鬼子 未来吟詠   作:なんばノア

4 / 5
2/

 

私には未来がわかる。

いや、比喩でも何でもなく、事実。

私には先の世界(、、、、)。つまり、“未来”を予見する力があるのだ。

 

「先なんて物は考えれば誰でもわかる」

 

その通りだ。未来には無限の可能性が秘められている。だから、様々な予測、考えが反映される。故に、考えれば誰にでも未来はわかる。だって、無限の可能性が渦巻く中、的確な未来を予見する生命体など居ないのだから。

これは(コンピューター)の問題。いくら人間の脳が他の生物を凌駕しここまで発展してきた生物だとしても、無限に有り得る可能性全ての演算など不可能なのだ。

故に、こんな所業を可能とする生物は、もはや人間ではない。悪魔―――人間という枠組みから外れた(、、、、、、、、、、、、、)人間。

とある数学者が、この超越的存在に名前をつけたという。

 

Laplace's demon.

 ラプラスの悪魔―――と、

 

 

 

 

 

 

 

 

「寒いねー」

 

「寒いのになんでこんな所へ来てるんですか」

 

「そりゃあ君、年末年始の戦争だよ」

 

そう、現在我々は戦争の帰路。それも敗戦。

 

「いやいや。福山(ここ)での年末年始戦争は初めてだが・・・全く、すっかり舐めきっていたよ。福山市民の人口と、その実力をね」

 

1月4日、年明け。午後1時過ぎ。

各スーパー、雑貨屋等の年末年始バーゲンセールも今日まで。とくれば当然、最終日の最後の最後の恩恵にあずかろうとするのは当然だ。

そう考え、駅前の商業施設を渡り歩くこと2分、あまりにも悲惨な現実を思い知った。

予想していた特売品はその在庫を切らし、もはや家電製品くらいしか割引商品が残っていないではないか。

 

うん、家電製品か。要らないな。

 

即決出来る。古くなっていたオーブンレンジも、先月のテオさんの一件で買い換えたからだ。

結局、買えたのはパスタ2袋とトイレットペーパー、それと冷凍食品を少しだった。

そして、別の店へと移動している最中。見知った人物と出くわしたのだった。

蒼崎橙子。見ると、手には空のエコバッグ。眼鏡を掛けている状態ですら、容易に伺い知れる程の明らかに不機嫌な表情。眉間にシワを寄せ、唇を尖らせてコートのポケットに片方だけ手を突っ込んでいる。

そして私を見るなりその風貌から状況を察し、ヘラヘラと笑い出したではないか。

 

あの、すみません。ご自身の状況をご存知でしょうか。私以上の大惨敗ぶりですよ・・・橙子さん。

 

「去年はもう少しだけマシでしたよ。多分今年だけなんで、安心して下さい」

 

「そうね。この街の人間は、みんな図太いわ。

三吉、奈良津、南陽台の集団失踪事件(、、、、、、)から半月でこれだもの」

 

 

あぁ・・・、アレか。

半月ほど前。この福山市に、とある怪物が通りかかった。

そう、それはただ通りかかっただけ。通りがかりに、人間を数百人■■して行った怪物。

被害地区は三吉、奈良津、南陽台の3つ。特に三吉の被害は甚大で、町の住人の7割は消息不明(、、、、)となり、現在も行方が掴めていない。

 

これは世間に公表されてはいないが、その被害現場はまさに地獄そのもの。一面の血の海に人間の四肢。まるで、獰猛な獣か何かに(、、、、、、、、)襲われたのではと思えるほどに、無造作且つバラバラに死体を放置してあったという。

 

この謎の集団失踪事件は教会によってなんとか隠蔽されたが、橙子さんが仕掛けていた術式の起動により、南陽台の住宅は酷い有様。

特に、彼女の家の内装などはもはや跡形もない。派手に破壊されており、西谷も凄く怒っていた。

 

私はその怪物を見たことすら無いのだが、ブラハムはその正体を知っているようだった。

なんでも、何処かの皇帝のような名前だった。―――まぁ、もう関係の無い事だろう。

 

 

「―――いや、それはこの街の人間だけに言えることでは無いな」

 

「え?」

 

気が付けば、橙子さんの眼鏡が外れていた。

 

「人間の本質だよ。わかりやすく言えば、性根のような物だ。彼らはあの事件を忘れた訳でも乗り越えた訳でもない。彼らはあの事件にね、初めから興味が無いんだ(、、、、、、、、、、、)

 

「―――な、」

 

それは有り得ないだろう。だって、人があんなに消えているんだ。その現象に恐怖するのは当然の原理。人間は、そこまで不感症な生き物では無いだろう。

 

「有り得ない、と言った顔だね。それでは言い方を変えよう。人間というのはね、他と言うものに無頓着な生物だ。

他人の結果などどうでもいい、自身の結果さえ判ればどうでもいい。判るかい?人間はね、同時に違う事柄を思考出来ないのさ。同時に異なる事を考えられない。それは、思考を単一とするに同意義だ。二つの事を同時に考えられない。つまり、思考すべき事柄に優先順位をつけなければならない。そして、その第一優先になるのは間違いなく自己だろうね」

 

「でも、同時にたくさんの事を考えられる人だっています。聖徳太子がそうだったとかなんとか・・・」

 

「聖徳太子ぃ?そもそも存在自体が不確証ではないか。―――でもまぁ、確かに例外はいる。アトラスの錬金術師なんかがそうだ。だがね、彼らの最優先事項は魔術の研究成果のソレなんだ。自身の研究の成果、故に自己のための思考回路」

 

アトラス・・・なんか聞いたことのない単語だなぁ。錬金術って中世の魔術みたいなイメージだ。アレでしょ?石から金を作り出す、みたいな。そんな人達が聖徳太子と同じ事が出来るなんて、正直驚きだ。

 

「他人に気をかける時。それは、必ずどこかで自己が絡んでくる。君は学生だから、こう例えよう。Aさんのテストが気になる。それは何故だ?―――答えはね、自身の点数と比較したいからだ。

Aのテストが赤点だとして、君に哀れみは生まれるか?生まれないだろう。純粋に、勉強が足りなかったAが悪いのだから。そこに哀れみや同情を述べる(やから)がいるなら、ソイツは詭弁だ。自身の比較を悟られないがための、罪を覆い隠すための詭弁。

これは、人間の悪性でもある。

自己の為なら、他を犠牲に出来る。

自己を守るための強さと、他を貶めるが故の弱さ。強弱では矛盾関係だが、善と悪に捉えると、矛盾であり連結なんだよ」

 

「へぇ、つまりそれは人間の本質だから別に悪いことではないと・・・―――あっ」

 

橙子さんは1度話し始めると話が長い。魔術師とか、そっち方面の話がわかる人間ならわかるのだろうが、あいにく私は一般人。何の話かもさっぱりなのだ。

だから、話が長くなるとどうしても別の話題を探してしまうのだ。

そして見つけた。通行人の少女が財布を落とすのを。

 

「あ、おい香桜――」

 

「ちょっと行ってきます!」

 

橙子さんの制止を振り切り、落ちた財布を拾って持ち主の少女へと向かう。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。