ルイズの聖剣伝説   作:駄文書きの道化

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吸血鬼討伐(上)

「きゅーーーいーーーーっ!! 絶対絶対ぜぇっったい嫌なのねぇーーーっっ!!」

 

 

 シルフィードは不満を声高らかに叫ぶ。全身で不満を表すように暴れるシルフィード。その様は絶対にご免被ると訴えている。そんなシルフィードにルイズは苦笑を浮かべている。

 そんなシルフィードに対して、見つめる全てを凍てつかせる程に冷めた瞳のタバサ。彼女のこめかみに血管が浮いているのをルイズは見なかった事にした。

 あまり感情表現が豊かではないタバサにしては珍しい光景だ、とルイズは目の前で繰り広げられる寸劇に呆れたように苦笑を浮かべながら見守る。

 ちなみに、タバサの感情が表現されやすくなっている原因はルイズにある。悪い意味で。ストレスを溜め続けるという事は人間には不可能なのだ。

 

 

「食事抜き?」

「きゅっ!? つ、使い魔虐待なのねっ!?」

「五月蠅い……」

「お、お姉様怖いのね……?」

「早くして」

 

 

 恐ろしいまでにプレッシャーをシルフィードにかけるタバサ。シルフィードの目にはタバサがまるで悪魔のように見える。恐怖か、はたまた食欲か、またあるいは両方か。シルフィードはこうしてタバサの前に屈せざるを得なかったのである。

 

 

「我まといし風よ。我の姿を変えよ」

 

 

 渋々、と言った様子でシルフィードが何事かを呟くとシルフィードの周りに風が渦巻く。

 渦巻く風が消えるとそこには1人の女性が現れた。ルイズは感心したように頷き、ルイズの背中に差されていたデルフが口笛を吹く。

 

 

「先住魔法を間近で見たのは久しぶりだな」

「あら。見た事はあるのね」

「そりゃ長く剣やってりゃね」

 

 

 ルイズとデルフが会話をしている目の前で、人間の姿に化けたシルフィードがジタバタと体を動かして暴れている。どうやら準備運動をしなければその体に慣れないようである。

 身体を慣らし終えたシルフィードに対してタバサが服を差し出す。変化の際に服は一緒に出せないようで、タバサが予め用意していたらしい。成る程、タバサが受任の際に立ち寄ったガリアの首都“リュティス”で服を買ったのはシルフィードに服を着せる為か、と。

 服を用意されていた事に対し、またシルフィードの抗議の声が上がるが、強烈に膨れあがったプレッシャーに蛇に睨まれた蛙状態になったシルフィードは大人しく従うしか無かった。

 直接向けられなかったとはいえ、タバサの放つ威圧的なプレッシャーにルイズは口を引き攣らせていた。

 

 

「あんまり怒らせないようにしないとね」

「だな」

 

 

 カタカタ、とデルフが唾の可動する部分を口のように動かしながらルイズに相槌を打つのであった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ガリアの首都であるリュティスから南東に下った山間に存在するザビエラ村。今回の事件の舞台であり、ルイズ達の目的地である。

 事の起こりは二ヶ月ほど前、12歳になるばかりの少女が森の入り口で死体で発見された。体中の血が吸い尽くされ干からびた状態で道端に投げ捨てられるように転がっていたという。

 それから犠牲は次々と増え、その中には事件の解決の為に派遣されたトライアングルクラスのメイジもいたという。事態を重く見た国が解決の為にタバサに任務を下した、というのが今回の事態の流れだろう。

 

 

「で、シルフィードが囮で、私がサポート。本命はタバサ、って事ね?」

 

 

 ルイズはタバサに聞かされた吸血鬼打倒の為の流れを確認していた。タバサの考えたシナリオはこうだ。シルフィードがガリアから派遣された騎士として立て、タバサとルイズはその従者として連れてこられたという設定だ。

 仮に吸血鬼に襲撃されたと考え、シルフィードならば竜の姿に戻る事で応戦する事も出来、ルイズも貴族としてでなく、剣士として入り込みやすくなる。故に普段はタバサがつけているマントは、今はシルフィードが羽織っている。

 

 

「危険な任務。絶対に油断しないで」

「わかってるわよ」

 

 

 そして三人は惨劇の舞台となったザビエラ村に足を踏み入れた。タバサ達が到着した旨を受けた村長であるアイザックから説明を受ける為に彼の家に向かう。その道中、ルイズは周囲から向けられる視線に目を細めていた。

 明らかに疑惑が渦巻いている。その所為か村には活気は無く、暗い雰囲気が辺りを満たしている。暗澹とした空気の中、ルイズ達は村長の家に招かれ、村長に改めて事情を聞く事になる。そこで聞いた話も特にタバサから聞いた話と遜色は無い。

 

 

(良くない雰囲気ね)

 

 

 やはり現地の人々は不安に駆られ、疑心暗鬼になっている。吸血鬼は噛んだ人間を“屍人鬼”として操る事が出来る。故に誰が屍人鬼なのかと疑い始める始末。

 これが吸血鬼の厄介な所だ。屍人鬼には1つだけ見極め方がある。それは噛まれた痕が存在するかどうかである。1人1人確認すればいい、というシルフィードの提案にも、この村には虫や蛭に刺されたりする者も多数おり、傷から探し出すというのもまた難しいという現状。

 偶然か、それとも狙っているのか、ルイズは事の困難さに頭を抱える。ふとそんな時だ。部屋の扉が開く音が聞こえる。そちらにルイズが視線を向けると1人の可愛らしい少女がいた。

 

 

(――……)

 

 

 まるで何かが焼け付くような感覚がルイズを襲う。訝しげに少女の様子を伺う間に部屋の中に入ってきた少女にシルフィードが抱きついたり、そんなシルフィードにタバサが痛々しいツッコミを入れている光景が見えた。

 

 

「……村長? 彼女は……」

「あぁ、あの子はエルザと申しまして……私が引き取った孤児でございます」

 

 

 少女の存在が気になったルイズは村長へと問いを投げかける。村長より彼女の詳しい事情を窺ってルイズは顔を顰めた。ルイズが眉を顰めた理由は、エルザの両親は盗賊に身を窶したメイジに殺されたという話を聞いたからだ。

 メイジは全ての者が真っ当な職に就いている訳ではない事をルイズは知っている。中には貴族の位を奪われたり、家督の相続の問題から盗賊や傭兵に身を費やす貴族がいるという事を知っている。その中でも悪辣な者とエルザは出会ってしまったのだろう。

 よく見れば、シルフィードに対して怯えるような視線を向けているのが目に付いた。思わず同情が浮かぶが、ルイズは先ほどの感覚を忘れられなかった。

 ふと、エルザがルイズの方を見た。じっとルイズを見ていたが、すぐに怯えたように目を逸らす。ルイズはそれを観察して目を細めた。

 

 

(……まさか、ね)

 

 

 ルイズは頭の中に浮かんだ自分の考えた可能性を否定したかった。だが、万が一だ。警戒はしておく事にしよう、と自分の中で結論を出しておく。

 ルイズが一人で納得している間に村長との話は終わったようだ。調査に出ると言う事でシルフィードはルイズとタバサに指を指しながら二人の名を呼ぶ。

 

 

「ちょっと! タバサ! ヴァネッサ! いつまでとろとろとしてるのね! さっさと着いてくる!」

 

 

 シルフィードがすっかり貴族気取りで2人の名前を呼んで命令している。思わず拳骨を叩き込みたくなる衝動に駆られたが、ルイズはそれをまったく表情に出す事無い。

 ちなみに“ヴァネッサ”とはルイズの偽名である。やれやれ、と肩を竦めるようにルイズはタバサを伴い、シルフィードの後を追った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「まずは現場を洗いましょう」

「賛成」

 

 

 ルイズの提案にタバサが同意を示し、3人はまず現場検証から始めた。とはいえ、調査の結果は芳しくなかった。実際に被害にあった所を回ってみたのだが、侵入できるような経路となる場所は塞がれていたりしていて侵入された後が無いのだ。

 唯一入れそうな場所と言えば煙突ぐらいなものだ。だがその煙突も人が通れるような広さは無く、他の被害を受けた場所もまた似たような現場状況であったので3人は多いに悩む事となる。

 

 

「うーん。吸血鬼ってシルフィードみたいに変化の魔法が使えるのかしら? それで姿を変えたとか?」

「きゅい、吸血鬼にはそこまで高度な精霊魔法は使えない筈なのね」

「手詰まり」

 

 

 顔を突き合わせて悩む三人。ふと村の一角で何やら騒がしい事に気付く。ルイズ達は顔を上げ、騒ぎの下へと向かおうと走り出した。向かった場所では人だかりが出来ている。手には松明や鍬などを持って何やら怒鳴り声を上げている。

 村の人々は口々に、出てこい吸血鬼などと叫び、家に向かって石を投げつけている。ルイズはその光景に人の浅ましさを見て取り、若干眉を寄せた。家の住人なのだろう、大柄の男が飛び出してきて抗議の声を挙げているが村の者達は取り合おうとはしない。

 騒ぎを伺うと、この家に住まう大柄な男はアレキサンドルという名前らしく、他の地から祖母と共にこの村に越してきたらしい。それ故に疑惑の有力候補として疑われ、不満が暴発した村人達が暴動を起こしたという訳なのだろう。

 

 

「ちょ、ちょっと貴方達止めるのね!!」

「なんだよ! 貴族様、止めるなよ! 此奴が吸血鬼に決まってらぁ!」

「そうだそうだ! まさか、吸血鬼を庇うってのかよ! それに、あんた本当に騎士なのか!? 随分と頼りないな? まさか俺たちを謀ってるんじゃないだろうな!?」

 

 

 アレキサンドルと村の若者の1人とがもみ合いになりそうになった所でシルフィードが間に入って制止の声を挙げるが、いまいち効果があるとは言えない。

 更にはシルフィードが貴族であるかどうかすらまで疑われてきた。まぁ、シルフィードの態度では疑われても仕様がないか、とルイズは溜息を吐く。若干狼狽えた様子を見せるシルフィードを庇うように前へと出て、腹の底から声を張り上げて叫んだ。

 

 

「無礼者!! 貴族を疑うとは何事かしら!? 貴族が嘘を吐くとお前達は言うのかしら!?」

 

 

 ルイズの凜とした声に村人達の視線が集まり、誰もが言葉を失った。貴族に逆らうという事がどういう事か平民には身に染みてわかっている。だからこそ、ここで貴族の機嫌を損ねればそれこそ自分たちが本当に滅びかねない。

 だから誰も口を開こうとしない。その中、ルイズが一歩前に進みでて更に声を高く張り上げる。今、間違いなく場を支配しているのはルイズ他ならなかった。通る声でルイズは村人達へと告げる。

 

 

「貴方たちが怯えるのもわかるわ。この状況で誰かを疑うなという方が難しい。だけど考えなさい。この事件が解決すれば何事も上手く行くという訳では無い筈よ?

 だから、今は私達を信じてとしか言えないわ。だけど約束する。吸血鬼の事件は私達が解決する。だから今は互いに矛を収め、落ち着いて。混乱し、誰かが誰かを疑う程に吸血鬼に付け入れられる隙を作るわ」

 

 

 ルイズの言葉に村人達の誰もが口を閉ざした。確かに疑う心を持たないのも問題だが、疑い過ぎるのもまた問題だ。それは信頼の裏切りに等しい。

 例えこの事件が解決したとしても、一度生じてしまった疑惑は尾を引く事となるだろう。禍根を残せば、それはいずれ不和へと繋がり、諍いの原因となる可能性がある。それは村人達とて理解している。

 だから誰もが口を閉ざす。それでも納得がいかないと言うような村人は疑わしげにルイズ達を見つめる。だが、やがて1人、また1人と村の方へと戻っていけば皆が吊られて解散していく。解散していく村人達の姿にルイズは溜息を吐く。

 

 

「ル……ヴァネッサ……助かったのねぇ」

「もっと気をつけて。ほら、しゃんとしなさい」

 

 

 泣きそうなシルフィードの様子にルイズはただ呆れたように溜息を吐く。これからの先行きの不安。ルイズはただ胸が重たくなる感覚に目を閉じて眉を寄せるのであった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 あれから村人からも疑わしいと疑われていたアレキサンドルの母、マゼンタを含め村人の人々を調べて回ったが、明確な証拠は出てこなかった。故に3人は夜の吸血鬼の襲撃に備えて昼間は眠る事にした。

 夕刻になるのと同時にタバサが目を覚まし、シルフィードとルイズの2人を起こす。シルフィードが先ほどの村人に疑われた時、庇ってくれなかった事をタバサに抗議したが、タバサは“囮”の一言で済ませてしまった。

 

 

「吸血鬼をおびき出す為に必要」

「使い魔使いが相変わらず荒いのねー!?」

 

 

 そして少しの口論を重ねるも、タバサに言いくるめられたシルフィードは杖を置いたまま外に出て行ってしまった。その際にごちそうにありつけるかも、という言葉に釣られていたシルフィードには苦笑を禁じ得ないルイズであった。

 残されたのはルイズとタバサの2人。ルイズは次第に沈み行く太陽を見つめる。そのルイズの横顔を見ながらタバサは呟いた。

 

 

「……貴方は、何か怪しいとは思わなかった?」

「確証は無いけど」

「何かあったの?」

「確証は無い、って言ったでしょ? だから私の勘よ」

 

 

 タバサは驚いたように顔を歪め、ルイズの目を真っ直ぐに見て問う。ルイズはふぅ、と溜息を吐くように返答する。そう、とタバサはそれ以上の答えを得られないだろうと追求はしなかった。

 確信はない、とルイズはタバサに告げたがルイズは吸血鬼の正体に見当をつけていた。ルイズは何かを考え込むように目を細めていたが、悩みを振り払うように顔を左右に振って自らの思考にあった考えを追い出すのであった。

 それからルイズ達は予定通り、“傲慢な騎士とそれに振り回される従者”を演じ、それぞれの目的を果たすべく動き出した。

 シルフィードが予定通りに1人で行動し、ルイズが別れて周囲を警戒する。その警戒している間、ルイズの背に背負われたデルフリンガーが僅かに鞘から身を出してルイズへと問いかける。

 

 

「……なぁ? 相棒」

「何よ、デルフ」

「相棒。何かに感づいてるだろ? あの嬢ちゃん達に言わなくて良いのか?」

「私自身、半信半疑よ。だったら私はそこを気をつければ良いし、タバサには全体を見て貰わないと。推測が間違ってたら怖いしね」

「ふぅん……? どうにも俺には相棒が確信しているようにしか思えないがね」

 

 

 デルフの言葉にルイズは何も応えない。ふと、ルイズが小さく呟くように言葉を零した。

 

 

「……妖魔は、何を思って人を殺すのかしらね?」

「あん? なんか言ったか? 相棒」

「別に」

 

 

 ただルイズは意識を集中させるようにして目を閉じていた。すると、突然場が騒がしくなったのをルイズは感じ取り、飛び出すように勢いよく走り出した。

 そしてルイズが見たのは、先に駆けつけていたシルフィードとタバサ、そして村長に泣きすがるエルザの姿であった。

 その後、落ち着いたエルザに事情を窺った所、大柄の男が襲いかかろうとしてきたらしい。恐らく屍人鬼だろうと予測された。エルザはその場で悲鳴を上げる事で何とか難を逃れ、無事生きながらえたそうだ。

 

 

「うぅん……やっぱり屍人鬼だけでも見つけられれば」

「……貴方の方では何か変化は?」

「……ごめんなさい。私の方からは何も」

 

 

 そう、とタバサが呟き、その日の調査はそれで終了する事となった。

 

 

 

 

 

「――ごめんなさい。タバサ、私はどうしても……確かめなきゃいけないの」

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 彼女は焦っていた。まさか、そんな馬鹿な。演技は完璧だった筈だった。誰にもばれていないと、そう思っていた。

 確かに今回来た奴等の中には妙に“精霊”に好かれていた人間が居たが、メイジではなかったし、たかが剣士と思っていた。亜人かとも思ったが正真正銘人間のようだった。

 だからそんなに警戒していなかった。そしてあちらも自分のように気づいているような素振りは見せなかったのだ。

 いつもそうだった。誰もが簡単に騙された。だから半ば自信があったのは事実だ。だが今回ばかりはそうも行かなかった。だから今回は念入りに“囮”を使った。誰もがそちらに目を向けた。奴らの中の“本命”だと思われるメイジも“囮”に引っ掛かった。

 囮に引っ掛かったメイジ達は行ってしまった。確信の安堵感と達成感が胸に満ちていく。愚かなメイジは完全に騙されていると。だから余裕をもって彼女は近づいてしまったのだ。桃色のブロンドを持つ剣士の女性へと。

 

 

「ねぇ、お姉ちゃんは行かないの?」

「えぇ。私が行かなくても解決するだろうし」

「そっか。ところでお姉ちゃん? お姉ちゃんの仲間の人にも確認したんだけどね?」

「何かしら?」

「食事に出される食べ物があるでしょ? 食事に出ている食べ物は皆、生きているものを殺して食べている。それは吸血鬼が人間を殺すのと同じ事じゃないの? だって吸血鬼も人間の血を吸わないと死んじゃうもの。それは仕様がない事じゃないの?」

「そうね。それは仕方ない事よね」

 

 

 返される返事にそっか、と彼女は笑った。そうだよね、“仕方ないよね”、と。暗い愉悦を笑みに浮かべながら笑ったのだ。自身の勝利の確信と共に。

 ――だが違ったのだ。それは自分の勘違いだったと気付かされた。

 

 

「――しかし、今のは屍人鬼ね。アレキサンドルさんが屍人鬼だったけど、恐らくマゼンタお婆さんは関係無いわね。アレは囮ね。タバサもわかってて引っ掛かったのか。さて……本命の“吸血鬼”はどこにいるのかしらね?」

 

 

 言い方は真摯に、されど僅かながら感じる白々しさと自身に向けられる視線。本当の本命はこっちだったと、気付いてしまった事実に息を呑む事となる。罠にかけたと思ったが、罠にかかっていたのは自分だったという事実。

 そう告げて、ヴァネッサと名乗った女性は真っ直ぐに自分に視線を向けていた。――彼女が何かを言う前に全力で逃げ出した。何か言われる前に。何かを言うのを聞く前に悲鳴をあげて逃げ出した。

 自分でもよくわからない、言い知れぬ恐怖を感じて逃げ出した。逃げなくてはならない。ここにいては駄目だ、早く、早くアイツから離れなければならないと――!!

 なのに、彼女は自分よりも早く駆け抜け、進路を塞ぐように立ち塞がる。どうして、どうして、と心が何度も騒ぐように悲鳴を上げる。混乱しながら目の前に立つ女性を睨み付ける。その手には月光を反射させながら輝く剣が握られている。

 

 

「どうして、どうして私が“吸血鬼”だってわかったの!?」

 

 

 悔しさの入り交じった問いかけが投げかけられる。剣を無造作に構えながら女性はなんて事無い、と言うように語った。

 

 

「生憎、人外の気配には私は敏感だったのよ。……さて? 屍人鬼は仲間が押さえてる。後は貴方だけよ?」

 

 

 

 ―――エルザ。

 

 

 

 ルイズに名前を呼ばれて、村長に拾われたという少女、エルザは身を震わせるのであった。自分が感じていた異質な気配。人とは明らかに異なる気配。だからこそ気づく事が出来た。

 尚、同じ気配はアレキサンドルからも感じられたが、こちらの方が大元だ。そして今日の晩、アレキサンドルが襲撃して来たタイミングに合わせ、タバサが飛び出したのと同時にエルザ本人から寄ってきたのは好都合だった。

 案の定、カマをかけて見れば彼女は顔色を変えて逃げていった。村長達には、自分が脅かしてしまった。自分が追うから着いてこないで欲しい。まだ危険だから、と誤魔化した。これで懸念される誰かの介入は無くなるだろう。

 意を決してエルザを見据えながら一歩足を踏み出す。踏み出したルイズを見てエルザは舌打ちをし、両手を広げ声をあげた。

 

 

「枝よ! 伸びし森の枝よ! 彼女を捕らえたまえ!!」

 

 

 エルザの叫び声を皮切りに、ルイズはデルフリンガーを構え、自身を捉えんとした木の枝を無駄なく刈り取る。洗練された動作を目前としたエルザは一瞬、茫然自失とする。

 だが、すぐに悲鳴を上げるように魔法を放ち、枝をルイズに差し向ける。ルイズは慌てる事無く、落ち着いたように息を吐き出しながら殺到する枝を切り裂いた。

 

 

「良いわ。気が済むまで付き合ってあげる? 夜遊びは初めてじゃないでしょ? エルザ」

 

 

 挑発するようにルイズは微笑み、攻勢へと出る為、エルザへと向かって疾走した。

 

 

 

 

 


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