一年前、私が『双葉 対』だった時の記憶は今も鮮明に覚えている。
私が能力の発現が
埋め込まれたことから、無惨に後頭部をゼロ距離で撃ち抜かれた兄、月波夜空を
見るまで、ずっと、寸分の狂いもなく、全て覚えている。
でもこれはあの狂気と狂乱のマッドサイエンティストに脳改造を受けたから...
その痕跡のせいで私は酷い頭痛と目眩に時々苛まされる。
《ゼヴィア》にいた時なんて思い出したくないけど、あいつらは私の
頭痛を抑える薬まで処方していたから、完全に『双葉 対』をコントロールしていた。
--あの死体を私が見るまでは。
『双葉 対』の意識を封じ込めて今の私、月波 真夜は初めて活動できる。
今は《リバティー》の天日さんが精神安定剤をくれるおかげでその事を
考えずに済んでいるんだけど...薬漬けなのは、ホントは嫌だな...
『真夜君、そのレポートは君の兄、夜空君の遺書とも言えるものだ。
君に託そう。私も、もう少し早くに完成させたかったが...』
『そうですか...お兄ちゃんは、強かったですか?』
レポートを開いて、打ち込んである字を読む。
目を滑らせていくと、必ずあるのが長宮優奈という名前。
だが彼女は《ゼヴィア》最強の破壊者、『虚目 幽』として今を生きている。
あの死の運命力保持者、黒鷺 冷爾を文字通り塵にしたということからも、
《ゼヴィア》は幽の事を私と黒鷺以上だと思っているだろう。
『《救済》...お兄ちゃんはなんでそんなものをながみやさんに望んだんだろう...』
『彼女の運命力は《平常》だ。だが、夜空君は《平常》ではないもう一つの
彼女の運命力を見たことがある。全てを消し飛ばし、砂とする運命力、
仮称、《虚無》の運命力...彼はそれこそが、彼女の真の運命力であるとしたのだよ。』
同様の文面をレポートの中にも見つける。だとしたら、あの《平常》はなんなんだ。
『彼は...にわかには信じがたいが、優奈君の本質は、
『そんなのあり得ません!だったら、ながみやさんの家その物が無いじゃないですか!』
いくらお兄ちゃんでもそんな気味の悪いオカルト話を作るなんてことは絶対にない...!
『当然私もそう思ったよ。だとしたら、優奈君は一体何なのか、定義できないのだから。
だが、夜空君はこう考えた。優奈君は、世界が産み出した、いや、自らの《悲劇》の
運命力で産み出した、夜空君の絶望を投影させた現象だと。事実、彼は《天災》の
能力からではなく、元から《悲劇》の運命力だったのだよ。彼はそれを家族にも
隠していた。こんな運命を背負うのは自分だけでいい、とね...』
『馬鹿馬鹿しい...お兄ちゃんは馬鹿なの!?そんなのあり得るはずない!』
『あぁ、そうとも馬鹿馬鹿しい。だが、彼女が現れたのがいつかは曖昧だ。
出生も調べられない。親という存在もいるはずだが、どこにも長宮という
名字の人間はこの町に居ないのだよ。...こうなってくると、最早何が正しいのか
わからない。ただ一つ、確かに言えることは、優奈君がシステムとするなら、
いずれセットされたプログラムが発動するはずだ。そして、おそらくそれが...』
『お兄ちゃんのいう、《救済》...』
普通なら頭が追い付かないが、脳改造のせいで全て理解できた、理解できてしまった。
そして、その《救済》は止められない。お兄ちゃんの絶望は産まれたときから始まっている。
私は膝から崩れ落ちた。止める術のない圧倒的な力は、私の能力でもどうしようもない。
私の《反転》の能力で、膨大な量の力を膨大な量の反力にしてしまったら世界が壊れる。
《氷結》と《炎熱》でもどうにもできるはずなどない。
『どうやら、この物語は始まる前に終わっていたようだ。夜空君。
君の望みは果たされたよ。安心したまえ。...さぁ、真夜君。
終幕だ。《ゼヴィア》の基地の上を見たまえ。』
わけのわからない話をした後、天日さんは外を指差す。
そこには、今にも世界の終わりが始まりそうな、大規模な紋様があった。