補足 凶龍:開発国不明のIS。フランス製ラファール・リヴァイブを原型にしたと思われる黒い機体。消音性が高く瞬時に部分展開できるようになっているが、全体の稼働時間は短い。対人、主に暗殺用として一部テロ組織が使用。
第十四話『混迷、学年別タッグトーナメント』
「で、例の転入生五名の態度はどうだ、千冬」
「今のところ一組でラウラ・ボーデヴィッヒが織斑一夏にちょっかいをかけたことと。シャルロット・デュノアが同じく織斑一夏の放課後の訓練仲間になったくらいか。後の三名は多少行動範囲が広いがここに慣れるために色々観て回ってるというレベルだな」
「成る程、すぐに動いてしっぽを出すほど間抜けでもないか。動くなら大きなイベントのときだな」
「近く動くとすれば学年別タッグトーナメントの時ということか、マサキ」
「外部からの人の出入りもある。そこで接触なり指令なり受ける可能性は高い。まあ一組の二名は違うだろうが」
「お前がそういう悪そうな顔をするときは何か考えがあるということか、マサキ?」
「ああ、一組の二名は織斑一夏を図るためのサンプルだ。果たして一夏が俺の考えたような存在であるのかどうかを図るためのな。」
マサキと千冬の間に流れる雰囲気がにわかに緊張する。
「マサキ、お前といえども生徒たちや弟に手を出すことは許せないぞ」
「フッ、そう睨むな千冬。彼らが望まないことはしないさ。俺に敵対しない限りはな」
「お前に敵対するなら私が止める。それでいいだろう?」
「そう願うぞ。俺とて好きで彼らに危害を加えることは望まん」
緊張した雰囲気が解け、楯無はほうと息を吐く。もう生徒会室を使わないでほしいというのも諦めたがせめてもう少し穏便にして欲しいといいたかった。
「少し熱くなった。すまないが茶を頼む」
「あっはい」
世界最強織斑千冬に文句を言える存在は目の前の男木原マサキしかおらず、楯無はただ承諾するのみであった。
「基本的に生徒のことは千冬、お前たち教師に一任する。が、生徒の皮をかぶった鼠にはこの条件は当てはめないということでよかろう?」
「…やむを得んな。望んで死地に落ちたがるものまでは救いきれん。できるだけ生かしておいてくれ」
「俺もこの学園で死者は出したくないからな、善処するさ」
この物騒な会話が早く終わることをただ願う楯無をよそに両者は話をつめていくのであった。
時は移り、学年別タッグトーナメントの前夜。
IS学園内を疾走するものがいた。体に張り付くような黒いスーツから女性と分かるこの人物が向かう先は以前中国からの逃亡者たちの住まう一角である。潜みつつ移動するその人物を時折警備の者が見咎めたが、誰何の声を挙げる間もなく無力化されていた。瞬時にその人物が展開した機械の腕や脚、見る者が見ればISのもであろうと分かるそれに鍛えられているとはいえ生身で対抗するのは無理というものであった。
彼女は中国政府、更に言えばシ姉妹を学園に派遣した人物の依頼で逃亡者たちの命を狙い今ここにいる。
今回は依頼者の用意させた多額の金銭と協力で中国寄り国家の代表候補生としてこの学園に転入生として潜入、学年別トーナメントの対応により警備に緩みの出た今動き出したのだ。自らの過ちの結果を認めずただ相手に報復しようとする依頼者のおぞましさに若干の嫌気はしたものの依頼に私情は挟まない主義の女性は目的地までもうまもなくというところでまたも男性、白いスーツの男にでくわした。
女性は無言でまたもISの腕を瞬時に展開し、白いスーツの男を排除しようと男を殴りつける。
命中したと思った瞬間にISの腕は砕け散った。驚愕する女性に男がにやりと笑う。
「どうした、外出時間はもう過ぎてるぞ」
女性は未だ無言で男をにらむ。その男、木原マサキの顔はよく知っている。裏社会でも敵対することはできる限り避けろといわれている存在だ。しかし、依頼の妨げになるなら排除するしかないと決意した女性は素早く片腕を失った自身のISを装着する。瞬時の脱着と展開を可能とした分、稼働時間は短い凶龍を素早く動かしマサキの背後に回り残った腕をマサキに叩きつけるもまた命中寸前で腕が砕かれた。
「いってもわからんだろうが、これも次元連結システムのちょっとした応用だ」
そう告げるマサキの言葉を待たずに女性は逃走を選択し、その場から飛翔した。飛翔を続けながら己の損害を鑑みるもまだ交戦は可能でないと判断し任務継続を選んだ女性であったが背後から強い衝撃を受け、わずかに意識が飛びかける。何とか意識を持ち直し、衝撃のあった方向を見ると甲に玉を埋め込んだ巨大な腕がこちらに向けて構えられていた。それを構えているのは木原マサキ、つまりHDの部分展開だ。
『まさか、HDで部分展開できるとは・・・』
「思い込みとは恐ろしいな、お前ほどの腕前の持ち主でもこうもたやすく討ち取れる」
そして女性は見た。マサキのHDの手の甲の玉が光るとほぼ同時に凶龍へ甚大なダメージが生じるのを。
とっさに回避行動をとるが、すでにダメージは大きく俊敏さは失われていた凶龍に回避を続けるのは難しく、何度か衝撃に揺さぶられ続けた凶龍は遂に活動を停止し、地表へと墜落した。
「ふむ、直撃でないとISを落とすのは難しいか。とはいえこのゼオライマーの次元連結砲のテストとしては上々だ」
そうごちるマサキの元に別の女性が近づき跪いたのは今は氷室美久と名乗っているシ・タウだ。
「マサキ様、お疲れ様です」
「美久、墜落したやつを回収して俺達のアジトまで運んでおけ。色々と聞き出すことができそうだからな」
「わかりました。早急に」
「それがすんだらかわいがってやる。行け」
「はっ」
展開を解き、スーツ姿に戻ったマサキは跪くタウの顎に手をやり自分のほうに向かせるとそう告げて去り、タウも墜落した凶龍と女性を回収してその場を去った。破壊音に気がつき警備のものが駆けつけたときにはその場には砕けたISの部品らしきものしか見つからず、翌日の朝にマサキからの報告書により詳細を知ることになった楯無を始めとする更識のものは学年別トーナメントを前に胃が痛くなる事になる。
色々な思いが交差する学年列トーナメントが無事に終わることがないであろう予感を感じつつせめて死傷者が出ずに終わって欲しいと何かに祈らずに入られない楯無であった。
次回『崩壊、中国新都心』
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