ふぶきは明石に提督が在室している執務室へと案内されていた。
廊下は寒いからと明石さんが暖房着を羽織ってくれたのはありがたかった。実際廊下はすこし冷気が漂っていたからだ。
誰にも出会うことなく執務室の階にたどり着いた。
ここで一番偉い方がいると思うと緊張する。
私は入る前に服や髪が乱れてないかチェックしました。勿論明石さんにもチェックをお願いしました。
「大丈夫ですよそんなに固くならなくても。ここの提督は優しいですし。」明石は私の不安を払拭するかのようにニッコリと笑って背中をさすってくれた。
「いやぁ、だってここで一番偉い方ですよ?緊張がMAXですし心臓もバックバクですよ」
けど明石さんのおかげで緊張が大分和らぎました。
「あ、入室する前に一つ言っておくね。提督の他にもう一人いるんだけど、あの時天龍達が不思議がっていた理由が分かると思う。」
「まさか…」私はゴクッと唾を飲み込んだ。
「そうよ。その子は吹雪…奇しくも貴女と同じ名前に同じような風貌。これも何かの運命かしらね…。」
「でもなぜ事前に教えくれたんですか」
「だって万が一倒れたりしたら大変ですしね。それにできるだけ不安がないほうがいいでしょ。さ、入りましょう」
明石が執務室のドアをノックすると、中からどうぞ、と若い男性の声が聞こえた。
また緊張が襲ってきて足が少し震えながらも明石さんの後について執務室へと入室した。
「工作艦明石です。連絡通りふぶきさんを連れてきました。」ぴしりと敬礼しながら報告していった。
「ご苦労様。そして明石の横にいるのが…例の“ふぶき”かな?」
見た目は若かったので階級をちらりと確認した。少し離れていたためよく分からなかったが、恐らく海将補以上ー海外基準で言えば少将以上だろうと推測した。それが分かった瞬間思わず二度見してしまったが、気を取り直し自衛隊式の敬礼をした。
「はい。日本国 海上自衛隊 舞鶴基地 第三護衛隊群所属、旗艦のふぶきです。救護していただき感謝いたします。」
動作、作法、視線や姿勢どれをとっても非常に素晴らしく、凛々しいものであった。
その姿に少し圧倒された提督達だった。
(ここまで艦娘としての完成度が高いのは珍しい。レベルの高い教育が行き届いている証拠でもあるな。)
「当然のことをしただけですよ。自己紹介が遅れたが私が幌筵島泊地司令長官、鵠(くぐい)中将だ。そして…」
「初めまして吹雪です。宜しくお願いします。秘書官や提督代理も務めています。」
(あの子が吹雪…明石さんが言った通り私とそっくりだ。小さくてかわいらしいけど、幾つもの戦を経たようなオーラーが…数々の海外軍人の実戦経験者とは比べ物にならない…)
可愛らしさとは裏腹に力強くも静かな敬礼と、威厳を感じられ少し冷や汗搔いたが、落ち着いたところで吹雪たちが言ったことを頭の中で自問自答した。
(幌筵泊地、吹雪、そして明石、天龍、暁…ここまできたらもう偶然とは言えないのでは?壮大なドッキリとかだったらありがたいけど、その可能性は0だよね…やはりここは、私が生きていた日本ではないっぽい)
そうこうしている内に提督から話を切り出してきた。
「お互い自己紹介も済んだし、本題に入っていきたいのだが…すこし混乱しているみたいだが大丈夫かい?」
「えっ?あっはい大丈夫です」えぇ少しどころではないですね。滅茶苦茶に混乱してます。
「ならいいが、病み上がりだからそこのソファーに座って話そうか。立ちっぱなしは体に悪い。」
ここまで気を配っているとは意外だった。ありがたくソファーに座らせていただき、提督もソファーに座り向かい合う形となった。ふぶきの隣には明石さんも座った。
「さてと、どこから話せば…。まぁ私も君と同じように疑問が沢山あるはずだ。」
「えぇ…」ふぶきは一体どこから話せばいいか迷っていた。未来からやってきましたイージス艦です♪なんて言ったら頭大丈夫なのかとか色々と言われそうである。
「まぁここは単刀直入に聞こう。あ、答えたくないものがあったら無理して答えなくてもいいからね?」
「大丈夫です」その眼ははっきりとまっすぐ提督を見つめていた。
「そうか…では貴方は何者なのか、だね。まず君は海上自衛隊と名乗った。そのような組織は過去や現在も確認されていない。それに、身につけていた装備類は見たこともないものだ。書物をあさったりしたが該当はなかった。あの北方海域を一人で抜けたな…。」
「私はアメリカとの合同演習に向かう途中に災害に巻き込まれて目が覚めたら女の子になって島内に流れ着いて…そこで運よく救難信号出したらそちらの艦隊がキャッチして、なんか敵がうようよいるからできたら自力で脱出せよと言われ…なんとか合流できたんですよ。しかも艦船ではなく人ですよ…本当にここは日本国なんですか?」
吐き出すように一気に言ったので息を整えた。
するといいタイミングで給湯室から戻ってきた吹雪が温かい緑茶を三人に差しだしてきた。
私はありがたく飲んでいった。
「なるほどね…まずはここの世界の現状から話したほうがよさそうだな」
ーここは紛れもなく日本であるし太平洋戦争も起こった。しかし予想以上に泥沼化し、お互いに多大な被害を出しながらも講和条約は結ばれていったが生き残った艦は賠償艦として、日本に落とすはずだった原子爆弾の実験艦としてとある海域に集められたりとしたがほとんどであった。
その数年後、忽然と商船などが次々と行方不明となっていった。
暫くは原因不明だったが、生き残った船員からの証言などで恐ろしいものが浮かび上がってきた。
真っ黒い船、いやあれは船というべきなのか。それに襲われたと。
事態を重く見た各国は護衛つきでシーレーンを警備することになった。
しかし戦争はすでに終わり艦隊は少なくなったので、様々な国が集まって船団を組んでいくことになった。
が、被害はますます大きくなるばかりか護衛した船団も襲われ、中には壊滅されたのも出てきた。
勿論反撃はしたがまるで効果はなく打つ手はなかった。
生き残った艦によると、あの目撃証言と一致し、戦闘の様子の映像からも漆黒の船団だけではなく、人のようなものもいたそうだ。
その後も何回か謎の艦隊と戦闘を行っていったがどれも敗北であった。
いつかこの謎の艦隊は「深海棲艦」と呼ばれていった。深海魚のような不気味さや出現位置、どこからか姿を現す特徴から来たそうだ。
じわじわと真綿で首を絞められるかのようにシーレーンが破壊されて深海棲艦の勢力も広がっていき、それにともない沿岸部では対地攻撃もされた。人類はただただ滅亡のカウントダウンを見守るしかなった。
あのアメリカですら屈した奴らに勝てるわけがない…そんな絶望感が日本を覆っていた。
しかし神は見捨てなかった。
2013年4月下旬に相模湾に現れた深海棲艦がたった5人の人間ーいや艤装を身につけた人が襲ってきた深海棲艦を壊滅においこんだ。
後に彼女たちは“艦娘”と呼ばれ、人類の反撃は始まった。
私は唖然とした。私が今まで見ていた日本の歴史とここでは似ているようでほぼ違っていると。
「つまり艦娘とは元々艦船だったのが轟沈や解体などをした後に、艦魂が人の形となり我々の目の前に現れたとなっている」
「そうなるとわたしも艦娘…ということですか?」
「可能性としてはそうだろう。実際艦娘としての機能は似ているしね。あと今日の年月はわかるかな?」
予想外の質問でずっこけそうになったが記憶を頼りに答えていく
「2016年9月22…いや23日です」沈んだのが21日でそこから色々とあってここに曳航されたときは意識を失っていて丸一日寝込んでいたそうだ。
「あぁ、ここも2016年9月23日だよ。」
「…えっ」私はそれを理解するのに数秒のタイムラグを起こした。
「ちなみにカレンダーもみるといい」
私は慌てて壁にかかってあるカレンダーを目に通した。確か2016年9月と示されていた。
何度確認しても2016年だ。
しかしあの時の彼女たちの装備はどう見てもあの戦時中のだ。同じ2016年とは思えない。
これまで得た情報を冷静に処理していくと、ある一つのものに行きついた。
「並行世界ーパラレルワールド…自分の世界に似た別の世界ですかね」私は深いため息をついた。
「おそらくその仮説が一番正しいと思う…がそのような事例はどの鎮守府でも確認されてないはず…」
「そもそも並行世界は小説とかでの話だけだと思いましたが…」吹雪がやっと口を開いた。こんな事例は初めてなのか熱心に聞いていた。
「いや、物理学や量子学から見てもいくつもの並行世界は実在するという理論はあります。それに該当した可能性は捨てきれませんね…」
「なんかすごい難しいことになりましたね…」明石もぽかんとしている。
「私もよ。運よく私の世界に帰ってこのことを論文書いたらノーベル賞か、はたまたは変人扱いされるか…」
皆疲れたような顔をしている。そりゃそうだろうSFじみたことが起こってしまったのだから。
吹雪はまた給湯室へと向かいだした。お茶を入れてくるのかなと思ったがなにやらお菓子がいっぱい入った籠を持ってきたのだ。
「こういう時は甘いものでも食べてリラックスしましょう」
「流石。よく気が利くね」提督はチョコを、吹雪と明石はクッキーを手に取った。
「あの、私もいいんですか?」
「うん。それになにも食べてないでしょ?」確かにあの時からまったく口にしていない。私はありがたくお菓子を頂戴した。
「そうだな。ここで作ってもいいんだが」 モグモグ
「あっその前に私の艤装どうなっているか確認したいです。」 ボリッ
「そうね。あなたにも見てもらいたいし私だけじゃさっぱり」 パキッ
「それが終わったらお風呂にも案内したいです。さっぱりしたいでしょうし」 パリパリ
皆お菓子を食べながら今後どう段取りをとっていくか話合っていた。
「ところで、貴女の仲間はここにいるんですか?あの時は一人でしたが」吹雪がお菓子を頬張りながら問いかけた。
「はい、私が沈む前は三隻の護衛艦と一緒に演習へと向かっていたのですが最初に巻き込まれてしまったので分からないです。ただ、ここにも飛ばされた可能性はあります。けど、あの時無線で呼びかけてみましたが反応はなかったですね…」
「もしかしたらその無線が届かない場所か後になって飛ばされたか…まだ分からないけどあの海域付近は捜索する必要がありますね」明石が考え込むように唸った
「そうだな。突然本題に入ってすまないが…ふぶき、私達と一緒に戦ってくれないかね?」先ほど和気あいあいとお菓子を食べて話し合っていた人とは思えないほど強い意志が感じられた。
「…え”っ?なぜ私と…?」いきなりあのように真剣な声をかけられ動揺するのは当たり前だ。ふぶきは食べていたお菓子が喉につっかえそうになったほどだ。
「先ほど言ったように艦娘の台頭によって人類は持ち直した。不安定だったシーレーンも少しは安定してきた。しかしながら深海棲艦も学習という知能はあった。高性能になっていく装備、新しい戦術、見たことのない深海棲艦が次々と現れてきた。勿論こちらも傍観せず対抗しているが徐々に押され気味になってきている。」
「制海権等は確保しているけど、いつ崩壊するか分からない状況です。決壊寸前のダムのようにね…」吹雪はため息ついた。
それほどまでここの日本は追い詰められているのか。ふぶきは助けたいと思っているが、様々な壁が沢山あるのだ。仲間のこと、そして仮に私が戦ったとしても効くのか…色々と頭の中で回る。
「勿論、衣食住はしっかりと提供するし安全も第一に保障する。なにせここは日本で一番北にあるからそうそう本土とは気軽に往来は難しい。」
「まぁそれが逆にネックだったりするけど、ここには温泉も湧いているし結構いいとこだよ」
なるほど。確かにここは幌筵島といっていた。地図を思い浮かべると千島列島の北東部にあって、択捉島についで第二の広さを持っている。
好条件だが本当は母港である舞鶴に戻りたい。しかしここは別の世界。補給もどうなるかわからないこの世界でここから横須賀や舞鶴に戻るのは自殺行為に近い。仮に戻れたとしてもこの世界にはいない艦娘だ。こき使われるか研究対象となるか、はたまたは他国に引き渡されるか…最悪のケースも想定される。
そう考えた場合、ここで匿ってもらえるのはとてもありがたいし、なにせ私を助けてくれた。
日本を護るために、そして助けてくれたここの人達に恩返しをしたいのは山々であるが、戦場というのは理解できなかった。なにせ私がいた日本は70年間も戦争してないという点ではとても素晴らしいが、実戦はどうなんだとなると不安が残る。某国のミサイルや連日のスクランブル等、優位とはいえない状況になっているが言い訳はできない。今ある戦力で最大限に発揮できるよう技術を結晶させ、厳しい訓練をしている。
「まぁすぐに決めろとはいっていない。最終的な決定権は君にある、つまり君の意見を最も尊重するということだ。急かすようで悪いが2日間の間…つまり25日の日曜日までしっかりと考えてくれるかい?部屋も食事もすでに手配しているからそこの心配はしなくてもいいよ。」
これはありがたかった。話がわかりいい提督のようでふぶきはホッとした。
「分かりました。期限まで必ず結論は出します。暫くご迷惑をおかけしますが、それまではよろしくお願いいたします。」
ふぶきはソファーからゆっくりと立ち上がり最敬礼をした。
「うむ、まずはしっかり休養とってくれ」提督もソファーから立ち上がり敬礼で返した。
「さて、話もまとまったことだし工廠に移動して貴方の艤装の説明をしてもらいたいわ。」
「えっ明石さん。あれ繊細ですし精密機器が沢山あるから下手にいじらないで欲しかったんですが…」
精密機器だけでなく一部の方しか入れない場所もあるから不安になった。
「そこは大丈夫です。今回は本人の許可なしに艤装に手を加えないことになりました。今は警備が厳重な場所に保管してありますよ」それを聞いて私は安心した。
「あの艤装は私たちの世界では見たことがないもの。だから今回の件は秘匿性が高いと判断しその場所に保管することになったの」吹雪が補足してくれた。
ここまで手が回っていることに感心した。私の艤装はこの世界のパワーバランスを変えてしまうかもしれないだろう。味方にしてみれば非常に頼もしいものだが、敵に渡ってしまったらと思うと恐ろしい。
時刻は午後5時を過ぎた所でもう太陽は西に落ちかけている。
ふぶきは明石さんと一緒に工廠に向かうことになった。提督と吹雪はそのまま執務室に残って会議するそうだ。
二人が退室し扉が閉まると提督と吹雪はお互い顔を見合わせた。
「…うん。やはり瓜二つにしかみえなかった。」
「私がいうのもあれですけど鏡を見ているようで混乱しましたね」
(けど、彼女の方がよっぽど大人に見えました。表情といい姿勢といい立派でした。それに胸部装甲もなかなか…)
吹雪も他の駆逐艦よりはなかなかある(というか成長した)ほうだが、彼女の胸部装甲は重巡クラスはありそうだった。
「さて、どう上に報告しましょう?司令官…いえ鵠中将」秘書としての佇まいなのか、吹雪の雰囲気がピシッと変わった。
「このまま隠していてもいずればれるからな。勿論上には報告する」
「いつ頃に?」
「そうだね…まぁ彼女の動向次第になるが性能とかを計ってからになるかな」
「でも彼女が未来から来たのなら、それは危ない気がします。もしあの兵装が恐るべし力を秘めていたのなら、上層部は喉から手がでるほどほしい存在となるかもしれません。奪ってくる可能性も否定できません。」その点があるので吹雪は危惧していた。
「確かに上は欲しがるだろうね。勿論ここの警備は増強しておく。あきつ丸にも声をかけたし僕も見回りをする。それに上に報告するときはうまく交渉しておくさ」
「なるほど…」あきつ丸さんは元々陸軍から来たのでそういうのは得意そうだ。実際徒手などのレベルは高い。
「ただ司令官は交渉が苦手ですからそこだけ心配なんですよ」
図星だったようで提督はウグッ、と言葉に詰まった。
「まぁ念には念をいれて資料や質疑応答を想定しておきますから。恐らく艦娘は会議室には入れないレベルになるでしょうし。」
「さすが吹雪さん。とても助かるわ」提督は吹雪ちゃんの頭を優しく撫でていくと吹雪は嬉しそうに頬を緩めた。
「えへへ…♪あ、あとは青葉さんの対応ですね」
「それなんだよね。取材熱心なことは結構なんだが、あまりにも行き過ぎると情報漏れする可能性もあるからな。」
実際に吹雪との夜間演習(意味深)で暴露されかけたことが過去にあったためだ。なんとか交渉し鎮守府内には広まらなかったが、一歩遅かったらと思うと冷や汗ものだ。
「それで前日青葉さんをここに呼んだんですね」吹雪は昨日の出来事を思い出した。
「あぁ、彼女の取材はうちが許可してからとかの制限付きになったが、そのかわりスパイ等は躊躇なく報告してくれとね。勿論謝礼(間宮券)付きにしたら乗っかってくれた」
(なるほど。それにしても手が回るのが早いです。やはり司令官も警戒しているようですね)
「さてここから忙しくなるなぁ」提督はソファーから立ち上がり執務机の椅子へと座り、書類に目を向けてややげんなりした。
「そうですね。演習や上官との対応等色々入り込んできますからね…手伝いますね」吹雪もお仕事モードになり、青色のメガネをかけて司令官と仕事に取り掛かっていった。
あぁ、もうすぐ春休みが終わる…就活もある大学もあるうわあああああああぁぁ吹雪ちゃんにくぎゅうされて癒されたいいいいいぃぃ
そういうことなのでなかなか進まないですね(笑)
早く演習シーンとかやりたい…ジパングのアレを流しながら書くのだ。