補足 篠ノ之流剣術:江戸時代初期に興った剣術のひとつ。
無刀での組打ち技等を含む総合戦闘術である。
現在は織斑千冬の功績で『刀を用いた技』は広く世間に知られている。
第二十四話『完成、剣鬼篠ノ之箒』
マサキに決意を表明した翌日から篠ノ之箒の特訓は開始される。
目隠しとヘッドホンをつけられ移動したマサキのアジトで姉である束と久方ぶりの再会を果たし、束曰くの第四世代型IS『紅椿』を受け取ることから始まり、ISの訓練と戦闘技術の向上のための日々。
「遅い、そして未熟」
起きてからはマサキの秘書である氷室美久の乗るIS飛龍との模擬戦。
「箒ちゃん、脇が甘いよ!」
続いては篠ノ之流剣術免許皆伝の姉、束からの剣術指南。
「どうした、ペースが遅いぞ」
加えてマサキの考案した特殊運動メニューをこなす日々であった。
通常ならば到底こなせない濃密さではあるが、箒自身の意志の力に加えて、マサキの考案した食事メニューとわずかの睡眠で疲労を抜く催眠学習機能付き催眠ベッドといったサポートにより短期間のうちに箒は特訓内容を己のものとしていった。
「束に美久、箒の仕上がりはどうだ?」
「はいマサキ様、技能だけであれば想定していた代表候補生レベルはクリアしてます」
「こっちも篠ノ之流は『禁じ手』込みで教え終わったし、後は箒ちゃんが慣れるだけだよ、ぶいぶい!」
モニター越しに特殊運動メニューをこなす箒を見ながら、三名は言葉を交し合う。
「こちらも規定の運動能力値には達した。そしてもう一人の美久からの報告では、丁度よさそうな相手もまもなく仕上がるそうだ」
「では、そろそろ仕上げということですね」
「まっ箒ちゃんなら、これくらい楽勝で乗り越えられるよね、束さんの妹は強いからね!」
「能力的には問題はない。後は彼女の意思次第だ」
その日身支度を整え日課となった特訓をこなすべく部屋を移動した箒の前に珍しく指導を行う三名が揃って箒を出迎えていた。
「まずは今まで訓練ご苦労。これより最後の仕上げにはいる」
代表して語りかけるマサキの言葉に一瞬喜ぶも次の言葉に箒は固まる。
「最後の仕上げに死合をおこなう」
「な、なぜ、そんなことを?」
「簡単な事だ箒、お前に足りないものを迅速に埋める為だ」
淡々と言葉をつむぐマサキに箒の脳内は疑問符で埋まる。
「一夏のことをよく知るお前ならばわかるだろう。一夏は甘い、そこが長所であり短所であるがな。それにあいつの言う誰かを守るには一夏自身はけして入れない男だ。そういう男の隣に立つというならば必要な意思がある」
「誰かを殺してでも守るという意思、ということですよ箒さん。その覚悟がなければ彼は死ぬことになります」
「ほんといっくんのそういうとこ素敵だよねえ!まるでお話にでてくる主人公みたいでね!それを守る仲間達!うーんいいね!」
三人から告げられた端的な一夏の評価は箒自身も感じているものであり否定ができなかった。
その一夏に必要な存在がどういうものであるかということも。
ならば、としばしうつむいていた箒は三人に向き直る。
「そのような存在が必要ならば私がなりましょう」
その瞳には決意の炎が燃えていた。
「よし、相手はこいつだ」
マサキの言葉と共に連れてこられたのは拘束具により台車に体を固定され眼だけをぎらつかせた中年女性である。
運んできた黒服サングラスの美久に似た女性はすぐに下がっていった。
そして、箒はこの拘束された中年女性に見覚えがあった。反省房の中庭で逃亡しようとしていた中年女性だ。
「こいつはIS学園内で教師の立場を利用して生徒達に女尊男卑主義を振りまき、さらに国際IS委員会に学園の情報を売り渡していた犯罪者だ。反省房でも反省の色がなくてな、箒との死合に勝てば追放処分で済ませることで納得してもらっている。一応第一回大会の代表候補生で元自衛官だから油断はするな」
マサキの言葉に箒はうなづく。
「では、いつからはじめますか?」
「もう始まっている」
マサキが言葉を発すると同時に中年女性の拘束具は解かれ、中年女性は箒へと獣のように雄たけびを上げて飛び掛った。
「福音事件からもう二十日かあ」
「早いものね一夏」
IS学園内に複数あるISアリーナ、現在は夏季休暇中であるが一部希望者による自主訓練用に一部のみ開放してあるうちの一つで一夏と鈴はクールダウンのための休憩中だ。
「セシリアとラウラは明後日には戻ってくるんだっけか」
「そうね、シャルはもう少しかかるってメール来てたけどね」
「俺も少しは皆との差も縮まってるといいなあ」
「何よ、元代表候補性のこのあたしが訓練に付き合ってあげてるのよ?一夏は確実に強くなってるわよ」
「でもまだ五回に二回しか勝ててないぜ?」
「あのね、いくら一夏の白羅がすごくてもあんたが使いこなせてないんだから当然でしょ。後はもう訓練して一夏が白羅の性能を存分に引き出せるようになるしかないわけ。わかる?」
一夏の額にぐりぐりと指を突きつけながら睨むようにして鈴は告げる。
「お、おう、そうだな。これからもよろしくな鈴」
「よろしくされるわ。胸を借りるつもりでどんときなさい!」
年齢的に考えていささか以上に平坦な棟をそらす鈴に一夏は素直にうなづく。
いかに朴念仁一夏といえども度重なる肉体的制裁により学習はしているので突っ込みは入れなかった。
「後は箒が心配だな。結局あいつだけ先に学園に返されたし」
「そうね、怪我はそれほどなかったけど、夏季休暇中は反省房ってとこに入れられてるみたいよ。葎ってああいうルール破りには容赦ないからねえ」
「うーん。葎も話せば分かる奴だけど、今回は流石に箒のほうが悪いわけだしなあ。戻ってきたら暖かく迎えてやるくらいしかできないな」
難しい顔をしながら腕を組んで悩む一夏の顔を上気した顔で見つめる鈴。
現在ほぼ一夏を独占できる状態にある彼女は至福の時間を送っているといっていいだろう。
残念ながら関係はセカンド幼馴染プラスよき訓練相手どまりではあるが、前進ではあると鈴は己を勇気付ける。
ふと誰かの近づく気配に鈴は振り替える。
「暫くだったな。一夏、鈴」
「その声は箒?」
「おおっ噂をすればだ!無事だったんだなよかったぜ!」
鈴は一瞬の戸惑いを覚えた。
学園での二月ほどであるが共に過ごした鈴の知る箒とは気配が違ったからだ。
以前までのささくれた攻撃的な気配と余裕のない立ち振る舞いはなく、自然体のようであるが油断のない体の動き。
自分の知る強者でもかなり上位のものとの似た雰囲気であると鈴は感じた。
「ね、ねえ箒よね?何か印象変わったけど、何かしてたの?」
「ん?ああ髪型を変えたせいではないか?」
「お、そういえば。確かに印象は変わるな。でも似合ってると思うぞ?」
「そ、そうか。ありがとう」
確かに腰まで届くポニーテールではなく、肩まで届く程度のシュートボブになってはいる。
それに一夏の何気ない言葉に赤面するところは変わってないようだが、確かに何かは変わっていた。
とはいえ本人が言いたくないのに聞き出すのも無粋。
話してくれるまで待つべきと鈴は結論する。実際自分にもIS学園に来るまでの逃避行で語りたくもないことはあっ他のだからそれと同じことであろうとはあたりをつける。
「まあ、いいわ。箒も今日から一緒に訓練ね」
「ああ、よろしく頼む」
「おう、頼むぜ」
微笑む箒の瞳にはゆるぎない蒼い炎が宿っていることに一夏と鈴はまだ気がついていない。
次回『進化、シャルロット・デュノア』
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戦闘描写を極力省略していく予定です。
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