サブキャラ転生〜金色は闇で輝く〜   作:Rosen 13

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第4話

 人生とはそうそう上手くはいかないものだ。それは強力なチートを持った転生者すら例外ではない。

 

 ISの登場によって大きく変化した世界で、ティナ・ハミルトンもまた時代のうねりに巻き込まれていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 数発の銃声と薬莢の落ちる音が屋敷の地下にある射撃場に響く。

 

 

「ふう、まあまあね」

 

 

 構えてた愛銃ベレッタM92を降ろし、後ろに控えているメイドのナンシー・ブラウンケットからタオルを受け取る。射撃のためにつけていた耳当てとサングラスを外した私の視線の先には頭と心臓の部分を貫かれた人型の的があった。

 十発中五発が頭、もう五発が心臓部分に命中したけど、今回は銃を構えて撃つまで普段よりわずかに時間がかかった。一方で前と比べて命中精度は上がっているのは収穫だろう。

 

 

「お嬢様、先程ヤスから伝言を受け取りました。旦那様がお呼びのようです」

 

 

 ナンシーから召集の旨が伝えられた。ヤスとはパパの腹心で、パパと私との連絡役であるヤスティンのことだ。よくナンシーに軽口を叩いては怒られてる。白騎士事件の時に和室に駆け込んできたのは彼だった。

 

 

「ヤスが?姿は見えないようだけど」

 

「ヤスは射撃場の外に立たせています。今のお嬢様の姿を見せるわけにはいきませんから」

 

 

 ナンシーの言葉で今の自分の姿がどうなっているかようやく思い出した。

 今の自分が着ているのは白の薄手のTシャツにデニムのショートパンツ。しかも地下は蒸し暑く、汗のせいで服はびっしょり濡れている。ピンクの下着が完全に透けていた。うわ、ナンシーに言われるまでまったく気づかなかった。

 

 IS登場から数年経った私は中学生とは思えないほど身体が発達している。すでに前世の頃より胸が大きい。たしかにこんな姿はヤスには見せられないし、もし見てしまったらヤスはナンシーとパパに殺されるかもしれない。

 

 

「あー、着替えってある?」

 

「こんなことがあろうかと、ちゃんと用意しております」

 

 

 流石ナンシー。でも何でナンシーはメイド服着てるのに汗ひとつかかないのだろう。ここ室温三十度近くあるんだけど。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「やあティナ。よく来てくれたね」

 

 

 部屋に到着すると、パパが笑顔で私に抱きついてきた。親子のスキンシップだとしても最近激しすぎて結構ウザったい。

 

 

「はいはい、自分から呼び出した癖に何言ってるの。で、何か用?」

 

 

 両手を突き出して強引にホールドを解くと、パパはなんか落ち込んでた。

 

 

「言葉のキャッチボールくらい付き合ってよ……まあ、いいや」

 

「いや、良いのかよ」

 

「よく考えたらティナと話せればそれで良いからね。とまあ、世間話はここまでにしよう」

 

 

 今の、世間話だったの?

 

 

「今回ティナを呼んだのは他でもない。君に頼みたいことがあるんだ」

 

「それはお願い?……それとも仕事(・・)?」

 

「仕事だね」

 

 

 無意識に声が低くなる。パパの声もそれまでの明るい口調からマフィアのボスとしての声へ一変し、一瞬で部屋の空気が下がったように感じた。

 

 

「……それで、仕事の内容は?」

 

 

 パパの冷徹な目に臆することなく、会話を続ける。明らかに娘に向ける目じゃないよね。慣れたけど。

 

 

「内容は篠ノ之束博士の救出。依頼人は博士自身だ」

 

「は?」

 

 

 思わず間抜けな声を出してしまった。じゃなくて、えっ、どういうこと?何がどうなって私達マフィアが篠ノ之束から自身救出を依頼されるの?

 

 

「そう言えばティナは知らないのか。実はね、私と篠ノ之博士は白騎士事件以前からの友人なんだよ」

 

「はあぁぁぁあ!?ちょっ、それどういうこと!?」

 

 

 パパが篠ノ之束と友人?しかもそれは白騎士事件より前のことだって?ナニソレイミワカンナイ。

 

 

「あはは……話せば長いんだけどね。ティナは白騎士事件前に篠ノ之博士が学会でISについての発表をしたことは知ってる?」

 

「もちろん。たしかそこでISの存在を認められなかったって聞いたわ。でもそれが今関係あるの?」

 

「まあね。ティナの言う通り、彼女の発表は子供の空想あるいは机上の空論と学者達に馬鹿にされたよ。あれは酷かった。一人の少女を大の大人達が一斉に責め立てるなんてね。彼女は最後まで発表したけど、結局ISの存在は認められなかった」

 

「パパはその場にいたの?」

 

 

 パパの語り方はまるで現場にいたかのように具体的で臨場感があった。

 

 

「偶然だけどね。友人に誘われたんだ。それまで彼女の存在なんて知らなかったよ。そして彼女が笑い者にされ会場を去ったとき、僕は彼女を追いかけたんだ。……えっ、友人はどうしたって?彼も彼女のことを笑ってたから置いてったよ。今じゃ友人ですらないね」

 

 

 そこまで言うと、パパは一息ついてコーヒーを口にする。

 

 

「ええと、僕が博士を追いかけるまで話したかな。何故追いかけたというと、僕には彼女の発表は素晴らしいと思ったんだ。ISは宇宙開発において新たな手段として用いられる存在になりうるとね」

 

 

 そしてパパは篠ノ之束と話をしてすっかり意気投合したらしい。パパは彼女に資金援助を申し入れたと話した。

 

 

「だけどいざ援助する直前、あの白騎士事件が起きてしまったんだ」

 

 

 あの事件をきっかけにISの存在が世間に認知されたが、おかげで世界から狙われた篠ノ之束とのコンタクトがとれなくなってしまった。そんなある時、彼女の方から連絡がきたのだ。

 

 

「彼女は泣いて僕に謝ってきたよ。『事件のせいでISが兵器として認知されてしまった。どれだけ宇宙開発用と発表しても相手にされなかった。宇宙開発としてのISに理解を示してくれた僕に申し訳ない』ってね」

 

 

 パパは話し終えると、すっかり冷めてしまったコーヒーを一気飲みした。

 

 私はパパが嘘を言ってるようには見えないし、言ってるとは思っていない。だけどパパのいう篠ノ之束とテレビで言われる傍若無人で我儘という篠ノ之束は全くの別人だ。原作の篠ノ之博士の性格はテレビのものと同じだけど、私がティナであるように篠ノ之束の性格も原作とは違うかもしれない。

 まだ原作知識や前世の記憶による先入観が消えたわけじゃないけど。

 

 

「正直、情報量が多すぎて混乱してるわ」

 

「そうだね「でも」うん?」

 

「パパが篠ノ之博士を助けたいことは分かったわ。今はそれで十分よ」

 

 

 ISの在り方とか篠ノ之博士の真意とかどうでもいい。そんなの本人に直接問い質せばいいだけだ。

 

 

「パパ……いやボス、命令を」

 

「うん。ハミルトン・ファミリーが首領、エドワード・ハミルトンがハミルトン・ファミリーIS部隊『クラウン』隊長ティナ・ハミルトンに命ずる。彼女を、篠ノ之博士を救出せよ」

 

「イエス・マイ・ロード。ハミルトンの名に誓って」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「ハア……」

 

 

 廊下を歩きながら溜息をつく。

 

 あれほど平穏を望んだのに今はIS部隊の隊長か。理想と真逆すぎて笑える。昔なら泣いてもISに関わろうとしなかっただろう。

 

 

「ああもう、これも全て女性権利団体のせいだ」

 

 

 そもそも『クラウン』が設立されることになったのは、大量のISを所持する女性権利団体が闇社会に介入し始めたからだ。

 ISの登場以降、女尊男卑を主張して勢力を伸ばしていた女性権利団体はさらなる利権を求めて闇社会に進出してきた。女性権利団体はISの武力を背景にそれまであった闇社会のルールを無視して好き勝手し始めたのだ。これに怒ったのはそれまで闇社会を支配していたマフィア達。

 だがISの存在は大きかった。ある時、ルールを無視して市場を荒らす女性権利団体に我慢できなくなったとあるマフィアがカチコミに入ったが、ISによって返り討ちに遭いファミリーは壊滅してしまった。

 その事件以後、ISの恐ろしさを思い知った多くのマフィアは女性権利団体に逆らうことができなくなり、彼女らの横暴にひたすら我慢を強いられることになる。

 だがハミルトン・ファミリーは彼女らの横暴に屈しなかった。ハミルトン・ファミリーはパパがかつて運営していて今やアメリカ有数の複合企業に成長した『ハミルトン・インダストリー』からISを横流しさせて自衛のIS部隊を設立した。これが『クラウン』である。

 

 しかし基本的に男所帯であるファミリーにISを動かせる女性は少ない。ナンシーすら適性がDという有様だ。そして最後に測った私の適性はまさかのA。パイロットとして文句なしだった。当時IS嫌いだった私を知るパパは難色を示した。外部を信用できない組織の長として考えるなら選択肢は私しかいない。しかし一人の親からすると娘が嫌がることをさせたくないというのが本音だった。

 私も最初は原作に関わりたくない一心でISに乗ることを拒否していた。だけもそんな時、ファミリーが恐れた事態が起こってしまった。

 ついに自分達のファミリーからISに襲われた者が現れたのだ。たまたま巻き込まれた構成員は幸いにも軽傷で済んだが、私はこの時ほど後悔したことはない。

 

 

 自分の我儘のせいでファミリーの一人が傷ついた。

 

 

 彼らとは血の繋がりなんてないけど、ファミリーの一員は皆私の家族だ。家族を傷つけられて黙っていられるはずがなかった。

 そして私は平穏を諦めて、戦いに身を投じることを選択した。必死に訓練して強くなった後、ファミリーを傷つけたISはしっかり報復した。戦利品としてコアを奪ったけどなんか未登録だったみたいだから、それはハミルトン・インダストリーに渡した。パイロットはファミリーの誰かに引き渡されたみたい。女尊男卑に染められ、ファミリーを馬鹿にした女だったからどんな目に遭おうがどうでも良い。

 

 と、過去を回想していたらいつの間に屋敷の武器庫まで着いていた。武器庫では黒服達によって格納されているハミルトン・インダストリーから流れた一機と戦闘で奪ったコアがベースの二機のISを大型トラックに積む作業が行われている。

 

 

「あらリーダー、出撃かしら?」

 

「やっとかよ。待ちくたびれたぜ」

 

 

 武器庫にはすでに『クラウン』のメンバーである二人の女性がいた。

 最初に私に話しかけた金髪の美女はスコール・ミューゼル、茶髪の美女でやや乱暴な口調なのはオータムだ。彼女達はパパがあるツテを使って引き入れたらしい。二人は原作だと亡国機業だったからそこから引き抜いたのかな。

『クラウン』のメンバーは私を含めた三人だけだけど、それぞれ歴戦の猛者だから戦力的にはそこらの雑兵なんて相手にならない。

 

 ISの積み込みが完了し、私達はトラックの荷台乗りこんで現場へと向かう。本当なら屋敷からISを展開していきたいが、エネルギーの節約と政府に感知されないためにある程度の位置までトラックでの移動となる。

 しばらく経つとトラックの動きが止まる。どうやら到着したらしい。

 

 

「ミッションを確認するわよ。私達の目的は篠ノ之束の救出、そして敵は恐らく女性権利団体か亡国機業。ISは複数の可能性が高いわ。何か質問は?」

 

 

 すると、スコールが手を挙げた。

 

 

「敵の対処はどうするかしら?」

 

「敵の生死は問わないわ。コアも可能なら回収してちょうだい。オータムは質問ある?」

 

「いや、特にないぜ」

 

 

『お嬢、ポイントに到着しました。いつでも出撃可能です』

 

 

 無線で運転手の黒服から改めて連絡が入る。

 

 

「ではこれから出撃準備に入ってください」

 

「「了解! 」」

 

 

 トラックに搭載された三機の内、私は緑色の全身装甲の機体を装着する。シンプルかつシャープなデザインで赤いモノアイ型のカメラが特徴だ。他の二人もすでに装着し終えている。

 外にいる黒服達によって荷台の扉が開かれた。辺りは暗い。乗ってる間に外は完全に日没していた。

 

 

「ハイパーセンサー反応良好。カメラに異常なし」

 

 

 兵装の確認完了。マガジンの予備も確認。異常なし。

 

 

「二人とも、準備OK?」

 

「おうよ、一番槍は私が戴くぜ!オータム、ゲイレール・シャルフリヒター行くぜ!」

 

「オータムったら相変わらずね。リーダー、お先失礼するわよ。スコール・ミューゼル、ゲイレール・シャルフリヒター発進する」

 

 

 ありゃ?猪武者なオータムは仕方ないとしても、沈着冷静なスコールもなんだかソワソワしてるわね。何か嬉しいことでもあったのかな?

 

 

『お嬢、どうかご無事で。発進、どうぞ』

 

 

 相変わらず黒服達は私に過保護ね。ま、らしいと言えばらしいけど。

 

 

「『クラウン』隊長ティナ・ハミルトン、ゲイレール出撃するわ」

 

 

 闇につつまれた山岳に三機のISが解き放たれた。




◇ハミルトン・インダストリー
マフィアの首領に就任する前のエドワードによって創業され、わずか十数年でアメリカ有数の複合企業に成長した。元々兵器関連の開発を主要としていたが、ISの登場以降ISの開発も行うようになった。経営から手を引いているが創業者であるエドワードの影響力は大きく、実質ハミルトン・ファミリーの傘下企業。エドワードの指示で開発したISを『クラウン』に流しているが、その見返りとしてISの戦闘データや『クラウン』が奪ったISコアを受け取っている。表向きはアメリカ政府から渡されたコア一つだけ所持しているとしているが、実際は『クラウン』の所持する三つと社内で研究している未登録コア二つを所持している。
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