補足 ISフェロモン:織斑一夏の分泌物から発見された特異なフェロモン。
発生者に対する異性の感情を好意的なものに塗り替える性質を有しており、特に同種のものに効果が高い。詳細は某所にての解析と研究が行われており成果が待たれる。
名称の決定者は篠ノ之束。『いっくんのすごいフェロモン』の略らしい。
第十九話『炎上、夏のあの日に』
夏季臨海学校、IS学園においてのそれは敷地外でのIS運用演習であり、生徒は基本全員参加の学園行事である。
いろいろとちょっかいを出してくる各勢力への示威行為の一環でもあり、IS学園が世界のあらゆる組織とも中立であるための必要な行事の一つであるが生徒達にとっては夏の日の思い出作りの集団旅行として捉えるものがほとんどであり引率の教職員や警備の者たちに若干以上のストレスを与える行事でもあった。
「こういう認識の違いが争いを生むんですかねえ…」
「そう疲れた顔をするな真耶、生徒達が見ているぞ」
初日の自由時間、生徒達は学園の警備のものたちにより人払いの済んだ砂浜で思い思いに羽を伸ばしている。
それをビーチパラソルの下に据えられた白いデッキチェアの上で見守りながら、織斑千冬と山田真耶は会話していた。
なお生徒達の視線の原因は二人の服装だ。千冬は均整の取れたギリシャ彫刻のような肢体を黒い水着に、真耶の方は豊満なボディを水色の水着につつんでおり、HD乗りの男子生徒と一部女子生徒の熱い視線が向けられているのであるが彼女達はそれを気にした様子もない。
「でもこういうのを見てると学生時代を思い出しますねえ、織斑先輩」
「そうだな、こいつらが無事に巣立ってくれればいいな」
明らかに異性としてみてない発言だが、幸いにも誰に聞かれることもなく誰にとっても平和な時が過ぎていく。
少し前にマサキから一夏の体質について聞かされたときは己が弟の行先を案じはしたし、どう一夏に説明したものかと千冬は悩んでいた。
マサキの説明では生命にすぐさまの危険があるものではないし、ISフェロモンにどれだけの事ができるのかまだ分からない現状では逆に意識しすぎた一夏自身がまともな人間関係を築けない可能性もあると言われ、すぐの説明が一夏に出来ないことが多少歯がゆいと思ってた。
とはいえ、目の前で葎や箒といった友人達と楽しく遊ぶ一夏を見るに彼が歪むのを見るのは忍びない。
結局、自身の超人的身体能力と同じようなものであるとすれば己自身で何とかするしかあるまいと意識を切り替え、何かあればそのときにフォローしようと千冬は静観を決めた。
翌朝早く、いつものように目覚ましの前に眼を覚ました千冬は自身の携帯端末がコール音を発しているのに気がついた。同室の一夏はまだ夢の世界の住人のようなのでまだ起こすには早いと廊下に出て応答をする。
「こんな朝早くからどうした?マサキ」
『なに、ちょっとしたトラブルだ。三時間ほど前の話だが太平洋上で起動実験をしてした第三世代ISが暴走した』
「それはちょっとというものではないぞ」
要約するとアメリカ・イスラエル共同開発の軍用IS『シルバリオ・ゴスペル(以下銀の福音)』が起動実験中に暴走、搭乗者を乗せたまま周囲の僚機を含む友軍を撃破しつつ西方向に飛行を開始。数度にわたる米軍の攻撃を振り切った銀の福音は現在進行形で洋上で遭遇した船舶、飛行機などを撃破しつつ飛行を続けており、このままの予想コースを取れば日本の首都へと到達すると計算された。
『という訳で国際IS委員会から我々IS学園に迎撃の要請が来たのだ』
「…つまり、在日米軍と日本の防衛軍では迎撃が不可能と判断されたということか」
『その通りだ。日米が共同で国際IS委員会に対応を要請して来たらしくてな』
「しかし我々学園のISとHDでなんとかできるのか?」
『国際IS委員会は第三世代機の性能ならば可能だと判断したようだ』
「学生達に戦わせろと!?教師としては賛同できんな」
教員である自分達や警備担当者たちならばともかく、学生を戦わせるということは千冬にとっては納得のいく話ではなかった。
『落ち着け千冬、だが相手が軍用の第三世代ISとなれば同じ第三世代機を当てるというのはあながち間違いでない。それに伴いご丁寧に作戦概案まで委員会は送りつけてきた』
「?対応が早い、というか早すぎるな」
千冬はマサキの言葉に冷静さを幾分か取り戻し、事件発生から国際IS委員会に連絡が届き、対応策を出すまでの時間ロスがほぼゼロに近いことに気がついた。突発的なアクシデントに対する対応ではなくあらかじめそうなることが分かっていたような淀みのなさの違和感。
「何者かに仕組まれたことというわけか」
『その様だな、つまりは委員会の作戦に従うのもその何者かの意図通りになる可能性は高い』
「どこの誰かは知らんが、かなり手が長い奴らだな。米国と委員会の中に手が届くような奴らがいるというのか」
『そうだな。とはいえ銀の福音を放置も出来んのも事実だ。そこでだ千冬、葎を参謀として使ってくれないか』
「葎を?お前の弟もまだ学生だろう?」
『葎には色々と教えてある。一対一の戦闘や千冬たち教員に勝ることはないだろうが、集団で動く戦術ならば葎はなかなかのものがあると俺は判断する』
「お前が言うほどならば構わん、だが委員会の作戦はどうするのだ?従わないと後々煩いのではないか?」
『ああ、それだがなデータ転送時に何者かの起こしたトラブルで『データが破損』したようでな。今修復しているが作戦部分がまだ治っていないようだ。よって他のデータ、銀の福音のスペックや移動予定コースなどを先に送るのでそれで何とかしてくれ』
「フフッ、それでは仕方ないな。わかったやってみよう」
『では千冬、そちらは頼むぞ』
会話を終了した千冬は銀の福音の迎撃作戦を整えるべく、まずは弟を夢の国から至急呼び出した後に教員と生徒を起床集結させるべく動き出した。
一方マサキはシ姉妹の一人に己の体にHDプロテクターにまとわせ、もう一人に千冬と通話していた携帯端末を渡した。
「ではこれから俺も出撃する。留守の間の対応はお前ら二人に任せるぞ」
「はい、マサキ様はどちらへ?」
「相手の出方次第だな。今回の銀の福音の暴走事件の裏で必ず奴らは何かの事件を起こすと俺は睨んでいる」
「あれだけの事件を陽動に使う相手ですか、かなり長い手をいくらも持っているようですね」
「そうとも、それぐらいでなければ俺達の相手は務まらん。そして、そういう奴らを屈服させなくては俺の目指すところには至れんのだ。お前ら二人の力も期待しているぞ」
「はい、我ら二人はマサキ様のために力を尽くします」
そう返す二人にHDプロテクターを装着したマサキはヘルメットを受け取ると二人の口に交互に口付けをするとヘルメットを装着して二人に告げた。
『ゼオライマー、出撃準備にかかる』
同時刻、熱砂の中に建つ○○国の国立化学研究所は
炎上していた。
次回『会敵、冥王と亡国』
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