これまた久々の投稿です。
スナイパーの真香も書いてて楽しいです。
和水真香は不機嫌だった。
モールモッドを実質単騎で4体撃破した和水だったが、その後隊員たちと合流し、隊列を崩したという旨で弧月使いの隊員から小言をネチネチと言われたからだ。防衛任務こそ無事に終わり本部へ一度帰投した和水だが、機嫌はなかなか元に戻らなかった。本来ならばこの後狙撃の練習をもう少ししようとしていたが、今日はそれを取りやめてこれで帰宅することにした。
「あーもう、イライラする…」
時折無意識に独り言を呟きながら本部内を歩く和水は、ランク戦ブースを通りかかった。出口に向かうルート上仕方なく通るだけで、ランク戦をするつもりは毛頭無かった。だがそんな和水の元に、
「ねえねえ!おねーさん今時間ある!?」
小柄で茶髪の、どことなく猫を連想させる女子隊員が声をかけてきた。
「え?」
声をかけられるなど思っていなかった和水は反応に戸惑うが、少女はそれを全く意に介さず言葉を紡ぐ。
「えっとね、ボクたち今ちょっとチームランク戦しなきゃいけないんだけど、1人足りなくて…。だからおねーさん、1回だけでいいから参加してくれない?隊服にB級って書いてるから、正隊員でしょ?1回だけ!1回だけでいいから!」
「いや、でも…」
「お願いしますっ!この通りっ!なんなら隠れてるだけでもいいからっ!」
両手を合わせて頭を下げて頼み込む少女には、このまま断れば土下座しそうな勢いがあった。それを感じ取った和水は、
「…わかりました。1戦だけですよ」
根負けという形で首を縦にふった。
和水の承諾を得た少女は、ぱああっとした明るい笑顔を見せた。
「やったー!それじゃおねーさん!来て来てっ!」
そしてそう言うや否や和水の手を取り共に走り出し、モニター前に向かっていった。和水を引き連れた少女は、モニター前で待っていた中性的な顔立ちをした黒髪で細身の少年に声をかけた。
「見つけて来たよっ!このおねーさん、一緒に戦ってくれるって!」
「見つけて来たというか、強引に連れて来たんじゃん」
「いーの!」
自信満々な笑顔の少女と、呆れ顔の少年の2人が対照的だなと和水はぼんやりと思った。
だがそんな笑顔を見せていた少女が前触れもなく表情を一変させ、好戦的な光りを猫目に灯した。
「それで、あいつらは?」
「もう中に入ってるよ。確か119番」
「そっか。んじゃ、やるよ。ボッコボコにする!」
わかりやすい、苛立ちにも似た感情をむき出しにした少女は1人、近場で空いていた103番と書かれた部屋に先に足を踏み入れた。
少女の後を追う形で少年と和水は歩き出すが、すぐに和水が少年に声をかけた。
「あの…。私今ひとつ状況を理解してないんですけど、これは普通のランク戦なんですか?」
「ん、そうですよ。というか、その様子だとあの小さいのから説明されなかったんですね」
「はい…。1回だけでいいから、としか…」
和水の言葉を聞き、少年は再度呆れた表情を見せた。
「端折り過ぎ…。えーと、3対3の模擬戦形式の…、まあ普通のランク戦です」
「普通の模擬戦で、あそこまで好戦的になる人も珍しいですね」
「ああ、試合自体は変わったことはありませんけど」
103番の扉に手をかけた少年は和水を見つめて答えた。
「これから戦う相手はさっき…、ある正隊員に対して陰口を言ってたんです。まあ、その正隊員ってのは俺もあいつも直接会った事はないんですけど…、それを聞いたあいつが怒って勝負を挑んだんです。こっちが勝ってもポイントはいらない、その代わり相手はその陰口叩いた正隊員に謝罪する。向こうが勝てば、俺とあいつのソロランクポイントを好きなだけやるって条件で」
「ば……」
バカじゃないの、と口から出そうになった言葉を和水は飲み込んだ。
この2人はメリットとデメリットが全く釣り合ってない条件で、見ず知らずの人のために戦おうとしていた。お人好しを通り越して、愚かだとすら和水は思った。
そしてそれが表情に出ていたようで、少年は和水の表情を見て苦笑した。
「バカらしいって思いました?」
「え、あ…、はい」
図星を突かれた和水はわずかに目を伏せるが、少年は嫌な顔1つせずに口を開いた。
「あはは、別にいいんですよ。それが普通の反応ですし。俺も…、出会った頃はあいつのそんなところに呆れましたけど、もう慣れました」
「それは、慣れちゃいけない類のことじゃ…」
「本来はそうです。でも…、そういうところがあいつらしいので」
だからいいんです、と少年は言って扉を開けた。
*** *** ***
3人対3人。
時間無制限。
1ラウンド。
ステージ設定『市街地B』。
天候『晴天』。
和水真香と2人の少年少女が挑んだ勝負は、捻りのないシンプルなものだった。和水は特別指示を出されておらず、2人だけで相手に挑むようで、本当に数合わせとしてだけ呼ばれたのだと和水は判断した。
開戦と同時に、和水はバッグワームを起動してレーダー上から姿を消し、適当なビルへと忍び込んだ。仮想空間で生成される市街地Bというステージはビルなどの高い建物が多く射線が制限されるのが1つの特徴だが、幸いにも和水が選んだビルは複数の射線が確保されていた。
窓に張り付きながらレーダーに表記される方向へと慎重に視線を向けると、少年少女と対戦相手である3人との戦闘が見えた。
(遠い…、550…575くらいかな)
目測で距離を測った和水はメイントリガー側のイーグレットを展開して構えた。どことなくこの勝負において部外者であると感じていた和水であるため、実際に撃つかどうかは別としてひとまずスコープを覗いて戦闘を観察しにかかった。
そして観察してすぐ、和水は驚いた。
(……あの小さい子、すごく速い。スコープに収めるので精一杯)
1つ目の驚愕は、右手に軽量ブレード『スコーピオン』を持つアタッカーの少女の機動力であった。生身とは比べものにならないほどの運動能力を発揮できるトリオン体だが、少女の動きは和水は見てきたどの正隊員よりも生き生きと躍動し、軽やかに戦場を舞っていた。
小柄であるがゆえの軽量さ。本人に備わっていたであろう運動神経や空間認識能力にイメージ力。
それに加えて、少女の動きには膨大な反復を積み重ね努力した人特有のものが宿っており、和水は少女に対して素直に尊敬の念を送った。
2つ目の驚愕、それは少女の相方である少年に対してのものだった。
圧倒的な機動力を発揮している少女に対して、少年の動きは明らかに遅い。トリオンをキューブにしてそれを弾丸として扱っている少年は『シューター』というポジションであり、お世辞にもスピードには優れていないポジションだ。
厳密に言えば相棒たる少女の動きが速すぎるゆえに少年の動きが遅く見えているのであって、少年の動きそのものは一般的なシューターと比べれば大分速く、スムーズだ。
しかし事実として少年の動きは少女に比べて遅い。遅いのだが、それゆえに和水は驚く。
(動きの速さは全然違うのに、連携が全く滞ってない。あの人、女の子の動きを完璧に先読みしてるんだ)
少女が相手に攻め込み、少年がその後ろから相手を牽制したり攻撃を妨害するような射撃を送る。少女が特定の相手を狙い始めた時、他の2人の攻撃を一手に引き受け妨害させない。シンプルな連携を1つのミスもなく2人は行なっている。しかし戦闘の中で少女は少年を全く見ず、2人の間にサインを送ったりもしているような素振りはない。
和水が見る限り、この2人は互いの意思を確認することなく連携を取っている。和水の中でそこから考えられる答えは、どちらかが相手の動きを読み切って合わせているしかなかった。そして合わせているとしたら、相方の動きを常に視界に収めていられる少年の方だ。
(あの子の動きを完全に先読みした上で、対戦相手3人もほぼ抑え込んでる……。そんなの、人間業じゃ……)
スコープの先でほんの少し、それでいて確かに好戦的な笑みを見せる少年に対して和水は薄ら寒い何かを感じ取った。
そして3つ目の驚愕。厳密には驚愕というよりは単に気付いただけなのだが、対戦相手たる3人のうち2人には見覚えがあった。
(どっかで見た顔…、というかさっきまで組んでた2人じゃん)
ついさっきまで防衛任務で組んでいたアタッカーとガンナーが対戦相手側にいたのだ。よくもまあ防衛任務の後にランク戦するだけの元気があるものだと思った和水だが、今の自分も全く同じ状況である事に気付き、苦笑した。
そして苦笑が収まると同時に和水の瞳に真剣味が宿り、今一度イーグレットを構え直して戦場を見据え始めた。
*** *** ***
持ち前の機動力をブーストさせる機動力拡張系オプショントリガー『グラスホッパー』を主軸にして少女は対戦相手の周りを高速で動き回り、ヒットアンドアウェイの要領で攻め立てていた。少女の一撃は軽く、ほとんどが相手の弧月やシールドで防がれるものの、戦闘開始から積み立てた攻撃は相手に精神的なダメージを与えていた。
特に同じアタッカーである弧月使いの隊員は苛立ちが露骨に現れており、太刀筋が乱れていた。それを感じ取った少女は、1つ挑発した。
「あれれ?おにーさん疲れちゃった?弧月ブレブレだよー?」
「うっせえぞドチビ!」
あっさりと挑発に乗った弧月使いとの間合いを詰め、斬撃の応酬を交わしながらさらに言葉を投げかける。
「そのドチビにいいようにやられる気分はどーお?」
「言ってろ!テメーの速さとテンポはだんだん捉えてきたぞ!」
弧月使いは威勢良く言うが、少女はそれが満更ハッタリではないと勘付いた。事実、少女の斬撃は序盤ほど決まらなくなっていた。
動きを読まれてきたにも関わらず、少女は楽しそうに笑った。
「あっはは!じゃあ、これならどう!?」
言いながらバックステップで距離を取った少女は、スコーピオンを一旦解除した右手を掲げ、その直後に4本のナイフ状のスコーピオンを展開して見せた。
「な…!」
なんだそりゃ!と言いかけた弧月使いの先手を取るタイミングで少女は4本の内2本のスコーピオンを上空に無造作に放り意識を誘導し、その隙に残る2本を携えて少年が抑えていた2人のガンナーへと突撃した。
少女が標的を切り替えた事を弧月使いが理解すると同時、落ちてきた2本のスコーピオンを少年が左右の手で1本ずつ掴んだ。
『トリガー臨時接続』
他人のトリガーを一時的に使用する臨時接続の起動音声が流れ、少年は弧月使いめがけて動いた
左手に持つスコーピオンを投げつけて牽制し、弧月使いの反応を狂わせてから剣戟へと持ち込む。手数を重視した、独特のリズムとテンポのナイフ捌きで攻め立てる少年だが、弧月使いはその動きを見切り少年の大振りの一撃に自らの一撃を合わせて動きを無理やり止めた。
「お見事」
高くもなく低くもない、淡々とした声で少年は賞賛の言葉を送った。
「さっきのドチビに比べりゃ、下手だな」
優越感が滲み出た態度と言葉を発した弧月使いに対し、少年は鍔迫り合いの最中にも関わらず妖しい笑みを浮かべて言葉を返した。
「まあ、俺は剣士じゃないんでね」
そしてそう言った次の瞬間、
ボキン
と、何かが折れるような嫌な音が弧月使いの手元から響いた。
何が起こったか理解した瞬間、弧月使いから脂汗が吹き出し、
「……!このクソガキっ!お前、指を……!」
殺意が込められた言葉と目を少年に向けた。
しかし少年はそれを全く意に介していないように、柔和な笑みを崩さず、
「トリオン体だし、折れてもそんな痛くないでしょ?」
なんてことないようにそう言った。
言い終えた少年は対戦相手と少女を視界に収めるために大きくバックステップを踏み、それに気付いた少女が後を追う形で下がり、少年の隣に並んだ。
「折ったの?」
「利き手の小指ね」
「うーわ、性格悪い」
「自覚してる」
少女は笑顔で少年の性格の悪さを指摘し、少年もまた少女と同じような笑顔で答えて受け入れる。
戦場には不釣り合いな笑みを見せる2人には明らかに余裕があり、それが相手の神経を余計に逆撫でた。そのことを察した2人はメンバー間共通の通信回線を開いて素早く意思の疎通を取った。
『よし、いい感じに冷静さを崩した』
『速攻で決めるよ。ボクが仕掛けるから、
『オッケー』
少女の指示を受けた少年は素早く右手を構えてトリオンキューブを生成した。右隣にいる少女に向けてそのキューブを差し出し、それに合わせて少女は空いている左手を掲げ、2人は声を合わせる。
「「トリガー臨時接続」」
言うと同時に見えないプラグが繋がるような感覚が少女の中に流れ、少年が差し出したトリオンキューブが自らのものになった事を確信し、思わずといった様子で破顔した。
「アステロイドっ!」
少女はキューブをスタンダードな正四角形型ではなく、矢を思わせる細長い四角柱型に分解し、それを対戦相手の3人めがけて乱雑に放った。放った本人すらどこに飛ぶか把握しきっていないアステロイドを向けられた3人は、それぞれがシールドを張って防いだ。
的確な対処ではあるが、それゆえに3人の行動を少年は読み切り、すでに手を打っていた。少女にアステロイドを受け渡した直後から少年は間合いを詰め、3人がシールドを展開したのを見て両手にキューブを生成した。そして少女のアステロイドに続く形で少年は分割せずに2つのキューブをガンナー2人に放った。
「アステロイド」
分割していない上に威力を重視して設定したアステロイドは2人のシールドを小気味良い音と共に破壊した。慌てて壊されたシールドを再展開しようと2人は試みたが、それより速く少女が接近しスコーピオンで2人の首を掻き斬った。
矢継ぎ早に駆り出された連携に翻弄された2人は訳がわからないまま、正隊員のトリオン体に組み込まれている緊急脱出機能『ベイルアウト』によりステージから追い出された。
仲間を失った弧月使いは思わず舌打ちを鳴らし、シールドを解除して鞘に収めていた弧月を抜刀しようとした。少年と少女は構え、迎え撃つ態勢に移った。
弧月使いの意識は少年少女に向き、また少年少女の意識も弧月使いに向いている。そのタイミングで、誰からの意識から外れたタイミングで和水真香は動いた。
(ここだ)
スコープの中心に弧月使いの胸元、生身ならば心臓、トリオン体ならばトリオン供給器官がある場所を捉えた和水は、淡々と、躊躇いなく引き金を引いた。
イーグレットの先から放たれた銃弾は、和水が思い描いた通りの軌道でターゲットの胸元に辿り着き、あっさりとその身体を貫いた。
貫かれたターゲットは当然として、味方である少年少女ですら鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているのを見た和水はイーグレットを収めた。一撃必殺が信条と言ってもいいポジションであるスナイパーとして、1つの理想に近い一撃を放てた和水はその出来栄えに満足して身震いした。
和水は知らず知らずのうちに口元に笑みを浮かべた表情で、ベイルアウトしていく弧月使いの光跡を見送っていた。
*** *** ***
戦闘が終了し、仮想戦闘ステージから103番のブースへと戻ってきた和水だが、なぜかそこには少年しかおらず、少女の姿はどこにも無かった。
「ああ、お疲れ様です」
ぺこりと頭を下げながら挨拶をする少年に倣い、和水も一礼して部屋に備え付けられている椅子に腰かけた。
「いえいえ。私結局ほとんど見てるだけだったので、そこまで気を使って貰わなくてもいいです」
「そうですか。それにしても、最後の狙撃はお見事でした。一瞬、何が起こったかわかりませんでした」
「ありがとうございます。最後のは上手く決まりましたけど、ほとんど偶然です。多分相手の人達、私がスナイパーだって知らなかったですよね?」
「きっとそうです。そもそも、俺も貴女のポジション知りませんでしたし」
あっけらかんと言い放つ少年に対し、和水は苦笑した。
「そういえば…、一緒にいたもう1人の女の子はどちらに…?」
「すぐに外に出て行ったけど、多分そろそろ…」
言いながら少年が部屋の出入り口に目を向けたところで、
「お待たせー!」
勢いよく扉が開き、少女が戻ってきた。
やんわりとした笑みを浮かべ、少年は口を開いた。
「おかえり。どうだった?」
「うん、バッチリ!次に会った時に謝るって言ってたよ!」
「口約束じゃん。信用ならない」
「そこはほら、明日確認できるかなーと思って」
「それもそうか」
「でしょ?」
テンポ良く明るい声で会話する姿を見た和水は、この2人が本当に仲が良いのだと感じ取った。
(それか長い時間を一緒に過ごして、お互いの考えとかわかってるとか…)
いずれにせよ、そこまで親しい友人がいない和水には2人のことが羨ましく思えた。
するとそこで、少女が過敏な動きで和水の方を向き、その可愛らしい猫目を和水に合わせた。
「おねーさんありがと!ってかおねーさん凄かった!あんな綺麗な狙撃、ボク初めて見た!」
「え、えーと…」
こちらの反応を無視して言葉を重ねてくる少女に和水はたじろぎ、見かねた少年が少女の頭を上から抑えて黙らせた。
「ちょっとペース落とせ。お姉さん困ってる」
「ごめーん。ついね」
「全く…。というかそもそもお姉さんで合ってる?同い年くらいだと思ってるんだけど…」
「え!?そう!?綺麗だし背高いし、話し方も落ち着いてるから高校生かと思ってた」
そこで2人は1度会話を止め、何才ですか?と言いたげな視線を送った。
視線に込められた意図を察した和水は、少しばかりの気不味さを覚えながら答えた。
「えーと…、中学生です。13歳の中2です」
答えを聞いた2人はギョッとした表情を見せた。
「年下!?」
「大人っぽいんですね」
昔から雰囲気や背の高さから年を上に見られることが多かった和水からすれば新鮮味に欠けた反応だったのだが、それとは別の意味合いで和水は1つ驚いた。
驚いた和水は思わず、
「…ということは、お2人とも年上なんですか…?」
身長が150に届いていないであろう少女に向けてそう言った。
「小さい言うなっ!」
和水の言動を『小さいのに私より年上なの?』と曲解した少女は抗議するが、少年が再度頭を押さえつけて少女を落ち着かせつつ、和水の言葉に答えた。
「ええ。2人揃って中3ですよ」
「1つ上なんですね」
「そうそう」
少女の方はともかく、少年の方はなんとなく年上かなと思っていたため、話す時に敬語にしておいてよかったと和水はひっそりと胸をなでおろした。
そこでふと、少年が何かに気付いたように眉をひそめた。
「…女子中学生で、スナイパー…?」
そしてわずかに首を傾げてから和水に問いかけた。
「もしかして、和水真香さん?」
本名を言い当てられた和水は一瞬驚きつつ、すぐに肯定した。
「えっと…、はい。私は和水真香ですけど…、それが何か?」
その答えを聞いた少年と少女は顔を見合わせ、笑い始めた。
「えっ、ちょっ…!こんな偶然ある!?」
「出来過ぎだろこれ。つかあの中から和水さん見つけてきたお前の引きが凄えよ」
2人の会話を聞く和水はなんとなく事情を察し、外れていないこと願いながら口を開いた。
「…さっきの試合、もしかして私も当事者でしたか?」
「そうみたい!ボクたち、和水ちゃんの悪口言われたのにイラついて戦ったからさ!」
和水の問いかけを少女は笑顔で肯定し、少年がそれに続いた。
「もう少し早く…、というか試合前に確認出来てたら、終わってすぐに謝らせたのにな」
「いえ…。さっきあの人たちと防衛任務に出てまして、ちょっと…というかかなり気まずい感じで仕事してたんですよ。ですから終わってすぐに顔合わせるのは流石にバツが悪いです」
「あー、そういう考えもあるか」
「はい。ちなみにですけど、私どんな陰口言われてたんですか?」
詳細を尋ねられ、少年は記憶を遡らせてから答えた。
「…年下のくせに生意気だとか…、スナイパーのくせにでしゃばりだとか…、そんな感じかな」
「ああ、そういう…。別に普段からちょくちょく言われてるようなやつですね」
嘆息した和水は気持ちを切り替え、2人に向かって頭を下げた。
「何はともあれ…。見ず知らずの私のために戦ってくれて、ありがとうございます」
その丁寧な所作に面食らった2人だが、すぐに落ち着きを取り戻した少年が口を開いた。
「そんな丁寧にお礼しなくてもいいんですよ。俺もこいつも、平気な顔で人の悪口言うような奴に納得いかないから戦っただけで、感謝されるためにやったわけじゃないですし」
「そうですか。でも何か、こう…、借りができた感じですね」
俯き、どことなく申し訳なさそうに和水が言うと、いつの間にか近づいた少女が和水の顔を下から覗き見て、悪戯っ子を思わせる表情で言葉を紡いだ。
「じゃあ1つ貸しにするから、明日返してよ!」
「明日…、ですか?…すみませんけど私、明日は夕陽隊の人たちに会わなきゃいけなくて…」
「うん、だから明日から!」
そこまで言った少女は和水から離れ、少年の隣に並んでから自己紹介を始めた。
「ボクは地木彩笑。それでこっちが月守咲耶」
2人分名乗った地木はクスッと小さな笑みを挟んでから、
「ボクたち2人とも、和水ちゃんが明日から合流してくれる夕陽隊のメンバーだよ」
夕暮れ時を思わせる色合いの隊服の右腕にある、黒の生地から細く抜き取られた白い円が刻まれたエンブレムと、『A』と『04』の階級を見せながら、そう言った。
後書きです。
本来なら迅さんやら太刀川さんやら登場させる話を構想していたのですが、なんやかんやでまたオリキャラだらけの回に…。本編から1年半くらい若い彩笑と月守が出てきました。中学時代は(も)生意気だった2人ですが、こっちも書いてて楽しいです。