第二十二話『報告、福音事件とその後』
「今回の件よくやった葎。では報告を頼む」
「はい兄さん、まずは簡潔に結果だけ報告するよ。銀の福音を洋上での撃破に成功、死亡者ゼロ、銀の福音パイロットを含み重傷三名、軽傷五名です。被害はHDが二機大破、ISは一機大破に四機中破で大破の一機が二次移行に成功。銀の福音はコアを遺し破壊したよ」
IS学園内に秘匿された某所にて白いスーツを纏った木原マサキは制服を着た弟の葎から臨海学校中に起きた銀の福音事件の報告を受けていた。
「でも同じものが千冬先生から理事会に提出されているんじゃないの、兄さん?」
「千冬の報告では一通りしか分からんからな。戦闘者としては超のつく一流だがそれ以外は葎に及ばん」
「ああ、それにどうしても内容が一夏贔屓になっちゃうか」
葎の言葉にマサキはうなづく。弟に対する深い愛はマサキ自身も同感できるものがあるが、それとこれとはまた別の話だ。実際葎の提出してきた報告の書面はマサキの知りたい情報が多くあり、千冬のそれは簡潔に過ぎる面はあった。
「理事会やIS委員会の連中には千冬のもので構わんが、俺には葎の報告が必要なのだ」
「うん、兄さんの役に立つなら僕は嬉しいから構わないよ」
笑顔で葎はそう答えて報告を続ける。
兄の役に立てることが心底嬉しいのだろう。
「HDのランスターを十機動員して、成績上位者に搭乗してもらい銀の福音の移動コース周辺に等間隔で配置。正確な移動コースの割り出しと周辺の民間人の不在を確認してもらったよ。何隻かの密輸戦や密漁船を発見してホバー移動のバーストンで拿捕に成功したね」
「作戦参加者が生徒中心だからな、士気の維持には必要なことだ。続けてくれ」
「配置したランスターのうち一機が銀の福音を発見の報告後に交戦、三十秒後に大破。近くにいた別のランスターが応援に向かうもこれも大破。迎撃チームが現地に到着するまでの時間は稼げたよ」
「迎撃に向かったのは一夏、シャルロット、ラウラ、更識 簪(さらしき かんざし)の四機か。箒、セシリア、鈴は待機にまわしたと」
「彼女たちは競技者ならまだしも連携した戦闘には向いてないね。自信あるのは良いけど独断専行しやすくてね。クラス代表戦と学年別トーナメント戦を制した簪さんは別格だったけど」
「いい判断だ。国家代表の訓練をしているものはどうも連携を怠りやすい。最初の例が悪かったのかもな」
「それって千冬さんのことかな?そりゃあ、あの人くらいの戦闘能力があれば問題はないんだろうけどさ」
お互いにか軽口を交わしつつマサキは葎の提出した報告書を手早く読み取っていく。
「特にシャル、シャルロットのラファール・ファントームは便利だね。データさえあればどの機体にもなれるんだからね。本物には幾分劣るとはいえ作戦が立て易かったよ」
「簪の打鉄二式(うちがねにしき)のミサイル弾幕とラウラのシュヴァルツェア・レーヴェンのAIC(アクティブイナーシャルキャンセラー)で銀の福音を一定地域に足止めした後に一夏の白式とシャルロットの白式に擬態したラファール・ファントームの零落白夜で切りかかる、作戦としては問題ないな」
「でも一夏の攻撃が浅かったせいで撃破までは行かずに一度海中に沈んだ後に銀の福音が二次移行して復活。それからの交戦中に一夏の白式が大破して同じく海中に沈没。その場で専用機が足止めしてるうちに白式回収班を待機組みから選抜して向かわせるも到着前に白式が二次移行で復活。銀の福音を撃破したよ」
「で、白式回収班が銀の福音を回収に回り全機帰投か。一名命令違反で懲罰とあるが個人名は伏せてあるな…箒か」
「うん、回収班にいれたんだけど皆が集まる前に一人だけ飛び出して銀の福音に切りかかって中破だからね。いくら一夏を傷つけられたからといってそれは許される行為ではなかったからね。夏季休暇中は校内の反省房で謹慎してもらうことにしたよ」
「箒といい束といい、あの一家は我が強いからな。きちんと躾けておかないと今後の役に立たんからな。それでいいだろう」
ニヤリと笑うマサキににっこりと微笑む葎。この兄弟もいい性格という意味では負けていない。
「そう言えば、銀の福音に乗っていた人はまだここにいるんだっけ?」
「ああ、意識がまだ戻らんのでな学園内の医療施設にいれてある。米国は引き渡せと煩いが意識が安定しないうちは危険ということでお断り中だ」
「ふうん、早く目が覚めるといいね。銀の福音の解析後には起きるんだろうね」
「そうだな、そうなれば面会謝絶もしなくてすむしさっさとお引取り願うさ」
そう笑いあうとマサキは報告資料をまとめ脇に挟むと、空いた片方の手で葎の頭をなでる。
「まあ後はこちらで処理するから暫くは休んでいろ。助かったぞ」
「いいんだよ兄さん。僕はいつでも兄さんの力になる為なら何でもするよ」
その後に笑顔で葎を送り出したマサキは暫くの間室内を歩き回り思索をまとめ、懐の携帯端末を取り出す。
「束、進行具合はどうだ?」
「はろはろ、銀の福音のデータは取り終わって今初期化中だよ!束さんのISにこんな武器は要らないからね、返してあげるだけでも泣いて土下座して感謝して欲しいぐらいだね!」
「それでよかろう。それとお前の妹の箒だが、あいつに専用機をくれてやらないか?」
「ん?箒ちゃんからもお願いがあったけど、束さんとしては箒ちゃんに危ないことはして欲しくないから即断はしなかったんだけど、まーくんも箒ちゃんに専用機あった方がいいと思うの?」
「今葎の話を聞いて、箒はどうにも危ういと感じた。正直一夏のためにいつ死んでもおかしくないレベルで危うい。まあお前の妹らしいともいえるがな」
「ひっどいな~、束さんはいつでも準備万端の天才様だよ」
いかにも心外という風で応じる束であったが実際にその行動は危ういという点では妹のそれと変わらない面があるのだが本人のみが了承しない点も似ていると思いマサキは心の中で苦笑する。
「どの道箒はこれからも危険と付き合うことになるのは間違いなかろう。成らばせめて良い装備を渡して生き延びる可能性を上げてやれ。そのせいで増長するかもしれんが、それはこちらで調整しよう。葎の親しいものが亡くなるのは余り望むところではないからな」
「まーくんがそういうなら、それなりのものを用意してあげるよ!たまには箒ちゃんの顔も見たかったしね!」
「ではそういうことで頼む」
そういって通信を切るマサキは考える。
恐らくは二学期に入るあたりからまた国際IS委員会はここにちょっかいを出してくるだろうことは推測できる。
夏季休暇中は連中は各地から集めたISに亡国機業の連中をならし、準備万端で介入してくるだろうと。
だが準備期間があるのはこちらも同じこと。
「最後に勝つのは俺達だ」
そうつぶやくとマサキは部屋を後にした。
次回『強化、夏季休暇という名の特訓』
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白式の二次移行内容は原作と変わる予定です。