ワールドトリガー《ASTERs》 外伝   作:うたた寝犬

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第5話「和水真香と実力テスト」

「和水ちゃんの実力知りたいから、簡単なテストをやろうと思う」

夕陽隊作戦室のミーティング用デスクに案内され腰を下ろし、適当な雑談を10分ほど挟んでから、夕陽柾は本題を切り出した。

 

ちなみに彼の前に置かれている飲み物は、シュワシュワと小気味良い音を立てるコーラだった。咲耶は最初こそ例の青汁を夕陽の元に差し出して彼の苦悶の表情を見て楽しんだが、口をつける前に、

「冗談ですよ。ちゃんとコーラ用意してあります」

やんわりとした笑顔でコーラが注がれたグラスと取り替えた。なお、その青汁は直後に咲耶が一気に飲み干し、その苦さを知る夕陽と地木から驚愕の目を向けられていた。

 

閑話休題。

 

「テスト…、ですか?」

不意に出て来た単語を拾い、和水は確認するように問いかけた。

「ああ。つっても、和水ちゃんは正隊員だし、オレと仲良いスナイパー組もみんなこぞって太鼓判を押してる。…何より、昨日君にお世話になったウチの2人が…、というか彩笑が嬉しそうに何度も君の話をするから、実力に間違いは無いとは思ってる」

丁寧に落ち着いて夕陽がそう説明し、

「いやだってさ!あんな綺麗な狙撃見ちゃったら何回も話しちゃうって!夕陽さんだって一回見ればわかる!」

途中で地木が割り込み、

「はいはい、彩笑ちゃん静かに。珍しくマー坊が真面目に話せてるんだから、もうちょっと待とうねー」

白金澪が微笑ましいものを見る顔で地木を押さえつけた。

 

地木が落ち着いてから夕陽は説明を再開させた。

「だから今からやるのは、君がどんな戦闘員なのかを知るためのものだ。これからしばらくオレたちは…、正確にはオレと澪は君と組んで任務をするわけだから、お互いの事は知っておくべきだろう?」

「そうですね。知っておいて損は無いものですし…、テスト、やりましょう」

「よし、決まりだ」

 

快諾した和水を見て、夕陽は安心したかのように肩張っていた力を抜いた。

 

「テストやるとして、どんな方法にしますか?」

やる事が決まったのを受けて、ここまで口を閉ざしていた咲耶が意見を出した。するといち早く、地木が挙手して元気よくアイディアを出した。

「はいはい!あれやりたいあれ!」

「あれじゃ分からん。広範囲防衛シュミレーションか?」

「それ!あれが一番その人の素が出るじゃん!」

「そうかもしれないけど、凄い疲れるし余裕が無いからお互いに相手の戦い方確認出来ないよ?」

「ログ撮って見れば良くない?」

「それもそうか」

 

サクサクと中学生2人で話が進んでいくが、そんな2人を見て夕陽が申し訳なさそうに口を開いた。

「あー…、すまん2人とも。実はテストの内容はもう決めてあるんだ」

それを言った直後、

「もー!夕陽さん言うの遅い!」

「だったら最初から言ってくださいよ夕陽さん」

「マー坊、私に黙ってテストの内容決めるなんていい度胸ね」

戦闘員とオペレーターが隊長の敵に回った。

 

「ちょっ、悪かった!謝る!ごめんよ!」

夕陽は謝罪するも、

「せっかくボク意見出したのにー」

「出鼻を挫かれた感じがします」

「今からでもテストの内容変えよっか?」

依然、3人は夕陽の敵だった。

 

一見すると四面楚歌(一面足りない)状態だが、これが本気で隊長を貶しているものでは無いと、和水は雰囲気で感じ取った。お約束というか、お決まりのおふざけのようなものだと分かるだけの、和やかさがあった。

(…このチームで、隊長の権力って低いのかな…)

和水は夕陽隊のやり取りを、フルーツジュースを飲みながら見ていた。

 

このまま夕陽隊が落ち着くまで待とうと思った和水だったが、彼らの隊長いじりが五分たっても終わる兆しを見せなかったので自分から切り出すことにした。

「あの…、ちなみにテストの内容ってどんなものですか?」

問いかけると、彼らはきっちりおふざけを終わらせて、夕陽が質問に答えた。

「形としては、チームランク戦になる。ただ複数のチームが入るとそれこそさっき咲耶が言ったみたいにお互いの戦い方を見る余裕が無くなるから、相手は1チームだけだ」

「なるほど、チームランク戦…」

その内容に、和水は少しだけ不安を覚えた。

 

夕陽隊は現在、暫定A級4位部隊であり、ボーダーの中でも十分に強いチームだ。大抵のチームに負けることは無いだろう。しかしそこに自分というイレギュラーが入り込み、チームの歯車を崩してしまったとしたら…。互いの実力を知る調整試合のようなものだとしても、普段勝てているところに負けてしまうようなことがあれば申し訳ないと、和水は思った。

 

そう考えてしまい、自然と視線が下がった和水からその考えを感じ取ったのか、夕陽が明るく声をかけた。

「何回も言うけどさ、お互いの戦い方を知るためだから勝ち負けとかは二の次でいいんだ。作戦とかも、特に無しだ」

「…作戦無し…、わかりました。でもその…、本当に勝ち負けには拘らなくていいんですか?」

念を押すように和水は確認するが、夕陽は努めて笑った。

「あはは、本当に気にしなくていいぞ。むしろオレたち、本番でもちょいちょいポカやらかしてランク下のチーム相手に負けるとかよくあるから、大丈夫だ!」

負け自慢を何故かドヤ顔でする夕陽が面白おかしくて、和水は思わずクスっと笑った。

 

そしてそのタイミングで、夕陽がポケットに入れていた正隊員の連絡端末にメールが1通届いた。

「お、丁度いい。相手も準備できたってさ」

端末を見て夕陽が言うと地木、咲耶、白金はすくっと立ち上がった。

「じゃあ行こーよ!夕陽さん、場所は?」

「ランク戦室。適当に空いてるブースでやることになってる」

「りょっかーい!」

「彩笑、張り切るのいいけど、先にコップ片付ける。持ってくよ」

言いながら咲耶は飲み終えたメンバーからコップを集め始めた。和水のものはまだ少し残ってたが、一口程度の量だったのでそれを飲みきった。

「無理して飲み切らなくても良かったですよ」

「いえ、片付けるのに中身残ってるのは失礼だと思って…」

「あはは、丁寧にありがとうございます」

柔らかな口調で咲耶は言い、受け取ったコップを持って作戦室奥の給湯室へと姿を消して行った。

 

*** *** ***

 

夕陽隊メンバーと和水が作戦室を出て、数分。彼らは迷うことなくランク戦室に辿り着いた。そしてそこで待ち構えていた対戦相手を見て、これまで夕陽をお遊びでいじり倒していた3人が、

「「「このっ、バカーーーーー!!!!」」」

お遊びでは無い叫び声をあげた。

 

周囲にいた訓練生や正隊員の目が一斉に集まるが、それに構うことなく3人は夕陽を容赦なく責める。

「夕陽さん!俺の記憶違いじゃ無かったらアンタ確か()()()テストをやるって言いましたよね!?」

「チーム対チームのランク戦だ。簡単だろ?」

咲耶が真剣に問い詰めるが夕陽は難なく躱す。

 

「そこだけ聞くと簡単そうに聞こえたよ!?でも相手が簡単じゃない!なんでこのチョイスなの!」

「この時間に都合ついたのがこのチームだけだったんだ」

地木のツッコミを夕陽はしれっと事情を話す。

 

「マー坊。お前は報連相って言葉を知ってるか?」

「おひたしにすると美味いやつだな」

白金の殺意が篭る追求に対して夕陽はワザと全然違う答えを返した。

 

そうして3人が、

「こいつマジでふざけるなって言いたいけどこうなったらしょうがない」

という表情を浮かべたのを見て夕陽は満足そうに笑い、相手チームの大将の元へ歩み寄り、誰がどう見ても好青年だと答える外面の良さを全開にして、

 

「…まあ、そういうわけで。今日は一戦よろしくお願いしますね。A級1位の東隊の胸を借りるつもりでいきます」

 

と言いながら握手を求めた。

 

夕陽の先にいる人物と、彼が率いるメンバーを見て、和水の身体が一瞬だけ震えた。

 

(実力テストの相手って…、東隊だったんだ…)

 

そこにいたのは、和水にとってスナイパーの師匠のような存在の東春秋が率いるボーダー最強の部隊、東隊だった。

 

東はどことなく眠たそうに瞼を少し下ろしつつも、その瞳をしっかりと夕陽に向けて握手に応じた。

「こちらこそよろしく頼むぞ。だけど柾、少し訂正だ。もう俺たちは解散したから正式には隊じゃないし、1位どころか順位すらないぞ」

「あはは、そうでしたね。けど、東隊が築いた1位を超えてくるチームは今のところ…、いや、この先も無いと思うんで、1位って呼ばせてくださいよ」

「はは、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。それより柾、お前は変わらず隊員を困らせてるな」

「ええ、変わらずですね。一応、本気で困るようなことはしてないつもりなんですけど…」

「そうか。あんまり人の隊に口出しするのは気乗りしないから、その辺の見極めはしっかりしろよ」

「気をつけます」

 

隊長同士が挨拶している間、両チームの隊員同士もそれぞれ話し込んでいて、和水はそれらを視界に入れた。

 

(地木先輩と話してるのは、加古さんか…)

 

加古望。女性にしては高い173センチの長身と雰囲気のある佇まいからセレブを連想させられる、東隊の射手。特別、和水とは交流がないが珍しく和水より背が高い女性ということもあって、和水の記憶に残っていた。

 

「地木ちゃん、今日はよろしくね」

「うん、よろしく!ねえねえ加古さん、新作のチャーハンある?」

「残念だけど、最近閃くものがなくてね…。地木ちゃん、何かアイデアある?」

「今の時期だと、ギョウジャニンニクが美味しいからネギの代わりに使ってみるのはどう?」

「そうねえ、材料費と相談して試してみようかしら」

 

ボーダー屈指の高身長女子とボーダー屈指の低身長女子がチャーハンにギョウジャニンニクを混ぜ込む話をしている間、月守咲耶は二宮匡貴に絡まれていた。

「月守、最近大人しいな。何かあったのか?」

背が高い二宮は見下ろすように咲耶を見て問いかけ、

「修学旅行の準備で忙しいんですよ。ニノさんこそ、最近忙しそうですね。この度は二宮隊設立おめでとうございます」

咲耶は二宮の近況を祝った。仏頂面を少し崩した二宮は、小さく嘆息した。

「まだ形だけだ。…だが、すぐにA級に上り詰める。月守、それまでAで待っていろ」

「待ってますから、早く来てくださいね」

約束ですよー、と咲耶は小さな声で言った後、

「なんなら指切りでもします?」

「誰がするか」

冗談めかして提案したが、二宮がポケットハンドしたままの両手を出すことは無かった。

 

(…なんか、二宮さんって怖いって噂あったけど、案外そうでもないんじゃ…?)

和水の中で二宮の印象が変わりかける中、両チームのオペレーターが合間見えていた。

東隊のオペレーター月見蓮は白く細い指を頰に当て、小首を傾げながら苦笑いを浮かべた。

「白ちゃんは相変わらず夕陽くんに振り回されっぱなしね。大変でしょう?」

「お気遣いありがとうございます、月見先輩。でもそういう月見先輩も大変そうですよね。新しいチームのオペレーターやったり、太刀川くんをスパルタで指導したりとか、色々してるそうですけど…」

「そうね。確かに大変だけど…、なんでかしらね、手のかかる子ほど伸ばし甲斐があるのよね」

「ああ、同感です」

白金澪が月見と似たような動作、似たような表情を作って答える。

 

(白金先輩、意図して月見さんの真似をしてるのかな…?)

無言で和水がそんな事を考えていると、

「和水、ちょっといいか?」

いつの間にか夕陽との会話を抜けて来た東に話しかけられた。

 

「あ、どうもお疲れ様です、東さん」

「おう、おつかれ。話は聞いたが、これからしばらく夕陽隊と組むことになったんだな」

「はい。それで今日顔合わせをして、それから実力テストをすることになりまして…、それで今に至ります」

話の途中で和水は苦笑しながら頰を掻いた。

「まさかテストの相手が東さんだったなんて思わなかったので、びっくりしましたよ」

「あいつは人を驚かすのが好きだからな。まあ、夕陽の話はここまでにして…」

 

話に一度区切りを付けた東は、その表情に真剣味を加えてから口を再び開いた。

「和水。正直なところ、俺は今日の対戦が少し楽しみなんだ」

「楽しみ、ですか?」

「ああ。いつも訓練でしか競ったことのない和水と、初の手合わせだからな」

「そう言われれば、そうですね。勝てるとはあまり思えないですけど…、楽しみにしてもらった東さんの期待に添えたら嬉しいです」

あまり、という表現を使った和水だが、実際は勝算は限りなくゼロだと思っていた。

 

和水抜きのチーム順位は向こうが上で、ましてや和水は夕陽隊との連携が取れない状態だ。1人加わったところで戦力の増加はたかが知れている…、むしろ下がるかもしれない。

 

東と握手を交わしながら、せめて足を引っ張らないように頑張ろうと和水は心の中で意気込んだ。

 

そして東が夕陽との会話を抜けて来た直後、

「夕陽さん」

「おう、秀次。久しぶりだな」

東隊最後の1人、三輪秀次が夕陽に話しかけていた。

 

硬い表情の三輪と対照的に、朗らかに笑いながら夕陽は雑談を始めた。

「聞いたぞ。タカと同じように、お前も自分のチーム作ったんだってな」

「そうです」

「隊長になった気分はどうだ?」

「あまり、隊長になったという実感が湧いてこないですね」

「だろーな。オレだって自分が隊長っつー感じしてないしな」

 

あっさりと夕陽はカミングアウトするが、夕陽隊はボーダーの部隊制度黎明期から発足している古株チームであり、年数にして2年近く存在している。にも関わらず隊の長としての自覚が薄いという宣言は如何なものかと三輪は思ったが、野暮なことは言うまいと、その思いを心の底へと沈めた。

「…だとしても、自分は夕陽さんは立派な隊長だと思ってます」

「お、嬉しいこと言ってくれるな。オレとしては、お前のその気づかいを彩笑や咲耶にも向けてほしいなと思ってるんだが…」

「……すみません、それは少し難しいです」

「はは!言うと思った!」

 

三輪が正直に話した事実を聞き、夕陽は声を上げて笑った。

「まあ、お前から見ればアイツらは確かに受け入れがたいっつーか、合わせるのが難しいとは思うよ。だから、無理に合わせなくていいし、無理に歩み寄らなくてもいい」

そこまで言った夕陽は今一度しっかりと三輪を見据えて、

「…何も、全員と仲良くする必要は無いよ、秀次。だからその分、ちゃんと、チームメイトは見てやれよな」

隊長の先輩として、そのアドバイスを送った。

 

不意に授けられたアドバイスに三輪は一瞬だけ驚いたが、しっかりと受け入れてから、意思を示すように頷いた。

 

その意図を感じ取った夕陽は、朗らかだった表情を一変させ、張り付くような闘志を隠すことなく表に出した。

「さて、仲良しこよしのフレンドリーモードはここまでだ。秀次、試合中に当たったら遠慮なくブッタ斬るから、覚悟しとけ」

「ブッタ斬りにくるなんて甘いんじゃないですか、夕陽さん。叩き潰すつもりで来ないと、いくらNo.1レイガスト使いでも足元すくわれますよ」

つられるように闘志を引き出された三輪は戦う意思を隠すことなく夕陽へとぶつけ、踵を返した。

 

三輪が歩く先には、すでに相手との会話を終えた東隊が揃い踏みしていた。全員が揃ったところで、隊を率いる東が4人を見渡してから、一言、

「…よし、勝つぞ」

ただ、それだけを言った。

 

シンプルで明確な目標を東が口にしただけで、4人の雰囲気が変わった。無駄な物が何一つ無く、それでいて圧迫感すらある何か…、言うなれば、王者のオーラとも言える雰囲気が、場を満たした。

 

 

「…あれがあるからこそ、1位なんだろうなぁ…」

三輪と同じように踵を返してメンバーと合流した夕陽だが、急に湧き出てきたそれを感じ取り、思わず苦笑した。そして苦笑したまま、

「んー…、セッティングしといてなんだけど、これテストにしては難易度が適切じゃねーなー」

と、散々忠告した3人の熱に油を注ぐような発言をした。

 

当然のごとく咲耶達は、

「だから言ったじゃ無いですか!」

と言おうとしたが、

 

 

「けどまあ、それはそれだ。オレたちのやることは変わんねえ」

 

 

夕陽は静かに、それでいてはっきりとそう言って、その場に自らの存在感を強く示し、

 

 

「だから頼むぞ、お前ら」

 

 

全幅の信頼を乗せた言葉をチームメイトに送った。

 

*** *** ***

 

対戦直前、両チームは10分間のミーティングを設けた。

 

「夕陽隊だが…、特別な作戦は練らずにいく。何度も戦った相手だ。対夕陽隊の戦いで行くぞ。各自、よく考えろよ」

戦術でも高い能力を持つ東にしては、無策に近いオーダーだった。

 

しかしそこには、一人前になって、すでに新しい隊を率いている隊員に対する、尊重と敬意、そしてケジメがあった。

 

それを感じ取ったのか、4人は不満1つ言わずに承諾した。作戦を共有した上で、加古が東に質問した。

「ねえ東さん、夕陽隊にいたあの子って、最近東さんがよく見てるって言うスナイパーですよね?」

「そうだ」

「どんな子ですか?」

 

和水のことを知りたいという加古の質問は最もなものだった。

順位や対戦成績から見ても、東隊は夕陽隊より上である。まともにやればまず勝つ戦いになる。しかし今回はそこに、和水真香という不確定要素が混ざっている。勝ちを求める上で、不確定要素を少しでも減らしたいというのは至極真っ当なことだった。

 

和水真香がどんな子かと問われた東は、自身が持つ和水の印象から話し始めた。

「率直に言えば、『よく考える子』だな。向こうの夕陽や地木と違って、理論立てして行動する子だ」

「理論派なんですね。向こうだと、月守くんや澪ちゃんと似てるタイプか…」

加古はそう分析したが、東はかぶりを振った。

「半分合ってるが半分違う。和水は理論派だが、月守とは真逆のタイプだ」

「…?」

言われた加古だけでなく、他の3人も揃って東の言葉が理解できずに困惑した。

 

全員がその言葉の意味を知りたかったが、東はその意味は自分達で考えて欲しいと思い、疑問に答えることなく次の説明に移った。

「狙撃の技術は、平均以上だと考えていい。特に構える速さと姿勢の良さは正隊員でもトップクラスだ。ただ、まだ若いからか性格的なものなのか集中力にはムラがある。平凡な出来に終始することもあれば、逆に…、集中力が嵌った時には俺や鳩原でも難しい難易度の狙撃を成功させることもある」

 

実際、東はスナイパーの合同訓練時に、コンディションが良い状態の和水にスコアを迫られたことが何度かあった。その経験や普段の様子から推測する和水の情報をメンバーに伝えていく。

 

「個人の実力としては中学生クラスだと思わない方がいいだろう。ポイントも今は確か…、イーグレットとアイビスで8000越え、ライトニングでも7000は届いてる。ただ、彼女はチームランク戦の経験はほぼ無い筈だ。チームの一員としてのスナイパーの動きはやったことがないだろうから、この試合ではそこを攻めるべきだろうな」

 

東から伝えられた情報を4人は正確に受け取り、戦闘員としての和水真香のイメージを構築していく。

 

和水について話すのはこれくらいで良いだろうと東は判断して会話を切り上げようとしたが、最後に1つだけ、スナイパー界隈では有名な彼女の情報を付け加えた。

 

「ああ、あとな…、和水は、()()()()()()()()

 

*** *** ***

 

その一方、夕陽隊。

 

「…ざっとこれが、オレたちのチームの戦い方と東隊の戦い方だな」

夕陽は和水に自分達のチームの戦い方と相手の戦い方をレクチャーしていた。特別作戦は立てないという話だったが、流石に1位相手に失礼な試合は出来ないとして、簡単な作戦会議を行っていた。

 

「なるほど、分かりました」

一度の夕陽の説明だけで、和水はそう言った。

 

この時、夕陽は説明にある仕掛けをしていた。お互いのチームの戦い方を説明する上で必要な要素を、敢えて一部隠して話したのだ。しかし隠したと言っても、全体の説明を聞いて理解していれば推測で十分埋められる程度のものだ。

 

その説明を聞いて、和水は「わかりました」と答えた。

 

(今の説明でそう言えるってことは…、この程度の推測なら推測のうちに入らないレベルで頭良いからか、それにすら気付いてないかのどっちかなんだが…)

二択の判断に迷った夕陽だが、心の奥では根拠は無いが彼女は前者だろうと思った。

 

それを夕陽は確かめる事なく、作戦会議を説明から次の段階へと進めた。

「さてと。両チームの戦い方を頭に入れた和水ちゃんに、1つ指示を出す」

指示と聞き、和水の肩に少し力が入った。

 

どんな指示が来るのだろうかと楽しさに似たワクワク感と、実行したく無い指示じゃなければいいなと思うモヤモヤとした思いが混ざり合った和水に、夕陽が出した指示は、

 

「自由にやれ」

 

だった。

 

漠然としすぎた大雑把なオーダーを聞き、和水の頭の上には自然とクエスチョンマークが浮かんだ。そんな和水を楽しそうに見ながら、夕陽は指示に詳細を加える。

「別に和水ちゃんはオレたちの戦い方に合わせようとか、そんなの考えなくていい。いや、合わせたいと思ったならそれでいいけど…。できれば、今説明を聞いて和水ちゃんが一番最初に頭に思い浮かんだことを、この試合でやってほしいと思ってる」

 

「一番最初に頭に浮かんだこと…、ですか?」

確認しながらも、和水は頭の中で夕陽の指示を正確に咀嚼していた。

 

一通りの説明が終わる頃、確かに和水の頭には1つのアイデアが浮かんでいた。しかしそれはリスクが多大に存在する作戦であり、開始早々に和水が倒される可能性を多分に持っていた。自分の実力や戦い方を知ってもらう為の試合でやっていいものなのかと、和水は大いに悩んでいた。

 

しかしその悩みを見抜いたかのように、夕陽は言葉を重ねた。

「危険が大きいとか成功率が低いとか、そういう事を気にしてやりたい事を躊躇う気持ちは分かる。けど、真っ先に頭に浮かんだそれは1番和水ちゃんらしい選択肢の筈なんだ。もし失敗したとしても、一番自分らしい選択が出来てたなら、失敗なんて問題じゃない」

失敗を問題にしないと明言した上で、夕陽は、

「だから遠慮なく、自分が思ったように戦ってくれ」

和水へのオーダーを締めくくった。

 

(遠慮なく…、自分が思ったように、か…)

静かに夕陽の言葉を反復して、和水は腹をくくった。

 

上手くいく保証は無いし、上手くいったとしても決して良い出来栄えにはならないであろう。しかし、それでも良いのだと夕陽は言ってくれた。

 

ならば思いっきり遠慮なく、それでいて私らしくやろうと、和水は決意した。

 

そこでちょうど、試合開始1分前となり、カウントダウン表示が始まった。

 

59…58…と、着々と数字が減る中、和水は精神状態を整える。熱しすぎず冷めすぎず…、沸々と湧き上がる闘志を、冷静さというカバーを何重にも掛けて覆い隠す。スコープ越しに覗いた相手に殺気が届かぬよう、覆い隠した闘志を心の奥深くへと沈める。

そうして十分に精神状態が整ったところで、

 

『東隊対夕陽隊、戦闘開始』

 

無機質な機械音声によって開戦が告げられ、8人が一斉に戦場へと転送されていった。

 

*** *** ***

 

転送が完了したところで、二宮匡貴は視界に入る情報からステージを割り出した。

(市街地Aか…)

ランダムによって選ばれたステージは、もっともオーソドックスなステージである『市街地A』だった。

 

ランダムに選ばれたステージに転送された直後なら、普通はどこのステージかを確認する。いや、確認するというよりは、それが一番最初にするべき事であり、一番最初に出来てしまう事である。

 

それをしていたが故に二宮は、目の前に吹き飛ばされた自分の右腕がある、という事実を飲み込むのが、一瞬遅れた。

 

「……!なんだと…!?」

 

開戦後僅か1.8秒、二宮匡貴は右腕を失った。

 

 

 

 

「ちっ……、外れた」

二宮が驚愕を示すと同時に、1人のスナイパーが舌打ちをした。

 

言うまでもなくそれは、No. 1シューターを仕留めるつもりでアイビスの引き金を引いた和水真香だった。




ここから後書きです。
作中に出てきたギョウジャニンニクこと別名アイヌネギですが、個人的には天ぷらで食べたいです。

そこまで深く考えないで書いてたら、本編でも番外編でもランク戦をやってるという事態に…。

開戦早々、真香が二宮さんに喧嘩ふっかけました。
次回、二宮先輩激おこ!
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