DDG-191ふぶきの物語   作:シン・アルビレオ

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緊急事態宣言が解除されたとはいえ慢心はダメ、絶対!

コロナ収束したらカレー機関やリアイベ行きたいネ



18話 演習終了ス

 数十分前に這う這うの体で情報を伝えに来た2機の烈風改が戻ってきたのを見て、瑞鶴は第一攻撃隊が壊滅したと初めて分かり青ざめた。

「嘘でしょ…」

ショックをうけつつも着艦しやすいように飛行甲板を水平に動かし、烈風改が着艦すると同時にダメコン作業を終えた妖精さん等が次々と集まってきた。

烈風改から降りた妖精さんらは声を震えながら報告する。

 

ーいきなり味方の航空機が爆ぜた。

 

ー百発百中で当たり、回避してもあり得ない速度と機動で追いかけてくる噴進弾。

 

ー運よくあれを切り抜けても、今度は主砲でハエ叩きの如し撃ち落されていく。

 

その証言は瑞鶴にも伝えられ、至急対策を練らなければならなかった。

レシプロ機よりも高機動で速い噴進弾から逃れる術はどう考えても無理難題である。

『ならその噴進弾を消費させていけばいいのでは。ただし特攻するのではなく瑞鶴の高角砲を使ってやつの対空兵器を少しでも消費させよう』

「えっ砲撃するの私が?!」

確かに12.7cm高角砲は対空用だけでなく対水上戦闘でも使える万能砲でもあるが、空母が高角砲で砲撃戦するなんて思ってもおらず瑞鶴は不安そうな顔を浮かべる。

その理由は対水上戦闘の訓練なんてあまりしないためだ。

勿論味方が大破しまくって、艦載機も全滅し空母1人になってしまう場合も想定しなければならないが、そのような訓練は年に数回あるくらいだ。

史実では赤城が多段式空母のころ、万が一のため主砲を積んだ歴史があるが、無用の長物になってしまった経歴がある。

『なるほど、補給艦もいないし魔法でも使わない限り弾を補給することは不可能だな』

『あと密集陣形をとらずに、各自距離を開けて超低空で飛行したほうがいいな』等々と妖精さんらが案を出していく。

出た案を瑞鶴が最終的にまとめると以下のようになった。

 

・被弾時で主機まで損害が及んだフリをしてゆっくり漂流っぽく接近する

 

・おおよそ10kmまで近づいたら発艦開始し、全て発艦したら高角砲による攻撃を始める

 

・なお攻撃隊は海面ギリギリを飛び、密集は厳禁とする

 

『後はないな? よし、一矢報いてやろうじゃないか』

『そういやアメリカの妖精さんはこういう時なんていうか知ってるかい』

皆ニヤリと笑い、声を揃えて言う。

『撤退クソくらえ!』

士気は最高潮に達しそれぞれの機体へと乗り込んでいった。

 

 

 対艦ミサイルによる攻撃で、二次攻撃のため甲板に並べてあった16機は爆風などにより使い物にならなくなってしまったが、格納庫にあったものはなんとか無事だった。

とっさに右腕でかばったがもし反応できずそのまま飛行甲板に直撃していたら、装甲を施しているとはいえ大破は確実だったに違いない。

瑞鶴は幸運の女神に感謝した。数少ながらも艦載機は無事で彼女を屠れるチャンスがあることに。

右腕は応急手当で随分マシになったが痛みが完全に消えたわけではない。

握力はまだ弱弱しく、弓を引くたびに激痛が走るが千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかないと鼓舞し、無事だった攻撃隊20機と爆装を終えた2機の烈風改を全て発艦させた。

「頼んだわよ…しかしほんとに小さく映ってるわね。ステルスって眉唾物だと思ったけどすごいなぁ」

けど、と一呼吸おいて瑞鶴は不敵な笑みを浮かべる。

「いくら小さくしてもそこにいることは分かるし、ゼロにすることは難しそうね」

しばらくゆっくり進んでいると高度をとった烈風改から情報が入り、左舷側の12.7cm連装高角砲4基が砲上下角度を調節し空を見上げる。

「まさか空母がこんなことするとは思ってもないでしょふぶきさん!左舷、砲撃戦用意!」

撃てぇ!とやけくそ気味な号令と共に12.7cm高角砲が1門ずつ間隔を開けて火を噴いた。

 

 

 『隊長、瑞鶴から発砲確認!』

爆戦の後部に座っている妖精さんが確認し隊長妖精さんに伝えた。

『了解。あの陽動が少しでも対空兵器を消費してくれれば、突撃できる確率はあがるぞ!それまで各自海面におさらばしないよう計器を見つつ外にもしっかり目も向けれ!』

僚機に無線で呼びかけると次々と威勢のいい声で返事が返ってくる。

『無線が使えるようになったのはほんとありがたいです』

瑞鶴の姿はもう米粒のようにしか見えなくなっている。

『それだけでなく瑞鶴の電探も復旧した。吹雪に感謝だが、なかなか向こうはエグイ手を使ってくる』

『今思えば銀箔も作ればよかったですね』

史実の第四次、第六次ブーケンビル島沖航空戦で夜間戦闘機が敵艦船に銀箔や電波反射紙を散布し一定の効果が見られたことがある。

『うむ…次回彼女と演習するときまで明石に頼んで持っていけるように上申しよう。さてそろそろ弾着するころだな』

隊長妖精さんは太ももに取り付けた軍用航空時計をチラリと見た。本来手首に巻いて使用するものだが、操縦するときに邪魔になってしまうため太ももに装着している。

カチッ、カチッと無機質に時が刻まれていくにつれ呼吸や心音が上がり無意識に操縦桿を握りしめていた。

 

 

 瑞鶴が発艦させた艦載機は22個の光点となってレーダー上に映っていた。

一矢向こうという殺気がディスプレイコンタクト上でもビシビシと伝わってくる。

「嘘っ…対艦ミサイルを食らい中破判定でも発艦できるとは…!」

エンタープライズもびっくり仰天するダメコン能力に、称賛と後悔が混じった声で攻撃隊が来るであろう方角に目を向ける。

ふぶきは飛行甲板に直撃したと思い込んでいたが、瑞鶴が右腕をとっさに差し出し飛行甲板を守ったことを知らない。いや、知ることはできなかった。

ヘリは1機しかおらず、あの時まだ敵戦闘機が戻る最中であった。勿論撃墜できたはずだが、攻撃意思がない戦闘機を墜とすのは人道的にみても悪手だと判断した。

(第一次攻撃隊を殲滅し戦闘機の戦意を失ったことは戦術的にみれば勝ちだけど、実際戦意は失ってなく戦闘機が情報を持ち帰り対抗策が生み出され、第二次攻撃を許したことは戦略的敗北に近いか…)

それに潜水艦もうろついていたのでそちらを優先するしかなかった。いくつの時代になっても異能な特性を持つ潜水艦は厄介しかない。

(反省会は置いといて、まずヘリをどうにかしないと!)

幸いヘリは2.5km先にいたので大した時間は掛からないが、問題はヘリが前方にいる間対空兵器はどうするかだ。

IFF(敵味方識別装置)があるとはいえ、対空兵器がヘリに誤爆してしまう可能性もゼロではない。

しかし誤爆を恐れなにもしない場合、距離を詰められたら対処は難しくなってしまう。

ならば着艦させないでもっと後ろに下げておく手もあるが、艦載機に見つかってしまえばあっという間に喰われてしまうことは容易に想像できるのでこれは却下だ。

最短距離かそれとも迂回させるか。ふぶきは妖精さんらとも協議し数秒間悩んだ末、インカムのスイッチを無線用に切り替えた。

「こちらふぶき。マイヅル、高度は50mを維持しつつ最短距離で帰投せよ。オーバー」

『こちらマイヅル、了。向かってきている航空機はどうするのか?オーバー』

「それについてはまず両翼を叩いて数を減らす。マイヅルが私の後方に来たら前セルと主砲で殲滅する。その他質問はないかオーバー」

『了。質問はない。通信終わり』

「了。通信終わり」

 

通信が終わるとすぐインカムのスイッチを艦内放送用に切替え、号令をかける。

「第2戦速。対空戦闘及び対水上戦闘用意」

『第2戦速。対空戦闘及び対水上戦闘用意』

徐々に速度が上がっていくなかで航空機の脅威度が自動的に割り切られ、瑞鶴にも攻撃対象として識別された。

『SPYレーダー目標探知。目標群α、数5、290度から315度、距離、5.1マイル。目標群β、数5、320度から345度距離4.9マイル。目標群C、数5、10度から45度、距離4.9マイル、目標群D、数5、距離5.1マイル、47度から70度。目標まっすぐ近づく。』

「ふむ、小隊は組まないで飛んでるね…まとまって行動するのは危険と判断したか。1機ずつ落とさないといけないのは面倒ね。はぁ…でもやるしかないわ。瑞鶴のほうはどう?」

『352度、6.2マイル。そして微速前進してますね』

「了。瑞鶴には5番、6番のSSMキャニスターを使用しましょう。面舵15度」

『おも~かじ15d…』

復唱し面舵を切ろうとした矢先、突如敵弾接近の警報がまたも鳴り響いた。

『んなっ?!て、敵弾は瑞鶴から発砲!8発来ます!!』

「ず、瑞鶴から?!」空母が砲撃戦をするのは全く頭に入っていなかった。

(高角砲を対艦用に…?できないことはないけどまさか空母が仕掛けてくるなんて!)

動揺したがすぐ頭を切替え指示を出す。

「くっ、第4戦速っ!着弾予想は?!」

『第4戦速!18秒後に3発分こちらに着弾しそうです!』

「了!マイヅル、着艦は中止!今はなるべく遠くに離れて!」

『こちらマイヅル、了!』

幸いヘリは500mまで近づいていたので、5秒ほどで護衛艦を横目に猛スピードで通り過ぎていく。

「よし、直ちにSAM及びSSM発射ァ!」

『砲弾及び近づく目標、SM-2攻撃始め!』

『SSM5番から6番発射ッ!!』

VLSとキャニスターの蓋が次々と開かれ、まばゆいオレンジの炎とともに大量の白煙を打ち上げ花火のごとく空に吐き出していく。

SM-2にいたっては同時に誘導できるギリギリの量を発射したというのと、前方SPY-1に多少の穴が開いてしまっているためスタンダードミサイルの終末誘導に若干不安がある。

『敵砲弾のマークインターセプトまであと7秒!』

『敵航空隊は11秒でマークインターセプトします』

『瑞鶴への着弾は40秒!』

(上手くいってくれ)

ふぶきはレーダー上に映る様々な光点を祈るように見つつ、瑞鶴から離れるよう面舵のまま回頭していると、砲弾を全て撃墜した報告が入り、わだかまりが一つとれ息を大きく吐いた。

しかしSSMが着弾するまでまだ30秒ほどあり、毎分14/発の速度で撃てる12.7cm高角砲は雨のように降り注ごうとしていた。

「あと28秒…凌いでやる!」

 

 

 一方で瑞鶴航空隊の方では、例の追尾するやつが発射されたことを無線によって知らされた。

『ということはもう間もなく奴がくるんですね…』

視認できず第一次攻撃隊と同じように撃墜されるかもしれない…そのような重い空気がどの操縦室を包み込んでいた。

『撃墜は避けられないだろうな。俺や向こうだって同じだろう。だがな』

隊長は一呼吸置いて水平線に光を放つ物体をにらみつけながら叫ぶ。

『今じゃねぇんだよ!』

思い切り操縦し隊長機は急上昇していく。

密集していないためそれぞれのパイロットたちは思いのまま様々なブレイクを行うが、無情にも撃ち落される機体も続出した。

ここで瑞鶴らは初めて航空隊からの悲痛な叫びを無線機から聞き取ることができた。

『こりゃ第一攻撃隊が壊滅するわな!! ブレイク……くそっ無理だろこれ!』

『あれは速すぎる!! 振り切れな、うわあぁぁ!!』

『高角砲の攻撃はどうなってんだ!? 全然消耗してねぇぞこr』

『機関砲と機銃いくら撃っても当たらん! くそおおぉぉ!』

『被弾した!!コントロールが効かない……サ ヨ ナ ラ!』

『生き残った数は8機……半分以上も墜とされました!』

『安堵するなよ!また来るz……ってなんだあれ?』

『あれは……主砲弾っ?!』

『ブレイクする!……えっなんで海面g』

中には高機動回避の連続で空間識失調症を起こしてしまい、上昇していると思ったら実際は降下しており海面に叩きつけられた機体もいた。

 

 瑞鶴だけでなく、後方で大破判定となった4人も無線機から流れる阿鼻叫喚の出来事に青ざめていた。

「ねぇ摩耶、霧島……あんな芸当できる?」

北上が航空機が何もできずバッタバタ墜とされているであろう方角をにらみながら話しかける。

「無理に決まってんだろ。高角砲や機銃だと航空機をビビらせて精度を落としたり攻撃を阻止するのが目的だ。ふぶきのように攻撃される前に撃墜するのが防空の理想だけど……あれは異次元すぎる」

「えぇ、摩耶の言うとおりよ。私たち戦艦には三式弾という対空用の砲弾がありますが、あのような芸当は無理ですね」

摩耶は北上と同じ方角を見つめながら

「私はお役御免になるのかなぁ…」

誰にも気づかれない小声でぼそりとつぶやく。味方にしてみれば頼もし過ぎる戦力であると同時に、摩耶からしてみれば防空巡洋艦というアイデンティティが失われるかもしれないという不安が心中で渦巻いていた。

「ちっ、あったんない!しかも砲弾も撃ち落しているし半端なさすぎでしょ!?」

高角砲で支援しても、駆逐艦以上の機動性と摩耶以上の対空能力にイライラしてくる。

本当に対空兵器を消耗させてるのか疑問に思ってくる。無限に湧いてくるのではないかと錯覚するほどだ。

しかも航空隊も次々と撃墜されるわ、あの噴進弾はこちらに向かってきているわで焦りもある。

「着弾まであと22秒ほどか。まるで死刑宣告ね」

決して逃れられないことにため息をついた。噴進弾のスピードは桁外れに速く、対空砲で弾幕を張ってもほぼ無意味と化しているので着弾するまでの間彼女を妨害し続けることにした。

鶴が焼けようが翼がもがれようが、諦めるつもりは瑞鶴や航空隊にはない。

 

 

 『目標、残り5機、距離3.5マイル。なお戦闘機2機は左右に分かれ未だ高度にいる模様。距離3.6マイル』

「了。引き続き対空戦闘継続。まだ立ち向かうのか……」

ふぶきは迫る砲弾を難なく回避したり撃ち落しながら灰色の空を見上げた。演習が始まったころは晴れていたのにいつの間にか曇は低く垂れこめてきた。

もはや半数以上失ったはず。組織的な攻撃は不可能なのに引き返すそぶりは一切見られないことが恐ろしく感じた。

「くっ、兵装の残弾数は?」

『SM-2はまだ余裕ですが、調整破片弾は残り僅か。20mm機関砲は半分ほど消費しSeaRAMは残り18発です』

「そうなると戦闘機2機にはSAMを、攻撃隊には調整破片弾をお見舞いするか」

調整破片弾では戦闘機の高機動によって躱される可能性があり得るため、より速く耐Gに優れているSM-2を使用することにしたのだ。

『CIC指示の目標、主砲、うち~かた始め』

『近づく目標、SM-2攻撃始めっ』

撃て、と命令しようとした矢先、見てはいけないものを見てしまい冷や汗がぶわっと噴き出た。

 

「なんでっ…なんで立ち上がれるの?!」

目の前の出来事に理解できなかった。

彼女は亡霊のようにふらふらと立ち上がり、焦点の合わない目で私を探しているようだ。

直後、ホラー映画のようにぐるりとこちらににらみつけて

(見 つ け た ♪)

直接脳内に声を吹き込まれたような錯覚をうけ、眩暈を感じ息が苦しくなる。

酸素を取り入れようと過呼吸気味になってくる。

(どうするどうする??考えろ落ち着け。SSMの着弾はあと15秒。吹雪はどうする?通常弾に戻す手間は1秒も惜しいから調整破片弾でなんとかするしかない。SAMは航空機に全部振って、へリにはまだ一発分のヘルファイアがあったからすぐ要請しないと。着艦させなくてよかった…)

なんとか対抗策を考えたもの、怖れからか声がかすれてうまく命令が出せない。

そうこうしているうちに亡霊のような立ち上がりと打って変わり、彼女は獣のように一気に距離をつめながら折れ曲がってない砲身を使い射撃してきた。

(うそでしょ?!)

今日まで一体いくつほどの想定外を体験したのだろうか。主砲で撃ってくるだけだと思っていたが、まさか彼女が特攻してくるとは。

おまけに瑞鶴の高角砲弾、攻撃隊、戦闘機も襲い掛かってきている。

「第一狂ってる団ですかこれ?!くそっ、CIWS以外半自動モードに移行ッ!マイヅル、駆逐艦に対しヘルファイアの射撃を許可する!」

射撃許可が出されたヘリは素早く体勢を整えると、最後のヘルファイアを撃つ。

ふぶきも全手動モードとは比べ物にならない速度で次々とSAMや調整破片弾を発射し、脅威の目標に対し一直線に向かっていった。

 

 

 『隊長! 吹雪が立ちあがって砲撃しながら突撃しています!』

僚機から無線が入り目を凝らすと、敵艦だけでなく先ほどまでなかった人影を確認できた。

『吹雪も最後の力を振り絞って行ってるんだ! 俺たちも後に続くz…くそっまた来やがった!』

『奴の噴進弾は一体どれだけあるんだ?!』

地平線にはうっすらと上る白煙がいくつも見える。忌々しい花火が打ち上げられたことに絶望していた。

『それと吹雪にも別の噴出弾が!』

『止めを刺す気だな…』

吹雪の盾になろうと思ったがその噴出弾もかなり速く、重い爆弾や魚雷を抱えている攻撃隊ではギリギリ間に合わない。

ここまでか、そう誰もが思った矢先風切り音が混ざった無線が聞こえてきた。

『なら俺が行きます!』

それは上空にいた烈風改からの無線であった。

『間に合うのか?!』

『間に合わせる! 3番機ついてこいっ!!』

2機の烈風改が雲の切れ目から空中分解しないギリギリの速度と角度で急降下し始める。そのためとんでもないGが体にかかっているため歯にヒビが入るんじゃないかと思うくらい嚙みしめているが、そうでもしないとあっという間に気を失ってしまうからだ。

雲を抜けると薄暗い海面がやっと見え、ブラックアウトになりそうなのを耐えながら吹雪と噴進弾との距離を目視で測る。

(噴進弾が海面ギリギリにいる)

このままでは海と幸せなキスをしてしまうだろう。体当たりで止めてやると思った直後、噴進弾が生き物のように上昇してきた。

予想外の動きに驚くがチャンスと捉えトリガに指をかけ、目一杯押していくと30mm機銃が待ってましたといわんばかりに吠える。

しかし速度差があるためなかなか弾が当たらず、墳進弾の速度も先ほどよりも速く感じる。

『くっ、隊長! 俺が体当たりします!』

『待て!止めr』

隊長が言い終わる前に3番機のパイロットは機体ごと噴出弾に体当たりを試み、爆散していった。

爆風が機体を大きく揺らし海面にキスしないよう必死に操縦しながら無線で毒づく。

『ああっ、くそっ! 3番機も散っていってしまった!』

『攻撃隊も俺だけだ……』

返答が帰ってきたのは攻撃隊隊長機だけで絶句した。わずか数十秒間の間4機が撃墜されたことに。

そして更に悪い無線が飛び込んできた。

 

瑞鶴被弾し大破、と。

『攻撃隊もほぼ全滅、瑞鶴までやられた…。こんなのってありかよ! マリアナの七面鳥落としを再現せんでもっ……』

敗北は決定的になり、ふぶきの姿は捉えているのにまるで千里のように遠く、戦闘機の隊長妖精は自暴自棄になりかける。

『全くだ…うん?』

これ以上は無理と判断し、互いに撤退しようと機体を傾けていた最中、爆戦の隊長は違和感を感じていた。もう撃ち落とされてもいいはずなのに瑞鶴の大破報告からここまでの間、一切の対空砲火が来ていないことに。

(まさかと思うが…向こうは勝った気でいて慢心しているのか?!ここまできてそんなことありえるのか?しかし、最後の千載一遇かもしれん。このチャンスを逃すわけにはいかねぇ!)

『おい!撤退は中止だ!神はまだ俺達を見捨てていない!』

『はぁっ?お前何言ってるんだよ…もう無理だろ』

『考えてみろ。既に俺達は今すぐ撃ち落とされてもいいはずなのにまだ生きている』

戦闘機隊長はハッとした顔になる。

『確かに…!罠という可能性もあり得るが行くしかねぇな!』

ここまで来て瑞鶴には後戻りも出来ない。せめてもの最後の悪あがきをしてやろうと戦闘機だけは灰色の雲に隠れた。

 

 「ふぅ…攻撃隊はほぼ壊滅できたか。残り2機は戻る素振り見せてるし、瑞鶴は大破。ヘルファイアが墜とされたのは予想外だけど、なんとか爆風と調整破片弾でで動けなくしたか」

圧勝まではいかないがなんとか勝ててホッと胸をなでおろした。

対空戦闘用具収めの号令とディスプレイコンタクトの機能をシャットダウンしようとしたが、この行動によって最大の隙が出来てしまった。

『んっ…?待てッ!先ほどの目標α、βがUターン!!距離2マイルきっています』

「えっええっ!?シャ、シャットダウン強制中止!!機関、取舵一杯!再起動までは…15秒?!」

海面には綺麗な弧とスクリューの泡が刻まれ、少しでも再起動までの時間を稼ごうと距離をとろうとする。

CICからの情報はディスプレイコンタクトにも映るため、シャットダウンしてしまえばそれらの情報は一切見れなくなる。たかがコンタクトだが戦闘が終わったらその辺に捨てるわけにはいかないのでそのような機能がある。

(最悪だ!なんて私はバカなんだ…いや詰めが甘いと言わざるを得ない。SM-2はもう間に合わない。なら調整破片弾で…あっ)

ここでさらに最悪のことに気が付いてしまった。

彼女との戦闘で自分は何をしたのかを。

(吹雪はどうする?通常弾に戻す手間は1秒も惜しいから調整破片弾でなんとかするしかない…)

その調整破片弾は吹雪に向かって全て撃ち尽くしていたことに。

「やられた…まさかあの子、あの程度で攻撃隊が引くわけないと信頼し、敢えてまた囮となって調整破片弾を消耗させようとしたのか」

通常弾なら避けられてしまう、対艦ミサイルはオーバーキル。ならば追いつめることができた調整破片弾という判断は間違いではない。実際撃ち尽くしたことで進撃は再度停止した。

しかしここまでくると、序盤でオーバーキルしてまでも予想以上の化物に止めを刺すべきだったと後悔した。

「あんな化物なんて初見殺しでしょ…けどいい教訓にはなったよ畜生っ」

再起動まであと5秒ほどであるが、ここまでの10秒間はとても長く感じた。悪態をつき、必死に之字運動しつつ最後の手札を切ろうとした。

 

 『やっと…やっとここまで来れた!』

『会いたかったぜぇヒャッハー!』

ここまで来るのに多大な犠牲を払い、散々苦汁をなめた相手が目の前にいることに歓喜を隠せなかった。

脳内にアドレナリンが大量に出され心拍数や体温が上昇してゆくのを感じながら、無線で二手に分かれる。

本当は砲のない後ろから突撃したかったが2機だけではすぐ対処されてしまう危惧があるため、戦闘機は雲の切れ目から突撃し主砲を引き付けつつ爆撃、爆戦は装備されたスキップボムを後方より投下していく作戦にした。

『よぉし、瑞鶴航空隊の威信にかけてお前を道連れにしてやるわぁ!!』

1500m上昇したのち、目標に向けて45度で急降下していく。

視界が雲から海面に切り替わると、低空で爆弾を投下しようとする爆戦と必死に回避機動をとる吹雪がいた。

奴の主砲はこちらに向けていないし、対空砲火も来ていない。

(チャンス!)

戦闘機隊長は高度600mまで降下したところで60kg爆弾2つとも投下しようとする。

爆戦もやや遅れて投下準備に入っている。同時攻撃しないのは万が一最初の攻撃が避けられても

次の攻撃で確実に当てるためだ。

艦娘とはいえどもプロペラと舵で推進や進行方向を得ているので急な動作は難しくなる。

(勝った!)

タイミングは完璧。二人ともそう確信し投下ボタンに指をかけた。

刹那、ふぶきの顔がにやりと笑った気が…いや笑っている?!

突如、二つの白い物体が意思を持った生き物のように高速でこちらに向けてきた。

驚愕よりもぞわり、と背筋が凍りついた。

操縦桿を動かすよりも、爆弾を落とすよりも先に矢と弾が放たれる。

至近距離で噴進弾を放たれた爆戦は回避できるはずもなく、大小の様々なジュラルミン破片と化し海に叩きつけられた。

戦闘機はアッという間に穴だらけになり、燃料タンクからは黒い液体が空に描かれていた。

ふぶきに到達する前に翼を失った戦闘機は、きりもみ状態になり徐々に海面に近づいていく。

『うそだろ……』

その間祭、隊長は薄れゆく意識の中で自分を撃ち落したものをはっきりと目に焼き付けた。

上部に白い円筒とガトリング砲がセットになっている対空機関砲。砲身からは硝煙がわずかに上り、射撃は終了しているはずなのに寸分狂わずこちらを睨み続けていることに恐怖を覚えた。

彼らを襲ったのはSeaRAMとファランクス。

近距離防空ミサイルと、20mm口径弾を毎分4500発の速度でぶっ放す近接防御火器システムである。

近年では対艦ミサイルの大型化や高速化で20mmでは射程・威力不足や弾切れになるのが早い、という声もありふぶきにはこれを積まずにSeaRAMに統一しようぜ!みたいな案もあった。

しかし、SeaRAMすらすり抜けたらその後どうすんの?

あと小型ボートなどの自爆テロで127mm砲やSeaRAMだと過剰過ぎるよねという声もあり、結果として併用する形にした経緯がある。

 

 「勝った…の?」

未だ実感がわかなかったが直後に提督からの無線が耳に入ってきた。

『教導隊は全て行動不能、艦載機も全機撃墜。なお、ふぶきは損害無し。よって、判定はふぶきの勝利。これより演習を終了するので全艦は直ちに帰投せよ』

その無線を聞いてドッと疲れが出て、腰が抜けたようにへなへなと海面に座り込んだ。極度の緊張から解放された安堵と疲労が一気に押し寄せた。

「はあぁ~…怖かった。本当に勝ったんだ…。攻撃やめ、対空戦闘用具収め」

戦闘終了の宣言に艦内でも安堵の空気が流れる。

潮風とともに硝煙とガソリンの香りがツンと鼻に来る。

「…ってこうしている場合じゃない!パイロット妖精たちを救助しないと…見張り員増やして要救助者がいないか探して!」

後方に待機していたヘリを現場に急行させたり、複合型作業艇を降ろそうとしたがまた提督の無線が入ってきた。

『その点については大丈夫だ。演習の場合、パイロット妖精たちの損失は起こらずここに戻ってくるんだ』

なにその謎技術?!とツッコミたくなったが、そもそも艦が人になって海に浮いている時点で私がいた時代の常識では通用しないなぁ、と考えることをやめた。

救助しなくても問題ないとなると、ヘリを戻し慎重に着艦させていく。海の天気は気まぐれなので、いつ風や波が変わるか分からない。だからこそ神経をかなり使う作業でもあるが、無事に着艦を終え拘束装置も問題なく作動した。

 

 

 鎮守府へ進路を向けていると、大の字になって空を見上げている旗艦に遭遇した。

「はぁー…久しぶりに敗北を知ったよ。でも未来の私はこんなにも強いって誇らしいや」

吹雪の顔は血や煤だらけだが清々しい笑顔でダメージを感じさせない軽やかな動きで立ち上がった。

「えっ…大丈夫なのですか?」

あれだけヘルファイアや調整破片弾、更には対潜魚雷もぶち込んで体や服もボロボロなのに軽やかに動き、更には立派な胸部装甲に下着やら腹筋とか色々と見えていることに頬を赤らめて二度見した。

「いやー流石に爆風を起こす噴進弾はヤバかったけど、戦艦の砲弾とかに比べればマシなほうだよ。一発で身体のどこかが欠けたりえぐられたりするからね」

笑って済ましたことになんでこの子は五体満足なんだろうかとドン引きしてしまう。

「ま、これで私達のお墨付きは得たようなもんです。五大鎮守府や大本営もこの演習結果に驚くことでしょう。改めて、ようこそ幌筵鎮守府へ」

「こちらこそよろしくお願いします」

両者はガッチリと握手を交わし、道中で5人の艦娘と合流して和気あいあいしながら帰路に就いた。

 

 

 




感想や誤字脱字報告宜しくなのです。

次話は歓迎会の予定です。あまり展開が進んでいなくて申し訳ないm(_ _)m
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