第五話『降臨、ゼオライマー』
『束、実験対象の選定はどうなってる?』
『もちのろんで終わってるよ~、そこそこでかいやつらのデータ送っておいたよ!』
『わかった、後は例の「逃亡者たち」にIS学園へ安全に着けるルートの情報を流しておいてくれ、たどり着ければ色々と使える』
『りょーかい、いやあいつもながらまーくんは他の人たちをよく使うよねえ、あんな雑草なんて邪魔じゃないの?』
『雑草だからこそだ、適度に剪定し方向性をつけてやればいい庭になる。…データは確認できた、では実験に向かう。切るぞ、束』
『はいはーい、じゃあがんばってね~』
南米某国の密林地帯の一角、規模としてはそれなりの大きさであり現地の権力者ともうまく付き合いをもち、安定した勢力を持っている麻薬密売組織の麻薬精製プラントと本部を併設した施設、その上空にそれは突然出現した。
特徴的なモノアイとそれに似た球体を両腕の甲に装備し、全身を白骨を思わせる白を基調にところどころを赤で染め両肩の装甲を左右に張り出させたそれは通常のHDの倍ほどの大きさを有していた。
夕暮れでも見間違えようの無い不審なそれに見張りにたっていた構成員たちは戸惑いつつも迎撃の準備を整える。ボスの方針でIS登場後大量に放出された火器や装備の類を様様な手段でかき集めていた彼らはISのようなシールドバリアをもたないHDならば十分に対抗できると確信していた。
『そこのでかいHD!大人しく降りて来いや!さもなきゃテメーを打ち落とす!』
監視塔の上で重機関銃を空に浮かぶ白い大型のHDに向けた組織の男が現地の言語でスピーカーマイクから叫ぶ。それに応じるようにHDはその右腕、モノアイ似た球体が手の甲に埋め込まれたそれを監視塔に向けてかざした。いぶかしむ監視塔の男に向けてその球体から一条の光線が放たれ監視塔の上部を男もろともに焼き払う。これを見て殺気立った構成員たちが構えていた火器を発射しようとする彼らに上空のHDがその右腕を振り払う動作を取るとその動きに追随した光線が彼らを焼き払った。
『くそっ、こいつはやべえ』
本部施設の自室で表の様子を監視カメラ越しに見ていたこの組織のボスはそうつぶやくとすぐに行動を開始した。彼はすぐさま部屋の壁に埋め込んである金庫を開け中にあった金属製のトランクとライトを掴むと部屋の床を覆うカーペットをどかし緊急脱出のための扉のロックを外す。用心深いこの男はいつでも自分だけは逃げられる用意を整えており、トランクの中には組織の拠点と資金の口座情報を全て詰め込んであった。ボスが先ほど見ていたHDの戦力と基地の戦力を比較しすぐさま手下を見捨てての逃走を決定した。この男にとっては手下は自分を富ませる手段でしかなかったのだ。
『あいつは先にプラントへ向かった、そこをつぶしてるうちになんとかずらからねえとな』
狭い通路を肩をぶつけつつ進むボスはそうつぶやく。しばらく進むとライトの先に広い空間が浮かび上がる。もともとあった廃坑の一部を改修した脱出路にでたのだ。ボスは急ぎ通路の片隅で何かを覆っていたシートをはがす、とそこには彼の用意していたHD,バーストンがあった。組織の誰にも知られぬように別組織の伝を使い用意したそれにトランクをほおりこむと急いで乗り込み、基本動作はマニュアルで覚えてあるためさほど手間取らずに起動させたバーストンを動かして脱出路を駆ける。見た目は鈍重なバーストンだがホバーを利用した移動ができるため地上では予想以上のスピードで走れる。密林へ逃げ込めば上空からは捕らえにくいうえに加えて周辺の地形を把握しているボスにとっては最適の逃走手段であることは間違いなかった。だが最善を尽くしてもなお逃れられないものがある。
廃坑から外に出たときに待ち構えていた白い大型HDを見たときにボスはそのことをかみ締めていた。
『この程度の手が見抜けないと思っていたか?大人しく仲間と同じくあの世へ行くがいい』
『ぬかせ!』
専用回線をどう解析したのか、呼びかけできた通話に対してボスは短く返すとバーストンの方に装備されていたロケットランチャーを展開して白い大型のHDに向けて発射する。煙を上げて発射された16本のミサイルは白い大型HDに全て着弾した。、シールドバリアのないHDでは無傷とはいかず必ず隙を見せるはず、その隙を狙い逃走を図ろうとしたボスの搭乗するバーストンに一条の光線が降り注ぎバーストンの機体を焼いた。両者の攻撃の結果白い大型HDは無傷であり、バーストンは大きく損傷。
『馬鹿な!あれだけのミサイルを受けて無傷だと?HDにシールドバリアは搭載されてないはずだ!』
『馬鹿め、HDにバリアシールドが張れないのは単にコスト上の問題に過ぎん。技術的にはこのゼオライマーを見れば分かるように可能だ』
そう告げつつ再び光線をバーストンに放つとその攻撃に耐え切れずバーストンは搭乗者を強制脱出で放り出した後に爆発した。ボスは宙高く放り出され驚愕の表情のまま地面に頭から落下し絶命した。
「そしてHDプロテクターを装着していなければそういうことになる」
ゼオライマーの機体の中で木原マサキはそうつぶやくとボスの死体のそばに落ちていたトランクを機体の中へ回収するとボスの死体を放置してその場から姿を消した。
その同日中にこのボスの率いる組織の拠点は何者かの襲撃を受けこの地上から消滅することになったが、その際に麻薬栽培農場で働かされていた人々はほぼ全て生き延びており、彼らの口からは異口同音に白い大型のHDがそれをなしたと言う証言が警察組織やマスコミに伝えられ、世間を騒がせることになった。
その正体はさまざまな憶測を呼びはしたが真相は不明のまま、都市伝説の一つとして人の口に上るようになるのであった。
次回『到着、大陸からの逃亡者たち』
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