『ニュース速報です。ただ今ここ○○ビルにて立て籠り事件が発生しました。犯人は人質としてビルの社員を捉えており現在身代金として1億を要求しています──』
「本当にミッドは事件が絶えへんなぁ…あかんな、今日はこれで出動するかもしれへん」
「しょうがないよ。喩え巨悪を捕まえてもまた次が出る、イタチゴッコみたいな物なの」
管理局の休憩所で談笑しているのは管理局機動六課隊長の八神はやて、対するはエースオブエースの称号を受けた教導官の高町なのは。彼女等は仕事の合間、昼食までの時間をTVを見ながら休憩所で過ごしていた。
「その度に自分、随分楽しそうに犯人をコロコロするやん?」
「コロコロ!?そんなに過激にはしないよ!?ちょっっとお話しするだけなんだよ!?」
「はははっ、冗談やでなのはちゃん?気にせんといてーな。向こうも抵抗するんやから多少の怪我とかは多目に見てくれるで」
「もー!だから…ん?」
『建物にはBランク以上の魔導師がいると言う情報も──』
『…』
現場を報道しているレポートの遥か向こうに知り合いの顔が見えた。彼は燕尾服を着ていて片手に大きな風呂敷を持ってビルの裏手口に入っていくのを見た。
『現場の陸士達にも、緊張が走ります』
「ん?んーー…?」
「どしたのなのはちゃん?」
「…さっきTVでうちのお手伝いさんに似た人が犯人のいる建物に入っていったの」
「いやいや、それは無いやろ?だって彼、家政婦なんやで?そんな極悪の犯人の所へカチコミなんて行かへんやろー」
「そう…だよね?そうなの!きっと彼は私の部屋で掃除機回しているの!そうに違いないの!」
「ええと…ここだ」コンコン
ビルの屋上にある社長室、その扉の前に一人の燕尾服を着た男が扉をノックしていた。
「すいませーん、開けてくださーい」
「…何の用だ、どうやって入ってきたんだ」
しばらく待つとスカルマスクを被った人が対応した。声を聞く限り男であろう、低くドスが効いた声であった。
「御頼みされたピッツァをお持ちしました」
「…うん?なんだそれは」
「俺っすボス!!俺がさっき犯行声明と一緒に警察に言いました!」
スカルマスクの後ろから陽気な男の声が聞こえる。
「テメェ!何勝手に向こうに口走ってんだよ!俺らテロリストだろ!?」
「飯を頼んじゃあいけないんっすかーーー!?」
「「えぇーー!?」」
「ダメに決まってるだろ!そもそもなんでピザなんて…」
「発音が違う!ピッツァだ!ピザじゃないピッツァだ!間違えんなこの糞がよぉ!!?あぁ!?馬鹿にしてんのかオイィ!?」
「テメェ!ボスに向かって…」
「良いからそこを開けてピッツァを食わせろよぉ!!チェダーチーズをたらふく乗せたブツを喰わせろぉ!!」
発狂している男はピザを要求し続けた。その結果、燕尾服の男はそれを受け入れるかのように目の前のスカルマスクに入って良いかの断りを入れる。
「お、おぅ…まぁ…入れ」
「失礼します」
「皆!ピッツァだ!ピッツァが来たぞ!ひゃっほうっす!」
「「ピッツァだーーー!!」」
「ご注文は以上で宜しいですか?」
「良し!帰って良いっす!!」
「駄目だろうが、コイツも人質として捕らえんだよ」
「そんな!こんなにも旨そうなピザを配達した人を酷い目に!?そんなのあんまりっすよボスぅ!」
「お前の頭にはピザしかないのか…」
どうやらこのスカルマスクの男はここのリーダーのようだ。先程からピザピザ言ってる男は金髪で蒼い瞳をキラキラと輝かせてボスに抗議していた。
「入った動機は三食共にピザを提供する事です!」
「なんで俺こんなの採用したんだろ…」
「あ、あの…本当に勘弁してくれませんか?俺このあと洗濯と依頼主のご飯作らないといけないんです」
「諦めろ、もうお前は袋のねず…」
「ボス早くぅーー!ピッツァ無くなりますよぉーー?」
「止めろぉ!締まらないだろうがぁ!!つか要らない!要らないわそんなモン!少しフリーダム過ぎるぞお前ぇ!」
「あぁ、汚れてる。ちょっと掃除してきます」
「おい!行くな!勝手に部屋を掃除するな!バインドで縛り…」
「職務の邪魔だ退け」
ボスが燕尾服の男の肩を叩いた瞬間、背筋に悪寒が走った。コレに逆らっては行けない、そう言う風な凄味を感じたのだ。
…一通り掃除し終わったらバインドで拘束はされたが。
一方管理局では
「…と言うかなのはちゃん所の部屋、最近どうなん?結構前に来たときは汚部屋やったけど」
「な、なんとかね…にゃははは…ちょっと痛いなぁ」
「フェイトちゃん、流石に居られなくなって別の部屋に行くほどやったしなぁ…で?どうなん?家畜小屋から人の部屋にランクアップしたん?」
「人並みだよ!!…お手伝いさんが何から何までやってくれてるから…助かってるの」
「所で今日の晩飯は?」
「本場イタリア仕込みのピザなの!」
「いいなぁ…和洋折衷出来て私も欲しいなぁ…ちょっと貸してくれへん?」
「へへーん、だめー」
ふふんとなのはがほくそえむように笑うと、急にTVが騒がしくなる。
『……新しい続報が入ってきました!』
「テレビが騒がしくなったね」
「犯人から何か動きがあったようやね、捕まるとええんやけど…と言うか陸の人らさっさと突入してしまえばええのに」
『犯人グループから新しいメッセージです!人質が増えたから纏めて解放されたければ三億用意しろといっております!』
「一人増えた…?」
「陸の人らが包囲してるのに…中にまだ誰か居たんか?」
『その者は陸士隊にボランティアで奉仕していた者であって…あぁ!今屋上に姿が見えました!手にバインドが敷かれている様子です!』
「…あれ?」
「」
TVには後ろに手を回して捕まっている燕尾服の男が映っていた。彼の名前は間藤恵也、ショートカットな黒髪に黒目の彼は、先程話にあったなのはの家政婦であった。
「そ、そういえば昨日珍しくレジアス中将が貸してと言って…うっそぉ…何してるん自分…」
「…」
「な、なのはちゃん?」
「…出撃するの」
「なのはちゃん!?顔が怖いで!?」
「向こうの部隊にも伝えといて欲しいの、用件とか聴かないでいいから突撃するって…ちょっと"お話し"をしなきゃならないの」
「あ、あわわわ…!」
だがそんな事はいざ知らず、当の本人の間藤恵也君はテロリストと和んでいた!
「皆さん晩飯は何が良いんですか?」
「ナポリタン!」
「ビフテキ!」
「すき焼き!」
「ネコマンマ!」
「誰だ最後ネコマンマっつったのはぁ!!ふざけんな!」
「皆!落ち着くっす!こう言うときは冷静に…」
「やっと頭冷えたか…ほら、さっさとこの人質どもを黙らせて…」
「皆の意見を一つに纏めよう!バラバラじゃマトモなものは出ない!ここは団結してピッツァとナポリタンにするっす!」
「やっぱりピザの事しか頭にねぇのかよぉぉ!!!」
スカルマスクのボスは怒声と共にその場で盛大にスッこけた。要求してから今までこれを繰り返しているのか疲れが見え始めている。
(な、何これ…何これ…)
尚、人質達はその様子を隅の方で見て絶句していた。
「取り合えずパスタ茹でてから考えますねっと…すいません、鍋と食材はあるんで…あぁボス、バインドの解除と火をお願いします」
「しかも俺はチャッカマンがわりかよ…っ!ほら…っ!さっさと作れ…っ!」
「ボス、リラックスリラックスっす」
「誰のせいだよぉ!!!」
ボスはピザキチガイの部下の胸ぐらを掴んで叫び声をあげた。その声は怒りと言うよりもうやめてくれと言わんばかりの懇願に近い声であった。
「それじゃあ取りかかる…」
…恵也は準備しようとしたその手を止めて、唯一の出入り口である扉を凝視している。
「なんだ、何ドアの所を凝視してんだよ」
「そうっす!パスタはアルデンテが最高なんだ!アルデンテ以外は認めないぞ!」
「本当に黙ってくれない?」
「…突入まで10秒…」
「…あぁ?」
…部屋を出入する唯一扉が爆破される。そこから次々と魔導師達が雪崩れ込んで皆それぞれのデバイスをこちらに構える!
「──ッ!応戦するぞ!」
「自分、ピッツァ食べないとAランク以上の魔法使えないんっす」
「糞ッ!Aランク魔導師って触れ込みで採用するんじゃなかった!うわあああああああもうだめだああああああああああ!!」
ボスガイカレタ!
モウダメダァ…オシマイダァ
オレ,コノテロガオワッタラリョウシンニアイニイクンダ
人質が全員避難される…そんな中一人恵也はパスタを茹で始めた。
「…君っ!ここは危ないから下がって…」
陸士の一人が彼の肩を掴んで避難させようとする。その時、手に持っていたパスタの鍋を落としてしまったのであった!
「そんなテロリストの言いなりなんて…オイ、何をする?何だ!?やめっ…」
一方管理局では
『…あっ!今管理局の突入部隊が突入したようです!』
「結局、なのはは行っちゃったね…」
「…仕事放って単身で出動とか…ちょっと下に示しがつかへんで…フェイトちゃん、ちょっと手綱握って…」
「ちょっとあの状態のなのはは止まらないかな…まさかの単独出撃…絶対に怒られるよ…」
「でももうこれで終わったやろ。先調べたけどあの犯行グループって皆烏合の集でマトモな戦力なんてない、ハッタリだけで今回の犯行を成しただけや。楽して騙してお金儲けと考えたんやろうけどやっぱりそれだけじゃ無理なんやなって…」
『…あっ!一人窓から落とされました…管理局員です!…うわっ!ボコボコにされて…』
「…あれ?」
「…対抗してるみたいだよ?」
「ま、まだや。たまたま…」
『次々と局員が落とされていきます!ここは高層ビルで…うわっ!?こちらのは顔にナポリタンが貼り付けられて…』
「あ、あれ?おっかしいな…?」
「…どうぞ、粗茶ですが」
ウメェウメェ
ピザァ!
コレガサイゴノバンサンデスカ?
「…気付いたら何十人と言う局員が全員倒されて…!」
間藤恵也の足元には生き残りの陸士が息絶えそうに喘いでいる。
「あ、悪夢だ…なんだ…なんだこれは…家政婦の戦闘力じゃ…」
「うっせ、記憶処理家政婦キックを顔面に喰らえ」
ギャァァァァァ…!
「…」
「ボス!どうして両手で頭を抱えて悩んでるんですか!?茶が美味しいですよ!いやぁ料理は残念っすけどそんなに落ち込むことはないっすよ!ファイト!」
「…いや、事態の状況がね…飲み込めないってね…」
「そこのお手伝いさんが全てやりとげたんですよ!」
「お前それ自分で言ってて何とも思わないの?…あー糞。今ので人質逃げやがったし…最悪だわ…」
来る局員をちぎっては投げてちぎっては投げての大立回りを見せられたボスは意気消沈していた。一瞬仲間に加えようと声をかけても暖簾に腕押し、断られてしまった。
「それじゃ自分これで、そろそろ晩飯の仕込みしないと…」
「…」
「それでは皆さん、またの機会に会いましょう。それでは…」
家政婦は何事も無かったかのように入ってきたドアが出ていってしまう。嵐のような訪問者であった。
「…行きましたね…」
「行きましたねじゃねーよ。もう俺やんなっちった…投降するわ」
「そんな!それじゃ人類ピザ計画はどうなるんです!?」
「 知 ら ね ぇ よ 」
…数分後、ニュースでは高町なのはの活躍(武力介入)によってテロリストは鎮圧されたと報道されのであった。
「…はぁー…」
家政婦の間藤恵也は高町なのはの家政婦、時給800円で365日の契約で日々を過ごしている。あの後冷や汗をかいていたレジアス中将に「か、帰って良いぞ。ワシのヘルパー御苦労であった」と言われ帰路を歩いている。
「まとーくーん!!待って!私を無視なんて酷いよ!?ねぇ!?」
「あっ、お仕事お疲れ様。どうしたのそんな慌てて」
「ニュースみてすっ飛んで来たんだよ!?本当に大丈夫!?あいつらに変なことされてない!?」
ゴツッ!
「いった…っ!!何!?主人に何するの!?」
突然恵也はなのはの頭を小突いた、何か重く鈍い音がしたのはきっと気のせいだろう。
「中将からぜーんぶ聞いてる。仕事ほったらかしにしてまで来ないで欲しいんだけど」
燕尾服のポケットから煙草を取り出してライターで火を着ける。イライラしている証拠だとなのはは判断した。
「あっ、えー…ごめんね?」
「…取り合えずはやて隊長さんに謝りに行くぞ?」
「えー…」
「一緒に行くから、な?」
「…行く」
愚図るなのはを宥め、その手を取って連れて歩く。
「…あぁ、そうそう。知ってたか?ピザってピッツァでもピザでも本場の人間からしたらどっちでも良いらしいぞ」
「何それ?」
「…いや何でもない。ふと思っただけ…帰ろうか」
これから起こる事を想像しながら、彼は彼の大切な主人と共に帰っていく。
「お手伝いさん!早く帰ろう!」
「お手伝いさんじゃない、家政婦だ」
「同じ様なものなの!」
反響良かったら続くかも知れないです