第二十三話『強化、夏季休暇という名の特訓』
IS学園反省房、木原理事の就任と同じくして開設されたそれは外見は医療施設のような白いコンクリの建物であるが、内実は異なる存在である。
学園に対して妨害工作を行ったもの、外部勢力への情報漏えい者,素行の著しく悪いもの等がこの施設に収容されその中でそれぞれ個室に収監される。
その部屋は明り取りの窓はなく、壁は分厚いコンクリの上から緩衝材を全面に貼り付け、床に固定されたベッドとトイレ、洗面器具が備え付けられた長方形の無機質なものであった。
今その一室で篠ノ之箒は床に正座し瞑想をしていた。
ここに入れられてから恐らくは六日ほど、一日一時間日光に当たるために監視つきで施設の中庭での運動をする以外はこの部屋で過ごしている。
一度、反省房のもの達が中庭に集められた際に自分より長く反省房に入れられていたであろう憔悴した中年女性が逃れようと中庭からの逃走を図ったが、即座に警備のものに射出型スタンガンを放たれて麻痺。
その後集結した警備のもの達に警棒で袋叩きにされた後にどこかへと引き立てられていきそれ以降その中年女性を見ることはなくなり、反省房のもの達も彼女の行方は聞こうとはしなかった。
そのような監視下にあり。時計もなく食事の回数とその運動時間だけでしか時間を測れないこの環境は頑固な箒の意思をいささか以上に痛めつけていた。
後幾日、私はこの施設にいることになるのか?
そう考えると己の行動に後悔はないにせよ銀の福音に対しもっと上手く立ち回れたらとの後悔は浮かんでくる。
一夏の特訓に付き合う形でマサキの訓練メニューをこなし、いささか以上に能力は向上したと思っていただけにほぼ何も出来なかった己への後悔だ。
そんな気持ちを静めようと瞑想を始めた箒の部屋の扉に設置された監視窓が開いた。
「少しは頭が冷えたか、箒」
「マサキさん!?どうしてここに?」
「多少心配になったのでな、様子見に来た」
「…ご迷惑をおかけしてます」
箒は謝罪を口にするのは本心からだ。姉のIS発表から向こう、自分達家族に実に多大な支援をしてくれているマサキに未だ進行形で迷惑をかけていると感じている。
「謝罪はいい。箒のそういう性格は俺は好ましいと思っている、がその気性に見合う実力がついてないだけのことだ」
「私などに過分な言葉です。実際一夏の助けに行くつもりがあの始末ですから」
「だが、また一夏に危機が迫ればお前は同じ行動をとる。そうだろう?」
「はい、それは間違いないです」
箒の迷いのない返事にマサキはニヤリと笑みを浮かべる。
「それでこそ、篠ノ之箒だ。では一つ提案があるのでついてきたまえ」
「私は未だ反省中ですが」
「お前には反省よりも必要なものがある。それを与えてやれるかもしれん」
「私に必要なもの?」
「織斑一夏と並び立てるだけの力」
びくりと箒は反応する。彼女が一夏から再会して以来もっとも欲したものを言い当てられたための動揺。
「わかりました」
箒に逡巡はない。一途とも妄執とも取れる迷いのない眼にマサキは笑みを深くした。
反省房の個室を出てマサキに付き従う箒がたどり着いたのは施設内の会議室の様な一室であり円卓上のテーブルを中央に置きその周辺に椅子が並べられ、入り口の反対側に壇上が備え付けてある。
その室内でなにやら準備をしていたマサキの秘書、氷室美久がこちらを見て一礼をする。
「美久、準備はいいか?」
「今しがた終えました。どうぞマサキ様」
「ご苦労、では箒は適当な席に掛けて壇上のほうを注目しろ」
そういうとマサキは壇上へとのぼり投影型キーボードを操作する。
とそこにISアリーナで対峙するISやHDの様子が壇上のスクリーンボードに投影される。
「これは本日行われた自主訓練に参加した者たちを記録した映像だ。そして一夏と鈴も参加している」
「あれは一夏の白式?でも形態が変わっているようですが」
「その通り、では拡大してみよう」
マサキが操作すると白式の訓練の様子が拡大して投影される。
「一夏の白式は二次移行に成功した。『白式修羅(はくしきしゅら)』、又は『白羅(はくら)』と呼称する」
画面上では鈴の乗る甲龍との模擬戦を行っている模様。
「その特筆すべき点は『三段加速』と『猿叫(えんきょう)』にある」
画面で一夏が叫びながら鈴に突撃していくところが映し出され、鈴の甲龍が空気砲『龍砲』を放っているようだが一夏の白羅に命中する前に何かにより拡散しているのが同じ訓練に参加していた箒には分かった。
「あれは、『龍砲』と同じ空気弾?いや違う?」
「そう違う、あれは空気ではなく音を飛ばしている。恐らくは一夏の思考と叫び声を元に白羅のISコアが判断し時には防御幕として、時には攻撃手段として、更には加速手段としている」
「移動手段ですか?」
防御は先ほどの映像にもあったのでわかるし、攻撃もなんとなく『龍砲』のように使えるのではないかと推測できた。
だが移動とはどういうことか?と箒はいぶかしんだ。
マサキは笑みを浮かべてキーボードを操作すると立体モデリングされた白羅がスクリーンに映し出される。
「まずはISの基本能力で可能な『瞬時加速』、次に白羅の能力『二段加速』、そして『猿叫』を展開して行う『二段加速』の三つを平列して表示してやろう」
箒は画面の立体モデリングされた白羅の動きを見る。
「な、『猿叫』後の『二段加速』は『瞬時加速』の倍以上の早さではないですか!」
「その通り、『猿叫』で空気を切り裂き、その中を進むことで更なる加速を可能としている。この技で銀の福音に近づき、零落白夜で打ち落としたのだ。これが『三段加速』だ。更に習熟に務めれば『猿叫』後に『瞬時加速』を行うことで四段にも可能だ」
箒は一夏の成長を嬉しく思いつつも更に並び立つべき場所が遠のいたようで、自分が置いていかれるのではとう思いを感じた。
「だが箒よ、お前は誇っていい。一夏がこの形態に目覚めたのはお前が銀の福音に落とされた直後のことだ。お前の危機が、お前を守りたいと願う一夏の心が発動させたのだからな」
「そう、ですか」
「そう苦しい顔をするな。俺がこの白羅にお前が並び立てる可能性を提示してやれるといっているだろう?無論決して楽な道ではないがな。どうする?それでもやるか?」
そう問われた箒の答えは揺るがない。新しい力を得た一夏でも今現在その力になれるため、新しい力を得るために特訓を重ねているというのにそれに並び立ちたいと願う自分がそれ以上に特訓なりをせずにどうしようというのか。
「お願いします、マサキさん。一夏の横に並び立てる力が私は欲しい。そのためなら私に出来ることは何でもします」
マサキは箒の答えに満足したようにうなずく。
「いいだろう。俺と美久、そして束の力をお前に貸してやる。せいぜい喰らいついて来いよ?お前の目指すものはその先にあるのだから」
かくして篠ノ之箒は己の願いのために新たな道を進むことを決めた。
その先にあるものは果たして願いの成就か、底なしの泥沼か?
次回『完成、剣鬼篠ノ之箒』
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主人公様はよく叫ぶので折角だから能力にしてみました。