宴会があった翌日。
食堂から皆んなが起きる前に目覚めたソラは久し振りの深い眠りにスッキリとした頭で気分が良く、軽く伸びをして眠気を飛ばす。
自身の脚には未だにソーマが頭を乗せたまま穏やかな寝息を立てており、思わずラクガキでもしてやりたい気持ちになるが、生憎とペンは近くになかったので大人しく彼の肩を揺すった。
「んん゛、なんだよ…」
「ソーマ起きてよ。いい加減脚が痛い」
「は?ソラ?何言って…」
眠た気な目を擦って薄目でソラを認知したソーマは自身の置かれた状況…つまりはソラに膝枕をされていると気付いてバッと頭を上げた。
そのままソラに背を向けてワナワナと震えて、
「なんだこの状況は…!なんで俺はソラにひ、膝枕なんて」
「あれ、覚えてないの?昨日ソーマ酔っ払って私に絡んで来て休憩してたら私の膝を枕にして寝出したんだよ。ちゃんと寝ないと眼の下の隈、取れないよー?」
「そういうこと聞いてんじゃ…はあ、もういい」
ソーマも久々に深く眠れた所為か眼の下の隈も少しだけ薄くなって心なしか血色も良くなった気がした。
ガシガシと彼は頭を掻いて立ち上がるとそっぽを向いたまま「まあ、なんだ、さんきゅ」とソラの頭を軽く撫でてエントランスを出て行った。
ソラもその姿を見送ってから一つ欠伸をして立ち上がる。
肩に掛かっていた毛布にそこでやっと気付いてそれを拾うとフッと柔らかい笑みを浮かべて彼女もエントランスを出て行った。
♢♦︎♢♦︎♢
イオルは現在、ブラッド隊であるシエル、ギル、ロミオとメンバーでグボログボロの討伐に出て来ていた。
小型アラガミをちょこちょこと狩りつつ目標を捜す。
「それにしてもソラさん、不思議な雰囲気の方でしたね」
「しかも俺らみたいな血の力もないのに感応種もバッサバッサ討伐しまくってたんだろ!?スッゲーよなー!」
「イオルはあの子の戦いぶりを見たんだろ?どんな感じだったんだ?」
「なんかトリッキーな動きだったよ。凄く身軽でアラガミの攻撃も紙一重で避けたり、ブラスト式の弾で空中を移動したりするんだ。パワータイプというよりはスピードとバランスで勝負する感じだった」
「それじゃあ血の力に目覚めたりなんかしたらもっと強くなんじゃねぇの!?やっべー!!!」
確かにイオルと何度もミッションに行った者は皆んな彼の”喚起”の力により血の力に目覚めており、彼女もそれに目覚める可能性はある。
元々ある戦闘センスに血の力が加わると更に強力な戦力になるんだろう。
確かに自分も彼女の血の力がどんなものになるのか見ていたいとイオルは思った。
帰ったらもう一度誘ってみようと考えた時、漸くグボロを捕捉する。
「話は後にしよう。グボロ捕捉。全員、無理せず早急に討伐を開始」
「「「了解」」」」
♢♦︎♢♦︎♢
静かな夜。
月明かりがここ、極東支部のアナグラの高い高い壁を薄っすらと照らしていた。
深夜帯ということもありアナグラ内で明かりが灯っているのも疎らである。
少し肌寒い風が吹き抜ける中、その高い壁の淵に淡い空色がふわふわと揺れていた。
彼女をスッポリと包み込む黒色のマントは防寒にも優れているようであまり寒さは感じない。
陽気な鼻歌が風に乗る。
ピピピと彼女の腕時計からアラームが鳴り、音を止めると彼女は壁の上に立ち上がり、マントのフードを深く被る。
風が吹いても自身が見えないように。
静かな闇が自身を隠すように。
「さーて、行きますか」
黒い影が夜空に溶けるようにそこから消えた。
♢♦︎♢♦︎♢
積もるアラガミの骸の山。
その頂上でソラは山の上にあるアラガミの腹に剣を突き立てその神機に凭れ掛かるように膝を着いた。
彼女は普段考えられないぐらいにその息は荒く、肩を上下させて神機にコツンと頭をつける。
周りにはまだアラガミが数体、集まって来ていた。
「はあ、はあ、はあ…、ふ、は、あは、あはははははははは」
彼女の笑い声が響き渡る。
顔を上げて空を仰ぎ見る彼女に数体のアラガミの影が飛び掛った。
刹那に神機を抜き取り一閃、アラガミを吹き飛ばし流れで次のアラガミに斬りかかる。
アラガミの血がマントに掛かるが黒のマントでは汚れは分からない。
フードの下の口許が弧を描く。
「足りない、足りない、ぜーんぜん足りないなぁ」
アラガミが唸り声を上げてこちらを威嚇してくる。
しかし、ソラには関係がなく次々にアラガミを斬りつけていく。
アラガミは悲鳴をあげる間も無くアラガミは絶命していき、遂に最後の一体になった時、ソラの動きが速すぎてフードがはらりと彼女の頭から落ちたと同時にアラガミのコアに一突き剣を突き刺した。
グッと力を入れていた手の力を抜くと体の力が抜けて仰向けにゆっくりと倒れて空を見上げた。
「あーあ、これじゃダメなんだ。私の中で誰かが言ってるんだよ、足りないんだって…」
頭上に出た丸い月がソラを照らす。
彼女の瞳は燃える焔のような紅に染まっていた。