ソラの歓迎会から数日、イオルは未だソラとは任務に行けず、ソラもソラで余り任務には出ていない様子だった。
そんなある日の昼頃、榊博士に呼ばれて支部長室を訪ね、ノックをすると中から了承の声が聞こえ中に入れば榊博士とソラがいた。
「やあ、イオル君。待ってたよ」
「どうもー、イオル君」
「ソラさんも呼ばれてたんですね」
取り敢えず腰をかけてと言われて既に座っていたソラの隣に腰を掛けると彼女は何故か口をモゴモゴさせており甘い匂いがふわっとした。
たぶん、飴でも食べているのだろう。
支部長室で食べるとはなかなかの強者である。
「今回君達を呼んだのは、二人で遠出の任務に出て貰いたいんだ。遠出って言っても日帰りで帰れる距離だしクレイドルの支援物資搬送の護衛だからそれほど大変なものじゃない。お願い出来るかな」
「分かりました。」
「了解でーす、もご」
「頼んだよ。それとソラ君はもっと食べてるのを隠しなさい。車を外に待たせてあるから準備出来次第出発してね」
二人で「失礼しました」と支部長室を出てからソラは神機保管庫に先に向かった。
イオルは回復錠等をターミナルで取り出してエントランスを出たところで楠リッカに出会う。
顔に油跡がついており工具を持っているところを見るとまた新しい発明品の開発か、神機の整備から出てきたところだったのだろう。
「お、イオル君。今からソラちゃんと出撃だって?結構遠くに行くって聞いてるから気をつけてね」
「ありがとう。僕の神機も彼女の神機も特に問題なかった?」
「そうだな、問題って問題はなかったんだけどね」
「?なんか歯切れ悪いね。どうかした?」
「ソラちゃんの神機、ここに来てから余り使ってない筈なのに思ってた以上に整備が必要だったことに今朝気付いたんだよね。なんとか整備は間に合ったけど、一戦、一戦で結構無茶に使ってるのかなって。あの子、簡単にはやられないけど君と同じで結構な無茶するからさ。しっかりサポートしてあげてね」
ぽんぽんと肩を叩くとリッカは去っていった。
確か彼女が出撃したのはあれ以来第一部隊の強引なお誘いによる一回だけで、そんな難しい任務ではなかったと聞いている。
あれだけ動き回るから一回一回整備が必要なのかと首を捻ってからイオルも保管庫に向かった。
保管庫にはソラだけではなくソーマも来ていた。
車に乗せた物資の説明と地図を見せて運転手と彼女にルートを説明しているようだ。
ソラは軽く了解と返事をして地図を仕舞う。
「イオル君準備出来た?」
「あ、はい。ソーマさんは見送りですか?」
「私が心配だから見に来たんだってー」
「そんな訳ねぇだろ。…何かあれば直ぐに連絡はしろ。イオル、この馬鹿がチョロチョロと迷惑かけてきたら遠慮なく殴って黙らせていいからな」
「酷いなー」
「あはは、それじゃあ夜には戻りますので。行ってきます」
神機を背負って物資の運搬要員と共に二台の車にそれぞれソラと別れて乗り込む。
後ろを振り返ると最後までソーマが見送っていた。
♢♦︎♢♦︎♢
外に出て3時間程、小休憩を挟みながら車を走らせるがアラガミとは一度も出会しておらず平穏な旅路が続いていた。
周囲を見渡せる丘の上でまた小休憩を取ることになり今はソラが車の上に登って警戒をしている。
昇る太陽の眩しさを防ぐ為かソラは鍔のついた帽子を被って、本当に警戒しているのか、ぼーっと地平線を眺めていた。
そんな彼女を横目で見ているとクレイドルの隊員からコップに入った水を渡されたのでお礼を言って受け取る。
「あの、目的地にはあと距離的にはどのくらいで着くんですかね?」
「ザッと一時間ちょいだな。アラガミにも遭遇しないし、今日は楽勝かもしれないな。なんたって北條中尉もいるし、百人力だよ!」
他の隊員も同意の声を挙げて如何に彼女に信頼が置かれているのか分かる。
そんな時、ソラが急に立ち上がった。
「…そろそろ出よっか」
「え、アラガミでも見えましたか?」
「ううん。でも目的地まであと少しなんだよね?私はもっときっちりしたトコでお昼寝したいからさー」