第二十話『会敵、冥王と亡国』
砂漠の中に建てられた○○国の国立化学研究所は今現在何者かたちにより攻撃を受けている。
「外部との連絡はどうなった!援軍はまだこんのか!」
「現在警備部隊最後のHDからの通信途絶しました!ハッキングも止まりません!」
対応する職員達は懸命であったが、効果は芳しくない。
「くそっ、襲撃とハッキングの両方でここを攻めてくるとは!一体どれほどの連中何だよ!」
「所長!このままではこの中央ルームまでの防壁は持ちません!いますぐ退避しましょう」
職員のその言葉に所長と呼ばれた男は激昂した表情で職員の顔に拳を入れる。
「馬鹿が!今までの実験データを捨てていけるか!僕の素晴しい実験の成果たちだぞ!」
国王一族の末席に名を連ねる一人であるこの研究所の所長は前王である父に王位継承権の放棄と引き換えにこの研究所を建ててもらい数多くの実験と研究に明け暮れていた。
研究はいくばくかの成果を国にもたらしたが、その過程で夥しい人体実験をおこなっていた。
国の死刑囚はもとより国内外から買い入れた貧民達も用い、研究の成果よりもその過程での実験体に起きる苦悶や精神をさいなまれる様を楽しむ所長は職員たちから『悪魔』と陰口をささやかれるほどの性格破綻者であった。
「くそっ、父上さえ死んでなければまだまだ好きに研究できたのに!兄上が王位に就いてからは死刑囚以外の実験体は集められないし面白くない研究ばかりだ!何がISだ、そんなもの僕は興味ないのに!」
「仕方ないでしょう、王の命令ですよ。このフェロモンのデータを研究解析すればどれほどの価値があるかは…」
「うるさい!お前ごときにいわれなくてもわかってるよ!だからIS委員会どもからの勧告も無視してやったろうが!どいつもこいつも僕の研究の素晴しさを認めない馬鹿共ばかりだ!」
激昂冷めぬ所長を殴られた職員が納めようとするも返って火に油をそそぐ結果になっているのは、数日前に国際IS委員会からの勧告された場面を思い出していたからである。
ISを用いる国際テロ組織『亡国機業』がこの研究所を狙っているという情報が未確認ながら複数よせられたので警戒するように、もしISに関する研究内容があれば委員会に内容報告を頂きたいと委員会からの使いのものを名乗る金髪の美女は言った。
「無論、幾ばくかの謝礼はご用意してますわ。いかがでしょうか?」
兄である国王直々に研究するよう言い渡されたISフェロモンの事を10日と経たずに嗅ぎ付け、国ではなく研究所に直接話を持ち込んできた彼女に所長は拒絶と侮辱の言葉で応じた。彼自体はISの存在を疎ましく思う男尊女卑主義であったせいもあるが、何より一職員ごときを自分に派遣したことが自尊心の高い所長の気に食わなかったせいだ。
無論、その後に警備の数を増やしHDの導入などはしたが、襲撃とハッキングがほぼ同時に行われるとは想定しておらず現状に至っていた。連絡を分断され警備のものは全滅し、救援要請も届いているか分からず、所長を含めた生き残りの職員達を守るものは数枚の各所に降ろされた防護壁のみである。
所長初め残された職員達は思わず神に祈った。
その祈りはどこかには届いた。
彼らの所業にふさわしい場所にだが。
『あ~もう大体殺しちゃったか、後はお前らがやっときな』
蜘蛛を模したデザインのISをまとう亡国機業の一員、オータムは自らが破壊した警備のHDの残骸に腰掛けてつつ自分の率いてきた仲間達にそう告げる。
『ああ、クソ所長だけは残しておけよ?後であたしが直々にたっぷりとかわいがってから始末するからね』
フルスキン装甲越しに笑いながら告げるオータムに仲間達は無言でうなづき、防護壁の破壊準備を迅速に進行していった。その武装と練度は亡国機業がただのテロ集団でないと見るものが見れば気がついたであろう。
そんな彼らを見守りつつ、スコールを侮辱した所長をどうやっていたぶり殺すかを思案していたオータムの機体にコール音が入る。
研究所外部で警戒さていたHD隊の一機からの発信。嫌な予感と共にオータムは応答する。
『どうした?』
『隊長、例の反応がこの近くに出ました』
『何、例の白い大型HDが出現するときの奴か』
『はい、ですのでプラン変更です』
『…わかった。足止めとデータの転送頼むぜ。あと今まで世話んなったな』
『了解、運があれば帰等ポイントで合流します。そちらも幸運を』
例の白い大型HDに対して亡国機業は出現当初から警戒しており、どこかの犯罪組織が奴に潰されるたびに現地へ部隊を派遣して情報をつぶさに洗っていた。
その結果出現ポイントと思わしい付近上空を通過した某国の人工衛星が今まで観測されないパターンの磁場の波長を計測しており、そのデータを今回襲撃する全ての亡国機業のISとHDに共有させていたのだ。
オータム自身はその白い大型HDと戦ってみたくはあったが上司の命令はその場合は足止め役以外は即時撤退せよというもの。オータムは上司の命令を優先させることを決断し、研究所内の襲撃チームをあるポイントへ集結する命令を出した。
十数分後、研究所の上空でゼオライマーに乗るマサキは己の足元で残骸と化した亡国機業のHDたちを見下ろしていた。
よく出来た遅滞行動であり一挙の殲滅は難しく、これだけの時間をかけてしまったことに人知れずマサキは舌打ちをした。
「やはり、まだ転移後すぐにメイオウ攻撃は放てんか。このゼオライマーまだ完成には遠い」
『あーそこのHD!感謝するぞ。どこの所属か知らんが兄上にはちゃんと報告してやるぞ!』
今後を思索するマサキに研究所に設置された外部向けスピーカーの生き残りから所長の喜悦の声が響くも、正樹はそれには応じることはなかった。
『束、研究所のハッキング進行具合はどうだ?』
『あっ、まーくん!もう終わったよ~、これでこの研究所の成果も悪事もまるっと束さんたちのものさぁ!』
『了解だ。ではこちらも用事を済ませる』
『おけおけ!じゃまた後でね~』
そこで通信を一度きるとマサキは外部へ向けて言葉を発する。
『○○国立化学研究所の者共に告げる。長年にわたる人体実験、国内外市民の誘拐と監禁の罪による冥王の判決を下す』
『?お前は何をいってる?冗談はやめろ!』
『消えろ、塵一つ遺さずな』
胸部を展開したゼオライマーから出現した光る玉に両手の甲の玉を合わせる。
メイ、オウ
ゼオライマーが唸り、研究所はまばゆい光に包まれた。
『研究所の消滅完了。束、周囲の反応はどうだ』
『あ~三機ほどのISがまーくんのところから遠ざかるように移動してるねえ。どうやって逃げたんだろ?』
『空を飛んだか地下へ潜ったか。いずれにせよ時間は稼がれたからな、ゼオライマーも今しばらくは動けん』
『メイオウ攻撃の後はエネルギー充填で暫く動けないんだっけ、まああれだけの攻撃の後じゃあねえ。今後に期待かなかな?』
『そのために色々と布石を打ってある。ここもその一つに過ぎん。冥王計画のための布石だ』
『そだね。束さんの白騎士のときの計画はうまくいかなったし、ここはどーんとまーくんにおまかせだよ!』
『任せておけ、お前は必ず宇宙へいけるだろう。ではまた後でな』
暫く後にマサキを乗せたゼオライマーは研究所跡から姿を消した。
同日、世界中の施設での亡国機業による第三世代IS強奪事件が大々的に報道され、○○国の研究所が消失した事件はわずかな報道がされたのみで人々の記憶から消えていった。
次回『野望、サイガ・デュノアのオムザック』
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福音事件についての顛末は次以降に。