サブキャラ転生〜金色は闇で輝く〜   作:Rosen 13

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第21話

 束さんの一言に俺は言葉を失った。

 

 

「うーん、何故って顔をしているね。まあ、束さん的には今回の件はちーちゃんに同情するけど、それ以外のことは少し思うことがあるのさ。だからちーちゃんにいっくんのことをいわなかった」

 

「思うところ? 」

 

「まあ、色々だよ。怪我人のいっくんに話すようなものではないし、楽しい話題じゃないからね」

 

 

 暗に話すつもりはないと示した束さんに、俺は「そっか」としか言えなかった。なんだかんだあっても姉貴と束さんは仲が良かったと思っていたが、どうやら色々と確執があったみたいだ。束さんがあまり言いたがらないので、これ以上知る由はない。

 しばらく沈黙したのち、束さんは手を叩いてこう切り出した。

 

「ハイハイ、暗いお話はこれで終いにしよっか。それで、これからいっくんはどうしたい?」

 

「どうしたいって……? 」

 

 

 質問が漠然としすぎて、どう答えればよいか窮していると、束さんは苦笑いしながらごめんごめん、と謝ってきた。

 

 

「やっぱり、いきなり言われて困惑するよね。束さん、ちょっと焦ってたみたい。じゃあ、まず最初に今のいっくんの状況について説明しておこうかな」

 

「助かります。正直自分でも状況がわかっていないので…… 」

 

「だよねえ。じゃ、説明するね。今、いっくんはアメリカ西海岸のとある病院に入院しています。この病院はちょっと特殊で一般人が入れない場所なんだけど、その中でもいっくんがここにいるという情報は秘匿されているよ。いっくんの存在を知っているのは君の主治医をはじめとした一部の人間だけさ。当然ちーちゃんもいっくんがここにいることは知らない。世間ではいっくんは行方不明扱いになっているけど、誘拐の事実を知っている奴らはいっくんは死んだと思い込んでいるみたいだね、特に日本政府上層部とか。ちーちゃんはいっくんが死んだとは信じていないみたいだけど、あれはまだ状況を受け止められていないってだけかな」

 

 束の説明を聞く限り、どうやら俺が救出された後の現場は誰が殺されたのか、誰の血なのかわからないほど悲惨な状況だったらしく、俺がどうなっているか判断できなかったようだ。

 そのため俺の扱いについて死亡にするか行方不明にするかでかなり揉めたのこと。結局は死亡と断定できるほど材料がないということで行方不明で落ち着いたようだ。

 それでもほぼ生存は絶望的と思われているようで千冬姉もいずれ俺の死を受け入れるかもしれない。いや死んでないけど。

 

 

「話を戻すけど、いっくんはこれからどうしたい? 過去のことを忘れて新天地で生きるのもあり、このまま束さんに養われるのもありだ。ちなみに束さん的には二番がおすすめだよ」

 

 

 束さんはニャハハと笑う。冗談かと思ったけど、目がマジだった。こわい。

 

 

「それとも、ちーちゃんのもとに戻りたい? いっくんが望むなら不本意だけど、ちゃんと戻してあげるよ。いっくんが本当に望むのならね」

 

「…………………… 」

 

「もう気づいているかもしれないけど、私は今までのいっくんの状況を知っている」

 

 

 束さんの一人称が“私”に変わった。これは束さんが一切のおふざけを排除して真剣になった証拠だ。

 薄々気づいていたけれど、やっぱり束さんは俺の状態を把握していた。

 

 

「はっきり言わせてもらうけど、私はいっくんをあんなところに戻すのは反対なんだ。たとえちーちゃんが泣いて懇願しても、いっくんが望まない限り、私はちーちゃんのもとに帰すつもりはないよ」

 

 

 ────あんなところ。

 

 今、思い返せばこれまで俺が置かれた環境は正直イカれていたと思う。

 以前から出来のいい千冬姉や兄貴と比較されてきたが、ISが登場してからはそれが更にタチが悪くなった気がする。ISの登場により誕生した極端な女尊男卑思想。しかもIS界の有名人である千冬姉の弟というだけで、いわゆる千冬姉の信者に攻撃され始めた。

 兄貴の方は神童と持て囃されていたのに対し、出来損ないと呼ばれた俺への攻撃はより強くなっていった。気づけば千冬姉の信者以外に兄貴の取り巻きやそれまでごく普通の関係だった同級生からも織斑の出来損ないとして見下されていた。

 多分イジメだったかもしれない。誰がけしかけたかは知らないが、一度不良グループに襲われたときは秘密裏に撃退した。それ以降、襲われることはなくなったが、代わりに陰湿な嫌がらせが続いた。鈴や弾といった友人の支えがなかったら、俺は心が折れていたと思う。

 千冬姉は多忙で俺の状況を知らなかったと思うけど、一方で俺を褒めることは一度もなかった。兄貴の方が成績が良かったから仕方ない部分があったけど、目の前で兄貴が褒められているのに自分には叱責や溜息をつかれるだけなのは、なかなかくるものがあったのも事実だ。

 なるほど、これは束さんが嫌悪するわけだ。どうやら過去の俺はかなり感覚が麻痺していたらしい。一度殺されかけたからか、今は却って自分を俯瞰的に見ることができた。

 

 

「あー…… 振り返ってみると、俺よくあんな環境で生きていましたよね。普通に迫害でしたもん、あれ」

 

「だよね。束さんも初めてこれを知ったときは本気で核を撃ちこもうかと思ったもん。スイッチ押す直前に思いとどまったけど」

 

 

 さらっと恐ろしいこと言ってるよ、この人。というかさっきから目が笑ってねえし。

 

 

「まあ、言っておきますけど、俺は織斑に戻るつもりはありませんよ。千冬姉には気の毒だけど、向こうには兄貴がいるから俺がいなくても大丈夫でしょう。それにまた迫害されるのは御免被ります」

 

 

 行方不明のまま消えることで鈴や弾たちを悲しませるのは心残りだが、正直言って今の俺に日本に帰りたいという意思はなかった。

 もちろんさっき言ったことも理由のひとつでもあるけど、なにより自分を見捨てた日本政府に対する不信感があった。

 

 誰が自らの失態を隠蔽したいがために俺の死を望んでいる政府のお膝下に戻ろうとするのだろうか。

 

 

「そう。いっくんがそう言うなら束さんも全力で協力しようじゃないか。たとえちーちゃんがクレーマーの如く束さんに鬼電してきても返り討ちにしてあげる」

 

 

 そう言って束さんは俺の意見を尊重してくれて今後のサポートを申し出てくれた。

 

 

「ありがとう束さん。でもこれからどうするかは全くのノープランなんですけどね」

 

「そんなの束さんが養ってあげるから気にすることないのに…… 」

 

「いくらなんでもそこまで甘えるわけにはいきませんって。今でも十分過ぎるくらい恩をいただいているのに、これ以上もらったら返せなくなっちゃいますよ」

 

「子供がそんなこと言わないの。恩とか関係なく私がいっくんを助けたかったから助けただけなんだから。もっとお姉さんな束さんに甘えちゃってもいいんだよ? でもいっくんが気が引けるなら天災束さんがひとつアイデアを教えてしんぜよう。というわけでもう出てきていいよ。

 

 ────そこにいるんでしょ、なーちゃん」

 

 

 なーちゃん? 束さんの視線が病室の出入り口に向く。俺も出入り口に視線を送ると、少し間が空いてゆっくりと出入り口の扉が開いた。

 

 

「はあ、何か面倒なタイミングにここに来ちゃったみたいね」

 

 

 腰に手を当て、溜息交じで部屋に入ってきたのは俺と同じくらいの歳か少し上に見える金髪の少女だった。しかし落ち着いた雰囲気から見た目より大人びた印象を受ける。

 

「久しぶりだね、なーちゃん! 」

 

「お久しぶりです。最後に会ったのは彼を引き渡したとき以来でしたか」

 

 

 少女がちらっと俺の方を見た。

 束さんの知り合い? それに二人の話からして彼って俺のことか?

 頭の中が混乱していると、少女がこちらに近づいてきた。

 

 

「あなたのことは話に聞いているわ。初めまして……ではないと思うけど、ティナ・ハミルトンよ。よろしく、イチカ・オリムラ」

「よ、よろしく。織斑一夏です。あの、初めましてではないってどういう…… 」

 

 

 ティナ・ハミルトンが笑顔で差し出した手を握り返したが、「初めてましてではない」という言葉に困惑を隠せない。

 束さんとも親しそうだったし、どうやら俺のことを知っているようだ。

 

 彼女は一体何者なのだろうか。

 

 これがのちに長い付き合いとなる俺とティナ・ハミルトンの初めての邂逅だった。

 

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