘れて任務に集中しろって。ブラッドの二人が気まずそうだろ」
「…ああ。すまない、任務になれば切り替わるから心配はするな」
「そういう問題じゃないっての。ったく…、ごめんな、お二人さん。こいつ今日徹夜明けでおネムで機嫌悪いんだ」
「寝てないなら早くピターをやっつけてアナグラに帰ってしっかり休んで貰わないと!頑張ろうね、隊長!」
ナナが明るく気合いを入れていて少しだけ場の空気が軽くなる。
もう贖罪の街に到着というところでピターの怒号が聞こえた。
ヘリの窓から下を確認するが姿が見えない所から建物内にいて、そうとう怒っているところを見るに誰かと戦闘中なのだろう。
頭にあのゴッドイーターの姿が過る。
広場に着陸すると全員で散開してピターを探すことになりイオルは東奥の建物に向かっていた。
本当にピターなどいるのだろうかと思われる程、静まり返っている。
建物の最奥を覗いて目を見開く。
そこには既に絶命したピターが横たわっていたからだ。
ピターの亡骸に近づいてコアの確認をするもコアは既に回収されている。
「全員、東の建物に来て下さい。ピターを発見しましたが既に絶命しています」
「え!?討伐済みってこと?」
「はい。謎のゴッドイーターの可能性が高いかも…。他のアラガミの可能性もあるので一先ず集まって下さい」
全員の了解の声を聞いて無線を止めるとガシャンと機械の響く音が聞こえたのでイオルは銃形態で構えたままその場を飛び退きピターの影に身を隠した。
ピターの奥から見える影は逆光になっているが確かに人型でまさかと思って慎重に外に出る。
「お、また会ったね」
フードの下の口許がニッと笑うように持ち上がる。
あの彼女だ。
肩に神機を担いで飄々とした感じでピターの側まで来てじっくりとピターを観察している。
「これは貴方が?」
「うーん、どうかな。私なんじゃない?」
「適当なこと言わないで下さい。此方には既に貴方の捕縛命令が下ってるんです。早急に名前を言って下さい」
「うへぇ、捕縛命令って誰よ、そんな大それたもの出したのー。絶対そいつには土産はやらない」
「いい加減に…」
しろ、とイオルが言葉を続けようとした時、ダダダダダッと誰かが駆けてくる足音がしたかと思ったらコウタが神機を持ったままその人物に向かって飛んできた。
が、女性はヒョイと軽くターンをして寸の所でそれを躱してコウタはピターに向かって熱い抱擁を交わした。
ピターに抱き付いたことに一瞬悲鳴をあげて飛び退いた後、その人物に今度こそ正面からハグをする。
「ソラ!久し振りだな!なんで帰ってきてるのに連絡寄越さないんだよー!」
「あはは、ごめんねー。急に帰ろうと思いたったから正規の手続きも何もしてないから普通に怒られると思って」
「え、それ普通にヤバいじゃん」
「あの、コウタ隊長?」
「ああ、イオル。安心していいぜ!こいつは脱走兵なんかじゃなくて「ソォオラァァア!」あ、やべ」
怒号と共に地響きを起こしながらソーマが現れてその後ろを驚いた様子でシエルがついてきている。
ソーマといえば正しく鬼の形相で、彼女は口許を引きつらせるとハグが緩んだコウタに一言「ごめんね」と声をかけてから片手で軽くソーマに向かって放り投げた。
「まじかぁぁあぁぁ」
「邪魔だ!」
「ひでぇ!うごふ!?」
飛んで来たコウタをソーマはペイッと物ともせず自身の道を作る。
コウタは哀れ、地面にべしゃりと落ち、ナナが心配そうに駆け寄っていた。
ソーマはコウタ弾に止まることなく真っ直ぐに彼女の元へ向かうと神機を地面に刺して両手で彼女の両肩をガッシリと捕まえて抑えつける。
そのまま彼女を凍えた視線で上から睨みつけていた。
「や、やっほー、ソーマ」
「ソラ、お前また黙ってクレイドル抜け出したな」
「いや、無線で迎えは要らないって言ったし。大体手続きとか面倒」
「そういう問題じゃねぇって言ってんだろ!この馬鹿が!俺らがどれだけ心配したと思ってんだ!それにお前はいつもいつも抜け出しては…」
「うゔ…。あ、君!えと、イオル君!私を捕まえるんでしょ!早く!」
「あ゛?コラ逃げんな」
何となくカオスな状態が始まりこのままでは埒があかないと仲裁に入り、取り敢えずは落ち着いた。
が、しかし、何もしないと逃げるかもしれないとのことで彼女の肩をソーマが抑えつけておくという条件つきである。
迎えを待つ間に建物の陰でやっとまともな話が出来るようになった。
出会ってからずっと深く被っていたフードを彼女が取ると中から空のように鮮やかな蒼い髪が一番に目に入る。次に彼女の顔で、可愛らしい顔立ちをしているが、すごく美人って訳ではないが海のように深い碧の瞳は何でも見透かしているように真っ直ぐな意志の強さを感じ、綺麗だと思った。
「怒られたくなかったから名乗らなかったんだけど、色々面倒事になっちゃったんだねー。ごめんね?改めて、私は北條ソラ。まあ、前線で好き勝手やらせて貰ってる遊撃兵で階級は中尉なんて貰ってる…はず。覚えてないけど」
「適当な紹介するな、混乱するだろうが。お前はクレイドル所属の遊撃兵、北条ソラ中尉だ」
「さっすがソーマ。私より分かってるね」
「茶化すな」
ソラはヘラヘラと笑っているがソーマの怪力に肩を押さえつけられていていい加減痛くはないのだろうか。
心配にはなるが本人は大丈夫そうだ。
バリバリとプロペラの回る音が近づいてくる。
「ほら、ソラ。皆んなに挨拶考えとけよな」
「ねぇねぇソラさん、後で色んなお話聞かせてね!」
「おら、もう逃げんなよ」
ソーマからやっと解放されて本人は肩を竦めて両手を上げる。
これにて謎のゴッドイーター事件は一時、終結を迎えた。