ワールドトリガー《ASTERs》 外伝   作:うたた寝犬

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第2話「和水真香と防衛任務」

会議室へ呼び出されていたことをすっかり忘れていた和水だが、奈良坂の助言と機転によって辛うじて時間までに辿り着くことができた。会議室には和水と同じようなソロ隊員や数名の職員、そして本部長である忍田真史がいた。人が大方揃っていることに対して、常日頃から10分前行動を心掛ける和水はどこか悔しさを覚えつつ空いている席に座った。

 

席に着いた和水は少し落ち着き、周囲をさりげなく見渡した。知ってる顔ぶれが全くいないことは無いが、席の位置関係上遠かったため話しかけることはせず、和水は大人しく席に座って待つことにした。

 

そして数分経ったところで、

「時間だ。始めさせてもらおう」

会議の進行役を務めるであろう忍田が口を開いた。

 

それを合図として数名の職員が動き出し、ソロ隊員たちに紙の資料を配り始めた。全部で10ページ少々の資料であり、それを受け取った和水はパラパラっとページをめくった。

ページに目を通したのは20秒足らずだったが、

 

(あー、そっか。修学旅行で隊員が何人か居なくなってる期間限定の、臨時の編隊についての説明会ってことね)

 

その20秒で和水は資料の内容を読み解いていた。

 

 

 

ボーダー正隊員の多くは学生である。昼夜問わず侵攻してくるネイバーに対してボーダーは常にシフトを組んで人員を回している。だが常に隊員がシフトに入れるかと言われるとそうではない。学生である以上定期試験を受けないわけにはいかず、文化祭や修学旅行といった学校行事も無視できるものではない。

そのため学校行事に合わせてシフトが変更になることもあり、今回もその類の会議(というか説明会)なのだと和水は理解した。

 

 

 

忍田本部長が資料を基にして今回のシフト編成についての説明を進める中、和水はそれを片手間に聞きながら再度資料を自分のペースで読み進めていた。

最初に読んだ時は見出しや注目すべき部分を優先して読んでいっただけであり細部には目が届いていなかったからだ。

 

(…、編成は大きく分けて2つ。ソロ隊員同士で臨時にチームを組むタイプと、欠員がでるチームにソロ隊員が代理で加わるタイプ…)

 

元々勉学に秀でた和水は資料の読み込みは得意であり、そのペースも早い。忍田本部長が説明するよりもずっと早いペースで、和水は資料を読み解いていく。

(どうやら私は後者で、どこかのチームに加わる方、か…)

あっという間に最後のページにまで辿り着いた和水は、そのページに書かれた編成部隊の中にあるであろう自身の名前を探した。

1つ1つ丁寧に指でなぞりながら探していたが、「和水真香」の名前は思ったより早く見つかった。

 

(…夕陽隊)

 

和水が加わることになった部隊は、『夕陽隊』。

 

ボーダー本部所属A級4位に位置する上位部隊であり、良くも悪くも本部内で知らぬ者はいないとされる有名チームであった。

 

*** *** ***

 

(…A級4位夕陽隊、か)

 

資料の内容を懇切丁寧に解説された説明会は、忍田本部長の、

「既存の部隊に編入する隊員は明日の内に顔合わせをするように」

という一言で締めくくられた。

 

説明会後の時間帯に防衛任務が割り当てられていた和水は、説明会が終わるや否や昼食も摂らずに防衛任務に直行し、ボーダー本部を中心とする『警戒区域』の警護に当たっていた。

 

無人の市街地を巡回しつつ、和水はぼんやりと考える。

(顔合わせって言われても、夕陽隊の人との接点ないし、なんか気まずいんだよね…。最悪、東さんに頼んで仲介してもらえばいいかな…。明日は平日だし、行くとしたら放課後…。あ、何かお茶菓子みたいなの持っていくべきだよね?)

と、和水が明日の段取りについて考えていたところへ、

『おい和水隊員、距離が離れ始めた。しっかり陣形を保ってくれ』

通信回線を経由した諌めるような声が、和水へと届いた。

 

声の主は、和水と共に防衛任務に出ている正隊員だった。

ボーダーの防衛任務は基本は警戒区域内に5部隊を配置した3交代制である。普段から部隊単位で活動する隊員ならば問題無いが、和水は未だどの部隊にも所属せず活動するソロ隊員である。そのため防衛任務の際は既存の部隊に混ぜてもらうか、同じようなソロ隊員同士の混合部隊として活動している。

そして今回は後者であり、和水より年上でアタッカーの隊員とガンナー隊員、加えて本部から情報支援を行うオペレーターの計4人体制で防衛任務に参加していた。そして、メンバーの中で一番年上であるアタッカー隊員に一応の指揮権があった。

 

和水は立場上、そのアタッカー隊員の指示を聞かなければならないのだが、

『…この程度の距離なら私の射程内ですし、問題無いと思います』

その指示に対する和水の返答は辛辣なものだった。

 

言葉にこそ出さないものの苛立ちを匂わせつつ、アタッカー隊員は和水へと続けて通信回線で声をかけた。

『射程は関係ない。距離を詰めて陣形を保ち、連携を密に取るための指示だ』

 

あくまで距離を離しすぎるなという主張に対して、和水は間髪入れずに言い返す。

『これ以上近寄るとスナイパーではなくガンナー・シューターの射程です。先輩の指示はスナイパーの利点を殺して戦闘力を落とすものになり、デメリットが大きすぎます』

 

『…個々の実力には限界がある。…メンバー間の連携を強化すれば、その程度のデメリットはカバーできる』

 

『メンバー間の連携なんて一朝一夕で磨けるものじゃないです。固定メンバーでチームを組み続けるならまだしも、この場限りのメンバーで無理やり連携組むよりなら個々の実力を生かすべきではないですか?』

あくまで距離を詰めて連携を主張するアタッカー隊員の意見を、和水は口八丁で捌き続ける。

 

『…、と、とにかく今、指揮権は一番年上の俺にあるんだ。指示に従え』

最終的に上下関係を盾にして和水を従わせようとしたが、

『B級に上がった時期とソロポイント、防衛任務の経験は私の方が上です』

和水は実力と経験の優位性を示し、最後まで指示を受けることを拒否した。

 

頑なにアタッカー隊員からの指示を受けることを拒む和水だが、何も他人の指示を全て拒否しているというわけではない。単に今回は、このアタッカー隊員の指示が適切ではないと判断しているがために指示を拒んでいるのである。

 

どちらも意見を譲らず、共に参加しているガンナーとオペレーター隊員がどうするべきか慌てていたその瞬間、警戒区域中に警報が響き渡った。

 

(来たっ!)

 

その警報はボーダー正隊員にとっての仕事が来たことを示す…、すなわち異世界からのゲートが開き、ネイバーが攻めてきたことを知らせるものだった。

 

警報が鳴った瞬間、和水は動いた。近くの塀に跳び乗り足場として、一気に民家の屋根へと駆け上がる。その身体能力は中学生女子のそれをはるかに凌駕したものであり、彼女が生身でないことを物語っていた。

 

 

 

 

トリオン体。

ネイバーの技術たる「トリガー」は、「トリオン」と呼ばれるエネルギーを用いる技術である。トリオンとは、人間ならば誰しもが心臓の横に持っている見えない内臓の「トリオン器官」より生成される生命エネルギーであり、トリガーを起動している人間の身体は生身ではなくトリオンで構成された「トリオン体」へと換装されている。

生身より高い身体能力・耐久力を備えたトリオン体を生かして、ボーダー正隊員はネイバーとの戦闘を行うのだ。

 

 

 

 

トリオン体の身体能力を生かした跳躍で民家へと駆け上がった和水は、素早く周囲を見渡してゲートの位置を確認した。

(ゲート数は4。距離からして担当は私たち。地形的に市街地を背にする形だから、突破される前に撃ち抜く)

状況把握と並行して戦闘プランを立てた和水は、狙撃用トリガー「イーグレット」を起動した。

 

起動すると当時に、通信回線を介したアタッカー隊員の声が和水へと届いた。

『陣形を整えろ!陣形が整ったところでネイバーを撃退するぞ!』

 

それを聞いた和水は、

(遅い)

素直に、そう思った。

 

そうしてる間にゲートが開ききり、ネイバーが姿を見せた。

 

現れたのは「モールモッド」と呼ばれる個体だった。

サイズ的には普通車程度。白いボディに昆虫のような4本の足を持ち、戦闘時にはカマキリを思わせるブレードを振るう、戦闘向けの個体である。

そのモールモッドが空中に開いた各ゲートから1体ずつの、計4体現れた。

 

モールモッドは重力に従い落下し、地面に足をつける。だが、

(まず1体)

和水は腹這いの状態で構えに入り、落下しているモールモッドの内の1体に素早くスコープの照準を合わせ、イーグレットの引き金を引いた。

 

放たれた1発はモールモッドの弱点である「眼」の部分を撃ち抜いた。空中で狙撃されたモールモッドは地面に叩きつけられ、動かないことを確認した和水はすぐに次の標的へと移った。

 

着地し、これから動き出して行動を開始しようとしているモールモッドに対して和水は容赦なく、それでいて淡々と照準を合わせて引き金を引く。放たれた弾丸は、まるで磁力で引き寄せられるかのように正確にモールモッドへと向かい、再度「眼」を撃ち抜き抉る。

 

(これで2体目)

しかし2体続けて撃ち抜いたことで残る2体のモールモッドに場所を勘付かれ、警戒された。

 

(流石に対応されるよね)

和水は慌てることなく一度攻撃を止め、民家から飛び降りた。市街地とモールモッドの間のエリア内で狙撃に適した場所へと移るべく走り出したところで、

 

『てめぇ!勝手に交戦すんじゃねぇよ!』

 

アタッカー隊員からの通信が入った。さっきまでと違って声が荒ぶっているものの、戦闘中にはよくあることなので和水は気にせず応答した。

『トリオン兵が来てるのに呑気ですね』

 

『うるさい!いいから隊列を…』

整えろ、と、アタッカー隊員は言ったが、和水はそれを無視した。

 

トリオン体基本装備であるレーダーでモールモッドの位置を確認しつつ、和水は狙撃ポイントを模索する。

(この辺だと民家の高さが似たり寄ったりだから、屋根の上からの狙撃は適さない…。最悪同じ目線で撃つけど、高いとこから撃つに越したことはない。なら、()()を使おう)

周囲の地形条件と敵の位置から、和水は目的の物を吟味し、

「これがいいかな」

そしてそれを見つけ出した。

 

和水が探していたのは、電柱だった。電柱は場所や様々な条件によって高さが多少異なるものの、高いものでは10メートルを軽く越える。和水は近場にあった登ることが出来るタイプの電柱を手早く登り、そこから狙撃に最も適した位置にある電柱へと跳び移った。

「おっと…」

バランスを崩しかけたがなんとか整え、敵がいる方角へと視線を向ける。

 

「見つけた」

 

標的はすぐに見つかった。市街地を背にした和水からすればジワジワと迫り来るようにモールモッドは移動していた。距離が詰まってしまう前に仕留めるべく、和水はすぐさまイーグレットを構えた。

不安定な足場に少し違和感を覚えつつも態勢を安定させ、和水はスコープ越しにモールモッドを捉え、引き金を引いた。だが、

(あ、反応された)

引き金を引きながら和水は、モールモッドこの一撃に反応したことに気付いた。

 

モールモッドの「眼」は剥き出しになっているのではなく、一見すると口のように見えるものの中に存在している。舌の先に眼がついてきるような状態であり、当然ながら口を閉じてしまえばその中にある眼は守られる。

和水の一撃を察知したモールモッドは瞬時に口を閉じ、眼を保護した。イーグレットの弾丸は硬い歯に防がれたものの、ヒビを入れることには成功した。そして、

(あれ?調整で思ったより威力落ちてるかな?ライ兄さんに後で相談しよう)

和水はそんな事を考えながら、4度目の引き金を容赦も躊躇いもなく引いた。防がれた弾丸と全く同じと言っていいほどの弾道で4発目の弾丸はモールモッドへと直撃し、ヒビが入り脆くなった歯を砕き貫通し、眼を破壊した。

 

「よし、3体目」

 

残り1体になったが、標的は確実にこちらに視線を送り警戒していた。数的には1対1だが距離は十分にスナイパーである和水の間合いであり、攻撃手段がブレードしかないモールモッドが相手では負ける気は全くなかった。加えて後数十秒あれば確実に仲間が到着するため、万に1つも和水に負けは無い状況である。

 

その優位性があるがゆえに、

(…状況もぴったりだし、新技やってみようかな)

和水は、ちょっとした実験まがいの事を試すことにした。

 

トン、と、電柱から跳び降り、地面に着地する。着地と同時にトリガーを切り替えにかかった。

(メイン側をイーグレットからアイビスに、サブ側をバッグワームからエスクードに、それぞれ切り替え実行)

僅かなラグを経てトリガーの切り替えが実行された。

 

右手は持つトリガーはバランス重視の狙撃用トリガー「イーグレット」からパワー重視の「アイビス」へ、左手のトリガーはレーダーから反応を消す隠密トリガー「バッグワーム」から堅固な盾を地形から生成する守備的トリガー「エスクード」へと、それぞれ切り替わった。

 

そうして切り替えている間にも、モールモッドは迫り来る。同じ目線に降り立った和水めがけて、道路を我が物顔で歩き距離を詰めてくる。本来こうして間合いを詰められることはスナイパーに取って悪手であるのだが、今の和水にとっては好都合だった。

 

迫り来るモールモッドを、和水はじっと見つめる。目に焼き付けるかのように、動きと位置、距離をよく見た。

 

(さて、上手くいくかな…)

 

ほんの少しの不安を感じつつも、和水は攻撃に移った。

 

「エスクード」

 

左手側にセットしたエスクードが、和水の少し前方に生成された。本来ならば飛び道具を防ぐ盾として使われるエスクードであるがゆえに、近距離メインのモールモッドには効果が薄い。だがそれは盾として扱った場合であり、和水はこのエスクードを盾だと微塵も思っていなかった。

 

このエスクードは盾では無く、ブラインドなのだ。敵から姿を隠し銃撃のタイミングを掴ませないための、目隠し。和水自身もエスクードが壁となり敵の姿を視認できなくなるものの、視認出来ないことは問題ではなかった。エスクードが生成された位置というのは和水の前方であり、ちょうどモールモッドの姿が隠れるギリギリの位置である。そのため、()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

エスクードの生成が完成すると同時にアイビスをエスクードの向こうにいるモールモッド目掛けて構えた。

 

「これで、ラスト」

 

意図して作ったとはいえ、標的の姿が見えない状況でありながらも和水は先ほどと何ら変わりなく引き金を引いた。

 

狙撃用トリガーどころか遠距離攻撃系統の全トリガーの中で最大の威力を誇る一撃は、和水自身が生成したエスクードを貫き、その奥にいたモールモッドに直撃した。

 

オーバーパワーとも言われているアイビスの一撃を受け、モールモッドのボディはあっけなく砕け散った。

 

疑いの余地なく絶命したモールモッド(の残骸)を見た和水は、深く息を吐いて集中力を緩めた。銃口から硝煙が僅かに出ているアイビスを肩に担ぎつつトリオン体に設定して装備したウエストポーチを漁り、和水はぼんやりと思考する。

 

(…、試してみたけど、やっぱり実用性には欠ける戦法だったかな。でもまあ、エスクードを使って試してみたい戦法はまだあるし、それもボチボチ試してみよっと)

 

そこまで考えたところで、和水はポーチから固形タイプのバランス栄養食(フルーツ味)を取り出し、一口食べた。

 

(まあ、ひとまず…)

 

そしてそれを飲み込んだところで、

 

「…討伐完了。これにて、戦闘終了です」

 

戦闘を終える一言を、ほんの少し満足気に呟いたのであった。




ここから後書きです。

忍田本部長を除けばオリキャラ+モブキャラという原作要素が薄いお話になりました。本来ならば実力派エリートが登場する予定でしたが、次話に持ち越しになりました。

本作にてスナイパーである和水真香ですが、トリガー構成は、
メイン(右)側
・イーグレット
・アイビス
・シールド
・ライトニング

サブ(左)側
・バッグワーム
・エスクード
・シールド
・(Free trigger)
と、なっております。

第1話から更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
今後も遅々とした更新ペースになると思われますが、読んでくだされば幸いです。
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