第二話 『激震、変わる学園』
織斑一夏は安堵していた。
高校入試試験において何をどう間違えたのか、ISコアに接触しかつその起動に男性で関わらず成功してしまった彼は問答無用でここIS学園に入学する運びとなった。当初は女性だけの中に己だけが放り込まれる未来を想像し暗雲たる心境のまま過ごしていたのであるが、そうはならなかったためだ。
本年度からIS学園にHDの搭乗者もこの学園への通学許可が決定され、また一夏の在籍するクラス1-1にも男子生徒が存在していたためであり、それが旧知の友人であったとなれば一夏の安堵も大きかった。
「いやあ、ここで葎(りつ)にあえるとは地獄に仏とはこのことだな」
「私がHDの搭乗者になるから同じ高校にはなれないとは言ってただろうに、一夏」
朝のHR終了後に語り合う両名はどちらも美形といわれる部類の姿なりをしており、織斑一夏のそれは男性的で陽光のような笑みを、木原葎はその長髪もあいまって女性的で月光のような淡い笑みを浮かべていた。お互いに同じデザインの制服であるが一夏のそれは白を基調とし、木原葎のものは黒と基調としている点で対照的な両名は、クラスメイトの女子たちの視線を集めていた。
「ワリイ、ここに入れといわれてからすっかり記憶から飛んでいた」
「それは仕方ないとは思うよ、それよりも」
と葎は顔を別方向に向ける。
「箒も久しぶりだね。一夏に用なんだろ?」
「な、う、うむ。お前も久しぶりだな」
こちらに話しかけようとしてはためらいうろうろしていた篠ノ之箒は戸惑いつつも葎に返事を返した。ちなみに一夏はその気配にはまったく気づいておらず、驚いてそちらを振り向いたところだ。
「あ、やっぱり箒だったか!HRでなんで無視したんだよ!」
「う、うるさい!こっちもお前がいるなんて思わずにきたんだぞ!こ、心の準備というものが…」
「ん?幼馴染と会うのに心の準備が要るのか?」
「一夏、君は黙っていたほうがいいよ」
呆れる葎に首をかしげる一夏。恋愛朴念仁一夏は本日も通常運転である。
時は経過し、その日の終業前HR時に彼は一夏らの教室へやってきた。
「本日の最後にクラス代表者を決定する」
クラス担任であり一夏の姉である織斑千冬が静かな迫力を持つ声でクラスに告げた。
役割は生徒会および教職員からのクラス内伝達事項の連絡等学級委員長と同じ役割に加え、学内で定期的に行われるIS及びHDによるクラス対抗戦への強制参加であると説明される。
「本来であれば、自薦他薦による候補者同士での協議となるが、今回は学園ガワからの指示に従ってもらうことになる。詳細は今から説明するので清聴するように」
千冬はそういうと副担任の山田真耶に手振りで合図を出し教室脇に置かれた教員用の椅子に着席した。少しの間をおいて黒板を模したスクリーンに大きく一人の人物が映し出される。年齢は20代後半であろうか、整ってはいるが鋭い目つきが印象に残る日本人男性に、クラスの大半は見覚えがあった。生徒たちが抱く感情は愛憎さまざまであったが一様におとなしく彼の言葉を待った。
「1-1生徒諸君、初日ご苦労。私は今年度より当IS学園理事となった木原マサキだ。今回諸君のクラス代表は今から名前を挙げる3名による模擬戦を5日後に執り行い、その結果を担当教師が評価し選出するように」
よく通る声がそこで一区切りされ名前が読み上げられる。
「織斑一夏、木原葎、セシリア・オルコット。以上3名だ。了承しろ」
「納得いきませんわ!」
バン、と机をたたき一名の生徒が起立した。金髪縦ロール碧眼の女生徒、セシリア・オルコットであった。
「私こそがクラス代表となるべきであって、他の!しかも男性との模擬戦なぞ必要ありませんわ!」
「要不要はこちらで決めることだセシリア・オルコット、着席せよ」
激昂するセシリアに対するマサキの言葉はどこまでも冷徹であった。
「そんな横暴が男性に許されると!」
「お前は何を言っている?一生徒が学園理事の決定を覆えそうというならそれなりの手順を踏むことだな、言っておくが男性だから従えないなどという非論理的な意見が今通用すると思うならば、君はこの学園に必要ない存在だ」
「なっ!」
「もはやISが絶対の強者である時代ではない。たかだかISをうまく扱える程度で思い上がるな」
ぎり、と口をかむセシリアであるが、マサキの言葉は正論である。HDはISと比べて、絶対坊御という守りもなく移動速度は劣り拡張領域もない。だが、ISよりもはるかに安価なコストで男女問わずに搭乗でき、武装もISのものをほぼ流用可能である。何よりもISと違いISコアという縛りがないために資金が許す限りいくらでも量産できるのだ。一対一ならともかく戦場であれば数をそろえられるHDに勝つのはかなりの難易度となることはセシリアも知識ではわかっていたが、それまでのIS登場時に撒き散らされた女尊男卑思想がぬぐいきれていないのだ。
「まあいいセシリア・オルコット、異論があるなら結果を示せ。今あげた両名を打ち倒しクラス代表としての己の力を証明して見せろ、さもなくば大人しく学園から去るがいいだろう」
「い、いわれるまでもありませんわ!代表候補生としての実力をお見せいたしますわ!」
かくしてクラス代表を決定する模擬戦は決定された。これも冥王計画を進める一手であることを知るのは木原マサキと篠ノ之束の両名だけであった。
次回 『登場 その名はローズセラヴィー』
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