高坂家長男の華麗ならざる日常   作:ポーラテック

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Killer Queen

人間の変化というのは目を見張るものがあり、『男子三日会わざれば刮目して見よ』なんて言葉がある程だ。

事実、穂積は母曰く『子供のときは愛嬌のある顔』をしていて、小学校の頃は背格好がやや高い程度の純朴な少年だった。

しかし現在の外見――ツーブロック状に刈り上げた短髪に左耳に空けたピアス穴――は一見ヤンキーの様であり、182cmの長身に体重84kg体脂肪率10%の鍛え上げられた肉体は見るものに威圧感を与える。

8年足らずでここまでの変貌を遂げた穂積の昔を知る者は、何故こうなってしまったのかと驚愕する。

幼馴染の南ことりも、中学に上がってから所謂不良のようになった穂積の外見の変化に戸惑った一人である。

が。

「隕石級のショック…!」

とりあえず、とテーブルに着いた穂積は出されたお冷を飲み干すとそう搾り出した。

今度は穂積がことりに驚愕する番だった。

テーブル向かいで羞恥に顔を赤くし、小さくなっている幼馴染は無縁と思われていたメイド喫茶でアルバイトをしていたのだ。

「ううっ、誰にも知られたくなかったのに…よりによって穂積くんに知られちゃうなんて…」

高坂穂積の知る南ことりという少女は決して引っ込み思案というわけではない。

しかし、優しい性格で癒し系の雰囲気を漂わせる彼女がここまで露骨なアルバイトを進んで行うとは完全に想定外だった。

「…いや、すっげえ似合ってるけどよ。ぶっちゃけその辺のチラシ配りなんて比較にもならないぐらい」

「何だか複雑だよぉ…」

白黒のゴシックなロングスカートのメイド服は彼女の雰囲気に絶妙にマッチしており、元々ルックスもかなりのものであることりに良く似合っている。

「それで、いつかこのバイトを?」

「うん…ほんとについ最近だよ。この前町を歩いてたらスカウトされちゃって」

成程、スカウトした人間の見る目は確かなもののようだ。

「でも以外だな。ことりがこういうバイトするなんて」

「私も始めは断ろうと思ったんだけど…穂乃果ちゃんがスクールアイドルやるって言ってたでしょ?まだ決まったわけじゃないけど、もしアイドルやるんだったら人目には慣れておいたほうが良いかなって思ったの」

「それでメイド、ね」

煌びやかな衣装を身に纏い衆人観衆の前で歌い踊るアイドルとメイドは現代日本の日常生活では身に着けないであろう衣装を着ているという面では共通している。

笑顔を振りまく練習場としてメイド喫茶はもってこいだろう。

「それに、今までこういうアルバイトするってことなかったから。折角だしちょっとやってみようと思ったんだ」

「上手く出来そう?」

「ううん…まだわかんない。入って一週間も経ってないから。でも店長さんや先輩も仕事教えてくれるし、なんとかやってけそうだよ」

「そっか。頑張ってな。ことりなら人気No,1になれるさ」

「うん。ありがとう…あの、それでね?」

「穂乃果や海未には言わないで欲しいって?」

言わんでもわかる、と穂積はことりの台詞を先取りする。

やはり身内にメイド服姿を晒す、というのは抵抗があるのだろう。

穂積にも知られたくなかった、という前述の発言からその抵抗感は容易に想像出来た。

「そ、そう!絶対言わないで欲しいの!もし学校中にメイド喫茶で働いてることが知れ渡ったらことり、恥ずかしくて死んじゃう…」

ことりは幼馴染に知られた未来を想像し、戦慄したのか穂積に懇願する。

穂乃果の隠し事が出来ない軽い口スピーカーを知っての焦りだろう。

「んー、どうしようかなぁ」

ことりの懇願を受けた穂積は意地の悪い笑みを浮かべた。

朝置き去りにされたことをまだ根に持っているのか、その顔はことりの弱みを握ったことで歪みまくっている。

「そんなぁ…お願い穂積くん!」

「ご主人様」

「えっ?」

「"穂積くん"じゃあない。"ご主人様"だろ?」

「あぅ…お願い、ご主人様…」

羞恥で顔を赤くしながらも穂積の要求を受け入れることり。

「お願いィ?お願い"します"だろぉ?」

「お、お願いします、ご主人様」

「ン~、こいつはいい!」

頼んでもいないのに一礼として頭を垂れたことりに穂積のテンションは上昇する一方だ。

ことりの羞恥は顔だけでなく首筋まで広がり、白い肌は茹でダコのようである。

「うぅ…もういいですかぁ?恥ずかしいよぅ」

「よぉ~し、オムライスでも注文しようか」

「うぇぇ…」

ことりの羞恥心などどこ吹く風、何時も間にやらメニューを手に取った穂積はこのプレイを続行するのだった。

 

「お待たせ致しました…」

950円のオムライスとケチャップのボトルをトレーに乗せ持ってきたことりはそれらを穂積ご主人様の眼前に並べる。

「お、結構ウマそうじゃないか」

穂積の注文したオムライスはオーソドックスなチキンライスを卵で包んだものだ。

しかし本来あるべきア・レ・が見当たらないのを見つけた穂積は眉をひそめる。

「ケチャップのメッ、セージはいかがいたしますかぁ?」

穂積の表情の変化に気づいたのか、マニュアル通りの接客を硬い表情のまま行う。

ケチャップのボトルは一般家庭のそれとは違い、細かなメッセージを書き込める様に先端が絞られていた。

「『ご主人さまLOVE』で」

「はいィ…」

要求どおりの文字をオムライスと皿にケチャップで書き込んでいくことり。

入って間もない筈であったが生来の手先の器用さがそうさせるのか、ボトルを操る手つきは中々様になっていた。

「おまじないは?」

「ハイ?」

「メニューにあるだろ」

色鉛筆で付け加えられたメニューの文言を穂積は指さす。

そこにはピンク色の文字で『お食事にはメイドがおまじないをかけます』という一文が添えられており、存在を主張するようにハートで囲まれていた。

「っ~!!美味しくな~れ!萌え萌え~!キュン!」

半ばヤケクソになったのか、ことりは両手でハートを象りオムライスに向かってアドリブの呪いまじないをかける。

内心は穂積にも呪いのろいをかけていた。

「よぉ~し、次は"あ~ん"だ」

「あ、あ~ん!?」

調子に乗る一方の穂積の更なる要求にことりは固まった。

これまでは接客マニュアルにもあったことだが『あ~ん』は流石にマニュアルには載っていない。

「何固まってんだよ。ホラ、スプーン」

「ううう…」

おずおずと穂積からスプーンを受け取るとことりはオムライスを掬い取る。

顔の赤み羞恥心はその指先まで広がる勢いである。

「あ、あーん」

「んぐ…あ、美味い」

ことりからの『あ~ん』を受けた穂積はご満悦である。

「じゃあ次は肩もみでも…」

「お客様」

「あん?」

そんな穂積の肩を掴み、背後から低い声をかける者が一人。

振り返った穂積は声をかけた人物を見て硬直する。

「当店はセクハラを楽しむ場所ではございませんので」

声をかけたのは整えられた口髭に歳相応の皺が刻まれたダンディな顔立ちの男だ。

蝶ネクタイを締め、白髪混じりの髪をオールバックに撫で付けたその居出立ちはファンタジー小説の執事のようである。

しかしそれ以上に目を惹くのはその体格であり、182cmの穂積を軽く超す身長にプロレスラーかと勘違いするほどの厚みの身体はどう見てもメイド喫茶の従業員には見えない。

「あっ、オーナーさん」

「オーナー!?このハルク・ホーガンが!?」

ことりの台詞に穂積は今日二度目の驚愕の事実を知る。

この男、従業員どころかこの店の責任者であるらしい。

「もう一度申し上げますが、当店でメイドへのセクハラは厳禁です。もしルールを守れないとなりますと、速やかに退店して頂くことになりますが…」

「マジすいません。いやホント」

オーナーの迫力の前に、穂積はあっさりと白旗を挙げるのだった。




大   遅   刻

更新がだいぶ空いてしまいました。すべて16連勤させる会社が悪い。


今回のタイトル「Killer Queen」はクイーンの曲で、手フェチ殺人鬼のスタンドの元ネタにもなりました。

「キラークイーン」は『男殺し』や『男を弄ぶ悪女』という意味です。
短期間で伝説のメイドまで上り詰めたミナリンスキー女史にピッタリの言葉であると思います。
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