タグにあるとおり不定期の更新となると思いますが、長い目で見ていただけたら幸いです。
兄妹というのは否応にして不仲になる事が多い。
小学校中学年ぐらいまでは仲良く遊んでいたのに高学年に上がると急によそよそしくなり、中学に上がればにいがみ合い、基本無視、たまに会話したと思えば暴言の打ち合いを演じたり。
近親相姦を防ぐ為にそういった本能が働き近親の男性を嫌うという説すらある。
そういうケースが吐いて捨てるほどある中、高坂兄妹というのは非常に珍しいと言える。
兄妹間の中は非常に良好であり、互いが互いを尊重し合っている。
下の妹である雪穂は最近兄である穂積に対する当たりは少々強くなっているものの、充分仲の良い兄妹と言える。
上の妹である穂乃果はと言うと―――
「ねーねーお兄ちゃん?穂乃果の話聞いてる?」
「あー聞いてる聞いてる」
「それでね、今日もことりちゃんがね」
ベタベタだった。
まるで小学生の娘が父親に今日学校で会ったことを嬉々として語るように穂乃果は穂積に今日の出来事を語る。
内容は朝登校するとき待ち合わせに遅れて幼馴染に怒られた、だの授業中居眠りしてたら先生に怒られた、だの休み時間に宿題を見せてもらおうとしてまた忘れたのか、とこれまた幼馴染に怒られた、という内容だった。
「基本怒られてるな穂乃果」
「うーん、私はちゃんとやってるつもりなんだけどなぁ、何でかなぁ?」
「寝坊に授業中居眠りに宿題忘れはちゃんとやってる範疇に入らないんじゃないの?お姉ちゃん」
「うっ、それを言われると…」
「あんまり海未やことりを困らせちゃあだめだぞ」
「はーい、お兄ちゃん」
現在の時刻は21時を回ったところで、居間では夕食を平らげ入浴も済ませた後、穂積、穂乃果、雪穂がそれぞれ思い思いに過ごしている。
穂積はテレビのニュースを流し見し、雪穂は中学の宿題をこなし、穂乃果はそんな穂積と雪穂に他愛のない話を吹っ掛け、2人が突っ込みを入れる。
高坂家のいつもの日常だった。
「あ、そうだ。お兄ちゃんのねりきり食べちゃお」
思い立ったように穂乃果は台所の冷蔵庫へ向かうべく座布団から立ち上がった。
「さっき歯磨きしたろ?明日にしろよ」
「えー、だってお兄ちゃんが作ったお菓子だもん。新鮮な内に食べなきゃ」
兄の制止を振り切り、さっさと冷蔵庫にたどり着いた穂乃果は目当てのタッパーを取り出すと居間へ戻ってくる。
「ちゃんと歯磨きし直さなきゃダメだよ?」
「わかってるって」
妹の忠告を適当に流すと、穂積が試食用にとっておいた最後のねりきり、春紅葉を手に取ると目もくれず、と言った具合で頬張った。
「ん~!おいし~!さっすがお兄ちゃん!」
見ているこちらの顔が綻ぶような笑顔でねりきりを堪能する穂乃果。
「そんな騒ぐほどの出来栄えじゃあない。既製品まるパクリしたやつだぞ、それ」
「いやいや、私にはわかるよ!お兄ちゃんの愛情?っていうの?食べて欲しいって真摯な気持ちがこのねりきりから伝わってくるもん」
「…そこまで言われるとなんだか小っ恥ずかしい」
穂積は妹のベタ褒めに鼻を掻く。
穂乃果はお世辞や冗談を言えるような性質ではないのは良く知っていたし、本当に心からそう言っているのだろう。
「はー、美味しかった」
ごちそうさまでした。とねりきりを平らげた穂乃果は手を合わせる。
歯磨きしてくるね、とタッパーを台所に置きに行きつつ、穂乃果は洗面所へと消える。
「妹2人にも好評で良かった」
「お姉ちゃんのリアクションはオーバーすぎだと思うけどね」
穂乃果は常日頃から餡子飽きた、と和菓子屋の娘あるまじき発言をしている。
小学校の国語の川柳を作る授業で『おまんじゅう うぐいすだんご もう飽きた 』という五七五を炸裂させたほどで、実のところ洋菓子の方が好きなのだろう。
そんな穂乃果から好評ということは甘さ控えめねりきりを作った穂積の思惑は成功と言っていいだろう。
穂乃果というスピーカーが一時退場した為、居間のボリュームは若干押さえられてテレビからの音声が勝るようになる。
『続いてのニュースです、最近、人気急上昇中の「スクールアイドル」の実態に…』
「ん、スクールアイドル?」
何の気なしに併せたチャンネルではワイドショーが放送中で、見慣れない一文を目にした穂積は疑問を口にした。
「お兄ちゃん知らないの?」
宿題を終わらせたらしい雪穂は視線を大学ノートからテレビに移し言う。
「プロのアイドルとは何か違うのか?」
「んー、プロのアイドルって事務所に入って、番組オーディション受けて、それでライブしたりするでしょ?スクールアイドルっていうのは高校生限定の、言っちゃえば部活みたいなものなの。だから学校の許可があれば好きにライブが出来る」
「へぇ」
雪穂の言葉を受けテレビを見れば成程、取材を受ける少女達は全員が高校生で平日は普通に授業を受け、放課後や休日を使って練習をしている。
「それにしても詳しいな、雪穂」
「まぁね。私も興味ないわけじゃないし」
「雪穂もやりたいのか?」
「私が?無理無理」
「いやぁ、兄ちゃんはイケると思うけどなぁ」
言うと穂積は雪穂の外見を見る。
ルックスは美人な母を受け継いだようで十二分にアイドルでも通用するだろうし、運動神経だって悪くないと穂積は記憶している。
スタイルは…まだ発展途上といったところだろうか。
しかし雪穂はまだ14歳の成長期な中学生、高校に入学しスクールアイドルデビューする頃には大化けしている可能性もある。
「無理だって。私A-RISEの人たちみたいに情熱持って練習できないもん」
「A-RISE、ってああ、この娘たちか」
雪穂が口にした『A-RISE』。全国津々浦々のスクールアイドルの頂点に君臨する三人組グループだ。
今ワイドショーでやっている取材はA-RISEのものがメインであり、プロのアイドルに匹敵するかそれ以上の厳しい練習を積んでいることが強調されている。
「アマチュアの活動でも結構本格的にやるもんだな」
「高校在学中にプロの芸能事務所からスカウトされたりしてプロデビューすることもあるみたいだよ」
「アマチュアボクサーみたいなもんか」
「そっちの方はお兄ちゃんのが詳しいでしょ」
場面は練習風景から移り、ライブ本番の映像となった。
練習に裏打ちされた見事なダンスや歌唱はプロのアイドルに決して負けていない。
それどころか地方巡業中のアイドルを遥かに凌ぐレベルと言っていいだろう。
あまりアイドルや芸能関係に関心のない穂積にも感心を抱かせるのに充分なパフォーマンスだった。
「お兄ちゃんはこの中だと誰が好き?」
「俺?んー、とそうだな」
ライブ中の映像を見つつ、三人組から好みの少女を抽出する。
「この長身の彼女かな。スラっとしててカッコいいし切れ長な感じの眼がイイ」
穂積が挙げたのは統堂英玲奈、A-RISEで一番長身で大人びた雰囲気の少女だ。
因みに番組内では左目の泣きホクロがチャームポイントとされている。
「ふーん、こういう人好きなんだ」
そう言うと雪穂は先ほどまでかけていた眼鏡をはずすと、自分の両目尻を指で押し上げるようにする。
「…何してんの」
「切れ長の眼。こーゆー眼が好きなんでしょ?」
「寝てるフクロウみたいになってるぞ」
「ちぇっ」
せっかくのサービスを蔑ろにした兄に、雪穂は悪態をつき眼鏡を掛け直すと筆記用具を片付け立ち上がる。
「それじゃあ私部屋戻るから。お兄ちゃんも早く寝なよ?」
「おう、おやすみ」
「うん、おやすみ」
自室に戻る雪穂を見送ると、穂積はテレビの時刻表示から今が21時を回ったことを知る。
そろそろ自分も部屋に戻ろうか、とテレビを消そうとリモコンに手を伸ばす。
「歯磨き終わったよー、とアレ?雪穂は?」
「もう部屋に戻った」
歯磨きを終えた穂乃果が雪穂と入れ替わりで居間に入ってくる。
「そっか。あ、お兄ちゃんアイドル観てるの?珍しいね」
「タマタマだよ、タマタマ」
そういう番組には興味ないと思っていた穂乃果は穂積の番組選択を珍しがった。
「うわぁすごいなぁ。この人たちみたいでこんなにいっぱいのお客さんの前で歌えたら気持ちいいだろうなぁ」
A-RISEのライブ映像に目を輝かせて食い入るように穂乃果はテレビに熱視線を送る。
「スクールアイドル、って言うんだってよ。高校生なら誰でもアイドル活動が出来るんだと」
「へぇ~高校生アイドルかぁ」
「やってみたらどうだ?海未やことりも誘って」
特に部活に入ってなかったと記憶している妹に穂積は幼馴染の名前を出して提案する。
「ん~、ことりちゃんはやってくれるかもだけど海未ちゃんはなぁ~」
「あぁ…」
穂積は妹と自分の幼馴染である2人の少女を回想し、自分の提案が叶いそうにないことを理解する。
「『こんなヒラヒラを着るなんて破廉恥です!』なんて言いそうだし」
「絶対言うだろうな」
お堅い家に生まれた彼女はそうあることが当然のように堅物が服を着て歩いているような少女だ。
清楚と言えば聞こえは良いがこういう俗っぽいものには抵抗があるようで、本人からはアイドルどころか最近の流行の話題すら出たことは殆どない。
「でも絶対楽しいと思うよ!」
こんな感じ?と穂乃果は見よう見まねでポージングを決める。
動き自体はぎこちないが彼女の弾けるような笑顔は見るものを魅了する。
基礎を身に着ければいいとこまでいくのではないだろうか、と穂積は思った。
「まぁアイドルやるにしてもまずは学業の方だな」
「ウッ」
先ほどまでの輝く笑顔が一瞬で曇る。
歌って踊る輝かしい晴天の穂乃果の世界に熱帯低気圧直撃である。
「で、でもお兄ちゃんだってガクセーの時はやんちゃやってたでしょ?学校サボったりしてたじゃん!」
咄嗟に穂乃果は兄の学生時代を引き合いに出し低気圧撃退を試みる。
「俺はテストで赤点取ったことない」
「グウッ」
撃墜。
穂乃果は数学が苦手である。
高校一年の一学期の中間期末テスト両方とも赤点を取り母にこっぴどく搾られ、テストが近づく度に海未やことりに泣きついていることをその2人から聞いて穂積は知っていた。
「おかしいよ…なんでサボり常習犯のお兄ちゃんが赤点ゼロで皆勤賞の穂乃果が赤点ばっかなの…」
すっかり表情が曇り、雨が降り出しそうな勢いで穂乃果の表情は沈んでいく。
「サボってても普段から友達からノート見せてもらって予習復習すりゃ高校のテストで必要最低限の点数は取れるだろ」
「それが出来たら苦労しないよぅ!」
世の中不公平だー、と捨て台詞を残して赤点常習犯は自室へバタバタ慌しく駆けていった。
「喜怒哀楽の激しい奴」
穂乃果を見送ると、再びテレビに視線を戻す。
先ほどまでやっていたワイドショーは終わり、現在は天気予報の時間だ。
どうやら現在の穂乃果の気分とは裏腹に、明日は全国で秋晴れのようだ。
テレビの液晶に写る時刻は22時を指している。
そろそろ自分も部屋に引き上げようと、穂積はテレビの電源を落とした。
明日はいい天気になる。
いつもの日課に支障はないだろう。
第一発目の話はこれで一先ず終わり、主人公穂積と妹たちの関係を掴みだけ書きました。
タイトルの『胸がドキドキ』はTHE HIGH-LOWS の楽曲から取っています。
名探偵コナンのOPに使われた曲です。