サブキャラ転生〜金色は闇で輝く〜   作:Rosen 13

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第13話

 普段は私の癒しの空間だった和室が緊迫した重苦しい空気に包まれている。

 時折庭から聞こえてくる添水の音が部屋の緊張感を煽るように感じてしまうのは決して気のせいではないだろう。

 

 篠ノ之束

 

 彼女の突然の来訪は私だけでなく普段は沈着冷静なナンシーを始めとした私の世話役達をも慌てさせた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 事の始まりは数分前に私の携帯にかかってきた一本の電話からだった。

 相手はボス。

 

 

『やあ、僕の天使。さっき束に娘に会ってって頼んだらOK貰えたからこれから和室に向かわせるね』

 

『はあ!? ちょっとパパ……じゃなくてボス、それってどういうーー』

 

『久しぶりにティナのパパ発言キター! これで後二十四時間頑張れる。じゃあね、愛してるよ』

 

『いや愛してるじゃなくて説明を』ガチャ

 

 

 ツー、ツー、ツー

 

 ……切れやがった。無言で携帯を見つめる。

 

 

「あの、お嬢様……?」

 

 

 携帯を強く握りしめて、わなわなと身体を震わせる私にナンシーは心配そうに恐る恐る問いかけた。

 

 

「あー、なんかこれから篠ノ之博士が来るみたい」

 

「え?」

 

 

 キョトンとするナンシー。

 うん、その反応はわかる。だって私もまったく状況が理解できてないから。

 

 ただ分かっていることは、これから篠ノ之博士がここにやってくるということだけ。

 

 時間が経つにつれて、ふつふつとボスへの怒りが湧き上がってきた。いくらボスといってもせめて数日前に連絡するのが筋じゃないのか。向こうからしたらサプライズのつもりだったのかもしれないけど、それを急に言われたこちらの身を考えてみろ。

 

「とにかく大至急、博士をもてなす準備をしてちょうだい」

 

 怒りで頭の中が沸騰しかけてた私がなんとか出せた指示はそれだけだった。

 

 

 

 

 

 電話がかかってきてからおよそ十分が経過すると、本当に篠ノ之博士がやってきた。スーツの上に白衣という格好で神妙な顔つきをしている。

 もてなしの準備は元々こまめに部屋の掃除や整理整頓をしていたのとナンシーや臨時に手伝わせたメイド達の奮闘によって博士が部屋に到着する前にある程度は完了することができた。しかし最上級だとは言えず、この会合の出来不出来は実際に博士と話す私自身にかかっているといえる。

 救出作戦以降、篠ノ之博士は情報隠匿のあめファミリーとの接触は最低限となっていて、彼女に会えるのはボスと彼女が許可した一部の幹部のみとなっていた。名ばかり幹部の私は当然会うことはできないはずなのに何故私は篠ノ之博士と対談する事態になるんだ……

 ああ……また胃が痛くなってきた。しかも今回に至ってはスコールは別件で離れているせいで彼女の助力を得ることができない。これなら先日の会議の方が断然マシだったわ。

 オータム? 知らない子ですね。

 

 

「どうぞ、粗茶ですが」

 

 

 博士が到着し、それぞれ軽く挨拶を交わした後、私たちはお互いに正座で向かい合い、私は和室の空間に相応しく緑茶と和菓子を黒漆の盆に乗せて差し出した。

 

 

「これはどうもご丁寧に。あっ、美味しい……」

 

 

 博士は美しい所作でお茶を飲むと、その美味しさに驚いたようだ。最初の掴みに成功したことに内心ガッツポーズを決める。

 

 

「それはよかった。実はこのお茶に使ってる茶葉はファミリー所有の農場につくらせていたものなんですよ」

 

「嘘っ!?てっきり日本産かと思ってたよ。アメリカでもこんなに美味しいのが飲めるんだ」

 

「日本から農家や専門家を雇ったりと日本より日本らしさを追求した結果です。ちなみに一緒にお出しした和菓子は日本の老舗から引き抜いたファミリー専属の和菓子職人によるものですよ」

 

 

 そう私が薦めると、博士はゴクリと喉を鳴らして恐る恐る和菓子を口へ運ぶ。和菓子を口に含んだ途端、彼女の目は驚きのあまりカッと見開いた。

 

 

「うわっ、これすっごく美味しい! 日本にいたときもこんな美味しい和菓子は食べたことがないよ!」

 

 

 目を輝かせて喜ぶ姿に私はほっと胸を撫で下ろした。お茶を飲んだ頃から上がっていた博士のテンションはさらに上がり、最初の重苦しさは霧散している。

 よし、『和』に重点を置いたもてなしは大成功だ。少ない時間で最大限の準備をしてくれたナンシーや職人たちには本当に頭が上がらないよ。

 

 

「いや~、この和菓子といい和室の雰囲気といい、ちょっと実家が懐かしくなっちゃったよ。エドに『ティナの日本へのこだわりはちょっとした病気だから、束は気にいるんじゃない』って勧められたけど、予想以上のクオリティで束さんびっくり!まるで本当に日本にいるみたい!」

 

「日本人の篠ノ之博士にそう賞賛されてくれるなんて光栄です。ですが驚くのはまだ早いですよ。和室の外には縁側と庭園がーーー」

 

 

 気づけば私たちは日本談義で見事に意気投合し、いつの間にか博士から『なーちゃん』と呼ばれるまで気に入られて、私も博士から束さんと呼ぶようになった。日本文化について語れる仲間が欲しかったらしい。日本談義では特にサブカルチャーの話題が盛り上がった。束さんがゲームやアニメを見ているとは思わなかった。本人曰く、発想のヒントになるし、暇なときはアニメなどに登場する道具を再現しているという。ただ最初に再現したのが透視ができるメガネってどうよ。

 最初は不安だったけど、いざ話してみると意外にもまともな性格だった。口調は原作の篠ノ之束と大して変わらないけど、他人を見下すことなく、普通にコミュニケーションをとることができる。天災ゆえに若干世間からズレてるのは否めないけど、中身はやや天然な常識人(?)だ。

 

 

「いや~、長い間逃亡生活してるとつい日本が恋しくなっちゃうんだよね。ほら、海外行ってると日本食が恋しくなるでしょ。それと同じ。で、ごく稀に我慢しきれないで日本に行くときがあるんだけど、そこら中に暗部やら変な組織やらがうようよいるからのんびり観光なんてできやしないよ。かといって箒ちゃんの様子を見にいってもねえ…… 」

 

「あれ? 束さんって妹さんとの仲って良くないんですか? 」

 

 

 原作だとウザいくらい構ってたけど、この世界だと姉妹仲は良くないのかな?

 そう思ってたら束さんは笑いながらそれを否定する。

 

 

「うんにゃ、そんなことないよ。寧ろ仲は良い方だね。ただ……」

 

「ただ?」

 

「様子を見に行く度に箒ちゃんが束さんとは別のベクトルで人外に成長してるんだ……」

 

 

 束さんは何故か遠い目をしている。

 

 

「この前見たときなんか箒ちゃんに絡んできた不良共をボールペン一本で瞬殺してたんだよ。何でボールペンで鉄パイプを真っ二つにできたんだろう……ちーちゃんならできるのかな? 」

 

 

 ちょっと待って。それ本当に篠ノ之箒なの? 私の知ってる篠ノ之箒とは全くの別人だよそれ。

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