ルイズの聖剣伝説   作:駄文書きの道化

7 / 24
ルイズの魔法

「ちょ、ちょっとルイズ!?」

 

 

 ルイズの提案にキュルケは焦ったような声を上げた。挑発まで加えた上、広場での“手ほどき”。遠回しにこそ言っているものの、挑発の内容は謂わば私闘と変わらない。

 本来、生徒間での決闘は禁止されている。未熟といえど魔法。人を傷つけてしまう力である事には変わらない。運が悪ければ死すらも有り得るのだ。故に魔法学院では決闘は禁止されている。

 幾ら言葉を濁してみようとルイズが相手に叩きつけたのは決闘の誘いだ。ルイズの心意気は認めるが、“ゼロ”のルイズである彼女に決闘だなんて無理に決まっている。だからこそキュルケは驚きを隠せないのだ。

 

 

「……は、はは! 良いだろう! “ゼロ”のルイズ! 僕が魔法について教授してあげよう! かの公爵家の娘に教えを請われれば受けざるを得ない!」

 

 

 調子を良くした男子生徒は笑う。だが、その瞳は血走っていて残虐な光を湛えていた。明らかに冷静さを失っている様子にキュルケは眉を寄せる。これは良くない事態だ。何を思ってルイズは挑発なんかしたのか、とキュルケは疑問しか浮かばない。

 だが、ルイズは何も動じていない様子で応える。行きましょう、と短く告げて男子生徒を誘って歩き出す。キュルケはルイズの肩を掴み、自分の方へと振り向かせた。

 

 

「ちょっと! あんた何考えてるのよ!?」

「キュルケ」

 

 

 問いただそうとしたキュルケにルイズはそっと自分の唇に人差し指を当てた。何も言うな、という事なのだろう。キュルケに向けられる視線は真っ直ぐで、キュルケの二の句を紡がせない。

 悪いわね、とルイズは肩に置かれたキュルケの手をどけ、そのまま歩いていく。先程の男子生徒もルイズの背を追うように歩いていく。彼の取り巻きの生徒も何人か着いていく。その中で戸惑うように囁きあい、この場に留まっている生徒達もいた。

 

 

「ちょっと! アンタ達!」

「ひっ!」

「な、なんだよ、ツェルプストー」

 

 

 残った生徒達はキュルケの形相に思わず竦み上がる。このキュルケ、魔法学院では優秀とされる部類の“トライアングル”のメイジなのだ。メイジの力量はドット、ライン、トライアングル、スクウェアと掛け合わせる事の出来る属性の数で変わる。

 重ね合わせる属性が多ければ多いほど魔法の質も上がり、メイジの実力を判断する階級であるのと同時に、優秀な貴族である事の現れでもある。見たところ、取り巻きの生徒達はドットクラス。怒るキュルケの前に完全に萎縮しきっている。

 

 

「何のつもりよアンタ達!」

「な、何のつもりって……」

「さ、さっき言った通りだよ。おかしいじゃないか。ルイズは魔法が使えないんだぜ? なのにどうして進級出来てるんだよ? きっと使い魔だって本当は召喚出来ていないんだぜ?」

「そ、そうだ! そんなの狡いだろ!」

「本当にあの子が使い魔を召喚出来てない、っていう証拠があるって言うの!?」

「そ、それは……」

 

 

 キュルケの問いかけに生徒達は口を閉ざす。確かな証拠は彼等とてない。しかし、反論するように生徒の1人が叫ぶ。

 

 

「で、でもツェルプストー! アイツは俺たちの使い魔を誘惑してたんだぜ!? きっと使い魔を召喚した俺たちを妬んで奪おうとしたんだ! そうに決まってる!!」

「アイツがそんな事する奴だと思ってるの!? あの貴族馬鹿って言うぐらい時代錯誤なルイズが! 誰かの使い魔を奪おうとかそういう事を考える奴だと思ってるの!?」

 

 

 ルイズの語る貴族は理想ではあるが、今の時代では些か時代錯誤と言うべきだろう。古き良き時代の貴族。民の為に働き、誇り高き血を引く者としての責務を果たす。それは誰もが理想として語る。

 しかし富に肥えれば人は飽くなき欲望に呑まれていく。それがトリステインという国の衰退に繋がっている。国の衰退は人の質を下げ、更に国力を奪っていく。今や弱小とさえ呼ばれる程、トリステインは力を失ってしまった。

 過去の栄華など、最早見ることも叶わない。そんな欲に肥えた貴族達の中でルイズは異彩を放っていた。誰もが欲に肥えたという訳ではないが、貴族を至上とする者とルイズは違う。

 ルイズは言うのだ。貴族であるから崇められる訳ではない。果たすべき責務を果たしてこそ貴族なのだ、と。だからこそ、誰もがルイズを気にする。鮮烈なまでに生きているルイズに、それこそ魔法の才能があれば誰もが羨む貴族となっていただろう。

 だが、現実としてルイズはゼロであった。だからこそ、誰もがルイズの言う事は綺麗事や戯言にしか聞こえない。だからこそルイズを見ない。彼女の人となりを知ろうともせず、可能性に目をつけ、彼等は叫んでいる。

 

 

「ツェルプストーは恐くないのかよ! 自分の使い魔が奪われるかもしれないって思わないのかよ! ようやく召喚して、これからって時に主人よりもアイツに懐いてる使い魔の姿を見て何も思わないのかよ!!」

「えぇ、私のフレイムもアイツには懐いてるみたいね。それがどうしたの? それでもあの子を使い魔にしたのは私よ。契約を結んだのも私。ならそれを信じるのも主の役目でしょ! 結局アンタ達は弱虫よ! 自分に自信がなくて、疑う事しか出来ない弱虫ね!!

 ルイズが他人の使い魔を奪う? あり得ない。あの子がそんな事をする筈がない。きっと悔しがりながらも自分で使い魔を召喚出来なかった事を悔やむだけでしょう。羨みながらも自分の不甲斐なさを責めるでしょうに!!」

 

 

 それにキュルケは自分の召喚したサラマンダー、フレイムを信じている。何故ならば召喚に応え、契約に応じてくれたパートナーなのだ。これを信じずにいて何を信じれば良いのか、と。

 

 

「結局妬んでるだけでしょう! 恐れてるだけでしょ! 馬鹿馬鹿しいわ! そうね、アイツに欠けてるのは“魔法”くらいなものよね? 魔法が使えるようになればアイツは少なくともこの学院のトリステイン貴族の中じゃ最もらしい“貴族”になるものね!」

 

 

 キュルケの言葉に誰もが言い返せない。そうだ。皆知っているのだ。ルイズの語る貴族の姿が理想ではあると。だが、誰もがあそこまで高潔にはなれない。その理想を誰よりも求めているのが魔法を使えないルイズだと言うのが笑えない皮肉だ。

 これでルイズが魔法も使える才女であれば誰も彼女を罵る事はなく、むしろ褒め称えられていただろう。ただ一点、“魔法”を使えないという点だけが彼女の唯一の汚点だったのだから。ヒステリックな態度も、傲慢な振る舞いも、全ては魔法が使えないコンプレックスより生ずるものであったのは否定出来ない。

 事実、今のルイズにそんな傾向はない。だからこそ、キュルケはルイズを信じる事が出来る。ルイズが卑怯な真似をする筈がない、と。そうでなければ自分が好敵手であると、ルイズを認める事はない、と。

 

 

「他人を妬んで蔑むぐらいなら自分を磨く事をすれば良いんじゃないの? だからトリステインの国力も下がるのよ。少しはアイツを見習ったらどうなのよ、アンタ達も」

 

 

 キュルケは自分の言いたい事を言い切れば、ふん、と鼻を鳴らせて広場へと足を急がせた。  

 

 

 

 * * *

 

 

 

 広場ではちょっとした騒ぎになっていた。食堂の入り口であれだけ大々的に騒げば仕様がないとは思うのだが、少なくない人が広場へと集まっている。ルイズは人垣に囲まれた広場の中央で件の男子生徒と向き合っている。

 杖を構え、ルイズへと向ける男子生徒は気を良くしたように笑みを浮かべている。明らかに浮かれていると言った様子で彼は声高く告げた。

 

 

「では、ミス・ヴァリエール! 教授してあげよう! 僕が得意とするのは風の魔法だ! 僕のクラスはライン! “ゼロ”と“ライン”の差を教えてしんぜよう!」

「ありがたい事で。で? 実際にどう教授してくれるのかしら? ミスタ」

「――勿論、君の身を以てだ。“ゼロ”!!」

 

 

 憎悪を込めた瞳でルイズを睨み付け、杖を差し向けた。そのまま彼はルーンの詠唱を続け、魔法は完成する。

 

 

「――“ウィンド・ブレイク”」

 

 

 ぽつりと、ルイズが小さく呟きを零したのを聞き取れぬまま。

 ルイズの体を吹き飛ばそうと風が吹き荒れ、ルイズはその場に踏みとどまろうとするも体が浮き、吹っ飛ばされる。ふわりと浮いた体は重力へと引かれ、大地へと落とされる。

 

 

「ふっ、どうかね? 僕の“風”は。だがこんなものじゃないよ? 他にもこうだ!」

 

 

 続いて紡がれるルーンの詠唱。明らかに自らに酔ったように芝居がかった仕草で詠唱を続ける。

 

 

「――……“エア・ハンマー”」

 

 

 ルイズが呟きを零す。だがそれもまた、ルイズを圧迫するように放たれた“風の槌”が飲み込んでいく。片膝をつきながらも立っていたルイズは、そのまま大地に叩きつけられるように倒れ伏す。

 ルイズと対峙する生徒は堪えられない、と言うように笑いを零している。ルイズは軽く咳き込みながらゆっくりと体を起こしている。立ち上がり、服の汚れを落としているルイズに両手を広げるようにして彼は言う。

 

 

「どうだい? “ゼロ”の君には為し得ない僕の“魔法”は! 多少は参考になったかね?」

「……えぇ、とても」

 

 

 ルイズはふっ、と笑みを浮かべる。挑発的な好戦的な笑みを浮かべ、まるで指揮者のように杖を高く上げ、そのまま相対する男子生徒へ向けた。

 

 

「――だから、やり返すわね?」

 

 

 ――は? と疑問に声が漏れた瞬間にはもう、男子生徒の体が宙に舞っていた。

 場が騒然となった。ルイズが指揮者のように杖を振り、芝居がかったように一礼をする。同時に僅かに地より浮き、吹き飛ばされた男子生徒が魂が抜けたようにルイズを見つめていた。そんな生徒を前にしてルイズは笑みを浮かべる。

 

 

「参考になったわ。“貴方の魔法”」

「……今、何が……?」

「後はこうでしょ?」

 

 

 呆然とする生徒に悪戯っぽく告げてルイズは杖を振る。紡いだルーンは先程、彼が紡いだものとまったく同じものだ。

 男子生徒は上より押し潰さんと迫る“風の槌”によって大地に叩き伏せられる。信じられない、というように目を見開かせて体を震わせる。

 

 

「“ウィンド・ブレイク”に“エア・ハンマー”。とても参考になりましたわ。如何でしたでしょうか? 私の魔法は?」

「……う、嘘だ! ゼロが、魔法を使うだって!?」

 

 

 よろよろと体を起こした男子生徒は信じられないと言うようにルイズを見つめる。ルイズは妖艶な笑みを浮かべてちろり、と舌で唇を舐めた。嗜虐心すら溢れた笑みに男子生徒は思わず後ろに下がる。

 

 

「ミスタ。感謝いたしますわ? これで私も“ゼロ”と呼ばれる必要は無くなりそうですわ?」

「あ……あ……う、嘘だ……い、一体どんなイカサマを使った!? ゼロが魔法を使える筈がない! こんなのは嘘だ!!」

「――だったら、何度だってアンタの体に叩き込んでやりましょうか?」

 

 

 どんっ、と。ルイズの詠唱に合わせて男子生徒の横にあった大地が抉り飛ばされる。風の槌がルイズの杖の指し示した場所を吹き飛ばしたのだ。真横に吹き荒れた風の奔流に男子生徒は悲鳴を上げる。

 男子生徒の横を吹き抜けた風は自分が巻き起こした風よりも強い。しかも狙いも完璧。文句なしの魔法の発動。普通ならば称賛に値するレベルであろう。この結果を出したのが”ゼロのルイズ”でなければ、だ。

 

 

「本当に、魔法を使えるのか……?」

「文句でも?」

「そ、そんな、嘘だ……嘘だっ!」

 

 

 男子生徒は狼狽し、虚ろに呟き続ける。信じられない、と言うように目の焦点を合わせずに頭を抱えてしまっている。ルイズは男子生徒の様子を冷ややかに見つめながらも、ほっ、と安堵の吐息を吐き出していた。

 

 

(案外、上手くいったわね)

 

 

 ルイズの目には映っていた。自分を取り巻く“何か”。それはルイズを慕うかのようにルイズの周囲に集っている。ルイズは小さく笑みを浮かべて、念じるように告げる。

 

 

(ありがとうね)

 

 

 ルイズが礼を告げるように念じると、周囲に漂っている“声”は嬉しそうにしているようだ。それにルイズも自然と笑みを深めてしまう。

 ルイズの周りで渦巻く“声”。ルイズが目覚めた頃より感じていた“声”の正体をルイズはコントラクト・サーヴァントを終えてから確証に至っていた。

 マナは万物の源。マナは何者にも為り得る根源たる存在。ハルケギニアで言えば虚無、火、風、土、水を含めた5属性。ファ・ディールで言えば光、闇、火、水、土、風、木、金の8属性。その万物の根源を宿しているルイズには見えたのだ。この世界を構成する“粒達”、微細な“精霊”達の姿が。

 ルイズの呼びかけに精霊は応えてくれた。曰く、“自分にやられたように、アイツに同じようにやり返したい、但し傷つけはしないで欲しい”、と。

 後は簡単。“ルーンを詠唱する振り”をして相手に魔法を錯覚させたのだ。実際に魔法を行使したのはルイズではなく精霊達という事になる。

 良い機会だとルイズは思ったのだ。これからどう生きていくか、と考えれば何かしらカムフラージュは必要だと。マナの存在がバレないように。故に、木を隠すなら森の中。普通に埋もれてしまうのが目立つ事無く隠れる方法だとルイズは考えたのだ。

 

 

(一見普通の魔法に見せかけたからこれで無用な追求もやっかみも減るでしょ)

 

 

 だからこそ煽るようにして利用させて貰ったこの機会。思い通りに行ったとルイズは満足していた。さすれば後やるべき事は1つ。

 

 

「それで、ミスタ?」

「……ひ、ひぃっ!?」

「私に向けて言った罵詈雑言の数々、訂正して貰えるかしら?」

 

 

 ニッコリと、自分で自負出来る程の笑顔を作って言ってやった。やっぱり気に入らないものは気に入らない。ここで鬱憤が晴らせるならば晴らしてくれようとルイズは歯を剥くように笑った。

 ルイズの言葉を受けた男子生徒は顔を真っ青にして、脂汗を探しながら声にならない声を上げている。体は小刻みに震え、ルイズから下がろうとして自身のマントを踏みつけて転がってしまう。

 そのまま手を地につけて頭を下げる。外聞も何もない滑稽な姿をルイズは笑わない。ただ冷ややかな目で見つめるだけだ。ルイズの視線に気付いたのか、男子生徒は吐き出すように叫んだ。

 

 

「て、訂正します! 全て訂正します!」

「訂正だけ?」

「も、申し訳ありませんでした!」

「心の底からそう思う?」

「お、思っています! も、申し訳ありませんでした!」

「私は公爵家の権力を使って進級した無能者?」

「そ、そんな事はありません! あ、貴方様はやはり由緒正しき公爵家の息女でありました! た、大変失礼しました! 申し訳ありません! 申し訳ありません!」

「そ。なら良いわ。んじゃ、これでおしまい」

「……ゆ、許してくれますか!?」

「――次、何かして来なければ、ね!」

 

 

 ぱんっ、と。掌にルイズは勢いよく拳を打ち付けた。快音を鳴らして響き渡った音にひぃっ、と短い悲鳴を上げて男子生徒は白目を剥いて気絶してしまった。泡を吹いてしまった生徒に流石にやり過ぎたかな? とルイズは頭を掻く。

 

 

「――ちょっと! 誰か手を貸してくれる!」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ――あり得ない。

 ルイズの呼びかけに幾人かの生徒がルイズの下に集う中、上空から広場を観察している者がいた。監視をしていた者は零れ出た言葉と共に眼下のルイズを睨み付けるように見据えていた。

 上空から広場を監視していたのは青の髪を持つ魔法学院の生徒。シルフィードと名付けた風竜の背に乗りながら広場の決闘騒ぎを見ていた彼女は珍しい、と言って良いほど、表情を驚愕に歪ませていた。

 

 

「……“魔法”を使っていなかった」

「当然なのね! あれは魔法とは違う、精霊達の力なのね! やっぱり“精霊に愛されし子”は違うのね!」

「……つまりそれは“先住魔法”という事?」

「うーん、それともまた違うのね。あれは精霊達があの子に力を貸したのね! わざわざお姉様達の魔法に似せるようにしてね! 流石に私でも出来ないのね! まるで“大いなる意志”様! あの子凄いのね! もしかしたら本当に“大いなる意志”の生まれ変わりなのかもしれないのね!!」

 

 

 きゅいきゅい! と興奮したように口早と言葉を続ける使い魔の言葉に少女は眉を寄せた。つまりルイズは魔法という形式に拘らず、精霊の力を借り受ける事が出来るのだと言う。

 あの落ち零れでしか無かったルイズが? 何故? どうしてそんな力を得た? あれは本当に“ルイズ”なのか? 少女の頬を一筋の汗が伝い、落ちていく。

 

 

 ――あれは“ルイズ”の皮を被った何かではないのか。

 

 

 胸中に沸き上がった不安は消える事無く、少女の胸に恐怖を刻みつけるのであった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 同じ頃、オスマンも“遠見の鏡”と呼ばれるマジックアイテムでルイズを監視していた。先日ルイズに宣言した通りにルイズの様子をこのマジックアイテムで観察をしていたのだが、その額に汗が浮かんでいた。

 

 

「……これが精霊の力、というのかのぅ」

 

 

 オスマンもまた、ルイズが使った魔法が“魔法に似せられた別物”である事に気付いていた。実力のあるメイジは相手の魔法を受けるだけで相手の力量などを察する事が出来るがルイズの放った魔法は“毛色が違う”のですぐにわかった。

 これもルイズが召喚したという“精霊”の力なのかも知れない、と思えばオスマンは納得がいく。逆にここでルイズが起きた騒ぎに合わせて事態の沈静化を図り、自分を“一般”の枠に落とし込もうとしている意図もオスマンは悟った。

 オスマンも頭を抱えていたのだ。今の貴族は“魔法こそが全て”と半ば勘違いしている魔法主義者がいる。どんなに爵位の高い貴族であろうとも“魔法が使えない”が故に虐げられる事もある。

 魔法とはこのハルケギニアの世情において判断の基準となっている。それが行きすぎた結果が今回、暴走をしてしまった生徒だ。ルイズのように“為すべき事を為したものこそが貴族”、“魔法を扱い、民の為に尽力してこその貴族”と考えられる程、高潔な者は悲しいことに少ない。

 これが良い薬となって欲しいとオスマンは願う。魔法は確かに貴族に許された特権だが、特権があるから栄誉があるのではなく、特権を用いて守護を為し、豊かさを与える事が出来るが故に貴族であるという事を。

 

 

「しかし、良く似ているのぅ」

 

 

 オスマンは不意に呟く。長く伸びた髭を梳かすようにしながら考え込むように視線を細める。ルイズが起こした現象はかつて、オスマンが体験した“事象”と酷似していたからだ。

 

 

「……ミス・ヴァリエールに宿るという精霊。もしかすれば彼等と同郷の地より参ったのかもしれんのぅ」

 

 

 そこまで呟き、はて? と。オスマンは首を傾げる。オスマンの記憶の中にある“彼等”。忘れようとしても忘れられない姿がオスマンの脳裏に蘇る。そう言えば、彼等はどこから来た、と言っておったかの、と。

 

 

 

 

 

「――おぉ! そうじゃ、“ファ・ディール”じゃったな。今度、機会があればミス・ヴァリエールに尋ねてみるかのぅ」

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。