「家政婦さん!はやくはやく!」
「アイナさん、良いですか?今から御主人の用があるので外しますが…」
「は、はい!分かりました!」
ヴィヴィオを保護した翌日の事だ。なのはが仕事でヴィヴィオの面倒を見れない、着替えや風呂なんかにヴィヴィオが異性である恵也を恥ずかしがる事から急遽、機動六課の寮の管理をしているアイナ・トライトンを呼んだのだ。
しかしアイナさんが来て以来、恵也の目が険しいものになっている。少し雰囲気が怖い。
「あのー…家政婦さん?ちょっと厳しくないかな?仕方無いでしょう?家政婦さんがヴィヴィオの風呂の事とかやるわけにいかないでしょう?」
「にしたってもっとちゃんとやってもらわないと、この前私が見たら固まってました…いや違うんですよ。職業柄ちょっと厳しく…」
恵也がアイナを見る目付きは姑が息子の嫁を視る目と同じ様なものである。
「それ家政婦さんが怖いからだと思うの。目から凍てつく波動、もしくはデスビーム出てる」
「何処が?私普通ですが」
「今、気を張ってるのか殺気を感じるよ」
「嘘、それほど?」
「そんな必要以上に確認とる所とかまさにそう。年上相手だからって接し方難しいくて変な方向に走ってるのだろうけどちゃんと謝って仲良くしてね」
「むぅ…」
しばらくそう話をしながら歩くと外の木々が生えている広場に着いた。今回呼ばれたのは、なのはが実力がみたいから見せてほしい。相手はこっちで用意するから思うようにやってほしいと言われて恵也はそれを了承し、燕尾服のまま来た。
「…それ脱がないの?」
「これが正装で、戦闘服なので」
服は特注で作られているらしく、見かけによらず凄い動きやすいそうだ。
「御主人、別に結構ですがお相手は?」
「スペシャルゲストだよ」
「ゲスト?」
「こんにちわー家政婦さーん!!」
ふと、何かの駆動音と声と共に、森の向こうの茂みの方から紫の髪をリボンで纏めた女の人が飛び出してきた。しかもバリアジャケットを着込んだ臨戦態勢でた。
「ギンガちゃ―」
「久しぶりっ!!元気にっ!してたっ!?」
彼女はそのまま間合いを詰め、その肢体を次々に恵也に向けて振り回し始めた!
「久しぶり!クイントの奥様に似てきましたね!でも戦いのスタイルも…てか止めろ!御主人!ちょっとこれは…」
驚きながらも恵也は紙一重で回避し、繰り出される拳を受け流してなのはの方を向く、だが彼女は既にふよふよと空中で退避を始めていた。
「頑張ってねー」
「戦闘データの協力を買って出たの!よろしくね!昔みたいに本気でじゃれあいましょ!?」
「厳しくないですか!?揃いも揃って…人の話を…聞けやオラァアアアア!!!」
少し離れた所でははやてとティアナ、スバル、キャロル、エリオのFW陣、そして遅れて退避してきたなのは合流し、その様子をモニターにて眺めていた。
「おぉー、凄い凄い。そこでカウンター気味にヘッドバットかぁ…ガッツあるなぁ…おー、激しい」
テレビを見るかのように観測されるデータを見ながら呑気に話し出す。
「フィールド系とブースト系の魔法を重視して…へぇーベルカかと思ったら近距離型のミッドチルダ式。あっ、今ホウキでギンガさんの頭を叩いたわ!無手やろ彼?」
「ウチのホウキだね、きっと召喚魔法で取り寄せてきたんだよ…あっ、叩き折られて捨てられた」
「レアスキルやないか!じゃあキャロみたいに…」
「ただ結構大きな物を出しちゃうと魔力満タンでもガス欠起こしちゃうらしいの。普段は身の回りの物を引き寄せるマジックハンドみたいな扱いでひじょーに勿体ない魔法だねぇー」
「えぇ…じゃあカートリッジシステムは必須やね」
「アームドデバイスとかは除外しても良いかな?ローコストで魔力運用出来るようにしてやったら…」
「なんか他人のデバイス考えるのって、楽しいなぁなのはちゃん!」
モニターで話し合ってる二人とは別に、離れた所では微妙な顔でその様子を見ているFW陣の面々の姿があった。
「スバル、あんたの姉さん凄いニコニコした顔で家政婦さん殺そうとしてない?ねぇ?あれじゃれてるの?明らかに急所狙ってるわよね?」
「で、でも体術と筋力ブーストだけだから…」
「自分等のランク考えて言ってる?」
モニター上では、今度は放たれた強打を額で受け止める恵也の姿がそこにあった。
額に拳が当たった瞬間、防御に回していた魔力を切って両の拳に瞬間的に出せる魔力を集束させる、そして次の打撃が来る前にギンガの右脇腹に拳を突き立て魔力を放出!魔力はバリアジャケットを貫通させ自身の強打をほぼ相手に与える――!
「カハッ!」
「フォーカススマッシュ…!もう一発あるぞ!」
拳を喰らってふらつくギンガを見て手応えを感じた恵也はギンガの顔に直ぐ様左の拳を振るう…だがそれはギンガの防御の為に出される両手で防がれた。
「くぅー…!ジャケット抜いての攻撃は効くわぁ…!」
「この…!」
全ての魔力を両手に集めラッシュを放つ。その様子を一目見たギンガは両手でガッチリとガードを固め防ぎ始めた。
「まだまだ!さっきの技でそろそろガス欠でしょう!?今のキメ技でしょう!?防がれてどんな気持ち!?どんな気持ち!?」
「あっ!まだ意識あった!クソ!倒れろ!両手モロに喰らって痺れてるくせに!倒れろ!普段しない煽りをするな!」
「わぁー…なのはちゃん今のコレ集束魔法やで?拳に魔力をあるだけ集めてぶん殴っとるわ、しかもジャケット抜いての一撃」
「あぁ、これでバリアジャケットを針のように抜いて、魔力でブーストした拳の威力を肉体に与えてるんだねー…うん、道理で魔力量の割りに痛いわけだよ」
「シグナムもそんなこといってたなぁー。奴の大振りは手が痺れるって。そら生身で筋力強化された拳受けるワケやからなぁ」
「あのー…なのはさん?そろそろ止めた方が良いですよ」
「スバル?なんで?」
「そろそろ恵也、電池切れになります」
「え…?」
右側頭部に向けて放たれる拳をギンガは右腕で防ぐ。防いだ腕は生身で受けたような衝撃が伝わる。
「あら!?今度は技の名前言いながら打たないの!?分かりやすくて助かったんだけど…っ!」
恵也は打つ度に表情に疲れが見え、魔力がゴリゴリけずられていくのが分かる。手の内を知っている者に゛持久戦゛をさせたくはないのか…それでも手を休めない。
「いい加減そのガード抉じ開けて…ッ!」
叫びながら踏み込んで力一杯の右アッパーを放つとギンガのブロックが弾け僅かに隙間が出来た…!
「っ!!」
「拳を捩じ込んで終いだぁ!!」
一瞬、恵也は更に一歩踏み込んで、その僅かに開いたガードに左を捩じ込み、その一撃は綺麗にギンガの頬を捉えた!
「…あっ」
「…」
…だが、ギンガは倒れなかった。全力で込めた一撃で倒れなかったギンガはニヤリと笑い、恵也はその表情が青ざめていく。
「…家政婦さん、魔力保有量は変わらないんですね…クリーンヒットなのにダメージ入ってませんよ」
「じ、女性を思いきり打つのは流儀に反しますので…」
「嘘、家政婦さんは男だろうと女だろうとグーで殴りますよね?しかもいい笑顔で男女平等を謳って」
「…ス、ストライクアーツならこれで決まりですよね?い、いやー…久しぶりの友人にキツいのは入れられない…」
「私の両手とお腹、多分青アザだらけなんですよ。酷いですよね?次は私の番ですよね?乙女の柔肌傷付けた報いを受けるべきと思うんですよ。こら家政婦の皮被って逃げようとしない」
「…このあと夕飯の支度あるのでこれで、さようなら!」
直ぐ様踵を返して走る、それに続いてギンガも身体に魔力を充填させて追った!!
「逃がしません、親睦を深める為に第2ラウンドをしましょう?魔力無しの家政婦さんが逃げ切れると思ってるんですか?」
「助けて!たすけてスバルーーーー!!見てるんだろスバル!助けてぇぇぇぇえええ!!マジで打つ手ない!無理!本当に限界!」
モニターの状況を見たはやては速やかにその場にいる全員に声をかける。
「はーいフォワード陣、今から訓練や。今市民がテロリストに追われてる、それを救助して欲しい。OK?」
「部隊長!私達その為に呼ばれたんですか!?」
「エリオとキャロ、いい?今のギン姉は邪魔するなら本気でぶん殴るから気を付けてね」
「それもう野獣ですよね!?」
「あ、あの…家政婦さん今捕まって地球のプロレス技で言うコブラツイストをくらってます…」
「…あー!もう行くわよ!家政婦奪還よ!」
「じゃあ私達はデバイス案をまとめてくるね」
「あっ、ズルいですよなのはさん!」
…数時間後
恵也をボコボコにしたギンガと、それを必死に止めたスバルはなのはの自室で夕食にお呼ばれしていた。
「すいません、久々だったから本気で…家政婦さん自室で寝込んでるって聞いたんですが…」
「良いの良いの!久々に怨みを晴らせたから満足なの!」
「なのはさん、それ元の堕落した生活をしてるからじゃ…」
「なんか言った?」
「何でもないデス」
そんな三人に珈琲が出される。出したのはアイナさん、彼女は少し緊張しているのかぎこちなくなっており、お辞儀をした後に別室にいるヴィヴィオの元へと行ってしまう。
「あの人は…」
「アイナさん、ヴィヴィオの世話をしてもらうために呼んだんだけど…ちょーっと家政婦さんと合わなくて…」
「…あー…けーや…」
「…すいませんなのはさん、彼がちょっと面倒を…」
「と言っても家政婦さんが姑みたいに小突くのが悪いんだけどね!それでちょっとなんかあったのかと思って今回…ね?」
二人は少し納得いったような顔でうんうんと頷く。思い当たる節があるようだ。
「やっぱりお母さんのが糸を引いてるよね…」
「あの時ちょっと様子変だったしね…」
「やっぱり何かあったんだね」
「ちょっと話が長くなるけど大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ」
※※※
路地裏で少年は、行く宛もなくさ迷っていた。少年は両親は共々行方が分からず、気が付いたら少量の金と共に捨てられていた。それ以降は野良生活…住むところを歩いて探し、気に入らない奴が居たら手段を選ばないで倒す。懐には常に武器が握られていた。
少年は独り、ボロボロの身なりで傷だらけのままごみ捨て場で生ゴミを漁っている。
「…無いなぁ。喰えそうなの…腹へった」
「あら、坊や…貴方がここいらのボスかしら?他の子に聞いても貴方のことが出てくるの。そんなところで何してるの?」
振り向くとそこにはメイド服を着た…少し年老いた女性が居た。少年はぶっ飛ばした誰かがチクったのかと思いながら…ふと思い付いて答えを返す。
「…そう、両親も蒸発して…こんな生活を…」
「あぁ、なんて悲しいのかしら。おいで、パンくらい…」
その言葉が言い終わらないうちに少年はメイドに向かって疾走する、懐から手製の錆びたナイフを取り出してメイドの胸に体当たりするように突き刺す!
「パンより金を置いてけ!この糞ババア!」
「…うーん、ちょっと手癖悪いわぁ…」
「…ん?」
胸をナイフで突いた筈だ、何故元気なんだ?平気なはずがない。
「なんでだ、刺した筈…」
刺し傷の方を良くみると、錆び付いた刀身は黒い穴に吸い込まれている。黒い穴が閉じ、中に入っていた刀身がパキッと折れて呑み込まれてしまった。メイドには傷ひとつ付いてない。
「イキナリ挨拶にナイフなんて…うぅーん、その反骨精神…叩き上げたい…!」
「な、何するんだ」
「君を、調教するわ。決めたわ。この子にするわ」
そういってメイドは少年をひょいと担いだ。
「わっ!」
「孤児を立派な職業マンにする…これね!実に良いわ!テンション上がってきた!キミを立派な家政婦にしてあげるからねぇー…!!」
「これユーカイじゃ!?えっ!?何!?家政婦!?俺男だよ!」
「私が家政婦なんだから教わる貴方も家政婦なのよ!職業に性別は関係無し!いくわよー!」
メイドは担いだまま表通りに出ると高笑いしながら走った!
「はーはっはっはっは!!サーヴァントハント成功ぅーーーー!!」
「局員さーん!助けてぇぇぇぇえええ!!誘拐ですぅぅううううう!!頭おかしいのに拐われるぅーーー!!」
「さっきから怒ったり怖がったり騒いだり忙しいわねぇ…情緒不安定なのかしら?」
「アンタのペースについていけないんだよぉ!!」
あれから数週間の日にちがたった。あの日、このメイドに誘拐され少年は…いや、間藤恵也は色々な手続きを取ってこのメイドの世話になっている。どういうわけかこのメイド方々に顔が利くらしく、家庭教師や衣類、本などが容易く手に入れられる。
「ハラヘリー!ハラヘリー!恵也!まだなの!?そんなんじゃまだまだよ!」
「もうすぐ出来ますからアニメ見てて待っててください」
「アニメじゃない!特撮よ!日曜の朝に見るヒーローは最高ね!!元気出るわ!レンタルだけどね!」
「へー」
「恵也!あなたも観れば分かるわよ!!」
このメイドはエメリー、生まれは地球と言う所で数々の使用人を育てて来た家政婦…らしい。と言うのも全てこの人の自称で普段は俺に家政婦の極意とやらを教え、余った時間で魔法で取り寄せた地球の特撮?を見ている。黒い穴に顔を突っ込んで取引する様は少し恐ろしくも感じる…そして今、家政婦の教育によって朝御飯を作っている。
「最強フォームからまさかの相棒のメダルで変身!?よして!それ割れてる!!」
「…ご飯、出来ましたが」
「まって!?今良いとこだから…あっ、あーーーーッ!!!……うっそぉ…割れた…割れたよぉ…」
「…さっ、切り良いからもう食べましょう?」
「…いただきます…あっ、昼のデザートにアイス良いかしら?あ、後ベルトの注文も」
「わかりました、前者のみ叶えましょう。ベルトは前のがありますよね?そんなポンポン買ったら破綻しますよ」
こうわがままぶっているのは本人曰く「主人の命令に如何様にも対応する対応力を鍛える特訓!でも度が過ぎたら反対するのよ!」…らしい。口調も直された、少しでも丁寧語を使わないと張り手を食らう。
彼女からは本当に色々な事を教わった。世の中を上手に渡っていく術、彼女が得意な魔法である召喚、転移魔法の使い方、過去にあったトラブルの片付け方を…
「恵也、集中なさい。場所と場所を点で結ぶのよ…そしたら後はガッとやってポイよ。なんでも出したい放題よ」
「……エミリー、流石にその説明で高等魔法が出来るとは思えませんが」
「要はイメージ!さっさとしなさい!」
「そんな簡単にレアスキルが…」
目の前に手をかざし念じる、場所は部屋の隅のあるぬいぐるみ…場所は把握してる。召喚なんて高等な事はするな、ルートを作れ。ありったけの魔力で、演算なんて関係なく感覚だけで…道を…
…すると目の前の空間に暗い穴が空いた。そこに手を突っ込んで手を伸ばし続けるとふわふわした物に当たる。
「…ぬいぐるみ、掴みました」
「やったじゃないの!さ?早く引き抜いて?」
「あ、あの。魔力がガツガツ減ってるんですが…動くのがしんどく…」
「あっ、それ手を突っ込んだまま魔力切れたら腕切断されるわよ?」
「先に言ってください…っ!!」
後から分かったことだが……間藤恵也のリンカーコアは他の人より幾分か小さく、魔導師としては大成出来ないと判断された…だがエミリーはそれでも自分の知ってることを教えた。バリアジャケットが張れないなら服に魔力を張って代わりに、ある場所が把握できるなら限定的に物を召喚出来るように特訓を…
…そして一年後、間藤恵也の初仕事が始まった。
「…えぇクイント、こちらが私が育てた使用人よ。ほら恵也?ご挨拶は?」
「間藤恵也です。不束な者ですがどうぞよろしくお願い致します」
「…んー…?」
相手は管理局捜査官をしている人だった、家族内訳は父母と姉妹。少し緊張しながらも自分なりに丁寧に挨拶したつもりだったが…こちらをジロジロ見ている…見た感じはあまりウケがよろしくなかったようだ…
「何かあったクイント?」
「んー…エメリー?この子初仕事?」
「初仕事よ」
「あらやっぱり。ギンガとスバルも初めて会った時こんな顔してたわ。じゃあ私色々教えちゃっても良い?」
「良いわよ。あっ、もしかしてクイント…」
「私、息子も欲しかったのよ」
「恵也、彼女はもうちょっと子供らしい反応が良かったらしいわ」
「はい?」
少し呆れた様子を見せるエメリーを他所にクイントはしゃがんで目線を合わせてこちらの手を握り締めた。
「恵也君、趣味は何かな?」
「スポーツです…」
「エメリー!確か事前の話では格闘技に興味あったって言ってたわよね!?良し!それじゃあお義母さんが娘共々色々教えてあげるわね!」
「えっ!?えぇ!?」
「恵也、任期の方は貴方が一人前になるまでよ。まぁ今はアレだけどクイントは家庭を持っている母親、しっかり¨学んで¨来なさい」
「…はい」
恵也はこれは仕事ではなく、ある種の研修なのだと感じ返事をした。家庭を失った自分への気遣い…そして、子が産めないクイントを思っての事なのだと思った。
ナカジマ家での出来事は恵也にとって楽しいものだった。
「おい恵也、悪いが買い物を頼んでも…何?生活必需品は買った?あー…助かった。ありがとうな」
ゲンヤさんはとても優しく家族を想っている恵也にとっての理想の父親だった。
「けーや!あそぼ!」
「家政婦さん!組み手お願いします!」
スバルとギンガは…ここにきて暫くたった日に彼女らの秘密をゲンヤさんとクイントさんから聞いた。だがそんなのは関係無い、変わらずに二人と接した。
「恵也ー?ストライクアーツしましょう?今日は何を教えようかしら?」
クイントさんとは毎日組み手やストライクアーツをした。彼女はこちらのレベルに合わせてるがその顔はにこやかなものであった。恵也自身も楽しい事だったと記憶している…たまに、ガチスパーリングされる時もあったが。
「恵也、今度捜査に犯人を油断させる為に子供を募集してるのだけど…えっ?行く?本当?…ようし!貴方が何かあったら私がそいつをぶちのめすわ!だから安心して!」
たまに自分の仕事について軽くこちらに話すこともあり、その事件にも関わった事もあった。
「恵也ー、暑い。冷たいご飯食べたい」
楽しい日々、いつまでも続くと思ってた。
「ちょっと聞いて恵也!あのクソ上司が…」
一人前になったらエミリーに無理言って…この人の側に居たいと願ったら、許してくれるだろうか。
「恵也!今日は魔力操作が上手い貴方にバリアジャケットを貫通する必殺技を伝授しましょう!その名はフォーカススマッシュ!必要魔力は結構あるけど大丈夫よね!思い付きの技だけどきっとできる!」
教えられた必殺技、上手く出来ない。出来たら真っ先にクイントさん見せてあげよう…どうだ思い付きを実現してやったぞと。
「うぅー…後もうちょっとだけ寝かせ…分かった、分かったからつつかないでけーや…起きるから…」
…いつまでも、行かないで欲しい
「…恵也、今回の事件に貴方は連れていけない。分かって」
嫌だ、行く。
「そんな泣きそうな顔をしないで、大丈夫。今日も恵也のご飯食べに帰るから…何時ものように送ってちょうだい?」
…
「あぁ、泣いちゃった。こんなところスバルやギンガに見せられないじゃない。男の子が泣いちゃダメ、泣いて良いのは嬉しい時の嬉し涙よ」
じゃあモノもいで男の子止める。
「困ったわ…そこまでなの。じゃあ…こうしましょう?貴方の大切なものが無くしそうになったら…貴方が守って?はいこれ。貴方のために服を買ったのよ?これを着て、明日帰る私に見せてちょうだい…これは燕尾服って言うの。本来は執事さんとかが着るものだけど…何だかヒーローマント見たいでカッコ良いと思わない?」
…分かった、着るよ。
「じゃあ行くわ。スバルとギンガの事をよろしくね?」
…さよなら
※※※
「…んぁ…ここは…?」
目を開けるとそこは自室の天井、意識がはっきりすると同時に身体に痛みが走り、記憶が流れるように思い出される。自分はあの時に擬戦でギンガにボコボコにされたのだ。
昔の夢を見ていたせいで。気分も少し悪かった。
「…懐かしい思い出だったな」
「…家政婦さん?」
横から声がしてそちらを向くと六課の制服姿の高町なのはがそこにいる。彼女は心配そうにこちらを向いていた。
「あー…御主人、仕事の方は」
「早めに終わらせたよ。ヴィヴィオもアイナさんとザフィーラが見てる、」
彼女は少し気まずそうに、そう話した。
「…あのね、家政婦さん苦しそうだった。うわ言で行かないでって言ってた…何かあったの?」
「…」
「昔の事?スバル達から聞いたよ…大事な人を亡くしたみたいだね」
どうやら自分は相当うなされていた様だ。ここで何もないと話しても余計に心配されるだけ、ならある程度話した方が良いだろう。
「…昔の事、ごみ捨て場で拾われて家政婦として育てられ…今度は最初に息子のように私を見てくれ最初の主人を…」
黙るなのはを尻目に、恵也はつらつらとこぼれだすように話し出す。
「あの時、無理矢理ついていけば変わったかもしれない、あの時強ければクイントさんを無くさないで済んだと…だから、必死になった。どんな事にも手を伸ばせるように努力したし、自分に出来る精一杯を鍛えた…けどそれでも度を越えた敵には敵わない…アイナさんの件だってそうだ。優しくすりゃ良いのに万一を考えて凄い厳しくなってしまう…本当は、よくやってくれてるのに。俺最低だわ…年上だぞ相手…」
「家政婦さんも、よくやってると思うよ?そんな深く難しいこと考え無いでもいいと思うよ」
「それができれば苦労はしないと…」
するとなのははすっとアルコールの匂いがするコップを恵也に差し出した。
「臭っ…御主人、私は未成年でそもそもアルコールは…」
「嫌なことあったら酒呑んで忘れる!これに限るよ!私も入院してたときこうやって励まされたの!」
「…誰ですかそんなふざけた悪友は」
「忘れちゃった!ささっ、飲も飲も!家政婦さん未成年だけどかんけーない!!飲め!主人命令なの!はいお猪口!これ飲んで忘れて明日からシャキッとする!」
「…では。厚意に甘えさせて貰いましょうか…御主人?」
「何?」
「気遣いありがとう」
「…さっ!早く呑もう!これ高いやつなんだよ」
「…はいはい」
…その翌日から、家政婦の間藤恵也がアイナさんに向ける目が優しくなった。