イチカがISを学び始めてからしばらくの月日が経った。初めは基礎訓練に終始してたイチカも最近ではすっかり動かし方を理解してオータム達と実戦経験を積んでいる。まだまだオータムらの壁は厚く、勝ち星を上げられていないけど、努力の成果か少しずつその差を縮めつつある。私もまだイチカに圧勝することはできているけど、このペースじゃいつか追いつかれてしまいそうだ。
そんな折に久しぶりに上からクラウンとしての依頼が舞い降りてきた。ここ最近は篠ノ之博士救出以来何もやることがなかったから自然とやる気が上がる。シマの治安も改善傾向にあるし、女性権利団体が介入してきたヤクの密売も私らで壊滅状態にさせてからすっかり大人しくなっている。ちょこちょこトラブルは出てるらしいけど、それは表の男衆が解決させているから議題に上るほど大きくなっていない。
さてそんな中で言い渡された今回の任務なんだけどどうも毛色が違うようで些か面倒な事案だったりする。
「どこかの組織を潰すのかと思ってたけど、今度はフランスでお姫様の救出ねえ……」
「オレらは白馬の王子様じゃねえんだけどな。しかし依頼主があのデュノア社の社長だとは」
スコールとオータムは作戦が記された資料を読みながら微妙な表情を浮かべる。私もこんな任務を言い渡されるとは思っていなかったよ。だいたいフランスは私たちのシマの外だしあのISシェア世界第三位のデュノア社とハミルトン・ファミリーにつながりがあったなんて思わないじゃん。
なんでもパパとデュノア社の社長は友人関係らしく昔はファミリーの方にも取引があったらしい。デュノア社が大きくなり始めてからは周囲の目が厳しく取引は断念してたみたいだけど、交友関係は続いてたらしい。
で、ここからが肝心なんだけどデュノア社の社長には一人娘がいた。それも今の社長夫人ではなくいわゆる愛人との子らしい。けれど実態は違って愛人ではなく元々将来を約束した恋人同士だった。しかし周囲は二人の仲を認めず、女性権利団体関係にコネクションを持っていた大企業の令嬢と無理矢理結婚させてしまった。それが今の社長夫人で恋人同士の二人は泣く泣く別れることになった。しかしこの段階で恋人は社長との子供を身ごもっていて、後にひとりで出産し密かに育てていた。社長は娘に気づいていたようで匿名で援助していたみたいだけどそれが夫人にばれた。夫人は母娘の存在が気に入らなかったらしく、自分の配下に二人を消そうと画策してるらしい。社長も保護に動こうとしたみたいだけど夫人に牽制を受けてていて身動きがとれないらしい。そこで友人のパパに助けを求めたみたい。
これって完全にシャルロット・デュノアのことだよね。原作だとそのままデュノア社の駒にされていたけど、もし助け出すとしたら一体どうなるんだろうか。
というか助けるなら別にクラウンじゃなくてもいいと思ったけど、パパがいうには向こうがIS動かしてくる可能性が高いそうだ。ISが出てくるならクラウンに出番が回ってくるのは必然だ。
さて本作戦の目的はシャルロットおよびその母マリーナの救出となる。夫人側も消しに動いているらしいのでこちらも早く行動することになりそうだ。
「メンバーはどうする? 大人数だと動きずらいし、ひとりじゃ救出は難しいね」
「ベストは二、三人ってところかしら。あとはバックアップに数人ほしいわね」
「となると実行班はオータム、私、スコールにする?」
スコールは首を横に振る。
「今回は私はバックアップに入って司令塔の役割を担った方がいいかもしれないわ。オータムとティナは実行班でいいわ。私の代わりはそうね。トリフェーンでもいいかもしれないけど、貴女の方が適任かもしれないわね……」
そう言うとスコールはオニキス達から隊長と呼ばれた女性──マドカに目を向けた。
「私か?」
壁に背を預けていたやや小柄な女性。歳は二十代前半で目つきが鋭く、そしてあの織斑千冬と瓜二つ。まさかと思ったけど彼女はマドカと名乗っていた。原作と違って成人済みで傭兵をやっていたとは思わず、最初は信じられなかったけど、篠ノ之博士が驚きイチカが本物と見間違ったくらい織斑千冬とそっくりということもあってやはりマドカなのではと確信する。
そんなマドカに今回の作戦の白羽の矢が立つ。隊長もといマドカとは訓練で何度か一緒にコンビを組むことがあったけど彼女の実力は本物だ。近距離も遠距離もこなせるオールラウンダーで近接武器には刀を愛用している。彼女なら今回の作戦でも十分力を発揮してくれるはずだ。
こうして救出の実行メンバーは私とオータム、マドカの三人で決まりミーティングがこれで一度お開きになった。今回の作戦には当然だがイチカは同行しない。バックアップとしては優秀なのだろうけど今回の作戦にはイチカは不向きだった。
「ということでごめん。しばらくイチカの練習相手ができなくなっちゃった」
「仕事なら仕方ねえって。しばらくの間は束さんのところに通って座学に専念するよ。あとは同僚と筋トレとかかなあ」