白銀の周囲はおどろおどろしい程に赤に染まっていた。赤黒く、不自然に光る土は、物事の凄惨さを表していた。そして、残虐の犠牲となり辺り一帯に散乱する夥しい数の臓器や手足。一刀を囲むように撒き散らかされているそれらは、龍の怒りを買った愚者の末路を示していた。その中に気品を損なわない華美な蝶の姿があった。事切れても尚失われないその気高き死に様に一刀は心動かされた。
「死しても尚このオレを揺さぶるか、蒼龍。」
白銀の周りに幸せの力が満たされていく。
「神よ、我が声を聴け。」
「美しき死に祝福を与えよ。」
白銀は奇跡を起こす。
「天よ、亡者へ愛を捧げよ」
白銀の祈りは蒼を目覚めさせる。自らの犯した罪を消去し、記憶を保持させ新たな生命を創り出す、最大の禁忌。ありとあらゆる風が、王の願いを叶える。
一刀がその場を立ち去った後、赤黒く染まっていた大地は急激に元の黄土色を取り戻す。飛び散っていた血液が一箇所に球体となって集められる。そしてそれは、息絶えた子龍の身体に取り込まれていく。微動だにしなかった子龍の身体はやがて呼吸し始め、新しい“子龍”が形作られていく。英雄は生まれ変わる。最後の一滴が注ぎ込まれたその瞬間、蒼き華蝶は咆哮を上げた。
目覚めた時、子龍は辺り一帯何もない荒野に横たわっていた。記憶が所々抜け落ちている。少しの間呆けていると、身体が、脳が少しずつ起こった出来事を思い出していった。そして、完全に記憶を取り戻した時……。
「……何故だ。何故、私は負けた?」
己の敗北の原因を子龍は探る。己が唯一土を付けられた男。……北郷一刀。あの男が名乗っていた“白”。それは我が身を震わせ、歯音を鳴らせる。武の道を歩んできた昇り龍でさえ届かない極み。そこにあの白銀は至っていた。子龍は決して弱者ではない。事実、民草を苦しめる何千何万の賊徒や悪人たちをその赤き槍の一閃で葬ってきた。だからこそ、勝てない。
あの境地に至る為には、人の枷を壊せばよい。子龍はそう思考する。体の崩壊を防ぐため、無意識に抑制された力を解放し、それを十全に扱うことができれば。武人は初めて至高であり、究極である武神に進化できる。『人』の身を、捨てることで。
「そういう、ことだったのか。」
結論を導き出し、答えを得たその瞬間、蒼き昇り龍は死し、形を、色を失っていた。新たな輪郭が形作られ、黒く染め上がっていく。色が塗られた後、そこにいたのは狂者。己の全てを否定し、壊れた自分を愛でる狂ったナニか。人を変貌させる狂気の渦が子龍を包み込み、彼女を徐々に蝕んでいく。
「……フフ。フハハハハハッッッ!!!!!」
自らが至る栄光の未来を待ち望むかのように、子龍は嗤い続けた。その紅の双眸を邪悪に染めて。
子龍と一戦を交えた場所から離れたある荒野を一刀は歩いていた。
《良かったのか?》
突然として一刀に降り注ぐ声。周囲を見渡すことなく一刀は声の主に言葉を返した。
「何がだ?」
一刀に宿る白銀。器に魂を封じられた、彼の代名詞たる最強の存在。ニ天龍アルビオン。力の象徴と称えられた伝説の龍は静かに語る。
《あの青い女のことだ。》
「ああ、構わん。」
上機嫌に一刀は答える。
「あれほどの美しさだ。奴には生きる価値がある。」
一旦言葉を切る。
「いずれまたオレを楽しませるだろう。必ず、な。」
《……お前らしいな、一刀。》
しかし、龍には争いを避けることのできない非情な運命がある。一刀も例に漏れず、幼少時より過酷な日常を送ってきた。
戦いが続く日々に、一刀の精神は日に日に疲弊していった。絵画を見ても、音楽を聞いても、それらは変わらない旋律を奏でるのみ。単調で変化のない作品たちは寧ろ一刀を苦しめ、精神の疲弊を助長させた。
そして、ついに狂ってしまった彼が考え付いたことは美しく殺し、壊すこと。何かをを殺すことで生まれる、歓喜と嫌悪の感情。それらを兼ね備える”殺害”。これこそ彼が新たに見つけた芸術だった。生まれながらに持つ彼の異常性は善を歪ませ、捻じ曲げる。しかし、白銀の皇帝にとって、一刀の残虐さは心地の良いものだった。
人の悲鳴が、断末魔が、助命を乞う声が。アルビオンは龍である。龍は闘争を好む邪悪な怪物であり、なにより自らの力で生まれた残酷な蹂躙を愛する存在である。一刀の創り出す血塗られた世界はアルビオンを歓喜へと導く。
北郷一刀。彼こそ人の皮を被った
うん、まぁ色々と突っ込みどころがあるでしょうが、今は”ん?”みたいな感じに思っていてください(笑)今後の展開で必ずその疑問は解消されると思いますので…。
ということで様々な事情で中々うpできなかった3話がようやく投稿できました。長く待っていただいた皆様、本当にありがとうございます。今後とも、この作品ともども渦牛をどうぞよろしくお願いいたします。orz