寂れた街の中に足音が響く。音源の主は一人の男。眩いばかりの白い衣で身を包み、右手に食物らしきものを持っている。一口齧り、咀嚼しまた一口齧り。眉間に皺を寄せ、何かを考えているような様子で歩いている男。それは北郷一刀その人だった。
(ここも人影はなし、か。)
一刀はこの世界に来てからというもの、大陸中を渡り歩いていた。その目的は勿論、大陸の情勢を知る為である。単に情報を得るだけならば、大陸を旅する商人達から仕入れるのが道理だ。事実彼らの情報は正確であり、大陸の状態をよく知ることができる。
しかしそれだけでは不充分であると一刀は考える。なぜか。情報とはそもそも、必要になったその時以前から所持していなければならない。物事を対処する際、事前に情報を持っているのと持っていないのとでは前者の方が有利なのは目に見えて明らかであるからだ。
故に情報は時間との勝負。より多い情報を獲得した者が情報量に比例して、二倍三倍もの利益を得ることができる。つまり、他人より多くの事を知っていればそれだけ得をする、ということ。それに加えて情報をより詳細に知るためには、自分の目で実際に見て確かめる必要がある。リスクを負わずして一体何を得られようか。これが一刀の見解であり、持論だった。
それと並行して、情報の伝達範囲が広ければ広い程脚色され、原形を留めていないものが流出する。情報とは、噂と表裏一体の関係にある。「根も葉もない噂が流れる」というのは、情報の形が崩れて伝達されることの典型的な代表例だ。
そして情報収集とともに広大な大陸を一部ではあるが、見て回った彼が確信したこと。それは繫栄している街と廃れた街の差が非常に大きいことだった。
例を挙げるとすれば、活気。繫栄している街は民の元気な気力で満ち溢れているように見えるその一方、廃れた街は活気どころか民の姿を確認することが難しいほどである。
原因として挙げられる一番の問題点は、やはり為政者、つまり漢王室にあると言っても過言ではないだろう。最盛期は並ぶ者などいないまでの強大な権力と名声を誇っていた劉家だが、人間である以上時間の流れには逆らえない。最早衰退の運命を覆すことは不可能だろう。加えて治安の悪化、賊徒の増大によって漢王室の権威は一気に失墜した。裏切られた信頼は、疑念と不信に変わるもの。故に評価が地に落ちた漢王室では民の信頼を回復することなど夢のまた夢の話だった。
「死に体の巨龍、か。」
しばらく歩き、街の外れ辺りまで辿り着くと、一刀はそう言葉を漏らした。
《どうした、一刀。》
半身が尋ねる。
「ああ、アルビオン。いやなに、もうすぐここも滅びると思ってね。」
一刀は片目を瞑りながら己の半身に告げる。しかし、実際のところ、この言葉は重要なものだ。巨龍という言葉、これが表しているのは今この大陸で覇権を握っている漢王室であり、現皇帝の劉宏のことである。
力を持つものが倒れれば次に大陸の覇権を得るため、各諸侯は死に物狂いで争い続けるだろう。
そうなれば街や村は荒廃し、民草の生活は今よりも苦しく、生きる気力も失われ、いずれ民たちは引き返すことはできない、絶望の蔓延る沼地へと自ら望んで沈んで行くだろう。
戦火に晒された地に待ち受ける結末は消滅しか存在し得ない。救いのない未来を視た民草に希望は無いのだ。救いのための犠牲は致し方ないにせよ、守れるものも守れていないのでは話にならない。だから、滅びる。そういう意味で言えば、漢王朝は刻一刻と終わりに近づいていた。
一時は絶大な権力を有した巨龍はその役目を終え、永遠の眠りにつこうとしている。王朝が倒れれば、大陸を包むのは破壊と絶望に満ちた、悪しき戦乱の日々だけ。なんの力も持たない民草が一層困窮するのは火を見るより明らかなことだ。王朝の滅亡が起こった場合、民に起こるものは農作物の不作、旱魃などによる甚大な被害。それだけでも苦しい極貧の生活に付随して、賊に対抗するための武力を得なければならない。
すなわち、自衛手段を獲得しなければならないのだ。誰も喜んで死と隣り合わせな生活を送りはしないし、苦痛を味わおうとはしないだろう。これでは悪循環しか生まれない。民として生活できたはずの人間までもが、生きるために賊に身を窶す。そして行く先々で略奪や暴行を行い、被害者が加害者になる。そしてまた賊へ堕ちる民草が増加する。この悪意の循環すら、王朝にはどうすることもできない。なぜなら止めるだけの力すらも残っていないからだ。さしずめ、糟粕とでも言ったところか。
さて、王朝に出来ないなら誰に止められるのだろうか。
それはすなわち、力ある諸侯に他ならない。歴史は繰り返すもの、とは言い得て妙な言葉だ。絶対強者が倒れれば、国を治めようと立ち上がるのはそれに次ぐ権力者たち。その諸侯が複数だったとき。始まるのは大陸の覇権をめぐって行われる諸侯間の戦争だろう。何人たりとも、人間である以上は権力が放つ魔性の輝きには抗えないのだ。そして村という村は戦場と化し、荒廃していくだろう。己が守るべきものを守るためには、その諸侯同士のぶつかり合いに勝利するしかない。そのための強大な武力と経済力を得るためにはどうすればよいか。答えは一つ。
”国”に成れば良い。
そしてそれが出来るであろう強大な諸侯はいくつか見てきた。
まず第一に挙げられるのは曹孟徳。今は無名の存在で、軍事力も経済力もないが、王にのみ持ちうることが許される覇王の器を持っていた。いずれ諸侯たちの前に立ちはだかる最大の壁となるであろう存在だ。
そして第二に江東の虎、孫策。武将としても一国の王としても申し分ない器の持ち主である。強敵には違いないが、あの女は曹孟徳と比べると大陸を治めるには力不足だ。あとは王とは呼べない小物ばかり。唯一、飛び抜けた経済力を持つ女がいたが、頭の方が残念だった。あれでは、自らの持つ力すら十全に扱えはしまい。警戒する相手でもない。
「まぁ、オレの知ったことではないな。」
一刀にとって他人はどうでもいい存在だ。だから民が生きようが死のうが、誰が大陸を治めようがも全く関心がない。ただ自分が自由に生き続けることができればそれでいい。弱きを踏み躙り、強きを打ち砕く。ただ自由に飛び回り、気まぐれにその絶大な力を振るう。龍を宿す一刀だからこそ許された傲慢。いや、寧ろその傲慢さが龍を引き寄せたのだろうか。
そんな一刀が思考の渦から戻ってきたとき、いつの間にか彼は街の外れに到達していた。
「……っ!」
頭痛を覚える。
《疲労が溜まっているな。少し休め。根の詰め過ぎは体に毒だぞ。》
「……ああ」
心配してくれる相棒に感謝の念を抱く。ここに来てからというもの、一刀は睡眠を全くとっていなかった。未開の地にいる以上、いつどこで襲われるかわからない。だからこそ、安全を確認するまでは警戒を続けなければならなかった。
「……む?」
ふと、視線を感じた。あの時の
……気に食わない
一刀の持つ力。それは『白龍皇の光翼』だけではない。風を盾のようにして自分の周囲を覆ったり、鋭利な刃物に代えて串刺しにしたり。そう、彼の力は自由自在に“風”を操ること。子龍や獣たちを貫いた槍は、周囲に流れる風から作られた風の槍。刃物を持っていなかった一刀が突然槍を手にしたのはこの力があったからなのだ。風を愛し、風を愛する。故に風は一刀を唯一の導き手と認めているのだ。
足元に転がった
「得られるものは無しか……。これは帰った方がよさそうだ。」
一刀は何も思わない。彼にとって弱者とは塵。塵屑をいくら殺そうが、彼の認識はただ己の前にある邪魔な塵を、蠅を腕で振り払うが如く振り払っただけに過ぎない。だから殺した。
《今日の晩はどうする。すべて消し去ってしまっては何も食す者が無いだろう。》
アルビオンが提案する。
「……あ」
一刀の動きが止まる。
怒りのあまり、食事の事まで頭が回らなかったらしい。
「…………」
《…………》
気まずい沈黙が続く。
《……獲りにいくか》
「……そうしよう」
一転し、オーラを体全体に流し込む。瞬間、“風”が変わる。王へ、己の王へ祝福を与える。そして、強者のみに与えられる禁忌を、一刀は解放した。
「……禁手化」
《Vanishing Doragon Balance Breaker!!!》
腕を、足を、胸を、そして顔を覆っていく龍の甲殻。何人たりとも汚すことを許されない、誇り高き白銀の鎧が一刀を最狂へと昇華させる。一陣の風と共に、目を覆うほどの目映い光が一刀を包む。
やがて光が収まると、其処には龍がいた。力の象徴と呼ばれるに相応しい神聖な煌めきは、見る者を圧倒し、それでも尚、見る者を魅了する輝きを放つ。
「まさか狩りに禁手化するとはな……。」
《まったくだ一刀。伝説の龍の鎧をこうやって使うのはお前くらいだ。》
皮肉を言うアルビオン。
「いや、すまん。ちゃんと戦いで使うさ。……使うに値する相手がいればの話だが。」
肩を竦め、笑いながら言う一刀。
「働きすぎて過労死するよりはいいだろう?」
《ふっ……違いない》
鎧の中で、一刀は目を細める。
軽口を言い合った後、オーラを整える。大地を蝕むそれは一刀がどれほどの強者であるかということを如実に示していた。
「獲物の場所は分かるか?」
《やや南東のあたりだ。約30キロほどか。……30秒もあれば着くだろう。》
「流石だアルビオン。」
空気を吸い込む。
「……さぁ、狩りを始めよう。」
光翼を大きく羽ばたかせる。空へ浮かぶ。同時に空を蹴る。生み出された神速は一気に獲物のもとへと一刀を誘う。自由自在に空を駆ける龍は、美しかった。
しばらくして。
「フハハハ!!! 逃げねば死ぬぞ!!!」
狼たちを狩りつくす白銀の姿があった。
抗いようのない絶対的な強者の前に、狼たちは為す術も無く、終わりを受け入れた。
やがて断末魔が聞こえなくなると一刀は鎧を解く。
「大猟だな、アルビオン。」
《お前は毎度の如くやり過ぎだ一刀。》
溜め息を吐くアルビオン。それに反して狩りの結果に満足する
集めた薪に火を付ける。死骸を吊るし、下から火で炙る。滴り落ちる脂とともに、香ばしい匂いが鼻孔を擽る。
「……美味そうだな。」
火を消し、焼いた獲物に齧り付く。
若干の獣臭さは残るものの、鼻孔を擽る匂いとともに舌に訪れるは至高の甘み。
《……お前の感情が神器越しに伝わってくるよ一刀。》
「ああ。最近まともな物を食していなかったからな。こんなものでも美味いと感じるよ。」
食後、食べ終わった骨を捨てて狼たちがいた場所に寝転がる。
《帰らなくていいのか?》
「ここは前の場所より寝心地が良い。しばらくの間ここを拠点にするよ。」
《ふむ……。確かに見渡しも良い。》
横になる一刀。
「久々にゆっくり眠れそうだ。……おやすみ、アルビオン。」
《……おやすみ、一刀。》
就寝の挨拶を交わす。
すぐに寝息が聞こえてくる。
こうして見ると、彼は幼子と同じようなあどけない寝顔を浮かべている。
(負ける気がしないな……。)
再び一刀を見る。
(一刀。私は、私だけはお前の味方だ。たとえ何があろうとも、な。)
優しく微笑む。目を閉じる。やがて白銀もまた、夢の世界へと旅立った。
「……ご主人様は寝たみたいね。」
「……そのようじゃな。」
人ならざるモノが住まう世界。そこには可愛らしいピンクのビキニパンツを穿いた筋肉達磨と褌を身に着けた筋肉達磨がいた。彼らの名は貂蝉と卑弥呼。数多に存在する平行世界を管理する、通称管理者と呼ばれる者たちである。ある世界を見ながら、両者は眉間に皺を寄せた。
「今回のご主人様は随分と特徴的だわ。」
「……あれを特徴的などと言って良いものか。あれは文字通りの化け物じゃよ。」
「…………」
彼らが見ているのは白銀。ありえる筈のなかった、世界同士の結合によって起こってしまった
「たとえどんな姿でも、ご主人様はご主人様。私たちは与えられた役に徹するのみ。」
「……それが管理者の
「心苦しいでしょうけど。我慢よ卑弥呼。」
「わかっておる。まだやりようはあろう。」
貂蝉と卑弥呼の計画。それは一刀を本来あるべき姿に戻すことだった。
数々の平行世界を生み出す、正史。それはすなわち物語の原点たる存在。
だのに、この外史だけは違った。北郷一刀が主人公なのは変わらない。しかし、彼にあったのは優しさではなく、残虐。生物を生物と思わず、罪無き者でも気に入らないというだけで殺める、最低最悪の悪の権化。まさに
「夢で干渉しましょう。少し言い聞かせれば、元に戻るはずよ。」
「……果たしてそれで
卑弥呼の考えは正しい。なぜなら一刀は龍。自由をこよなく愛する暴虐なのだ。
その彼が最も嫌うこと。――それは束縛。“強制“こそが彼を最も怒らせる。
それを知らない、いや知ろうとしなかったのは管理者「貂蝉」の最大の過ち。
外史はとうに歪みきっている。
進むはずもなく、二度と戻らない崩壊へと世界は進む。初めから不可能だったのだ。
龍を操るなどという幻想は。故に絶望は訪れる。
「……嘘でしょ」
「どうした貂蝉。」
「アクセスできないのよ。ご主人様に繋がらない……!!」
龍は異物を拒む。
「……無理じゃな。これは諦めるほかあるまい。」
管理者ではどうすることもできない。ひとたび物語が始まれば、外からは直接的に干渉することは許されない。ただ指を銜えて見守るしかないのだ。
「じゃあ、“御使い”はどうするの!? ご主人様を超える適任者なんて……!!」
貂蝉の悲痛な叫びが木霊す。無理もない。北郷一刀の本来の役目は戦乱の世を終息へ導き、太平の世を齎すこと。しかし、残虐は混沌。齎すものは太平ではなく、破壊。
「……一つだけ、方法がある。」
思いついた禁忌。
「……方法?」
「『白』には、『赤』じゃろう?」
「……まさか」
それは世界を壊しかねない、常道を逸脱した考え。本来ならば掃き捨てる方法。されど、今はそれに頼るしかなかった。これは世界を、外史を救うために必要な事。そう自分に言い聞かせる。
(ごめんなさいご主人様。でも、今の私たちにはこれしかないの。)
己は臣下であり、管理者。であるならば王を正しい道へ導くのも臣下の役目。
「卑弥呼。」
相方を見る。それだけで長年付き添ってきた頼れる相棒は意を汲んでくれる。
「うむ。儂は『赤』を創ろう。お主は引き続き監視じゃ。」
「……ええ。任せて頂戴。」
再び、残虐を見る。その時には既に背後から気配は消えていた
《随分と無駄な真似をしているな。管理者よ。》
「ッ!!!」
突然として響く威厳のある声。
「この声はまさか……」
瞬間、管理者以外を拒絶する空間に光が現れる。光が収まると同時に、耐え切れない圧が貂蝉を襲い、聞く者を恐怖へと陥らせる咆哮を響き渡らせる。
「
怪物は見るだけで殺せそうな視線で管理者を見据える。
《如何にも。私は白い龍、アルビオン。》
「何故ここへ……?」
呆然とする貂蝉。自分たち管理者しか入れないはずの空間に、物語の中の存在が介入してきた。ありえない。そんな馬鹿なことがあってたまるものか。疑念が胸中に生まれる。
《決まっている。貴様らの余計な干渉を防ぐためだ。》
静かな怒りを滲ませ、白き龍は答える。
「余計、ですって……?」
《然り。一刀に矯正など必要ない。ましてや貴様ら管理者の矯正はな。》
「矯正なんて……!! 違うわよ!!」
心外だ、とでも言わんばかりに抗する貂蝉。しかし、龍には有象無象の言葉は届かない。
《夢に入り込み、自分たちの意のままに動く人形に仕立て上げようとする。これのどこが矯正でないと?》
「…………」
貂蝉は何も言えない。いや、言うことを許されない。
《そも、一刀は貴様ら風情がどうにか出来るものではない。》
「どういうこと……?」
告げる。覆らない絶望を。
《一刀は望んで残虐となった。故に決して優しさを得ることは無い。》
龍だから。他の追随を許さない最強の幻想種だからこそ手に入れられる力。手に入らない優しさ。その果てにある道は唯一つ。抗いようの無い破滅だ。
《理解したか?貴様らに出来ることは何一つとして無い。》
逃れられない真実に動揺する貂蝉。そんな彼女を尻目に白は姿を霧散させていく。
「待って!!」
思わず引き留める。
《私がしたのはあくまで忠告だ。これ以上干渉をするのならば、一刀は黙っていまい。》
消え去るその直前、凄まじい殺気が場を支配する。
《その時は――覚悟しておけ》
やがて姿は完全に見えなくなった。
悲痛な面持ちのまま、管理者は世界を見守る。
「私は……如何すれば……」
その問いに答えるものは、いない。
地を照らす日差しが洞窟の中へ差し込む。
眩い光がオレを照らす。
「……朝か」
《おはよう一刀。よく眠れたか?》
「ああ。久しぶりに安眠できたよ。」
睡眠は人間の三大欲求の一つだ。睡眠無くして人は生きられない。それほどまでに重要な要素を十全に満たせなかった一刀にとって昨晩の睡眠は非常に有意義で充実した時間だった。
《今日はどうする? 大陸を回るか?》
「そうだな……」
思案を続ける一刀。昨晩は襲い来る眠気に耐えられずに休眠を取った。目的の大陸巡回はまだ終わっていない。
「巡回を続ける。何かしら得るものはあるだろう。」
《了解した。……む?》
「どうした?」
《前方約10メートル先。何かいるぞ。》
「……ああ、確認した。」
微かに見える砂塵。それは徐々に物体がこちらへ接近している事実を知らせる手がかりだ。
匂いを辿る。
「民草では無い、か。」
《どうする一刀。》
問いかけるアルビオン。
「決まっている。放置だ。」
一刀は基本無害だ。自分から殺しを行うことは無い。彼が殺しを行う時。それは愚者へ降す裁きの時のみだ。故に物体が自分に何もしなければ一刀は何もしない。
「よぉ兄さん。とりあえず死んでくれない?」
殺意とともに向けられた剣。
何もしない。そのつもりだった。それさえ無ければ。
「お頭、前方に男を発見しました。」
略奪も終わり、戦果を引提げながら帰る途中、手下の報告を受ける。
「男? どんな奴だ。」
尋ねる。
「この辺りじゃ見ない煌めく服を着ています。どこかの商家の息子でしょうか、えらく
無防備で。」
「ほう……」
口角が上がる。
「どうしますかお頭。」
「殺せ。その服は俺にもってこい。お前に任せる。」
「へぃ。」
去っていく手下を見送る。今日は全く運がいい。
「いずれ、俺は皇帝になって……ヒヒ」
酒池肉林の毎日を過ごす己を思い浮かべる。次々に女を犯し、美酒という美酒を飲む。誰も己を止めるものはいない。
「皇帝……フヒヒ」
下卑た妄想に浸る男の元に手下が来る。
「お、お頭!!」
慌てている。
「なんだ騒々しい。俺は今将来の計画をだな……」
「それどころじゃねえ!! 早く逃げてくだせぇ!! じゃねえと……ッ!!」
「……は?」
手下の言葉はそこで終わった。真っ二つに体を引き裂かれたからだ。
手下の言葉はそこで終わった。言葉を発することを許されなかったからだ。
誰に引き裂かれたのか。誰に許されなかったのか。そんな残虐を降すものなど決まっている。
「お前が頭か、塵屑?」
地の底から響く怒りの音。それは白が奏でる絶望の唄。歪んだ顔にあるのは怒り。強者であるはずの自分を弱者と捉え、略奪を図った罪人への揺らぎない殺意。
大地は恐怖を抱く。生きていないそれらが抱くにはあまりにも異質なソレ。
残酷は嗤う。皇帝は嗤う。白銀は嗤う。
ただ残酷に笑い続ける。
生き物は予感した。
……蹂躙が始まる、と。
約三か月も放っておいてお前は何をしているのだ、という声が聞こえてきます。・・・申し訳ございません。
理由ですが、一度考えたプロットがどうにも納得できず、すべて書き直しておりました。故にここまで時間がかかってしまったのです。お待ちいただいた読者の皆様、長らくお待たせいたしまして大変申し訳ございませんでした。