長宮優奈の能力事情   作:Feldelt

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第7話 物語の転換

黒鷺が優奈を踏みつける。

 

瞬間、優奈を中心として、禍々しい"何か"としか形容できないものが流れ出た。

 

それは、黒鷺ですら後退りさせる、純粋な闇ともいえるものだった。

闇は優奈を中心にして球形になり、表面から黒い波動が放たれて、

 

--全ての能力が無効化された。

 

それがわかったのは空中に留まっていた銃弾が再び動いたからだ。

 

『動いた...!?夜天姉さん!大丈夫!?』

 

『大丈夫だよ、よぞくん、ちょっとかすっちゃったけどね。』

 

この時点では僕ら二人は動けていたよ。

けど、凝集した黒いエネルギーは、単に能力を無効化するだけではなかった。

 

『ち、分が悪いどころの騒ぎじゃねぇ、とっととトンズラするか...』

 

黒鷺はそう算段を立てた。けど、それは瓦解したよ。いや、それ以前に

既に瓦解していたんだ。第二四基地の建物そのものが、砂となって。

 

『どうなってるの...あれがよぞくんの彼女なの...?』

 

『違うよ、冗談は止めてくれ...けど、あれは...優奈じゃない...』

 

誰だ...?誰なんだ...何で、優奈の中にそんなものがある...

最初は能力が制御不可能の暴走及び覚醒かと思ったけど、運命力にそんなことはない。

そもそも運命力はただの能力よりも純粋な力であり、力であるがゆえに当人にも

影響を及ぼすものの、暴走なんてことは絶対にない。

 

だとしたら。僕と夜天姉さんは一緒に考えた。

考えの結果は、優奈が、二重人格かもしれないということだ。

 

実際、二重人格の能力者は、能力を二つ持っている。

要監察対象003、双葉 対の《氷結》と《炎熱》はその最たる例だろう。

けど、それを調べるにしろ僕らは仲間である優奈を回収しなきゃなんなかった。

 

それは至難の業だった。僕の骨折なんてまだまだ安い。

だって、《リバティー》が送った援軍は、皆、あの黒いエネルギーに触れたとたんに、

砂となって消えていったんだからね...僕らは戦慄したよ。

 

だが、ある一定の距離に入らないとエネルギーが届かない。

そこに気づいて銃で撃ってみたけど...結果は銃弾が砂になるだけだったさ。

 

気づけば基地の大半は砂になっていた。直接的に繋がっている建物の部分は

朽ち、砂となり上から降ってきたりもした。

 

つまり、あの黒いエネルギーは触れたものと直接繋がっていたら全て

砂にしてしまうのだ。僕らはそこにも戦慄した。

 

『どうすれば優奈を回収できる...あのエネルギーは一体...』

 

僕は考えた。結果、エネルギーならば使わせればいい。

使わせてもっかい倒れさせればいい。そう考えた。

 

けど、不幸かな、いや、天災といった方がいい。

思えば、いや、気づけば対処できたんだ。けど出来なかった。

家族とはいえど、僕は誰かを不幸にする。

 

だから、砂と化した建物の、直接繋がっていない部分、

屋根裏部屋にあった保管庫の中身が落ちてきたのさ。頭上に。

 

僕は避けるべく動いた。だけど夜天姉さんは、当然のように《停止》の

能力を使ってその間に避けようとした。

 

解説をすると夜天姉さんの《停止》の能力は、物体そのものをピンポイントで

停止させたり、一定範囲の空間内の運動を停止させたりできる。

前者は自分は動けるけど、後者は自分も動けなくなる。

 

銃弾が襲って来たときは後者で止めたんだけど、優奈が来なかったら詰んでた。

 

それはともかくとしても、夜天姉さんは前者の方、落ちてきたものを

ピンポイントで停止させようとした。けど、黒い波動のせいで出来なかった。

 

その結果、夜天姉さんに一瞬の狼狽が生まれ、落ちてきた爆弾が足元で爆発した。

 

『夜天姉さん...!?』

 

そう叫んで振り返った僕にも隙が生じて、降ってきた鉄骨への反応が遅れた。

 

それで、僕の左腕は折れた。流血と共にね。頭への直撃だけはしないように避けた

結果だけに、仕方ないとも思う。けど、こんな障害が重なるせいで優奈の回収は

一向に進まない。寧ろ状況は悪くなっていく。

 

だが、ここで僕はある結論に行き着いた。

 

『エネルギーの外から、優奈を気絶させればいい。』とね。

 

そこから先は簡単で、まず正面を探すために閃光玉を投げた。

そしたらビンゴで、見事目が眩んで倒れてくれたよ。

 

そして僕は、周りを見て慄然としたよ。

夕暮れの太陽の光と、足元の砂に刺さる様々な物。

血の跡と爆発の跡、そして、立っているのは僕一人...

 

一瞬、世界の終わりが来たのかと思ったよ。

 

--ここまでが、基地で起きた話さ。

 

 

僕はありのまま話した。そして優奈は、それを黙って聞いていた。

 

 

----------

 

 

夜空の話は、私の心を穿った。

 

言葉が出ない。私のせいで夜空と夜天さんは怪我をしたのだ。

そして、今この場所には夜天さんはいない。それが何を示すのだろう。

 

「あ、あの...夜天さんは...?」

 

キッという音が合うように、夜宵さんは私のことを睨む。

その目には怒りとしか形容できない光がある。

 

『夜宵君、席を外したまえ。君の気持ちはよくわかるが、それではただの

 威圧にしかすぎないよ。もっとも、それ以外感情もあるだろうがね。』

 

『しかし、夜天はっ...!』

 

『優奈君のせいで両の脚を切らなければならなかったと、そう言いたいのだろう?』

 

私はさらに衝撃を受ける。

夜天さんは生きてはいる。だが、もう立てない。

地に足をつけて、立つことがもうできないのだ。

 

私は自分の脚を見た。

級友に細いと言われるが、長くはないこの脚を失わなければならないと

思うとどうだろう。きっと何もできないのではないか。

 

思えばまだトラックと激突してから4日程度しか経っていない。

いくらなんでも急展開過ぎる。

 

そのせいかどうなのかはわからないが、気付けば私は涙を流していた。

 

『何故貴女が泣く...貴女に涙を流す資格なんて!』

『やめてくれ夜宵姉さん!』

『止めないでよ夜空!』

 

そして私の涙に端を発して夜宵さんと夜空が喧嘩を始めた。

私は、どうすればいいのかわからなくなっている。

 

夜空に促されて《リバティー》にはいるが、そこに私の自由意思は恐らくない。

これは夜空の為、ということになるのだがそれは何かと気恥ずかしい。

かといってそれを否定はしたくないが、その自由意思は大局には全く

影響しない。いや、影響することを許されていない。

 

--全部私のせいなのかな...

 

それは、夜空がいつも持っている感情だ。

彼は何か悪いことがあるといつも自らの責任にする。

それが力を持つ者の業だと、ましてや《天災》の能力をもつ

彼は全てを自らが起こした事だと、そう思わずにはいられないのだ。

 

だから夜空は優しいと解る。優し過ぎるが故に傷つきやすい。

そしてその傷はいずれは身を滅ぼす。

 

苦しい。つらい。自己嫌悪感が束になって襲いくる。

そんな痛みともとれるものが、夜空には17年分もあるのだ。

 

「わからないよ...どうしてそんなに、自己犠牲出来るの...?」

 

今の私の心の叫びは、声となり、月波姉弟の喧嘩も止めた。

 

犠牲、それは口にしてしまえば軽く、水泡のようなものだ。

けど、犠牲の事実は鉛のように重く、冷たい。

 

震え、うちひしがれ、沈んでゆく。

...人の心は、一度限界を超えれば壊れやすいと思う。

例えるならそう、静止摩擦係数と動摩擦係数の関係のように。

 

『自己犠牲、か...違うよ優奈。』

 

「じゃあ、何なの...?」

 

震える声と溢れる涙。漂う空気は静かになっている。

 

『生まれついた事への...贖罪さ。』

 

そう告げた夜空の目には、悲壮感が満ちており、誰も...それこそ

夜空の姉である夜宵さんですら何も言えなかった。

 

 

--夜空が言わせなかったのだ。

 

 

こほん、と、誰かの咳払いが静かな部屋に響いた。

 

『ともあれ、第二四基地が消された以上、《ゼヴィア》の奴らは

 黙っちゃいないだろうなぁ...夜空君。優奈君の監視と護衛を続けたまえ。』

 

『わかりました、ボス。』

 

この瞬間をもって、いよいよ私の生活は普通とは更にかけ離れていく。

元から、ただただ平坦で平均で、平凡な生活だったけれど、それが

嫌だったけれども、何故だろう。今はそれが懐かしい。

 

懐かしくても...戻れない。戻る事など許されない。

 

『とはいえもう夜だ...今日は全員帰って寝なさい。夜宵君は特に。

 既にもう50時間ぶっ続けで起きているのだろう?肌に悪い。休みなさい。

 ...これは、ボスとしての指令だよ。』

 

『...わかりました...』

 

夜宵さんは席を外した。私達も席を外した。

 

眠ることなど出来なかった。けど、疲れは私を無理矢理眠らせた。

あの白い夢を見る。この夢は、私に安心を与えてくれた。

 

夜空は欠席が多かった。その理由は病弱だと思ってた。けど違った。

戦ってたのだ。人知れず。だから学校でもそんなに会わない。

けど、この夢は私を夜空に会わせてくれる。

 

もう、その事に意味はないし、あったとしても、私には届かない。

もう私は大罪人なのだから。

 

学校に行くのは辛かった。休みたかった。けど、久々に行ったような気がした。

たかだか1日だというのに。というか、両親はどうしてるのだろうか。

トラック事故からいっこうに会ってない。いや、帰れてないのか。

 

『優奈、大丈夫?』

「うん、大丈夫...」

 

クラスメートとの会話は少し私を和ませた。

 

『なんかね、転校生が来るらしいよ?優奈なんか知ってる?』

「知るわけないよ...昨日休んだんだから...」

『あはは、そだね。』

 

そんな会話の後、先生が入ってくる。そのあとを継ぐように

一人の幼いイメージをもった少女が入ってくる。

 

『今日からこのクラスの仲間となる双葉 対さんです。』

 

双葉 対と、黒板に文字を書く先生を横目に少女は口を開く。

 

双葉 対(ふたば つい)です。よろしくお願いします。』

 

水色のツインテールとオレンジの髪飾りが映え、少女は微笑む。

よく見ると、右目は蒼く、左目は透き通る橙色だった。

 

そして夜空は...今まで見たことのないような、とても怖い顔をしていた。




後書きコーナー、今回は夜天さん。

月波 夜天
Age:19
Skill:《停止》
  説明は本文にあるため割愛。
Character:ざっくばらんとした性格。月波三姉弟を原子核に例えれば
     陽子、+の役割を果たす存在。本編ではなんと両脚切断の大怪我。
     しかし当人はそんな気にしてない様子。夜宵や親の代わって
     夜空を育てたといっても過言ではない夜空の正真正銘の姉ポジションにいる。
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