リビング・レジェンドの妹 作:匿名ちゃん
世界には、様々な犯罪組織が存在する。目的や手段は様々であるが、どれも危険であることには変わりない。
星の数ほどの犯罪組織の中で、此処カントー地方で一番有名な組織は『ロケット団』というグループである。
一年半前、お兄ちゃんが壊滅させた、人々を襲ってポケモンを奪っていく組織。その被害に遭った人数は数知れない。タマムシゲームコーナーの地下にアジトを作ったり、ジムリーダーがボスだったりする結構大掛かりな組織だった。
お兄ちゃんによると、そのロケット団が再び活動を再開させる可能性があるらしい。お兄ちゃん曰く「あの完璧主義で負けず嫌いなサカキが負けっぱなしでいるはずがない」。そうだろ? と聞かれても、私はサカキに会ったことが無いから知るわけがない。
何故このような話を始めたのかと言うと、現在進行形でロケット団と対峙しているからだ。
「ミッキー、軽めにアイアンテール」
三人の下っ端の鳩尾に鮮やかにアイアンテールを決め、気絶させたミッキー。シュタッと着地し、尻尾を立てて辺りを警戒する。
ポケモンを出す暇なんて与えない。相手は悪なんだから、容赦無く倒していく。私とお兄ちゃんの似ているところは、このような緊急事態への対処の仕方。逃げる訳ではなく、出来るだけ静かに素早く仕留める。
タマムシゲームコーナーにの裏口に回る不審な黒い人影を見た私は、それをロケット団員だと決めつけた上で尾行した。そして、ゲームコーナー地下のアジトに無事潜入したのである。
まさか、お兄ちゃんが壊滅させた組織と敵対するなんて思ってもみなかった。
それに、此処ってお兄ちゃんが言ってたアジトだよね? 懲りずにまだ使ってたの?
「とりあえず、下っ端を片っ端から仕留めて行こうか」
「ピカ!」
頼もしい相棒と共に、私は走り出した。
*
「何だよ、急に」
『悪いな。おいレッド、ローズが何処に居るか知ってるか?』
「知るわけないだろ。俺はシロガネ山に居るんだ」
『やっぱりそうだよな……。レッド、『例のアレを決行する』って言ったよな?』
「ああ」
『突き止めた。タマムシゲームコーナー地下に、奴らは再び集結してるらしいんだが……』
「どうかしたのか?」
『ローズが乗り込んだらしい』
「は?」
思考が停止した。全くもって理解出来ない。
『だから、ローズが乗り込んだらしいんだよ』
「……どういうことだ」
グリーンの説明によると、今朝、タマムシのジムリーダーであるエリカの元へ行くと言って、いつも通りにローズは家を出たらしい。しかし、タマムシについたと思われる数十分後、お母さんの元に『タマムシゲームコーナーの地下に行くから、遅くまで帰らないかも』というローズからのメールが。ゲームコーナー地下はロケット団のアジトだってレッドが言ってなかったかしら? と疑問に思ったお母さんは、ちょうどトキワで買い物をしていた事もあり、トキワジムに寄ってグリーンに事情を話し、今に至るという訳だ。
「何でローズは乗り込んだんだ?」
『それはお前に聞きたい。お前ならどうする?』
「……怪しんでアジトに乗り込む」
『ローズも全く同じ行動を取ったんじゃないか?』
「……俺は当時十歳だった。けど、ローズはトレーナーじゃないだろ?」
『ミッキーが居るから、仮免許で八歳であるということを除けば、ほぼトレーナーと同じだ。レッド、急いでシロガネ山を降りて来い。先に調査しておく』
「悪い。お母さんには……」
『代わるか?』
「いや、いい。俺が行くから家で待っていてくれって伝えてくれ」
*
プルルルル、プルルルル……
「もしもし? 何よ、グリーン」
『ローズがロケット団アジトに乗り込んだ。長い時間帰って来ていない。タマムシゲームコーナー地下だ。ブルー、手伝ってくれ』
「ローズが……。それなら仕方ないわね。私はジョウトだから行けないけど、ロケット団に関して情報を集めておくわ。今回はあなたたちだけで対処して」
「わかった」
*
下っ端に出会う度に速やかに意識を刈り取っていった私達は、遂に目的地へ到達した。
「こんにちは、あなたがサカキさん? カントーから出て行ったんだとばかり思ってたんだけど」
「ほう、私の名前を知っているのか。ポケモン協会の差し金で来たのか?」
「いいえ。私一人の行動よ」
「たった一人で此処まで……そうか。なら、六対六でバトルしようじゃないか」
「あ、ごめんなさい。私、まだトレーナーじゃないから、そんなにポケモン持っていないの。一対一にして貰えない?」
「トレーナーじゃないのか? まあ良いだろう。赤き帽子の前座としては不十分だが、ウォーミングアップにはなる」
お兄ちゃんに挑みたいのかな? けど、まあいい。
「ミッキー、まずはでんこうせっか!」
「ねこだましだ、ペルシアン」
サカキのペルシアンのねこだましの方が、優先順位の高い先制技だ。だが、
(ミッキー!)
私の心の声が聞こえたのか、ミッキーは更に優先順位の高いまもるで守り切って見せた。
「ペルシアン、スピードスター」
「ミッキー、チャージビームで相殺して!」
必中のスピードスターにチャージビームを当て、スピードスターの向きを逸らす。特攻も一段階上がったようだ。
「あなをほる」
「今のうちにあまごい! 振動で位置を探って!」
雨雲を呼び集めたミッキーは、頬で電気をバチバチ言わせながらペルシアンの位置を探ろうとする。
「今だ!」
ペルシアンが真下から現れ、ミッキーは衝撃で宙を飛ぶ。しかし、空中に浮きながらもペルシアンに必中かみなりを落とした。
「相手が動けない内に決めるよ! そのままでんこうせっか!」
空気を力強く蹴り、空中を俊速で駆け、ペルシアンにアタックする。一瞬だけペルシアンがよろめいたかと思ったら———
「つじぎりだ」
「ピギャアアアアアッ!!!」
「ミッキー!!!」
急所に決められたらしい。一気に体力を削られたミッキーは、床を蹴るようにして着地した。肩で息をしている。
そうだ。最近、自分より強い相手が見つからなかったから、ミッキーは一方的に技を決めていたんだ。
だから、あの場面での反撃を予測出来なかった。
「けど、予測したとしても……」
避けられない。
実力の差があり過ぎた。
「ペルシアン———」
「ミッキー———!」
「はかいこうせん!」
「十万ボルト!」
これで最後だ。はかいこうせんと十万ボルトがぶつかり合う。でんきだまを持っているから、十万ボルトの方が威力があるが———
ドッカーーーーーン!!!
「え?」
はかいこうせんを遮るように、天井が落ちてきた。きっと、厚い天井の向こう側では、はかいこうせんがセメントを深くえぐって居るのだろう。
そんなことより、ゲームコーナーの床が落ちて来たってことなの? ねぇ、どういうこと?
上を見上げると、大きな穴から赤いポケモン二匹と黄色いポケモンが顔を覗かせていた。
「ファイヤー! サンダー!」
お兄ちゃんとグリーンのポケモンだ。
しかし、一体知らないポケモンも居た。戦闘機のようなシルエットに赤いライン。それはまるで———
「ローズ!」
後ろから声が聞こえ、私は振り返った。
「お兄ちゃん!」
その前に、ミッキーを回復させなきゃ!
リュックサックの中から手探りでキズぐすりを取り出し、ミッキーに吹き掛けて回復させる。
「ありがとう、ミッキー。ゆっくり休んでてね」
回復したとはいえ、疲労はまだ残っているだろう。顔が外に出るように気を付けながら、ミッキーをリュックサックに入れる。
「ロケット団の下っ端の捜索はグリーンに任せた。とりあえず、此処から出るぞ」
「待って、お兄ちゃん!」
私はお兄ちゃんを引き止めた。
「サカキが、居たの」
ちらりと見ると、赤いポケモンはもう居なかった。
*
あの後、脱出している間にサカキとエンカウントした私達は、当然のようにバトルを申し込まれた。
それを当然のように受け、ボコボコにしてやったお兄ちゃんに対し、サカキは『再びロケット団を解散させる事を宣言する』とだけ言い残して去っていった。なんか呆気ない。
ポケモンセンターでミッキーも回復し、コンビニで大量におにぎりを買い込んだ私とお兄ちゃんは、アジトの徹底破壊・ゲームコーナーの復元を始めた工事のおじさん達をぼーっと眺めていた。
「ロケット団……再結集するのかなぁ?」
夜、だんだん寒くなって来た中で呟く。
「するんだろうな。今回はさっさと見つけて襲撃出来たから平気だったが……気付かなかったら、また前みたいになっていただろうな」
「はぁ……早く懲りてくれないかなぁ」
「サカキの事だから、無理なんじゃないか?」
ガサッ。
「誰!?」「誰だ!?」
後ろで物音がした。
バッと振り返って見るが、何も無いし、茂みを覗き込んでも特に何も見つからない。
「気のせい、だったのかな」
「かもな」
*
「見つかるところだったわね……」
「見つかったらおしまいだったのニャ」
「今日のところは撤退しよう」
「ソーナンスッ!!」
謎の三人組は、闇に溶け込むようにしてその場を去った。