第八話『再会、約束と渇望の彼方に』
突然の木原マサキの登場に腰を浮かせる四人であったが、マサキがそれを制した。
「空いた時間で弟の様子を見に来ただけだ、そう気を張る必要はない。葎、久し振りだな」
「は、はい兄さん!兄さんこそ元気そうでよかったです!」
「そうか、一夏、箒、セシリア、弟と仲良くしてくれて感謝する」
「や、やめてよ兄さん。もうそんなこといわないでよ!」
言葉ではそう否定した葎であるが他の三人から見てその顔は嬉しそうで、一夏と箒からすると兄の自慢話や兄と会話する時に見せるいつもの葎の顔であった。
「マサキさん、どうもお久し振りです」
「マサキさん、家族共々お世話になりました、ありがとうございました」
「二人とも元気そうだな。それと箒、俺は束の友人としてできる事をしたまでだから気にすることはないぞ」
「いえ、姉以外の家族が別れずにすんだのはマサキさんのおかげだと聞いてますので是非御礼を言わせてください」
そういう二人もマサキには尊敬の視線を送っていた。一夏は姉がドイツでISの教官をしている間に何かと便宜を図ってくれた相手であり、箒には彼女の姉である束がISを発表して以来のマスコミや自他国からの拉致監禁を含む干渉からの対策を最大限してくれただけでなく、各地を引越しはしたが家族がまとまって暮らせたからだ。
残るセシリアにとっても今いる三人、とりわけ一夏との縁を運んでくれた相手に悪感情もなかった。
「判った、その感謝は受け取ろう。だがこれは束と千冬の二人との約束でな。三人の誰が問題に当たったときに協力は惜しまないと誓ったその結果に過ぎんのだ。だからこれ以上は気にせずにおけ」
その言葉に二人はうなずいたのを見て、マサキは言葉を続けた。
「さて、一夏。まだ少し訓練はいけるか?」
「あっはい、大丈夫です。まだ使用時間は残ってます」
「では少し訓練に協力して対戦してやろう。葎、ローズセラヴィーを少し借りるぞ?」
「うん!いいよ。元々兄さんがくれたものだし、構わないよ」
「少しは嫌がってくれないと、あげた甲斐がないな」
「何言ってるんだよ、兄さん以外なら絶対乗せないよ」
男三人の会話を聞いていたセシリアは箒に小声で話しかける。
「葎さんってマサキ様の前だといつもああですの?」
「ん、ああそうだな。千冬さんと一夏みたいに仲がいいぞ」
「いつもの冷静そうな葎さんとはイメージが違いますけど、楽しそうですわね」
「ああ、まったくだな」
兄弟のいないセシリアと姉と疎遠な箒は若干のうらやましさを覚えつつ、彼らの練習の準備を手伝った。
『では一夏どちらかが行動不能若しくはエネルギーがゼロになるかまででいいな』
『はい、では行きます!』
一夏の乗る白式が零落白夜を構えて突進する。初手から瞬間加速を使い振りかぶった一撃を正樹の乗るローズセラヴィーに当てようとしたが、ローズセラヴィーの両手から発射されたビーム十条が白式を迎えた。
かわせないと感じた一夏は零落白夜でビームを消滅させつつ突っ込むが、ビームに対応した分攻撃が遅れ、ローズセラヴィーに距離をとられてしまい、攻撃は不発の上零落白夜を使用した分エネルギーを減少させてしまった。
それから暫くは何とか近づこうとする白式に対してローズセラヴィーは牽制のビーム攻撃を行い、ことごとく攻撃の芽をつぶしていく行為が繰り返された。そしてついには白式はエネルギー残量がほぼ枯渇する状態にまで追い込まれていた。
次が最後の一撃と思い定めたのか、一夏は零落白夜へ注いでいたエネルギーを止めてただローズセラヴィーへと駆けた。
「賭けに出たか一夏。確かにあとはそれぐらいしかあるまい」
「あのビームを全てかわして、最後に零落白夜を発動させて当てるつもりですのね」
「ここ一番の一夏の集中力ならいけるかもしれないね」
ISアリーナの観客席最前列で二人の訓練試合を見ていた箒たち三人はそう会話を交わしあい、試合の終わりを感じた。
わずかずつ発射タイミングをずらしたビーム攻撃をあるいはかわし、あるいはかすめつつも遂に白式はローズセラヴィーへの肉薄に成功した。すかさず零落白夜を起動させ一息に突きかかったのは一番回避のしにくい攻撃であるとの判断からであり剣道剣術の試合であるなら間違いではなかった。
だがこれはISとHDを用いた試合であり、木原マサキはその両方ともをよく知る人物で織斑一夏は一月前まではそのどちらとも素人であった。
結果正面から突きかかった白式の零落白夜はローズセラヴィーの両指から発したビームに挟み込まれその機体に命中させる前に白式のエネルギーを貪り尽くしてしまい、一夏と白式の敗北が決した。
少しの間を置いて白式を解除し、ひざに両手を当てて荒い息を吐き続ける一夏の前にローズセラヴィーから降りて来たマサキが目の間に立つ。
「大分腕は上がったようだがまだまだ足りない、今のままでは『また守れない』な」
その言葉に一夏ははっと顔を上げてマサキの目を鋭く見つめる。
「今程度の力ではまたお前の手から零れ落ちるぞ?それでいいわけではあるまい」
「…そうです、守りたいんです!もう無くしたくないです!」
マサキの言葉にはっきりと返す一夏の目は真摯なもので、かつて自分のせいでモンド・グロッソの試合を放棄した姉の千冬、引っ越していった幼馴染の箒や鈴などを思い出すたびに何度も『みんなを守れる力が欲しい』と願いつつ、できることを見つけてはひたむきに打ち込んでいた昔の渇望に近いほどの願いがいまだ一夏が胸中に深く渇望していると知ったマサキは笑みを浮かべて一夏に告げる。
「ならばお前は幸運だ一夏よ、今のお前にはその白式があるのだ。それを上手く扱えるようになればお前の願いの助けになり、そうして強くなれば今よりも守れるものは増えることだろう。どうだ、強くなりたいか?力が欲しいか?」
ほとんど息も切らさず語るマサキの言葉は一夏の心に深く沈みこみ、一夏はマサキの言葉を否定することはできなかった。
「はい、力が欲しいです」
「ならば、そのための方法を俺が教えてやろう」
一夏はマサキの差し出した手をとることを決めた。その先に待つものは未だ誰にもわからないことであろう。
あるいは木原マサキを除いては、かもしれないが。
次回『激闘、白式対甲龍』
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