嫌われの忌み子あれば拾われる鬼子あり   作:時雨日和

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第5話 天才と戦車

石畳と石を積み上げた壁で出来た牢獄にルイスはいた。鬼の一族がほとんど滅亡し、自ら命を絶とうとした時怨霊の恩恵の力によりその行為は無駄に終わりこうして捕まった。

 

「兄さん……僕は……」

 

ルイスは石畳の上に寝転がり、知り合いを無くし、親を無くし、兄さえ無くしたルイスは完全に無気力状態へと陥った。

その時、牢獄の角から黒い靄のようなものがルイスに近づいてくる。その靄が少しずつ形を形成していく。それはあらゆる文献に登場し、鬼の歴史の中の最強と謳われた伝説の鬼。

 

「サイグリエ……アカツキ……様」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

隻眼、隻腕、隻足、隻耳、外部から見えている2つあるものが片方欠けている男が語ったのは、『チャリオット』の騎士である事。つまりは『タロット』の騎士の1人。

 

「吾輩には…否、吾輩らには1つ目的がある。吾輩らに反抗の意思を示し、滅亡させる事を成し得なかった鬼を始末することだ」

 

「つまりは俺を、ないしはルイスを始末するって事でいいんだな?」

 

「相違はない」

 

その言葉を聞き、レイが1歩踏み出した時、ガイアは目を伏せて言葉を繋げた。

 

「ただ、吾輩個人的な目的もある。そうであろう?忌々しき恩賞を身に受けし我が娘、マリー・セレスティアよ」

 

「なに?」

 

その言葉にレイは足を止める。そのままレイは空気を震わせるほどの魔力を上げた。

それは、その場にいる全員の身を震わせるほど冷たい魔力の衝撃波だった。

それを受けてガイアは伏せていた目を開ける。

 

「どうして君がそこまで激昴する?君の情報を入っている。二重人格であるうちの片割れ、ほとんど表に出ず身体の持ち主が危険に陥った場合に良く出てくる兄の人格。そのような君がなぜ?君と他の人物達は数分に会ったばかりであろう?」

 

ガイアがそう訪ねた時その異変に気づく。

 

「ウルアグラ!!」

 

その詠唱と共に人1人が飲み込まれるほどの火球がガイアに向かっていく。

 

「正直こんな攻撃が『タロット』の騎士と呼ばれてる男に通用するとは思えないが、一矢は報いたいからな」

 

右腕を突き出したリクに、右腕が赤く燃えているクリスだった。

リクが黒の魔法の1つである相手の動きを止める魔法を行い、クリスが紅の魔法で火球を飛ばし攻撃していた。

 

「いくら父親でもよぉ、自分の娘捨てといて随分な物言いじゃねぇか。俺らの妹分を侮辱するような真似は気に食わねぇだよ」

 

「侮辱か、吾輩は別に侮辱などしていない」

 

ガイアの周りはクリスの魔法の影響で燃えているが、ガイアはその中で調子を崩すことなく話を続ける。

 

「吾輩は生まれた時から身体にある2つあるものが片方欠けている状態だった。その影響で疎外を受けていた。そのような男から生まれたのだその子供が何か障害がない確率の方が低いというものだ」

 

「なら何故マリーを捨てた?」

 

「吾輩は『タロット』の騎士、いずれ我が娘に何か危険が及ぶかもしれないという子を想うが故の事だ。やり方が悪かったのは認めよう」

 

「そんな事…信じられる訳が…」

 

「ならば示そう。その方が手っ取り早い」

 

片腕を上げ、静かに目を瞑る。

 

「フーマ」

 

そう唱えると、上げた片腕が吹き飛び鮮血が肩口から大量に吹き出る。吹き飛んだ腕がガイアの正面にいたレイの目の前で落ちそれからも血が垂れ床を地で染めていく。

 

「これで…信じてもらえたか?我が娘よ」

 

「お父様…」

 

その模様を見ていたマリーが椅子から立ち上がり、ガイアの元へ行こうとする。

それをガイアは壁に寄りかかりながら待っている。

それを許さないのが1人。

 

「エルサイア」

 

マリーがレイの前を通り過ぎる時、その詠唱がレイによって唱えられ氷の槍がガイアの足元から突き出てきた。それをガイアは1つも当たることなくそのままの状態だった。

 

「全員、気は済んだか?」

 

「お、お前…何をしてんだよ!?折角…マリーが!」

 

「言っただろ?クリス。俺の野望は『タロット』の騎士を根絶やしにする事だ。それが一族に対する手向け、ルイスを苦しめた罰だからだ。そのためなら、俺は世界だって敵に回す。どんな悪者になろうが、どんな扱いを受けようが俺はそれを実行する…むしろ、鬼なんて悪役の方が似合ってるぜ」

 

「…いい覚悟だよ。レイ」

 

そう小さく呟いた言葉は誰にも届くこと無くカルロスはそれをただ黙認するだけだった。

レイはマリーの前に立ち、魔法を唱えていた。しかしどれもガイアに届くことは無かった。

 

「無駄だ、今の吾輩に攻撃は通らない」

 

その言葉通りレイの攻撃をガイアは最小限の動きでかわし、そして弾いていく。まるでどこに攻撃が来るかわかるかのように…

 

「予知…か」

 

「いかにも、『ホイール・オブ・フォーチュン』から少し借りた能力だ。数秒先の行動を読み取り行動をするそれだけの事」

 

「…なら、人間の限界で攻撃すればどうなるよ……ウルアーク」

 

その部屋の温度を何度も上げるほど無数の火球がレイの周りに浮かび上がる。その温度でガイアの周りにあった氷柱が溶け始める。

 

「避けれるものなら、避けてみろ」

 

その呟きを皮切りに、無数の火球はガイア目掛けて飛び出して行った。

 

「避けるまでもない。エルドーラ」

 

ガイアの身を守るように水の檻がガイアを包み、火球をすべて鎮火させた。

 

「ウルメモラ」

 

先の火球全てを合わせたような火球が放たれ、檻に触れた瞬間水は蒸発しその火球は形を保ったままガイアに向かう。

 

「無駄だ。吾輩がただ喋って寄りかかって『ホイール・オブ・フォーチュン』の能力に頼るような輩だと思うな。『チャリオット』の能力は…触れたものを投擲物とし、武器と化す!」

 

火球の中心から超速で槍状の飛ばされ、火球は散り散りになり、槍状のものはレイの顔面へ飛んできたが、それを首を動かすだけでかわした。

 

「…道化が」

 

散り散りの火球から垣間見えるガイアには、あるはずの無い左腕が存在していた。

 

「君は気づいていたはずだが?道化と言われるのは些か気分が悪いな」

 

「道化には興味無い、お前をすぐにでも始末する」

 

「ほう…」

 

「「やれるものならやってみろ」って言うんだろ?」

 

レイはしてやったりと言わんばかりの顔で八重歯をチラつかせる。その顔と行動に不快感を覚えながら攻撃に備えていた時気づいた。

レイとガイアの足元に水が流れていること、そしてレイから微量に電気が流れ始めたこと。

 

「アル」

 

詠唱とガイアの跳躍はほとんど同時だった。一瞬でも遅れていれば死にはせずともダメージは受け、痺れが起き少しだけ隙が生じていただろう。

そしてもう一つ

 

「予知が…」

 

その刹那左腕に痣が出来ているのを見た。これをガイアはよく知っている、この痣が原因で、この痣のせいで…

 

「マリー!!」

 

「ごめんなさい、お父様…私もう……貴方を信じることは出来ませんから」

 

先ほど切り離したダミーの左腕には微量ではあるがガイアの魔力が入っている。そのためその魔力を辿りマリーは自身の『不干渉』の恩賞でガイアに付いている予知の能力を飛ばしたのだ。

 

「忌々しき我が娘よ…裁きを!!」

 

左手に仕込んでいた針を投げるため左腕を振りかぶった時

 

「隙だぜ、人間」

 

「しまっ…!?」

 

「俺を相手に他の奴に現を抜かすなんて…な!!」

 

レイは振り上げた腕目掛けて飛び蹴りをを放った。腕に直撃し、そのまま壁に激突した。壁はその衝撃に耐えられず穴が開き、レイとガイアが外へと出される。そのままレイの足はガイアの腕を下敷きにし、その腕をねじ切った。

 

「ぐぁっ!?……ぅ…ぐ!!」

 

今度は本当に腕を無くしたガイア、呻き声をあげながら身をよじっている。千切れたところからは夥しく血が吹き出し辺りを血で染める。

 

「悪ぃな主殿、後でちゃんと直すぜ」

 

壊れた壁の穴と地面に出来たクレーターを見て呟いた。

外は暗くなってきていて周りも見づらくなってきている。

 

「もうこんな時間たってたのか?いつの間にこんなに暗…く…っ!?」

 

違和感を感じたレイが見上げた空には、空はなく代わりに直径1キロは軽く超えるほどの巨大な隕石が落ちてきていた。

 

「くっ…人間、まさかお前が?!」

 

「そう…だ、吾輩が触れたものは…何でも飛ばすことが…出来る。このような事…造作もない…」

 

「チッ、落ちるまであと10分もないな…逃げるなんて無理、俺の力じゃ逸らすのが精一杯、それじゃ他のところに被害が…そうか、お前が触れれば飛ばせる」

 

「やらせはしない…ぐっ!!ゴフッ!」

 

ブチッと音を立てガイアは舌を噛み切った。止めどなく口から血が吹き出し一目で絶命したとわかる。恩賞は生きているものにしか与えられず、生きているものにしか効果が無い。

 

「くそ…打つ手が……」

 

あと数分まで迫っている隕石、それを前に流石のレイでも諦めかけた。だが1つだけ、今思い浮かぶ最善で最高の可能性を見出した。

 

「あった…賭けるしかない……いや信じてるぜルイス!!」

 

そう叫びレイの意識は中へと戻り、本来のルイスの意識が表へと出てくる。

 

「話は聞いてたし、理解した。やってみるよ兄さん…それではいきますよ。アカツキ様」

 

そう言ったルイスの後ろに心做しか、人影のようなものが見えた。

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