補足 ラファール・ファントーム:シャルロット・デュノア専用第三世代IS。
現存するISをデータから再現し瞬時に構築し装着する機能を搭載している。
再現率は本物の8割程度の性能である。
逆にデータが無ければ再現ができないために最新のISがあふれるIS学園へ向かうことは必須であった。通常形態はラファール・リヴァイヴと変わらない。
開発者はサイガ・デュノア。
第二十一話『野望、サイガ・デュノアとオムザック』
「では、今回の襲撃の被害は警備のISとHDだけということで間違いないな?」
『はい社長、我が社の今回の襲撃、研究自体には若干の遅滞があったのみです』
「ではルラーン博士、現段階の進行具合の報告を頼む」
フランスにあるデュノア本社ビルの社長室、サイガ・デュノアは高級かつ統一されたインテリアに囲まれた室内のチェアに腰掛け投影型モニターに移る初老の男性に話しかける。
『現在、次元連結システムは試作3号のテスト中ですな。何せ出力調整が難しく安定稼動までまだ何度か試作せねばなりますまい。オムザックの方は基本フレームはほぼ完成ですが、例の武装と動力周りの問題が残ります』
「仕方あるまい、次元連結システムがなければ机上の空論に過ぎぬ武装を積もうというのだ。試射段階まできたら私も直接見たいので報告を頼む。我が社の未来がかかっているプロジェクトだ。ある程度の予算は見ているからな」
『ご期待に背かぬよう励ましていただきます』
ルラーン博士の姿がモニターから消え、彼から提出された報告書が変わってモニターに投影されるとサイガは速やかに眼を通し報告との齟齬がないかを確認、後にそれを極秘データとして閲覧制限レベル最大としての処理を行った。
「お疲れ様です、サイガ様」
「ロクフェルか、いいタイミングだ。何か報告はあるか?」
「はい、何点かありますので今からご報告します。まず今回の襲撃で警察から研究所の現場検証の要請がありましたが、軍の管轄に移行させましたので問題ありません」
「それでよい。軍も今我が社の研究を停められたくはないからな。程々にしてくれるだろう」
「後はシャルロット様からの連絡で学園の夏季休暇中はこちらに戻るとのことです」
「そうか、シャルの帰国予定の日時が分かり次第私の予定日程を調整してくれ」
「シャルロット様優先ですね。了解しました」
サイガの鋭い顔がいささか優しいものになるが、常日頃そばに乳兄弟として秘書として、加えて愛人として仕えてるロクフェルだから気がつく程度の変化である。
「我ながら甘いとは思うがな。実の親にあのようなことをしておいて、な」
「…あの方はあのままではデュノア家そのものを破滅させていました。やむを得ない処置でありました」
「無論だ。あの女は自分の所持する我が社の株式三十%を国際IS委員会に寄付して己を委員にしてもらおうと図ったわが母ながら愚か過ぎた存在だからな。あのままにしておけば我が家も我が社もなくなっていた。後悔はないが私は天国などいけぬだろうな」
「サイガ様に罪があるならば私も同罪です。共に裁きを受けます」
「ありがとう、ロクフェル。愛しているぞ」
二人の間に暫しの甘い空間が展開されたが、まだ仕事中だと未練を断ち切ってロクフェルは話を進める。
「他には例の兵器開発と家電メーカーの買収が成立したそうです。これで規模として我が社は欧州最大となります」
「そうか、遂に私の夢が現実味を帯びてきたな」
サイガの顔に先ほどとは違う優しさよりも獰猛さを感じる笑みが浮かぶ。
「国家を従える企業、その中でのトップですね」
「そうだ。天災篠ノ之束の開発したISにより軍事力は少数の優秀者を揃えればどれほどの大軍でも対抗できるようになった。後は資本さえあれば追随を許さぬ体制を作れる。加えてもう一人の天災木原マサキの次元連結システムとHDだ、二人の天災の発明を活用すれば不可能ではない」
「私などからすれば恐ろしいばかりです。特に木原マサキですが、なぜ彼は我々にあの次元連結システムを渡してきたのか。無論喜ばしいことではありますが意図が不明すぎます」
「ふむ、そうだな」
サイガは顎に手を当て暫し思索する。ロクフェルは彼のその顔が大好きであった。
「ひとつは自分達だけでは研究が進まないと考えたのだろう。余り広めたくはないが、競争がなければ発展もないのも事実。ならば次元連結システムを公にはしないが開発はできる、そんな相手だと考えたのだろう」
「つまりサイガ様の目的をある程度推測していると?」
「然程隠匿もしていないからな、インタビュー記事や私を知るものからの情報でそれくらいは可能だろうな。もうひとつは敵への牽制というところか」
「敵といいますと、他の企業でなければ各国政府や、あの委員会の連中でしょうか」
「恐らくは国際IS委員会であろうな。今あそこを支配しているあの女が進めている世界への支配は彼女個人が支配者となる世界をつくることだ。私の夢とは違うし、恐らく木原マサキのそれとも違うのであろう」
「成る程、敵の敵は味方ということですか。ではまだ暫くはこのままの姿勢でよろしいですね」
「そう、私にとっても今の委員会は邪魔だ。彼らと木原マサキがぶつかり合えばこちらも動きやすくなるわけであるならば、木原マサキへの支援も問題はない。貴重な時を稼げるというものだ」
「サイガ様のオムザック完成までの時ですね」
「あれが完成すれば、我らに恐れるべきものはない。HDであるが如何なるISをも凌駕するからな」
サイガの笑みが更に深くなる。
「あれこそが国家を従える企業の象徴であり私の思想を具現化した存在となるべき機体だ」
「完成すれば、私の『ディノディロス』やシャルロット様の『ラファール・ファントーム』も太刀打ちは至難です。サイガ様にふさわしい機体となることでしょう」
ロクフェルの言にサイガは笑みを浮かべてうなづく。
その脳内に最近出没する白い大型HDの事がかすめる。
現われては犯罪者の組織を壊滅させるそれは一部では神罰の代行と騒がれているが、それほどに現実味のない戦果を挙げているそれ。
果たしてわがオムザックはあれを討ち取ることができるのか、そう考えて苦笑する。
所詮私も男か、どちらが強いかを決めたいと願うなどとは。
互いの利益が対立せぬ限りその必要はないだろうし、むしろあの白い大型HDが動くことで起きる事態から利益を追求せねば企業のトップとはいえない。
そう自戒しつつもサイガ・デュノアは夢想する。
己の乗ったオムザックと白い大型HDとが対峙し、戦う場面を夢想する。
「では、私の夢のためにも職務に励まねばな、ロクフェル」
「はい、サイガ様。では次の件ですが…」
ロクフェルの報告を聞きながら、サイガ・デュノアはその夢をひとたび頭の片隅へと追いやる。
夢は願えば叶う、そう語るものはいるがこの夢は叶っていいものであろうか。
オムザックとゼオライマーが対峙したときに起きる被害はいかほどになるというのか?
それは木原マサキですら想像できぬことであった。
次回『報告、福音事件とその後』
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