ポケットモンスターオラージュ   作:フロストライナー

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すまない、擬人化ポケモンは出ないんだ。本当にすまない。


すまない、リザードンが出るのは次なんだ。本当にすまない。


人生、何でも有り

 

 走る。

 

 走る。走る。

 

 息はもう上がりきっている。足はガクガクで今にも倒れそうだ。

 

 だが止まれない、倒れられない――止まったら死ぬ。

 

 

「――ガァアアァァァアアアアァァァッ!!」

 

「ッ!!」

 

 

 後ろから空気を切り裂くように雄叫びが聞こえ、心臓が飛び跳ね足が止まりそうになる。

 

 思わず後ろを見そうになる。

 

 だが無理矢理にでも足を動かし、前だけを見る。

 

 足の幅が短くなっている(・・・・・・・・・・・)が気にする余裕もない。

 

 砂嵐で前が見えず、肌を傷付けるが無視して走る。

 

 

 雄叫びの主は――もう直ぐそこに居る。

 

 

「ガァアアアアァァァァァァッ!!」

 

 

 真後ろから怪獣のような雄叫びの直後、強い衝撃を感じた。視界が何度も回転し上下左右が分からなくなる。

 

 視界の回転が収まったのは、背中に再び衝撃を受けた時だった。

 

 

「―――ッ!?」

 

 

 同時に感じた激痛。言葉にならない悲鳴を上げ倒れこむ。どうやら運悪く岩に打ち付けられたらしい。

 

 経験の無い強い痛みだ。暫く動けそうにない。

 

 そして、ズシン、ズシンと足音が聞こえてくる。

 

 吹き荒れる砂嵐の中をソレは悠々と現れる。

 

 ソレを、自分は知っている。

 

 さっきまで追い掛けられていた――ではない。

 

 ソレは存在しないはずだ。何故ならソレは架空の存在で、目の前に現れて襲ってくるはずなどない……はずだった。

 

 だがソレは存在している。実在している。

 

 怪獣のようなフォルム、というか見た目が完全に怪獣だ。緑色の体色、手足尻尾は太く大きな口には鋭い牙が見える。背中には何に使うのか突起が複数ある。

 

 その怪獣はゲーム中でも強力なモンスターの一体……。

 

 

「バン……ギラス……」

 

 

 『ポケットモンスター』シリーズに登場するポケモン、バンギラス。それが自分を襲っている正体だった。ならこの砂嵐はバンギラスの特性によるものか。

 

 バンギラスは『あく・いわ』タイプなので一番は格闘タイプか……なんて冷静にもそんな事を思っていた。

 

 人間、死ぬ時はこんなもんか。気付けば知らない土地、いきなりバンギラスに襲われてとは急展開すぎて本にしたら間違えなく売れない。飛びすぎてる。

 

 バンギラスは動かない自分を見てニヤリと笑った。怪獣グループのポケモンだから肉食なのだろう。つまり自分は格好の獲物、エサか。

 

 シリーズでは言及が無いが、人間を獲物として襲うのも居るだろう。生物だから当たり前だ。

 

 痛みはまだ続いている。体が動かない――心が生きようとするのを諦めていた。

 

 動かない俺の姿を見て、バンギラスが嘲笑しながら鋭い爪を持った腕を伸ばして……。

 

 

「ピカ?」

 

 

 黄色い塊が現れた。

 

 全ての時が止まる。

 

 ……いや……待て。あまりにも場違いな登場に呆気に取られ、停滞しかけていた思考が再び動き出す。

 

 全体が黄色で赤い丸頬につぶらな瞳、頭には長い耳。走る稲妻がデフォルメされたような尻尾。

 

 自分は黄色い生物を知っている。バンギラスと同じポケモン、ポケモンの中でも看板、マスコット的存在――ピカチュウだった。

 

 バンギラスと比べて小さく、ゲーム的に言えばタイプ相性が【でんき】と【いわ】では悪く、また保有する種族値も差がある。

 

 何のつもりか知らないが、本来ならバンギラスの前に立つ事自体がおかしい。

 

 だが……。

 

 

「グルル……ッ!?」

 

 

 バンギラスが圧倒的に小さいピカチュウを恐れ(・・)、一歩引いた姿を見た。

 

 そして。

 

 

「――退いてくれないか?」

 

 

 ピカチュウの隣に赤い少年(・・・・・)が現れた。

 

 赤……という表現が似合う少年だった。歳は十代中場、赤い帽子に赤いジャケットが目を引く。

 

 何より、年齢に不釣り合いな纏う雰囲気が異質だった。そこに居るだけで周囲の空気が震え、プレッシャーを与えている。

 

 素人でも分かってしまう、例えるなら――“修羅”。

 

 その言葉が、少年に似合っていた。

 

 

 ……少年の登場により対局は決した。

 

 バンギラスは一歩、二歩と下がり……砂嵐に紛れるように姿を消した。

 

 砂嵐が晴れ、代わりに雪が降っている。

 

 少年は纏っていた空気を四散させ、ピカチュウと共に此方に近付き。

 

 

「大丈夫?」

 

 

 ただ一言。

 

 原初の主人公がそこに居た――。

 

 

◆◆◇◆◆

 

 

「……懐かしい夢だな」

 

 

 鳥――ポッポの鳴き声を聞きながら目を覚ます。

 

 懐かしい、と言っても半年前の事ではあるがそこからの流れが早すぎたせいでそう思ってしまう。

 

 

 半年――突然『ポケモンの世界』に来てから半年が経っていた。

 

 あの日、原初の主人公……レッドにシロガネ山で助けて貰った俺は安心感と疲労で気絶し、気付いた時は病院の病室だった。そこで待っていたのはレッドともう一人……まず助けてくれた礼を言うと、レッドは『別にいい』と、それと敬語で話す俺に敬語は要らない、名前で呼んで欲しいと言われたのでその通りにした。

 

 当然と言うべきか、何でシロガネ山に居たのかを聞かれた。ただこれには分からないとしか言いようがなかった。

 

 ……話を聞かれている中で、レッドがピカチュウを出していたため視線が釘付けになり、それに気付いたもう一人が『ポケモンが気になるか?』と聞かれ、『初めて見た』とポロっとバカ正直に答えてしまった。

 

 ポケモンが実在する世界だ。今までポケモンを見た事が無いなどありえない。しまった、と思い追究されるのを覚悟したのだが、予想外にそれは無かった。会話の中で答えられない……家族やどの街から来たかなどがあり、はぐらかしたり言い淀んでいたため、それと合わせて記憶が混乱していると思われたようだ

 

 ……可哀想な人を見る目で見られたのはちょっと傷付いたけど。

 

 身元確認のために病院のエスパーポケモンが記憶を覗く検査があった。検査? と首を傾げた首をなったが、これは肝を冷やした。記憶を見るなんて誤魔化しようがない。

 

 が、これも予想外の事に記憶を覗いたエスパーポケモンが分からないと首を横に振ったのだ。勝手な憶測だが、『ポケモンが実在しない世界』というのはポケモン自身からしたら“理解出来ない物”なのかも知れない。だからエスパーポケモンは分からないと表現した……のかも知れない。

 

 担当の医者がエスパーポケモンが首を振った理由をどう受け止めたかは知らないが、レッド達との会話内容も含めて『何らかの事件・事故に巻き込まれ記憶が混乱、記憶喪失になった子供(・・)』というふうに処理された。

 

 その後、急流に乗るが如く話が加速して……。

 

 

「そう言えば、何で誤魔化そうって思ったんだろ……あ、ヤバっ!」

 

 

 寝起き後の頭の体操にと半年前の事を思い出していたら思った以上に時間を食っていた。

 

 慌てて部屋を飛び出し、共用の洗面台で顔を洗い食堂に向かう。

 

 

 食堂の利用時間にはまだ余裕があるのだが、後の予定を考えると早々に終わらせたい。何よりいつまでも片付かなければ食堂で働くパートさん達に申し訳ない。

 

 道中、先輩方に『寝坊か?』とからかわれながら食堂に到着すると、珍しい人が居た。

 

 茶髪のツンツン頭のその人はコーヒーを片手に新聞を読んでいる。此方に気付き、片手を上げた。

 

 

「よう、オラージュ(・・・・・)。朝寝坊か?」

 

「おはようございます、ジムリーダー。昨日はジムに泊まったんですか?」

 

「あぁ。ちょっと昨日中に片付けなきゃならない事務があってな。帰れなかった」

 

 

 まだ十代中場ながらジムリーダーの仕事は大変なようだ。ジムリーダーは隣のマサラタウンからの自宅通勤なのでこの時間に食堂に居るのはちょっと珍しく、聞いてみたら案の定である。

 

 ただ睡眠自体はしっかり取っているようで顔色は悪くない。

 

 

「というか、お前硬いぞ。まだジムが開く前だろ」

 

「いやいやグリーン(・・・・)さん、朝の最初の挨拶ぐらいはちょっと硬めの方が印象良いじゃないですか」

 

「とか言いながら崩れてるけどな」

 

 

 とまぁ、ここまでがいつも通りの挨拶だったりする。

 

 ――そう、グリーン(・・・・)

 

 原初の主人公“レッド”に並ぶ原初のライバル。半年前の病院でレッドと一緒に居たのも彼でありそして此処、トキワシティ・トキワジムのジムリーダーでもある。

 

 グリーンとは親しい――というか保護責任者なので色々と面倒を見て貰っている。

 

 そもそも何故グリーンが保護者になったかと言えば、話が長く……なる訳でもなく、俺にとって危うくデッド・オア・アライブになる所だった。

 

 

 ……半年前、病院での検査を終えた後、俺の今後が問題になった。何せ身寄りの無い身、それで見付けた責任にとレッドが引き取ると申し出た。今後の事で頭を抱えそうになっていた俺はこの申し出に感謝の気持ちで一杯になった――最初だけは。

 

 だがあの赤帽子、俺を連れたままシロガネ山に引き籠る気満々だった事が発覚。グリーンがレッドの頭を叩き、衣食住が安定しているグリーンが代わりに引き取る事になった。

 

 シロガネ山で死に掛けたのに、再び死地に向かう所だった。

 

 

「どうした? 急に顔が青くなって」

 

「いやぁ……グリーンさんに引き取って貰って半年経ったんだなーと思ったのと、実は死ぬ瀬戸際に居たのを思い出して……」

 

「あー……レッドは悪気も悪意も無いんだ。ただ頭の八割をポケモンで占めてるのとポケモンの事は絶対曲げないだけだ――その分、他が致命的にポンコツになるだけで」

 

 

 グリーンが哀愁を纏う。

 

 流石、誰にも連絡無しにいきなりシロガネ山に引き籠って音信不通になる原初の主人公、やっぱりおかしかった。

 

 

「まぁ、レッドのアレは修正不能だから今は放っておくとしてだ。オラージュ、お前今日は自分のポケモン捕まえに行く予定だっただろ。さっさと朝飯食っちまえ」

 

「うっす」

 

 

 グリーンと別れ、自分の姿を見付けてか既に今朝の定食を準備していてくれてたパートさん達の所へ向かう。

 

 今日は以前から計画していた俺のポケモンを捕まえに行く日だ。今朝はご飯大盛にしよう。

 

 

 ――元・■■25歳、現・オラージュ推定8歳。割と世界に順応している。

 

 

 




【原初の主人公とライバルの会話】

・オラージュを見付けた時

レッド「……あ、グリーン? あのさ、子供を拾ったんだけど……ポケモンセンターって人の治療出来たっけ?」
グリーン『は? 簡単な医療キットなら貸してくれる筈だが……怪我してるのか?』
レッド「……割りと。バンギラスに殴られたみたい――」
グリーン『病院連れてけ! 人間用の!』
レッド「……病院……何処だっけ?」
グリーン『……分かった。分かったから動くな、今すぐそっちに行く。どうせシロガネ山だろ? 麓で待ってろ。いいな、麓から動くなよ!』
レッド「……分かった」

(レッドさん、体育座りで待機)



・レッドがオラージュを引き取ると言った時

レッド「……オレが見付けたんだし、オレが面倒見るよ」
医者「チャンピオンなら安心ですね」
グリーン「そうか。……いやー、これでレッドも漸く引き籠り卒業か。お前に食糧持ってくの大変だったんだよ、手続きとか。で、マサラに帰るのか? イエローに連絡……」
レッド「……? 帰らないけど」
グリーン「ん? じゃぁ何処に行く気だ?」
レッド「シロガネ山」

医者「(゜ロ゜)」
オラージュ「(゜ロ゜)」

グリーン「……引き取るんだよな?」
レッド「……? うん」
グリーン「シロガネ山で?」
レッド「うん」
グリーン「ポケモンの修行続けながら?」
レッド「うん」
グリーン「……オレが面倒見る」
レッド「え、いいよ。見付けたのはオレだし」
グリーン「うるさい! このポケモン馬鹿が!」

(レッドさんはポケモンの事は絶対に譲らないし後回しにしない……その他がポンコツなだけで)

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