チョロインは一人でいい。
第十二話『転入、波乱のIS学園』
「各クラス二名程度なら問題ないか」
「そうだな、資料からの判断で絞れるまでは絞った。後は実地試験で顔合せすれば大体の素性は知れる」
「そだね。ちーちゃんの眼力と束さんの分析にかかれば相手の情報なんて丸裸だよ~」
「それでいいが、この五名は献金額が実に多くてな。ひとまず受け入れてくれるか。何か問題を起こせばそのときに処分すればよかろう」
更識楯無の胃は現在進行形で蝕まれていた。
今、生徒会長室でおこなわれてる三人の会話を聞かされているせいだ。学園理事でありHD開発者の木原マサキ、世界最強のIS操縦者であり教師の織斑千冬。そしてIS開発者であり更識家の現最大スポンサーの篠ノ之束。なぜここで彼らが会合をしてるのか?
「学園内である程度秘密が保てて、襲撃されても一番被害がないから」とマサキは笑い
「教師が立ち寄っておかしくない場所で、壊してはいけないものが少ないから」と千冬が
「スポンサー権限で」と束はソファーに寝転がった
問うて得られた答えは実に理不尽であるが、楯無にとって三名揃って自身を上回る実力者であり権力者、学園最強も更識家当主も彼らに何かものをいうには不足であることも楯無には理解できてしまう。特に束というスポンサーの意向は無碍にはできない。IS台頭により更識家は敵対する暗部組織がISを使う場合に備えねばならずかなりの資金を必要としていたところに、それまで一定の金額を補助していた日本政府がその補助金を減額したために一時期家の存続が危ぶまれるまでになっていたのだ。「防衛とか軍備はISがあれば要らない」という正気を疑う理由でそれを通した女尊男卑主義者の政治家どもは後に中国から多額の献金と指示を受けていたことを暴き、獄に繋げたが一度決まった額を動かすまでにどうしたものかと頭を抱えていたときに、束から多額の資金提供の提案があった。
『何かまーくんが薦めるから、お金あげるよ。あ、箒ちゃんたち束さんの家族を色々助けてほしいかな』
ポンと気軽に提示された金額は日本政府の減額分を補った上で余りあるものであり、受けなければ対暗部としての仕事だけでなく暗部としての仕事もやらざるを得ない状況であっただけに否応はなかったとはいえこのような状況になるとは思ってるはずもなかった。
「では、これで決定ということで。更識生徒会長、この途中入学五名の挙動は充分注意しておいてくれ」
「できれば私のところに来るまでに処理しておいて欲しいな。手加減は苦手でな」
「あ、お茶とお茶菓子ごちそうさま!」
「…はい」
負担が増えた楯無であるが、上手く対応できれば彼らから何らかの援助も考えてるという旨も聞いていただけに断る道もなく新しい任務へ割く人員の検討にかかるのであった。
なお、相棒の虚はマサキの秘書の美久との間で上司の自慢で盛り上がっていたこともここに記しておく。
「話があるからって来たのにいきなり攻撃ってないんじゃないかな?」
シャルロット・デュノアは校舎はずれの空き地で足元に蹲った三人の上級生に向かってそう問いかけた。
無事一組に転入を果たしたシャルロットは人当たりのよさ、デュノア社専属操縦者という己の利点を生かし一夏の放課後訓練の仲間の一人として迎えられた。またコーチとしての才能もあったのか一夏にマサキの考案したメニューに従った訓練をこなすことに貢献して皆の信用をあげることにも成功していた。そうなると一部のそれを面白く思わない連中に目をつけられその中でも手の早い二年生の女子三人に呼び出され、格闘の腕を試してあげると言われ三人に飛び掛られたわけであるが、何れも腹につま先の蹴りを一撃ずつ食い込ませて撃沈していた。
「ねえ、返事してくれるかな?」
「ひっ」
シャルロットは笑顔のまま倒れていた二年生女子の髪を掴んで自分のほうを向かせる。最初に口を出して最後に襲ってきたこの女を首謀格と断定下からであり、今後のことも考えると少し躾ける必要もあったからだ。
「ボクはね、別にここの男子の事が好きとかじゃないからさあ、邪魔しないでくれる?もしまた邪魔するようなら潰すよ?」
笑顔でサラリといわれた内容が染みたのか無言でこくこくとうなづく女子にシャルロットは笑顔のままその手を握り一気にねじり折った。悲鳴を上げてのた打ち回る女子の口に自身の靴のつま先をぶち込み黙らせるシャルロット。
「いけないなあその反抗的な目は、もっと躾けなきゃいけないかな?」
口を封じられた女子はもはや恐怖で心が折れたのかそのまま失神していた。そのさまを目が覚めつつある残り二人に見せ付けるためである。
「じゃあ、ボクはもういくけどその人のことお願いしますねセンパイがた」
残る二人も非常におびえ失神した女子を両脇から抱きかかえるとその場から走って去っていった。もう少し強くもできたが監視の眼もあるのであれくらいでいいだろうとシャルロットは心の中でうなづく。
(ボクは兄さんの力になりたくてここに来たんだし、あんなのにかまってられないや)
異母兄であるサイガとの出会いは二年前、病気の母を看病していたシャルロットの家に姿をあらわした時だ。
聞けば「不幸な事故」で実母を亡くした父が自分に社長職を譲り引退してシャルロットの母と暮らしたい、ついてはサイガに迎えにいってほしいと言われここまできたとのこと。
父の身勝手な振る舞いに怒るシャルロットであったが、サイガは父の不義理を変わってシャルロット母子に謝罪し母が病気だと聞くとすぐさま入院先の手配と入院費の負担を申し出てくれたのだ。
その後も幾度も病室にきては謝罪と父の婿養子としての苦悩などを苦笑しつつも説明し、母が退院するころにはシャルロットも父を許し最後には母と父が共に暮らすことに同意した。同時に兄サイガの誠意ある振る舞いと凛々しい出で立ちに強く惹かれたシャルロットは兄の力になりたいと考えるようになっていた。
幸いシャルロットはIS適性が高かったのでデュノア社のISテストパイロットに志願し、格闘射撃を含むあらゆる訓練を意欲的にこなし、腕前もかなりのものになることができた。
社長になったサイガは新しいISやHDの開発の陣頭指揮で忙しい合間を縫ってシャルロットに会いに来ては自分の夢や近況を語ったりシャルロットのことを気遣ったりとしてくれ、シャルロットのサイガへの親愛の情はより強くなっていったある日、兄からIS学園への転入を依頼され今ここに至るのである。
「木原マサキの信用を勝ち取り、彼の研究成果の一端でも知らせて欲しい」
兄サイガのその頼みをかなえるべくシャルロットはまずはその第一歩として一夏たちとの信用をより強固にしなければと楽しそうに教室へと帰っていった。
次回『侵攻、ラウラ・ボーデヴィヒ』
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