リビング・レジェンドの妹 作:匿名ちゃん
「いただきまーす」
「ピカピカチュー」
手を合わせてからスプーンを取り、夕食であるオムライスを食べ始める。ちなみに、上にケチャップは掛かっているがライスはケチャップライスではなく、普通の白米である。何故かと言うと、ちょうど切れていたケチャップを買いにトキワシティに行った私が夕食ギリギリに帰宅し、ライスがケチャップライスに変身を遂げる時間が無かったからである。ミッキー、ごめんなさい。
「ピカ! ピカピ、ピカチュ」
無類のケチャップ好きのミッキーも、お昼に食べた拘りチーズバーガーのお陰で快く許してくれた。一年半振りに会ったお兄ちゃんだったんだし、しょうがないよね。
「で、ローズ。レッドは元気そうだった?」
ちなみに、今更だが私の名前はローズと言う。お兄ちゃんが赤だから、私はピンクのフランス語でローズなのかな? 随分豪華な名前だといつも思う。
そして、私はお兄ちゃんのおの字も出していないのに、お母さんにバレていた。まあ、確かに家に帰ってからもテンション上がりまくりだったよ? けど、流石にバレるの早くない? まあいいか。お母さんだし。
「元気そうだったよ! トキワの拘りチーズバーガーを一緒に食べて、その後タマムシシティまで飛んでお買い物とかしたの。お兄ちゃんも久し振りに降りて来たから、色々補充したかったみたいだし」
「一番はローズに会うことだったんじゃないの?」
「まあね!」
公式戦では無敗だったものの、野戦となるとライバルであるグリーンとの勝敗は五分五分だったお兄ちゃんは、その悔しさもあってシロガネ山に篭っていた。流石に一年半も会えないのは兄妹としては寂しいので、久々に降りて顔を見せてくれたんだろう。
「レッドもシスコンだものね(ボソッ)」
「ん? お母さん、何か言った?」
「何でも無いわよ」
「そういえばね、私、一ヶ月後にシロガネ山に忍び込むことになったの」
「一人で?」
「お兄ちゃんが手伝ってくれるって」
「なら安心ね。十歳になるまでに出来る限り強くなっておきたいんでしょ? あと一年半、シロガネ山に通う事になるのかしらね」
「それは大変そうじゃない?」
「二、三日なら泊まってきても良いわよ」
「本当!?」
なんだかんだ言って、お母さんもシロガネ山に興味があるらしい。
「写メを送ってちょうだいね。遂にローズも旅に出るようになったのね。旅の服を用意しておかないと」
「お母さん、私、まだ八歳なんだけど」
「細かい事は気にしない! 私は忙しいから、お皿は洗っといてちょうだい」
「りょーかい。ミッキー、拭いてくれる?」
「ピカ!」
お皿を全て洗い終わってから、私はミッキーを連れて家を出た。向かう先は、オーキド博士の研究所だ。
「オーキド博士ー、グリーン居ます?」
「居ます。……奥に居ると思うぞ」
「ありがとうございまーす。あ、グリーン!」
書類を整理しているグリーンに駆け寄る。
グリーンはこちらを見て、資料をデスクに置いた。
「ローズか。どうしたんだ?」
「今日、お兄ちゃんに会ったの」
「レッドか。どうせもう帰ったんだろ?」
「うん。お兄ちゃんからの伝言なんだけど、『例のアレを決行する』だって」
「遂にその日が来たか。わかったって伝えておいてくれ」
「わかった」
「ほら、俺は研究で忙しいから早く帰れ」
「はーい」
研究所を出て、私は遠くにそびえ立つ山を見て呟いた。
「シロガネ山、か」
*
シロガネ山に潜入するには、ある程度の実力が無ければいけない。
それは当たり前の事実だ。だからこそ、ポケモンリーグで優勝しなければシロガネ山に入る事は出来ない。
私は八歳で、まだ旅に出る……というか、トレーナーになる事が出来る年齢ではない。そんな私が何故ミッキーを自分のポケモンとして持つ事が出来ているのか。それは、オーキド博士の手伝いとしてフィールドワークに出掛けたりする事があるからである。
仮免許のトレーナーカードには、『氏名:ローズ。フィールドワークの手伝いにより免許を与えられる。オーキド ユキナリ』とちゃんと手書きで記載されている。裏の所持ポケモンの欄には、お兄ちゃんの字で『ピカチュウ』と書いてある。そして、その下には二つの空欄が。つまり、私はあと二体のポケモンが持てるのだ。
「ミッキー、新しい仲間が欲しいと思わない?」
「ピカ」
「ゲットしに行っちゃわない?」
「ピカ!」
はい、今日の予定決まり。
トレーナーズスクール? 仮免許持ってる時点で行く必要ありませんが何か?
旅パーティ、俗に言う旅パには秘伝要員が必要となってくる。『そらをとぶ』『なみのり』『ダイビング』『うずしお』『たきのぼり』『いあいぎり』『かいりき』『フラッシュ』『いわくだき』『きりばらい』『ロッククライム』などがあり、此処カントー地方を旅するにあたっては『そらをとぶ』『なみのり』『いあいぎり』『かいりき』『フラッシュ』などが主に使われる。フラッシュ以外の秘伝技を覚えるポケモンとしてはカイリューが挙げられるが、進化も遅いし何より珍しい。あと一ヶ月で仲間にするには時間が足りな過ぎる。よって却下。
スワンナは、なみのりもそらをとぶも覚える事が出来るとして知られているが、イッシュに生息するポケモンだ。遠すぎる。よってこのポケモンも除外される。
トロピウス+マリルorコダックも中々良いが、トロピウスは我が地方には居ない。
「ピーピ、ピカ!」
ミッキーが本棚から一冊の大きな本を引っ張り出して来た。何々? 『カントーポケモン大百科 わかりやすい解説付き!』? ああ、これを使えって事ね。
ミッキーの好意に甘え、私はカーペットの上にうつ伏せになって大百科を広げた。
カラーで写真が印刷され、生態や特徴などの詳しい説明なども整理されているのだが、生息地が全くと言って良いほど記載されていない。これはトレーナー向けではなく、ポケモンに憧れる子供が見るもののようだ。
役に立たないと思い、大百科を閉じようとしたのだが、ミッキーがそれを阻止しようと腕にしがみつく。そして、大百科に覆い被さるようにしてページをめくり始めた。
「ピカ、ピーピピカチュ?」
ミッキーが開いたページはコダック。覚える技は……なみのり、かいりき、たきのぼり、ダイビング、いわくだきだったかな? 良いかも!
で、生息地は……
早速調べてみようと、私はパソコンで検索してみた。
『生息地:ふたごじま』
うーん。行けないことは無いんだけど、なみのりが無いと行けないんだよね……。泳いで行くのは無理だと思うし。
どうしようかな……。
プルルルル、プルルルル……
あ、電話だ。お母さんかな?
*
『……という事なので、急いで来て下さいますか?』
「了解です」
電話の相手はお母さんではなく、タマムシジムのジムリーダーであるエリカさん。たまに我が家に遊びに来て、若干落ち込んで帰って行くお嬢様だ。お兄ちゃんモテモテだね。
そんなエリカさんからのお願いと言うのは、ジムの前にタマゴが捨てられていたのだが、草タイプのポケモンでは無いようである。だが、エリカさんは草タイプ以外のポケモンを扱う事はできない。よって、ローズさんが気に入るなら引き取りませんか? とのことだった。
もちろん即決で引き取る事に決めた私は、リュックサックに必要な荷物を詰め込み、家を飛び出したのだった。
トキワシティまで出て、バスに乗って三十分。タマムシシティに到着した。
「こんにちはー。エリカさん、居ます?」
「お屋敷の方にいらっしゃるようです。ご案内致しましょうか?」
「いえ、大丈夫です。行ったことがあるので」
エリカ様のお屋敷に行った事があるの!? あの子知り合い!? などという興奮した囁きを気にしないようにしながら、受付の女の人にお礼を言ってジムを出る。目指すはエリカさんのお屋敷。そこで私の新しい家族が待っている!
「ああ、ローズさん! 早く入って下さい! もうすぐ孵りそうです!」
エリカさんが興奮した様子で手招きしていた。私はお屋敷に入ると、縁側の座布団の上に置かれているタマゴの前に陣取った。
コロン、コロン、コロコロコロコロ……
揺れがだんだん早く、細かくなっていく。
ピキ!
タマゴにヒビが入る。そしてひび割れていき———
パキッ!
「ヒン!」
生まれた!! 生まれた、私の新しい家族!!
「ミッキー、ミッキー、ポケギアで検索して! なんていうポケモンなの!?」
ミッキーがポケギアを操作するが、
「ピ?」
検索した結果、何も出てこないとの事だった。
「ローズさん、このポケモン……ヒンバスですわ」
ヒンバス……ああ、いつくしみポケモンのミロカロスに進化するポケモンだ!
「ヒンバス、これからよろしくね」
私はヒンバスを抱き上げた。
*
「ローズさん、本当によろしいのですか? 無理して引き取らなくても……」
「いえいえ! 今日は本当にありがとうございました! ちょうど水タイプのポケモンが欲しいなって思っていたところなんです」
「そうではなくって、その、ローズさんには似合わないのでは無いかと……」
コダックを捕まえる必要はもう無いって事だよね。ミッキーが折角調べてくれたんだけど……。今日はケチャップを大盛りにしてあげよう。
「本当に、本当によろしいのですか?」
「良いに決まってるじゃないですか! あ、もしかしてエリカさんもヒンバスが欲しくなっちゃったんですか?」
「いえ、そうじゃないんですけど……」
「なら良いですよね? ね、クロエ?」
クロエと名付けたヒンバスは、弱々しく腕の中で声を上げた。
「あ、外だと乾いちゃうよね。ボールに戻る?」
「ヒン!」
今度は大きく返事をするクロエ。そんなに戻りたかったのね。
モンスターボールにクロエを戻したのを見届けたエリカさんは、思い切ったように私に言った。
「ローズさん、ハッキリ言わせていただきます。あなたへの悪口というわけではなく、あなたの事を想った発言だという事を理解して聞いて下さい」
エリカさんは息を小さく吸うと、言った。
「ヒンバスは、みすぼらしいポケモンです。種族値も低く、強いて言えば素早さが高いだけ。そのみすぼらしい見た目から、ヒンバスの事をわざわざ研究する研究者は無いに等しく、あまり詳しく特徴などはわかっていません。それに、ヒンバスのようなポケモンを持っていると、ヒンバスへの誹謗中傷があなたに向かう事もあるでしょう。それを踏まえて、ヒンバスを引き取りますか?」
ああ、エリカさんはその事を気にしてたのか。
心配してくれているのに申し訳ないけど、
「この子、かわいくない?」
「はい?」
「だから、かわいくないですか? ほら、なんて言うのかな、ブサかわいいというか……とりあえず、私はこの子が好きなんです。だから、心配してくれたのは本当に嬉しいんですけど、大丈夫です。この子は私の家族なんです」
「ピッカ、ピカチュウ!」
ミッキーも賛成するように頷いてくれた。
エリカさんは微笑み、頷いた。
「ローズさんが良いというなら、私もいつでも協力します。クロエの将来が楽しみになってきました」
「でしょ!!」
今日、私の家族が一人増えた。