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アゴニスト異常症。通称悪魔憑きと呼ばれる病気がある。
その発病原因は不明、治療も不能。精神病の一つとされ、患者の精神を狂わせ肉体を異形へと変貌せしめる奇病。
だが、その仕組みだけは既に解明されていた。
受容体、レセプタと呼ばれる
人体は脳の命令で動くが、レセプタはその結果を脳に刻み込む機能である。
あらゆる行動、事象の結果。
人間とは、常に新しい感情を生み出している生命体。ほら、痛かったり、怖かったり、嬉しかったり。感情という物は、我々に常に付き纏う。
レセプタは細胞の分裂や増殖といった人体の運営から、更に高次の生命活動、感情にも作用する。言うなれば、人間を
彼らは、この脳の受容体に異常が生じた人間の俗称なのだ。
とある
“人間は微弱な電気で動いているし、感情は化学変化に過ぎない。となると、強い感情になればなるほど電流は強くなると思わない?
デジタルのようでいてアナログ・・・いや、
深い絶望、切り刻むような慟哭で、本当に体内に稲妻を走らせているんだから”
悪魔がウイルス。だとすれば、宿主の感情によって成長する。
極端な感情、負の鬱積が
本来、受容体と結合する事で脳に情報を伝える情報伝達物質。悪魔憑きにかかった者は、強い
その在り方から、この奇病はアゴニスト異常症と呼ばれる。
アゴニストとは受容体を刺激する化学物質で、時に神経毒のように致命的な働きをする作用毒である。本来無害である筈の神経伝達物質が、異常分泌を起こすことにより、アゴニストの如き毒となり受容体に壊滅的な衝撃を与え、人体機能、在り方、それらを根こそぎ歪ませてしまう。
その毒の放出元は感情。受容体は自らを苦しめる原因、感情を鎮静させるため原因解決のための新しい機能、“苦しい”という原因を解決するための新しいを機能を、人体に作り上げるのだ。
これが、アゴニスト異常症。脳細胞の機能、神経伝達物質の制御が暴走した事による、精神障害の一例である。
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あぁ。視界が朦朧とする。
なんで、かな。頭は頗る回るのに身体が動くことを許さない。ただただ身体を蝕む痛覚。首を動かす事も儘ならない程の痛み。だから、見渡して確認出来ぬ以上、どんな状況かはよくわからなかった。
ただ、この天井は見覚えがあった。いや、ありすぎた。私の家だ。ここは私の家だ。
あぁ、思い出した。出来ることなら、思い出したくは無かった。このまま、ずっと眠り続けていれば、楽に死ねたかな。
部屋の隅で震える母親。そこにやって来て、髪を掴み平手で頬を叩く父親。1回、2回、3回、4回、5回と、血が出るまで叩き続ける。掴んでいた髪の毛を離すと、倒れ込んだ母親を3度踏みつける。
苦痛に顔を歪ます女性。それは、真実私の母親である人間で、それに暴行を加えるのも、私の父親だ。母親がビクビクと、身体を震わせ声もあげなくなる。それを見て、つまらなそうに唇を釣り上げる。あぁ、次は私だ。そんな、未来を確定させた。
だってわかってる。わかってるんだ。このまま6分間、私はこの男に有りと有らゆる暴行を受ける。
そう、この未来は確定事項。
私が、私を守もるために手に入れた未来。
―――それでも、私は何も出来なかった。私は、臆病者だった。私自ら手を汚すことはしなかった。私は、汚れることを嫌った。私は、私が汚れる未来を拒んだ。だって死んでもいい。だって、もう生きてても楽しくない。だけど、自身が汚れたまま死ぬのは嫌だった。だから、殺されるなら殺されるで構わない。
でも、それも今日で終わり。私が見たのは私が死ぬ未来では無い。
汚れることを拒んだ私は、結局、誰かに縋ることしか出来ないのだ。
暴行を加える男の背後。手に刃物を携えた、母親の影が――――。