その日。時計塔には長机に十三の席が設けられ、総勢十二人のロード達が腰をかけていた。
皆が皆しかめっ面だが、一際眉間に溝を作る長髪の男が十三番目の席にふてぶてしく座る彼に質問を投げる。
「つまり、あれか。君は聖杯戦争を主催すると言うのか」
長髪の男は重苦しく、先程に耳を疑った言葉を復唱する。
それに十三番目の彼はコクリと頷いた。
「イエスです、ロード・エルメロイ」
「二世だ。そんな事より、貴様は正気か? ふざけならば今すぐにでもやめた方がいい」
「ふざけならば、この場にロードが一斉に介するわけがないじゃないですか」
それもそうだと。押し黙るエルメロイ二世。
それを見終わると十三番目の彼は立ち上がり、ロード達を再度見渡した。
どのロードも顔から滲み出るのは古き色だけ。
昔の風習に縛られた老害共。
反吐がでそうになる。
「再び問います、ロードの方々。我々の提案には乗らないと?」
「当たり前だ」
それに食いつくのはマリスビリー・アニムスフィア。天文屋だ。
星だけしか見ない男は魔術世界の根本を語りだす。
「魔術は秘匿しなければならない。君の言うそれはその原則から大きく外れているではないか。人々に魔術を晒し、しかも魔術基盤は科学と融合していると言うではないか。そんな物に我々が首を縦に触れるか」
百点満点の答えだ。魔術師が思う、今この場で思わない奴は十三番目の彼を除いて居るはずがない程に魔術師の大衆的な考え。
「なるほど…古いお考えで」
吐き気を噛み潰しながら、相づちを打つ。
それをマリスビリーは気にもせず、口を閉じた。
本当に気分が悪い。
これだから過去に拘る老害共は。
「では、私はここでお暇させていただきますよ。これ以上話してもどうやら協力は無理なようだ」
「……まて。クリス・エイジャ」
名前を呼ばれた。
読んだのはまたまたロード・エルメロイ。
この中では一番、彼に理解がある人物だからか、他のロードがあざ笑う中、彼の身が深刻そうにしている。
「魔術とは……神秘とは古ければるいほどに良いとされている。それをわかっているのか?」
「もちろん。古き神代の時代から脈々と通じる常識です」
それは魔術師にとって当たり前の事。
古ければ古いほど、神秘は強くなる。強い神秘は弱い神秘を打ち消す。それは道理。
浅ましく、愚かな、世界の理。
本当に、本当に腹立たしい。
「ならば…ならばなぜ?」
「…限界を見たのです」
「限界?」
「ええ。今の魔術では神秘など弱りに弱りきってます。知ってますよ? 魔術の秘匿、近年に連れて難しくなっているの」
現代。2017年において。
科学は多大な進歩をした。
スマートフォン。VR技術。インターネット環境。
全てに置いて過去よりは目移りしそうな程に。
それさえも知らずにいる魔術師が多いから、近年、時計塔は魔術の秘匿に頭を悩ませている。
スマートフォンなんかで動画をとられ、動画投稿サイトなどに乗せられたらアウト。
いくら消そうともインターネットの海は広大だ。
一度放たれた情報は深海にしずみ、人では到底届かない場所に至ってしまう。
少し気をつければ良いものを。
貴族主義とか時代遅れな物に縋るからだ。
バカ共が。
「それが…それがどうした。そんな事、こちら側も把握済みだ」
「ええ、でしょうね。だから駄目なんですよ。分かっているのに、理解していない。これがどれだけ深刻なのかを。だから、私は考えました」
するりと、ジャケットの内ポケットから切り札を取り出す。
それは長方形の、小さな彼の手には余る程に大きい、スマートフォン。
現代世界で、先進国で持たざる者は少ない物。
必要不可欠な物。
密かに手にそれを構える。
「いっそ、過去と現在を融合すれば良いと」
「……そうか。そういうことか。お前がしようとしている事は…だがそれは」
「ええ。今日まで気づき上げた魔術基盤を破壊するに等しいことです。ですが、だから何です? 再生は破壊からのみ。誕生は終わりからしか始まらない。今こそ、魔術が進化するときなんですよ」
さて、そろそろ引き際だ。
沈黙するロード達を背に、後ろのドアのノブに手をかける。
「まて。どこに行く」
「帰ります。言ったでしょ? これ以上、無価値なやり取りは些か疲れる」
「ほう…?ここから、逃げられると?」
どのロードが言ったか。
それを合図に各ロードが後ろに控えさせていた魔術師達が臨戦態勢。
やはり、簡単には返してくれないか。
「ハァ…仕方がありませんか。来い、バーサーカー」
その言葉に恐れたのはロードエルメロイが一番早かった。
なにせ、彼はそれを間近に経験しているのだから。
その黒く、悪しき、なお高貴なそれを。
スマートフォンを掲げ、呼ぶ。
液晶は輝き、そこから電子から霊体へ。
再構築のポリゴンが瞬く星の様。正に黄金の輝き。
そして、再構築が完了した時。
表したのは。
「………………」
それは、花嫁だ。
ブーケ代わりの花飾りをレースに。
フリルのドレス。
金色の長い髪。
一つ、一般的な物と違いがあるならばその花嫁が黒かったぐらいか。
漆黒に包まれ、顔の大半は血走った黒のバイザーで隠されている。
「なぁ…サーヴァントだ…と……」
ロードエルメロイのその一言に場はどよめいた。
なにせ、彼らが相手にするは人理の守護者。
幾千の過去にその存在を刻んた英雄。英霊。
ある者は海を割り、ある者は空を裂き。
そんな空前絶後の事柄を成してきた世界が生みし化け物たち。
そんな英雄たちを一つのクラスに当てはめ、型落ちさせ、使役できるようにする。
それがサーヴァント。
これも、聖杯あって成り立つこと。
つまり、改めて彼らに聖杯戦争とはどう言うものか、どれ程の奇跡であり、神秘であり、故に危機であるかを語る。
「ええ。聖杯戦争ですから。いや、その名はもう古いな」
今回の聖杯戦争はシステム自体が特殊。
サーヴァントの数も桁違い。
あり方も段違い。
すべてが違う。
ならば、古い言い方は似合わないだろう。
「そう…"新世代"聖杯大戦争としますか。安直ですけど、わかりやすくていい名だ」
言いたいことは言ったと彼はドアを開ける。
誰もが身を乗り出すが、彼を守護する黒の花嫁がいるため、誰も踏み出せないのをあざ笑うように、最後に彼は言い放つ。
「安心してください。貴方達にもチャンスはありますから。枠は三枠用意してます。大丈夫ですよ、今回は49騎が参加しますので」
それは途方もない絶望と小さじ一杯分の希望が入り混じった言葉だった。
身の毛がよだつ千現は魔術師達の心臓を掴む。
目の前の、立っているだけで死ぬ確信があるのがあと48騎いると考えると憂鬱すぎるからだ。
胃に穴だけなら良い。多くはこのまま消えてしまいそうだった。
ドアが閉まるのを合図にサーヴァントは消えた。
ポリゴンを撒き散らし、煙の如く。
残ったのは助かったと言う安堵と、これからの多大で膨大な危機の数々。
ロードエルメロイは語る。
「これが悪夢のはじまりだった」と。
見て下さりありがとうございました
設定矛盾など、おかしな点はなるべく直していくので教えてくださると幸いです