双葉 対、童顔で幼児体型でも私と同い年。
本人曰く小学生に間違われることもしばしばだそう。
『間違ってもそんなことを言ってはいけないよ...
真っ先に殺されるからね...僕も死にかけた...』
と、夜空は言う。
「え?死にかけた?何で...?」
率直過ぎる疑問をぶつけてみる。
が、冷静に考えればそうでなければ監察対象にはなるまい。
『双葉 対、見た目こそあどけなさが残り僕自身可愛いとも思うけど、
正体は《ゼヴィア》の殺し屋...と言うよりかは暗殺者、アサシンだね。
手法は音もなく血液を凍結させて死に至らしめる、または、業火で焼く。』
「《氷結》と、《炎熱》...だったよね、確か。」
文字通り凍らせる能力と炎を操る能力だろう。
『だけどね、大問題は対が二重人格であることだよ。』
二重人格。正しく言えば解離性同一性障害。
PTSDの症状にも現れるというあれだ。
「問題...けど夜空、それって、絶対何か原因があるよね、
そうでないと二重人格なんて...」
起きはしない、そういいかけて屋上に冷気が漂う事に気づいた。
『ながみやさん...確かにそうだね...二重人格はそう簡単にはならないよ。』
振り替えれば対がいた。屋上と階段を隔てる扉や対の足元は凍っている。
『対...何故ここに来た。朝凪の差し金か...?』
『正解だよよぞら君。私を呼ぶくらい、そこの女の子、ながみやさんを
亡き者にしたいみたいだね...アサシンである私に、ね!』
一気に冷気が私の中を駆け抜ける。寒い。体温が下がる。
が、それ以上は何も起こらずに元の体温に戻る。
『へぇ...くれとの言うように能力は効かないんだ...じゃあ、』
途端に今度は足元が真夏の様に熱くなる。
《氷結》の後だっただけに、余計に暑い。
『燃やし尽くして殺るよ!』
一気に凶暴になった。そんな感想を抱いてる余裕は私にはあったが、
夜空にはないようで、一気に距離を取っている。
『でやぁぁ!』
炎を纏わせて殴りかかって来る。
体格差はある。動体視力が追い付く限り、頑張って対の拳を止めてみる。
「熱っ...くない...ね、うん。」
燃え盛っていた炎は影を潜め、拳は止まり、
対はやはりかといったような顔でこっちを見ている。
『つまんない子...だからこそくれとに呼ばれた甲斐があるってもんかな...』
『対...』
夜空が対を呼ぶ声は、何処と無く負い目がありそうな、複雑な声音だった。
『馴れ馴れしいなぁ...いいけどね。...つきなみ博士は元気にしてるよ?』
『なんであんなのの肩を持つんだ、僕や姉さん達や対...真夜の人生を滅茶苦茶にした..!』
『その名前で呼ぶなッ!』
瞬時に対の周りが炎に包まれる。頭が追い付かない。
月波博士...おそらく夜空達の親だろう。
真夜...まさか対の本名...じゃあ名字は...?
『なんでだよ...どうしてこうなるんだよ...どうして僕は、
大事な人達が不幸になる様を見てなきゃならいんだ...
いつになったら、僕は...救われるんだよ...ッ!』
「夜空...」
悲痛な叫びが屋上にこだまする。
夜空と対の関係は、単純で複雑で、けど絡まっているのにほどけている、
言葉で表現するには難解で、けど身をもって感じると何処と無くわかる、
そんな、そんな不確かで曖昧なのに、確実にズレている。
--なんだろう、少し、気分が悪い...
昼休みの終わりの予鈴が鳴るまで、
私達は何も話さず、ただただ揺らめく炎の中にいた。
--ただただ、揺らめく炎の中にいた。
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「ねぇ夜空...真夜って...何...?」
午後の授業と部活を終えて、《リバティー》の本部にまた
お姫様抱っこ...ではなく夜空の私物の折り畳み椅子ごと夜宵さんに
転送されてきた直後に私は、躊躇いながらもずっと気になってたことを
夜空に聞いた。聞いてしまっていた。
『真夜は...対の本名だよ。彼女の本当の名は月波 真夜...僕の双子の妹さ。』
「え...?でも、似てないし...それに三姉弟じゃなかったの...」
混乱する。混乱しない筈がない。
『僕の親は、能力が発現しなかった真夜を散々痛め付けた...
そして人体実験までに手を伸ばした...その結果が、あれだよ。
真夜としての人格が壊れ、新しい人格を植え付けられ、それも
二重人格になるくらいまでには壊された...真夜は...
僕が最初に不幸にした、一番大事な、妹なんだよ...』
「そんな...そんなのって...!」
許される筈はない。しかも二度も精神が壊されているというのだ。
最早人としての精神もあるかどうか...
対のあのあどけない容貌に、とてつもない闇があった。
そしてそれは夜空の妹だったのだ。
「そういう奴なんだよ、僕の...あのろくでなしの親は...!」
夜空は動く右腕を強く壁に打ち付けた。
それだけでなく、何度も何度も怒りに任せて叩きつけている。
『夜空、騒がしいからやめなさい。』
夜宵さんが止めに入った。
仕方なさそうに夜空はゆっくりと腕を下ろした。
そして夜空は絞り出すような声を出した。
『夜宵姉さん...真夜に会ったよ...』
それだけで、夜宵さんはばつの悪そうに去っていった。
よほど対...真夜は夜空にとっての大事な存在なようだ。
『ねぇ、優奈...』
問いかける夜空の声はさっきよりか細い。
「何、夜空。」
私はいつものように答える。
『少しだけでいいからさ...僕に...安らぎを与えてくれないか...?』
「安らぎ...?具体的には...?」
『側に、いるだけでいいよ...』
夜空らしくもない弱々しい声音への返答は、
うん、と答えることしか出来なかった。
『真夜...僕は...どうすれば君を救えるんだ...』
夜空はそう言って、涙を溢した。
...一粒の、微かな輝きをたたえた涙だった。