ワールドトリガー《ASTERs》 外伝   作:うたた寝犬

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前書きです。
本編と番外編では登場人物を示す際の、名前と苗字を敢えて入れ替えてます。本編では「真香」、番外編では「和水」と言った具合です。


第4話「和水真香と夕陽隊」

偶然に偶然が重なったような日曜日を過ごした翌日。

 

和水はいつも通りに学校に来ていた。いくらボーダー正隊員が街の平和を守るために戦っていると言えども、その大半の本業は学生である。和水も例外ではなく…、むしろ成績優秀で通っている彼女にしてみれば、自分は正隊員であるというよりも学生であるという意識の方が強かった。

 

「…であるからして、この場合は…」

昼過ぎ、生徒の眠気を誘発するような穏やかな口調で授業する教師の板書を、和水は綺麗な字でノートに書き写す。中学の勉強の範囲などとっくに学び終えている和水からすれば、定期試験は知識や学力を競うものというより、教師の意図を読んで彼らの望む答えを書くものになりつつあるため、ノート作成は一際大事になっていた。

 

真面目にノートを作成するため目線を前に向ける和水だが、その視界に、

「…すぅ……すぅ……」

規則正しい寝息を立てて眠る同級生の姿が映っていた。

 

細く華奢な身体つきに、背中まで届く長く艶のある黒髪。

 

この春から同じクラスになった彼女が居眠りする姿を見て、

(天音さん、また寝てる…)

和水は内心、ため息をついた。

 

和水真香にとって、天音神音というクラスメイトは少し変わり種な存在だった。

きっかけは初めてクラスで顔を合わせた時。何の感情も篭っていない見事なまでの無表情でありながらも、和水は彼女のことを綺麗だと思った。あまりにも整った顔立ちに驚き、思わず二度見した。それから和水は度々、神音を視界に捉えて意識を向けるが…、彼女は誰とも一緒にいることも、話すことも、ニコリと笑うことさえしなかった。授業やホームルームの流れで誰かと話すことはあっても、完全な無表情。ましてや、自主的に神音がその鈴の音が鳴る様な声で誰かと話すことなど、なかった。

 

(話したくない…、というよりは、そもそも誰かと話す発想がないみたい。1人でいるのが当然みたいで…、自分1人で世界が完結してる感じがする)

 

周囲に対して、徹底的なまでの無関心。そんな神音を、和水はもったいないと思っていた。

 

(もし人並みに何かに意欲があって、作り物であっても笑顔を向けることをしてたなら…。きっと、天音さんにとって人生はすごく楽なものになるはずなのに…)

 

しかしそう思うことはあっても、和水は神音にそれを言うことはない。ただのクラスメイトでしかない彼女にそこまでする義理などなく、ましてや人の生き方や性格に意見する気など、和水にはサラサラ無かった。

 

(…言う必要なんて、ないよね。ただのクラスメイトだし…、それ以上に親しい関係になんて、なるはずないしね)

 

和水がそう自らの思考を締めくくったところで、

「はい、それでは次の問題を天音さん…、は寝てるので、代わりに後ろの席の和水さん、答えてください」

教師が神音に当てようとした問題を代わりに答える羽目になり、和水はスヤスヤと可愛らしい表情で眠る神音に『いつまで寝てるのさ!』と言いたげな視線を送った。

 

*** *** ***

 

他の生徒に比べて多少大目に問題に答えること以外は何の問題もなく、全ての授業を終えた和水は教科書類をまとめてスクールバッグにしまい込み、教室を後にした。今日はこのまま、夕陽隊との正式な顔合わせに向かうことになっている。

初めはどうなることかと思い緊張こそしていたものの、昨日偶然にも夕陽隊のメンバーと顔を合わせることができていたため、和水の気分は幾分か楽になっていた。

 

楽になる、ということゆとりがあるということであり、そこからある種の油断に繋がる。つまるところ、学校を出る時点で油断していた和水にとって、

 

「あ!来た来た!おーーい!なごみちゃん!なごみちゃーん!!」

 

昨日知り合ったばかりの地木が満面の笑みで校門で待ち伏せしているのは、完全な不意打ちだった。

 

(……ちょっと待って?なんでいるの?)

 

和水の心に浮かんできたのはそんなシンプルな疑問だったが、その気持ちは周囲が向けてくる奇異な目にあっという間に塗りつぶされ、和水は若干赤面しつつ、小柄な先輩のもとに早足で移動した。

 

「あのですね、地木先輩…」

 

公衆の面前で大声で名前を連呼されるということはこれまでの和水の人生には全く無かったことであり、ちょっとした羞恥的な出来事ですらあったため文句の一つでも言おうとしたが、

 

「こんにちは和水ちゃん!昨日ぶりだね!」

 

和水が言葉を言い切るより早く、地木は和水と会えた事が心底嬉しいと言わんばかりの笑みを見せながらそう言った。

 

「っ…」

笑顔に気圧される、というこれまた人生初の経験をした和水は、

「…そう、ですね」

口から出かけた文句は何処かへと霧消していた。

 

ぴょんぴょんと飛び跳ねそうな雰囲気を漂わせながら、地木はニコニコしたまま会話を続ける。

「和水ちゃん今日、防衛任務とか入ってなくて普通に学校だって聞いてたから、隣の学校から急いで走ってきたよ!見つけれて良かった!」

 

「走ってきたって…、わざわざそんな事しなくても、こちらから作戦室に向かいましたけど…」

 

「うーん、それはそうだけどさ。ボクは早く和水ちゃんに会いたかったの!だから走ってきたんだ!」

そこまで言った地木は「ダメだった?」とでも問いたげに小首を傾げた。

 

この、ほんの1分足らずの会話で和水は悟った。

(…あーもう……、だめだ。この人には敵わない…)

 

人が持ってるパーソナルスペースに笑顔で入り込んできて、でもそこに悪意は全く無くて、純粋な嬉しさだけが伝わってくる。和水なら長い時間をかけて築くであろう人との繋がりを、一瞬にして超えてくるような親しみやすさを持つ地木のことを和水は素直に羨ましく思った。

 

「……?おーい、和水ちゃん?固まっちゃってるけど大丈夫?」

思考に没頭して会話を止めてしまった和水に地木は近づき、見上げながら話しかけた。

「え?ああ、大丈夫ですよ」

「ホント?」

「ええ、本当です」

和水が大丈夫なことを伝えると、やはり地木はニコリと笑った。

「そっか!じゃあ行こっ!ボクらの作戦室に!」

そして笑ったまま差し出された彩笑の小さな右手を、

「はい、行きましょう」

同じような笑顔を見せた真香はそっと握った。

 

*** *** ***

和水と地木はその後、月守咲耶と本部入り口の手前で合流して、それから夕陽隊作戦室を目指した。

 

「修学旅行2日目の自主見学はどっか一個見る所減らした方がいいって。色んな所慌てて見るより、一個一個じっくり見ようよ」

「えー?でもせっかくの京都だよ?色んな所見たいじゃーん?」

「彩笑の要望全部通したら移動が大変なんだよ。電車とかバス一本遅れたら間に合わなくなる」

「なんとかなる。最悪、現場で調整すればいい!」

「出たよ、行き当たりばったり。…ちなみに、その調整ってのは誰がするんだ?」

「咲耶以外にいるわけない」

「無茶振りやめろ」

合流直後から、地木と咲耶は間近に迫った修学旅行の打ち合わせを始めた。和水は2人の数歩後ろを歩きながら会話を聞き、

(この2人、クラスとか修学旅行の班まで同じなんだなぁ)

とか、

(私も来年修学旅行だけど…、一緒にそういうこと出来る友達いないな…、どうしよう…)

とか、

(仲良さそうだけど…、この2人付き合ってるのかな?)

などと、無言でそんな事を考えていた。

 

そうして歩いていると通路が十字で交差する場所に差し掛かった。和水は前日の内に夕陽隊の作戦室の場所を頭に入れてきたため、その通路を左に曲がる事を知っていた。そのため曲がる左側に先んじて意識を一瞬向けた。するとまるでそれが合図だったかのように、オペレーターの制服を着た人影がそこから現れた。

 

スラリとした体型と濡れているかのような艶やかさがある黒髪に目を引かれる、綺麗な人だった。その人は目線を和水たちに向けると、知的さを感じさせる整った顔立ちに柔和な笑みを浮かべた。

「彩笑ちゃんにつっきーちゃんだ、やっほー」

決して大きな声ではないが、不思議と耳に届く芯のある声で女性がそう言うと、

「澪ちゃん先輩!」

まるで帰ってきた飼い主にじゃれつく子犬のように、地木がその女性に抱きついた。

 

澪ちゃん先輩、と呼ばれた女性はこれまた子犬をあやすように地木の頭を撫でながら言葉を紡ぐ。

「いきなり抱きつくのは危ないからやめなさいって言ってるでしょー?」

「あはは!ごめんなさーい。澪ちゃん先輩に会えたのが嬉しくてつい!」

「つい、じゃないの」

澪は呆れつつ、それでいてとても嬉しそうに地木をあやす。

 

地木と戯れながら、澪は咲耶へと視線を移した。

「つっきーちゃん、頼んでたもの買ってきてくれた?」

「商店街で売ってる、緑茶の茶葉ですよね?買ってきましたよ」

「ふふ、ありがと。今丁度切らしててね…。うんうん、それそれ。助かったよ」

咲耶に頼んだお茶っ葉が望んだ通りのものだと確認した澪は、空いている左手を伸ばして咲耶の頭を撫でた。咲耶は、子供扱いしないで下さいと言いたげな雰囲気と、それでいて満更でもない雰囲気を同時に醸し出しながら、されるがままに撫でられていた。

 

澪は2人とじゃれた後、ようやくといった様子で和水に目を向けた。

「…彩笑ちゃん、ちょっと離れてね」

地木の背中を軽くトントンと叩きながら、澪は静かに言った。「ん」と返事のような1文字を発音してから、地木は聞き分けよく澪から離れて、クルッと半回転して澪の隣に並んだ。

 

「えーと…、貴女が和水真香さんね?」

確かめるように澪が尋ねる。尋ねる形ではあるものの、その奥には確信に近いものがあるように和水は感じた。それと同時に、

(この人…、話し方は柔らかいけど…、なんだろう、何か変。違和感がある)

和水の中には1つ、懸念にも近い疑問が生まれたのだが、それを押しつぶして和水は会話を続けた。

 

「そうですよ。…夕陽隊の、オペレーターさんですか?」

和水もまた、疑問形ではありながらも心の底では確信を持って問いかけた。澪も同じような事を感じつつ、答える。

「正解。夕陽隊でオペレーターを担当してる、白金澪よ。真っ白の白に、金字塔の金で、白金。澪はさんずいに漢数字の零って書くわ」

「丁寧にありがとうございます、白金先輩」

「あはは、そんな堅苦しく呼ばなくてもいいよ?彩笑ちゃんみたく気軽に、澪ちゃん先輩とかでいいのに」

「…できれば白金先輩で呼びたいんですけど、ダメでしょうか?」

「うーん…、まあ、いいかな。呼び方なんて、私が呼ばれてるって分かればなんでもいいし…」

仕方ない、とでも言いたげに困った表情を見せた後、澪はニッコリと微笑んで、ゆっくりと和水の側に寄った。手を伸ばせば届くくらいまでの距離に近寄られたところで和水は思わず身構えたが、澪はそこで歩みを止めて、和水にしか聞こえない程度の声量で、

 

「じゃあ私は、和水さんのこと『狙撃卿』さんって呼んでもいいかしら?」

 

スナイパー組の中で広がりつつある、和水の二つ名を口にした。

 

「っ!」

そしてその二つ名を聞いた瞬間、和水は一層身構えつつ、澪と同じように相手にだけ聞こえるような小さな声で和水は会話を試みた。

「…調べたんですか?」

「うん。マー坊…、ウチの隊長が今回の件で貴女を選んだ時点で、簡単なことはざっと調べさせてもらったよ」

澪は赤みがかった独特な色合いの黒い瞳を細めて見据えるが、和水はたじろぐことなく会話を続ける。

「よく調べましたね」

「調べたって言っても、スナイパーの人たちからちょこっと話しを聞いた程度だけなんだけど…。貴女凄いのね、東さんもレイジさんも、ひたすらベタ褒めだったわ」

「…年が離れてるので、可愛がってもらってるだけですよ」

「謙遜しなくてもいいのに…。あ、結局呼び方は狙撃卿さんで良い?」

「…………できれば名前か苗字でお願いします」

「ふふ、おっけー。じゃあ、和水ちゃんだから…、なーちゃんで良いかな?」

 

名前か苗字って言ったのにと思いつつも、恥ずかしい二つ名で呼ばれるよりはよっぽどマシだと判断した和水は、ゆっくりと息を吐き出してから、

「…、じゃあ、それでお願いしますね、白金先輩」

なーちゃんというあだ名を受け入れ、

(この人、食えない人だ)

心の中の警戒リストの1番上に、白金澪の名前を書き込んだのであった。

 

澪は笑みを崩さないまま、パチンと一度手を叩いた。

「長々と立ち話もなんだし、作戦室に行こっか。みんな、それでいい?」

質問の形はとったものの、澪は誰の答えを聞かずに作戦室の方へ歩き出し、3人はそれに続いた。

 

「ところで、澪ちゃん先輩は何でこっちに来たの?作戦室で待ってるんじゃないの?」

歩くペースを上げて澪に並んだ地木がそう訊ねると、澪は肩をすくめて答えた。

「んー?彩笑ちゃんが迷子になってないか心配して来たんだよ〜?」

「えへへ、ありがとー。でもそういうウソじゃなくて、本当の理由は?」

「え?彩笑ちゃんが迷子になってないか心配だったからだけど?」

「ウソじゃなかった!?ってか澪ちゃん先輩ひどい!ボクが迷子になると思ってる!」

「あは、ごめんね」

 

まるで姉妹のように仲良い2人を後ろから見ていた和水は、隣を歩く咲耶に雑談のつもりで問いかけた。

「月守先輩。あの2人って、親戚か何かだったりしますか?」

「いや、そういうのじゃないけど…。…白金先輩は昔から妹が、彩笑は昔からお姉さんがそれぞれ欲しかったみたいでね。だからお互い、相手にそれっぽいものを求めてるんだと思うよ」

「ああ、なるほど…。…私、妹がいますけど、あんなので良かったら白金先輩にいくらでもあげますよ」

「あっはっは」

和水の発言を聞き、咲耶はそうやって笑ったあと、なんて事無いように、

 

「…和水さん、例え冗談でもそういう事は言わないでくれるかな」

 

と、言った。

 

表情も声のトーンも、何一つ変わったものはないが、その一言を聞いた和水の背中に激しい悪寒が走り、同時に理解した。

(地雷だった。今の私の発言は、この人にとって特大の地雷だったんだ)

昨日会ったばかりで咲耶の人となりを知らない和水には、彼がどんな過去を持っているのかは分からない。でもそれでも、今の発言が咲耶の心の触れてはならない何かに触れたのだと、否応にも分かった。

 

「分かりました。以後、気を付けます」

言葉短くそう言って和水は咲耶との会話を切り上げ、それから作戦室に着くまでひたすら無言を貫いたのであった。

 

*** *** ***

 

「…よく来たな。待ってたぞ」

たどり着いた作戦室の扉を和水が開けると、6人掛けのテーブルが目に入り、続いてそのテーブルの上座に位置する場所に座る、1人の青年が目に入った。

 

精悍さを感じさせる顔付きに、切りそろえられた黒の短髪。鋭い眼光を宿す鳶色の瞳が特徴的な青年。一目で、和水は察した。

(この人が、夕陽隊隊長の、夕陽柾か…)

名前が思い浮かぶと、昨日の夜に詰め込んだ彼についての情報が連鎖的に頭をよぎる。それらの情報と、今ここにいるだけで発している佇まいだけで、彼が只者ではないと、嫌でもわかる。

 

嫌でもわかるのだが…、

(分かるんだけど…、なんだろう、こう…、バカっぽい?)

失礼なのは百も承知で、和水は自分が抱く夕陽への印象を頭の中で言葉に置き換えた。

 

和水が夕陽のことをそう思ってしまった理由は、2つ。

1つ目は、和水を迎え入れた時の彼のポーズだ。10人中6人がイケメンと言うであろう青年が、両端をテーブルに付き顔の前で指を組み、(恐らく)渾身のドヤ顔をしていたのだ。

2つ目は、それを見た夕陽隊メンバーの反応である。3人とも、

「うわー…、こいつまたやったよ…」

と言いたげな表情だった。

 

深い深いため息を吐いてから、澪は不承不承といった様子で和水に声をかけた。

「えーっと…、なーちゃん。こちらが、このチームの…、一応、隊長の、夕陽柾よ」

「あ、はい…」

 

最低限度で紹介を済ませた澪に対して、夕陽は抗議を入れた。

「ちょっ、シロ!オレの紹介雑じゃない!?もっとこう…、色々あんだろ!?」

「もっと、ねえ…。そんなことよりマー坊」

「そんなこと!?シロ今、オレの紹介のことそんなことって言った!?」

抗議を続ける夕陽に対して、

「黙れ」

澪は言葉に鋭い刃のような殺気を乗せて言うと、

「すいませんでした!」

夕陽は高速で頭を下げて謝った。

 

2人のやり取りを見て、地木と咲耶がクスっと笑った後、その会話に割って入った。

「夕陽さーん、澪ちゃん先輩怒らせちゃダメだよ?また夕陽さんの飲み物だけ緑茶じゃなくて青汁にされちゃうよ?」

「おおう、それは勘弁だ。…あの青汁、本当に苦かったからなあ…」

「苦かったでしょ!?健康重視だけど味は全く考慮されてないようなやつ、ボクが頑張って探してきたんだからね!」

「彩笑ぃ!シロのイタズラの片棒担ぐなって何回言えば分かるんだよ!」

「うーん…、夕陽さんがとびきり美味しいココアを買ってくれたら、1発で覚えられる気がする!」

「こいつ…!」

 

アタッカー2人が口撃の応酬を交わす傍ら、咲耶は澪を宥めにかかった。

「白金先輩も、冷静に…。夕陽さんがしょうもないことをやるのはいつものことでしょ?」

「それはそうなんだけどね…。分かっててもイラつくわ」

「はいはい。俺が飲み物用意しますので、それ飲んで落ち着いてください。何飲みますか?」

「…コーヒー。いつもの」

「豆から挽いたやつですね、了解です」

やんわりとした笑みでオーダーを受けた咲耶は、口戦中のアタッカー2人にも声をかけた。

「何飲みます?」

「ココア!」

「コーラ!」

注文を受けた咲耶は再度「了解」と呟いたが、

「あ、つっきーちゃん。マー坊には戸棚の1番奥にある緑色のドクロマーク付いたやつでいいから」

と、澪が注文を上書きした。

 

「おいぃぃ!それ明らかに例の青汁!超苦いやつじゃん!」

上書きが聞こえた夕陽は慌てて咲耶に向けて声を荒げた。

「いいか咲耶!その緑のやつは絶対に入れるなよ!いいか!絶対だぞ!」

夕陽の心の底からの警告を聞いた咲耶は人の悪い笑みを浮かべ、

「絶対ですね?了解です!」

今日一番の生き生きとした声で答えた。

 

「分かってない!お前絶対分かってないだろ!この確信犯!」

背後で夕陽がそう叫ぶが咲耶は素知らぬ顔で、和水にもオーダーを取った。

「和水さんは、何飲む?」

「そうですね…、炭酸でなければ何でも…、あとその、例の青汁でなければ、なんでも良いですよ」

「ん、りょーかい」

全員分のオーダーを取り終えた咲耶が鼻歌まじりで奥の部屋へと消えていく姿を見て、和水は無意識の内に嘆息した。

 

(凄いのか凄くないのかよく分からない隊長。

一癖も二癖もありそうなオペレーター。

子供みたいに屈託なく笑う点取り屋。

人当たりよさそうだけど底が見えないシューター。

そして何より、びっくりするくらいの仲の良さ…。これが、A級4位夕陽隊、か…)

 

正直、こんな規律のないチームがちゃんと任務をこなしているのか疑問に思わなかったわけではない。それでも他のチームを知らない和水からすれば、この空気感はどのチームにもあるのか、それともこのチームだけのものなのかの判断がつかなかった。

 

だが、和水が初めて触れるボーダー正隊員同士のチームは嫌なものでは無かった。むしろ…、いつもどこか張り詰めている和水の心の緊張を自然に緩めてしまうほどの、妙な居心地の良さがある、暖かなものだった。

 

そんなことを思いながら立ち止まっていた和水を見て、夕陽はスッと立ち上がって、自然な足取りで彼女のそばに歩み寄る。そしてそれに和水が気付いたところで、夕陽はどこか気恥ずかしそうに口を開く。

「和水真香ちゃんだよな?」

「あ、はい」

「そうか。…まだ正式に決まったわけじゃ無いけど、これからしばらく一緒に任務をやるわけだから、ひとまずこれは言わせてくれ」

夕陽は敢えてそこで一度言葉を区切り、

 

「ようこそ、夕陽隊へ」

 

隊長として、迎い入れる言葉を和水へと届けた。




ここから後書きです。
ASTERsメンバーの過去を書くのは案外楽しいです。本編以上に更新遅いですが、こっちもぼちぼち投稿していきます。
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