第九話『激闘、白式対甲龍』
鳳鈴音は激怒していた。必ずやあの朴念仁織斑一夏を落としてやると心に誓った。
IS学園にたどり着いて暫くして学園生徒としての身分を取得した鈴は、己の所属することになった1-2において持ち前の明るさとIS乗りの腕前からクラス代表の任を勝ち取る事に成功していた。
その際の情報収集により隣の1-1のクラス代表が己の思い人である織斑一夏と知った鈴は、早速に一夏と接触をとると一夏は鈴のことをよく覚えてくれており、そのことは嬉しく思ったが中学のころと同じように女を、それも美女3名を侍らせていた。よくよく見ればそのうちの一人は別の幼馴染である木原葎であることが判り多少安心たが、残る二人であるところの篠ノ之箒とセシリア・オルコットは明らかに一夏に好意を持っているのが見て取れた。
やはり一夏はもてる、その上で本人にその自覚がなく相手の好意に気がつかないところは中学から変わっていないが外見は子供っぽさが薄くなり、りりしさは大分増していてさらに鈴の好みの男になっていた。もはや一刻の猶予もなく一夏を己のものにせんとした鈴は、数日後に一夏を己の部屋に引っ張り込み(ルームメイトには根回し済み)引越し前の約束を思い出させてようと試みた。
が、一夏はその約束を覚えておらずにただ『なんか酢豚ご馳走してくれるんだろ?』と朗らかに宣言されたのだ。
鈴が思わず幼少から習い覚えた拳法で一夏の水月に腰の入った突きを入れてしまったのも無理はなかった。
織斑一夏が女子渾身の告白を無碍にした朴念仁ぶりを何度か目撃もして知っていたとはいえ、この様ではいつ自分の恋心がこの朴念仁に通じるかはまったくの予想が立たなかった。ならばと鈴は次の策、クラス対抗戦を利用して一夏との間に『クラス対抗戦で勝ったほうが負けたほうに一つだ命令して実行させる』という約束を取り付ける事に成功した。一夏の思考パターンを熟知する鈴には比較的にたやすいことであり、万が一負けたとしても一夏の言うことならばなんであれやってあげようという心積もりの鈴にまったくの損がない取り決めである。
「じゃ、それまで敵同士だから」
そう言い放つと鈴は返事を待たず一夏を部屋から追い出し、勝利したときの命令を考えてにやついては戻ってきたルームメイトを震え上がらせたのであった。
時はたち五月のなかばにIS学園で行われたクラス対抗戦は学年ごとに別々のISアリーナを貸しきって開催された。アリーナの観客席は自身のクラスを応援する生徒たちや、各国から視察に来た政府や企業関係者に招待されたゲストなどでなかなかの盛況振りである。
「しかし、総当り戦とはなかなかに大変だな」
「クラス代表者の皆さんには連続した試合をおこなうことで錬度と集中力を上げて頂き、他のクラスメイトの皆さんはそれを見ることでISやHDの搭乗者がどのようなものであるかを学ぶためと山田先生はおっしゃってましたわね」
「でも、この様子じゃそれを理解してる人がどれだけいるんだろうね」
そう言葉を交わす箒、葎、セシリアの三人は周囲を見渡すに、ISに乗る生徒たちはほとんどが観客気分で友人同士でおしゃべりや試合をただの娯楽のように見ている風があり、対して少数のHDに乗る生徒たちは試合場がよく見える位置や教師に近い位置に陣取り、何も見逃さないように意識している緊張した感じを受けていた。
「HDに乗る方はずいぶんと緊張してますわね」
「まあ、僕らHD乗りにとってはISをどう攻略するか、は命題みたいなものだしね。少しでも実際に稼動して戦闘している情報は欲しいところだよ。」
「一夏や私たちと訓練できたお前とは違って、かな葎?」
「そうだね、とはいえ一夏がどれだけ戦えるかは気になるから見逃せないけどね」
その会話も試合開始のアナウンスとともに終わらせると三人は試合場へと意識を向ける。
最初の試合は一組対二組、一夏のIS白式と鈴のIS甲龍であるためであった。
『じゃ一夏、この鈴ちゃんが胸を貸してあげるから思いっきりきなさいよ』
『貸せる胸なんてあったか?…あ』
『よし、9割殺しで勘弁してあげるわ』
『それほぼ死んでるじゃん!』
若干気の抜けた会話を交わした両者は試合開始の合図と共に地表を走り互いへと切りかかる。
白式のそれは零落白夜の発動していない日本刀形態の一刀、甲龍のそれは肉厚の青龍刀形態の二刀で相手のシールドエネルギーをそぎ落とすのが目的であるがお互いにそうはさせじと、手にした獲物で相手の攻撃をあるいは防ぎあるいはいなしたりとの阻害を忘れない。代表候補生であった鈴の攻撃は苛烈であり二刀を巧みに操り攻めかかるが、一夏もそれによく追いつき大きくシールドにダメージを受けることなく逆に時折鋭い攻撃を浴びせて鈴を驚かせる。
『何だ、思ったより強いわね、一夏!』
『ここ最近はずっとこれを動かしてたからな、これくらいは!』
甲龍が二刀で白式を挟み込もうとする動きに一夏は即座に反応し、その足で甲龍の刀を持つ手を蹴り上げ体勢を崩させてるとそのままその場から飛翔して間合いを開ける。もとより備わった運動能力があるにせよ、なかなかの動きに鈴はわずかにあった手心を無用と判断する。鈴は甲龍を飛翔させ白式との距離をさらにとった位置に着地した。
甲龍がその場で構えたのを見て取った一夏は白式を進ませようとしたが、遠目にもわかるにやりとした鈴の顔を見て動きを止める。鈴が人を驚かせるときにするその表情にいやな予感がしたためだが、その予感は的中した。
突如、白式に衝撃が走り後方へと吹き飛ばされた。地表を転がされかろうじてその勢いを利用して立ちあがるもシールドエネルギーがかなりの減少。方向とタイミングからして甲龍からの攻撃に間違いないだろうとふんだ一夏は厄介さを感じつつも今まで使わなかった武器を使用させたという事実に己の力がそれを引き出したと考え、自分の実力が幾分でも上がったのだという喜びも沸いていた。
ならばこちらも訓練の成果を見せなきゃな。
一夏は心の中でそうつぶやくと見えなかった攻撃を見切るべく白式で甲龍の周囲を旋回し、時おり攻撃に移る動作を見せるなどして甲龍からの攻撃を誘う。その結果数度の同じような衝撃が白式を襲うも事前に身構えていたおかげか幾分かの情報は得られたが代償にシールドエネルギーは残りがかなり少なくなってしまった。
だが、情報という報酬は充分。後はこれを元に勝利を掴むだけだと一夏は心を奮い立たせるのであった。
次回『再臨、ゼオライマー』
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