サブキャラ転生〜金色は闇で輝く〜   作:Rosen 13

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第25話

 イチカを伴ってハミルトン・インダストリーにあるラボを訪れると丁度ウチの隊員達が模擬戦をおこなっていた。

 三機のISが実験場で舞っている姿を見てイチカは言葉を失っている。

 

「ほらほら動きが鈍くなってるわよ。それとももう限界かしら?」

 

 第二世代のグレイズを駆るスコールは一対二の状況でありながら対峙する他のグレイズ二機を翻弄していた。

 的確な位置取りと無駄のない動きで銃弾を避けるさまは見事の一言に尽きる。なかなかスコールにダメージを与えられないことに焦りか苛立ちがでたのか、二機のグレイズの動きは次第に精彩を欠いていく。

 

 

「くそがっ、なめやがって!」

 

 

 しびれを切らした一機がスコールの挑発に乗り、銃撃を止めてスコールめがけて突貫を仕掛ける。もう一方が「ダメ!」と制止したときにはすでに手遅れで、二機の距離は離れすぎてしまっていた。

 突貫をしかけたグレイズは被弾覚悟でイグニッション・ブーストを繰り返して、徐々にスコールとの距離を詰めるがスコールは余裕を崩さない。

 

 

「とどけえええぇえぇえ!」

 

 

 ブレードを展開して刃をスコールへ突き出す。

 スコールはなぜかそれを避けようともせず、そのまま刃が装甲に届くかと思われた。

 

 

「はい残念♪」

 

 

 陽気なスコールの声と同時に突貫したグレイズの胸に巨大な杭が突き刺さった。

 

 

「……え?」

 

 

 困惑した声を上げたグレイズは突き刺さった杭の勢いに押されてそのまま地上へ墜ちる。スコールの手にはそれまで使っていたマシンガンから無骨で巨大なパイルバンカーが握られていた。

 パイルバンカーをもろに浴びたグレイズは一気にSEをゼロに削られてそのまま戦闘不能。もう片方のグレイズも奮闘はしたが、練度と技量で勝っているスコールに徐々に追い詰められて結局力負けした。

 

 

「やっぱりキサラギのパイルバンカーはひと味違うわね。五発しか撃てないのと扱いにくさが玉に瑕だけど」

 

 

 グレイズから降りたスコールは上機嫌そうで、さっきまで模擬戦をした疲れを微塵も感じさせない。

 

 

「くそぅ、また勝てなかったぜ」

 

「残念無念」

 

 

 一方スコールを相手した二人は疲労困憊と地面にへたりこんでいた。二人ともたくさんの汗をかいており、しばらく立ち上がれなさそうだ。

 

 

「情けないわね。そんなんじゃあオータムの練習相手にもならないわよ。オニキス、トリフェーン」

 

 

 オニキス、トリフェーンと呼ばれた二人はスコールのジト目から逃れるように同時に視線をそらした。

 彼女達は篠ノ之博士を襲撃した実行犯だったメンバーだ。篠ノ之博士に返り討ちに遭い、駆けつけた私達に捕らわれた彼女達はハミルトンファミリーで尋問された。その際に彼女達の飼い主だった女性権利団体に見捨てられたことや彼女達に関心がない篠ノ之博士からハミルトンファミリーに丸投げされたこと、彼女達に利用価値があることなど様々な事情もあって今ではウチの隊員となっている。最初は反発気味だったけど実力で黙らせたら従順になった。

 かつて隊長と呼ばれた一人を除いたメンバーはスコール達にはまだ勝てないけど、代表候補生程度に遅れをとらないくらいの実力はある。なんでも元々彼女達はそれぞれ傭兵上がりだったらしい。ISの技量が劣っていても戦闘のセンスは極めて高く、ISなしの肉弾戦ではウチの男衆と互角かそれ以上の実力をもっているので、よく私の練習相手になっている。肉弾戦ではまだまだ彼女達に敵わない。

 

 

「あらティナの隣にいるのってもしかして……」

 

 

 クールダウン中のスコールが一夏の存在に気づく。スコールの声で他のメンバーも普段見慣れない人物が私の隣にいることにようやく気づいた。隊員達から注目を浴びた一夏は若干居心地が悪そうだったが、彼女達の視線を不快に感じてはいないようだ。

 

 

「紹介するわ。最近までママの副官を務めていたから顔を合わせるのが初めての人がほとんどかもしれないけど、彼はイチカ・ハミルトン。私の義弟よ」

 

「へえ、あなたが例の自由人の手綱を握ってたイチカね。私はスコール。IS部隊副隊長とティナの代理をやっているわ。よろしく」

 

「こちらこそ。けど手綱を握ってたなんて過大評価もいいところさ。本当にあの人の手綱を握れるのはボスくらいだからな」

 

「違いないわね」

 

 

 どうやらスコールはイチカのことを気に入ったようで笑顔でイチカと握手を交わした。その後に紹介した他のメンバーもイチカに対し比較的好意的だった。その要因としてウチのメンバーに女尊男卑主義者がいないので歪んだフィルターでイチカを見なかったこと、メンバーがイチカの評判を知っていたことが大きかった。

 

 

「というわけで今回イチカには私の勇姿を見てもらおうと思います」

 

「いやどういうわけよ」

 

 

 はいスコールそこつっこまない。スコールが呆れ顔してるがスルー。

 私は今イチカに飢えている。なぜならイチカが屋敷にいるのは久々で、前回いたときは私がどんなことをしてるのか全然話せなかったからだ。

 出会った当初は原作主人公云々と複雑だったけれど、今ではひとりの義弟としてイチカのことを家族だと思っている。だから今回こそIS部隊の紹介をすると同時に私の仕事ぶりを見てもらいたい。そしてあわよくば「お義姉ちゃんかっこいい」って褒めてほしい(本音)。

 

 

「なのでオータム、模擬戦しよっか♪」

「うへっ、まじかよ」

 

 

 とまあ、こういった流れで私はオータムと模擬戦することになった。

 私とオータムが展開しているのは互いに第二世代のグレイズ。しかし同じ機体ではあるが、お互いのグレイズの見た目は大きく異なっている。

 まずオータムの機体は基本的にグレイズの標準装備のままだ。粗雑な口調が目立つオータムだが戦い方に関しては意外と堅実で奇をてらしたものではない。そのため兵装もあまり奇抜なものは使用していない。

 一方私のグレイズは標準装備のオータムのグレイズと違ってかなりの重装備になっている。標準装備のマシンガンとアックスは外しており、長距離ライフルとアサルトライフル、近接用の小型ブレードを二本、そして右肩にはチェインガンに左肩には六連装ミサイルポッドを装備している。その他に切り札のとっつきや実用性は皆無だけど個人的な趣味で入れてる火炎放射器などもある。正直チェインガンで少し重量オーバー気味なので本来のグレイズより若干スピードが劣るけれど、同じ第二世代の打鉄よりはスピードはあるから決して鈍足ってわけではない。

 

 

「ったく、相変わらずゴテゴテな重装備だなあ。そんなんで動けるのかよ」

 

 

 オータムが呆れながら私の装備を見て舌打ちする。

 

 

「それ、いつも言ってるじゃない。もしかしてもう更年期? スコールより若いくせ「ティナ?」ハイゴメンナサイ」

 

「何やってんだよ……あと更年期じゃねえって。そんなのはスコールに「オータム?」あっスマン」

 

 

 スコールは笑顔だがゴゴゴゴゴゴゴッと恐ろしい凄みが全身からあふれ出して、私とオータムは小動物のように震えていた。

 女性に年齢のことでイジってはいけない(戒め)。

 

 

「ま、まあ、気を取り直してはじめようか」

 

「お、おう」

 

 

 なんだか締まらない感じではじまった模擬戦だったけど、いざはじまれば互いに気持ちは完全に切り替わっている。

 私は模擬戦の開始と当時にオータムから一気に距離をとり、ライフルでオータムの動きを牽制する。

 機体性能と濃密な鍛錬の成果によって近距離から遠距離まで戦闘をこなすことができるが、私が最も得意とする戦法は遠距離からの引き撃ちだ。高機動での戦闘も得意ではあるけど、私の射撃に特化した能力を十全に発揮できるのは引き撃ちだった。そのため私の装備は射程距離が長い兵装が主体となっている。チェインガンは一発のダメージが大きくなく、そこまで射程距離は長くはないが、その代わり近中距離戦では十分な火力と牽制用として機能しているので重宝している。使っている間はあまり動けなくなるのは玉に瑕だけど。

 相手が近づいてきたら距離をとり、逆に遠のいたらある程度の距離を保ちながら接近していく。言葉にしてみれば簡単そうに聞こえるかもしれないけれど、これが意外と難しい。なぜなら常に自分と相手の位置と距離を正確に把握し続けるのとISの操作、装備の有効距離、選択、不意を突かれないように相手の動きの予測と観察を同時におこなわければならないからだ。もちろんこれは一般的なISのパイロットにも求められることだけど、特に私の場合は射撃の能力を最大限生かすためにこれらの動きを他の誰よりも高精度におこなわなければならなかった。

 こちらが射程距離ギリギリからライフルで射撃を繰り返し、オータムが懐に飛び込もうとすればチェインガンで蜂の巣にする。チェインガンのダメージを無視して近づいてみようものなら六連装ミサイルポッドが火を噴く。しかし弾数は有限で撃ち尽くしたらその兵装はIS内にしまうかパージするかの二択だ。

 普段なら時折長距離ライフルを織り込んで遠距離から地道に削るか、こちらの弾が尽きるのを待つ相手の思惑に乗って近距離で決着をつけるつもりだけど、今回はイチカが見ているわけだからそんな地味で時間がかかる方法をとるつもりはない。

 私はライフルとチェインガン、ミサイルポッドをパージして、ブレード二振りを展開させた。

 

 

「あん? いつもみてえにチマチマやんねえのか」

 

「今日はちょっとね。たまにはこういうのもいいでしょ」

 

「ハッ、どうせ愛しい義弟ちゃんに恰好つけたいだけだろうが。でもいいぜ。最近はオニキスぐらいしか付き合ってくれねえから少し退屈にしてたんだ」

 

 

 そう言うとオータムは小さい子供が見たら号泣しそうな凶悪な笑顔でアックスを展開させた。標準装備であるためやや小型で扱いやすいアックスをクルクルと掌で回し、手になじませるとオータムは嬉々とした表情でアックスの刃先を私のいる方向に突きつける。

 

「久々の喧嘩だ。簡単にくたばんじゃねえぞ」

 

「それはこっちのセリフよ。イチカの前で無様な姿は見せるつもりなんてないわ」

 

 

 待っててイチカ、お姉ちゃんが格好いい勇姿を見せてあげるから! 

 

 そう意気込んでチラッとイチカのいる場所を覗き見た。

 

 

 あれ、なんかイチカが光ってるんですけど……

 

 オータムもその様子に気づいたようで私と同じようにイチカを見つめていた。

 

 そしてようやく光が消えると───イチカがグレイズを纏っていました。

 

 

「「えええええええええええええええ!?」」

 


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