もこっちの楽しい日常   作:ニックワンワン

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FCのホラーゲーム『スウィートホーム』のパロディです。黒木姉弟要素あり。また、姉が既に故人です。

★イラスト
女菊様より素敵なイメージイラストを頂戴しました。作者様に快諾頂けましたので掲載させて頂きます。
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【微ホラー・パロディ】スウィートホーム 智子夫人の肖像

──心の力を、私にください──

 

 日本の戦後期に活躍した一人の画家が居た。名を黒木智貴(くろきともき)と言う。

 今日(こんにち)、黒木画伯が残したその作品群は国内外を問わず高く評価されており、今以て尚、日本にこの人ありとの名声を欲しいままにしている。

 

 昭和四年、千葉市を拠点に海外貿易を営む父の下に長男として生まれた画伯は、幼い頃より芸術全般、とりわけ西洋絵画に強い関心を示したと言われる。

 やがて画伯が七歳になった頃、両親が息子の教育の為にと東京より招いた洋画家・山村一己(やまむらいっこ)から絵画技法全般の手ほどきを受ける事になるのだが、そこで彼は後の己のライフワークとなる『フレスコ画』と出会う。

 

 自身の師となった山村氏を『イッコ先生』と呼び慕う画伯は、成長と共に彼から様々な技法をふんだんに吸収していったが、取り分け生の漆喰の壁に直接絵を描く技法であるフレスコ画を好んだと言われており、それを証明するように彼が二十代の初めまで過ごした生家には自身の家族の為に描いたフレスコ画によるプライベート作品が幾つも残されている。

 これらの作品は今以て健在であり、かつて千葉市を襲った幾たびもの空襲を乗り越えた画伯の生家(現在は記念館に改装)にて、今もその見事な出来栄えを目にする事が出来る。

 

 また、画伯はフレスコ画に限らず油彩や水彩を用いた絵画においてもその驚くべき卓越した画才を遺憾なく発揮しており、それらの技法を用いて制作された作品群は地元の美術展覧会は勿論の事、師の勧めで出品した全国的な展覧会の一般部門においてすら度々上位入賞を果たす程であった。

 これらの功績はいずれも画伯が十代前半の、まさに少年と言って差し支えない時期に成し遂げられた事であった為、やがて柳瀬正夢(やなせまさむ)の再来かと密かに噂される程の早熟の天才画家として世間にその名を知られるに至った画伯は、当時まだ学生の身であったにもかかわらず早々に地元の陸軍省関係者より勧誘を受けており、満十七歳を迎える年を待ってから下級奏任官(そうにんかん)(現在の尉官相当)という厚待遇にて嘱託の画家として従軍する事が決まっていたと言われる。

 

 しかし画伯が戦場において自身の手腕を発揮する機会は結局訪れなかった。昭和二十年、彼が十六歳となったこの年に日本が終戦を迎えたからだ。

 終戦の前年より画伯は、千葉市と隣接する大網町(おおあみまち)(現在の大網白里市(おおあみしらさとし)西部)の親類を頼って自身の一つ違いの姉と共に疎開していたが、彼の父、そして父の事業を手伝う母らは仕事の関係上千葉市を離れる事が出来なかった為に、終戦直前の七月七日に千葉市を襲った大空襲(七夕空襲)に巻き込まれた結果、不幸にも命を落としてしまう事になる。

 

 そうして両親を失い戦災孤児となってしまった画伯であったが、終戦の翌年となる昭和二十一年、長らく世話になっていた親類の家を出て自身の姉と共に千葉市へと戻り、姉弟は運良く戦火を逃れて健在であった生家へ移り住む事になる。

 この頃、復興もままならず荒れ果てていた故郷に戻ったばかりの画伯が当初どのように生活の糧を得ていたのかは定かではないが、無事生き延びていた彼の師より援助を受けていたのではないかと考えられている。

 

 やがて画伯は師の紹介により、当時の市内において優先的に復興が進められていた映画喫茶街にて用いられる看板画制作を請け負うようになる。これがまことに好評であった為に画伯は腕ききの看板職人として瞬く間にひっぱりだこになり、姉と二人で暮らしていく分には十分な程の稼ぎを得ていくようになる。

 

 そうしてひとまずは自分達の生活基盤を築いてみせた画伯であったが、やがてそんな彼に転機が訪れた。

 折しも日本ではGHQの後押しによりキリスト教団体がその活動規模を拡大し始めていた頃でもあり、彼らは新設した教会に壁画を描いてくれる人材を求めていた為、フレスコ画こそを自身の最たる得意分野としていた画伯に白羽の矢が立つ事となったのだ。

 

 そこから先の画伯は正に水を得た魚であった。

 元々西洋世界の宗教画に造詣が深く、そうしたモチーフを好んでいた画伯としては、そんな自分が本来の作風を封印してまで世の消費的な需要に迎合して看板画制作を生業とせねばならなかった事に思う所があったようで、これを機会にと今までの鬱憤を晴らすかのように自身の本来の感性を遺憾なく発露してみせた。

 

 その結果がどうであったかは、今日画伯が国内外から現代宗教画の大家と称えられている点からもご想像頂ける事と思う。

 画伯が完成させたその渾身の一作は、完成品を目の当たりにした依頼主は勿論の事、当時千葉市を訪れていた外国人宣教師達をも著しく驚愕させるに至った。

 

 彼らは教会内に描かれたそのフレスコ画を絶賛し、画伯の仕事ぶりに対する報酬も惜しまなかったという。

 この一件が呼び水となり画伯の下にはその後も関東一帯の教会から依頼が続々と舞い込む事になっていくのだが、こうして念願叶ってフレスコ画家としての活動範囲を広げていく事になった画伯は、当時まだ十代後半という若さであったにもかかわらず自身の類稀なる才覚によって瞬く間に戦後世界の画壇を席巻していく事となる。

 

 そうして成人後も精力的に活動を続けていった画伯は日本の復興と同調するが如く数々の功績を打ち立てて行き、やがては名声を欲しいままにし莫大な財産を築くまでに至ったのであるが、そんな彼の活躍ぶりは唐突に終わりを告げる事となる。

 

 日本芸術界における戦後最大の巨人とまで言われる黒木画伯。しかしその活動時期は彼に与えられた世間的評価の大きさと比べると意外な程に短く、終戦後からの活動時期だけに絞ってみれば僅か十数年程でしかない。

 その原因は彼が三十一歳という若さで命を落としたとされているからだ。

 

 何故画伯は亡くなったのか? 彼に一体何が起こったのか? 世界的に高名であった若き天才画家の突然の訃報に世間は騒然となり、彼の熱烈なファン達はその突然の死を大いに嘆いた。

 だが、この画伯の死には多くの不可解な謎が残されている。実際は誰一人として画伯の死を看取った者はいないのだ。

 画伯が何かしらの病気や怪我で近隣の病院に搬送されたという事実は存在せず、どこぞの医師が彼の屋敷へ招かれたという記録もなかった。そもそも遺体自体が発見されていない事からして、実際は行方不明に近い形であったとされている。

 

 ではなぜ彼が死亡扱いされているかというと、これには理由があった。

 画伯の死が世間に知られる数週間前、当時の彼が住んでいた千葉県内のとある山間部の町の地元役場に、画伯から依頼を受けたという弁護士が画伯直筆の遺書と思われる手紙を携えて訪れたためだ。

 

 その手紙によれば、もうすぐ自分は死ぬであろうから、それによって発生する諸々の後始末の一切合財を役場の人々に委任したいという事であった。

 また、自身の屋敷には今後何人たりとも立ち入らせないように便宜を図って欲しいという頼み事も書かれており、これらの面倒事を引き受けてくれるのならばその対価として己の財産全てを町に寄付しても良いという旨が記されていた。

 これを受けて当時の関係者達の間では一騒動起こったようであるが、最終的には画伯の意向を汲む代わりにその遺産を自分達の自治体へと引き継がせる事に決まったという。

 

 当然ながらこの一件に関しては警察の手も入る事になったが、ここからが益々この事件の奇怪さを深める事になる。

 当初、画伯の死の真偽とその前後関係を確認する為に派遣された数名の警官が町外れの山奥に居を構える画伯の屋敷を訪れたのだが、どういう訳か彼らは満足に調査もしない内にその場を引き上げてしまった。

 勿論そのような事が許される筈も無く、何故かひどく怯えていた彼らを下がらせて新たに編成されたチームが現場に向かう事になったが、これがまたもや碌に調査をしない内に帰ってきてしまったというのだから、どうにも不可解であった。

 彼らも先発した者達と同じく皆一様に怯えきってしまっていたのであるが、ただひとつ判った事は、とうの昔に屋敷は無人となっているようで、屋敷の中には人の気配が一切感じられないという事らしかった。

 

 画伯には同居していた自身の姉を除いて他に肉親はおらず、その姉も件の騒動が起きる半年程前には既に亡くなっていたのだが、だからといってそれが屋敷に誰も居ない事の理由にはならなかった。

 かなりの資産家でもある画伯が当時住んでいた屋敷はそれは立派なものであり、その広さに見合うだけの使用人も相当数同居していた筈であったが、どういう訳か彼らもまたどこかへ消え去ってしまっていたというのだ。

 その点については人知れず画伯が彼らに暇を出しただけなのではという事でひとまずは結論付けられたものの、実はその後の調査によれば、当時屋敷に勤めていた使用人達の姿をこれ以降見た者はおらず、最終的にいずれもが失踪扱いになってしまったのだという。

 

 ともあれ調べに行かせた者達が出向いた先から尻尾を巻いて逃げ帰ってくるものだから、警察としても打つ手が無く困りかねている状況であった。それ故か、その後ほどなくして屋敷の調査は打ち切られてしまう事となるのだが、その理由というのが『邸宅内の捜査が困難を極める為』という、なんとも不可解極まるものであったとされている。

 

 ひとまず画伯が事前に整えておいた法的な手続き自体には特に問題が見受けられなかった為、以後、主を失った屋敷は画伯の遺言に従って何人たりとも立ち入らないようにと完全に封鎖される運びとなる。

 かつては画伯と交流を持つ人々が度々訪れていたその屋敷は最早誰も足を踏み入れる事の許されない場所として、全ての謎を包み込んだまま奥深い山林に埋もれていく事となった。

 

 そして時は流れ、およそ三十年の月日が経過した。

 

 ◆

 

 一九八九年、昭和最後の年が終わり新たな年号が発表されたこの年の夏。とある集団が千葉県南東部の山あいに位置する某市を訪れていた。

 

小宮山(こみやま)さん、遅いなぁ」

 

 そう呟いたのは、頬にソバカスをこしらえた麦わら帽子姿の女。

 

「もう、プロデューサーったら何やってんだろほんと……」

 

 それに応えるように傍らで愚痴を零してみせたのは、何とも形容し難い淡白に過ぎる顔立ちをした女で、そのふわりとしたボブヘアーにはハンチング帽が乗せられていた。

 

 おそらくは市役所と思われる建物の前には一台の泥に汚れた白塗りのジープが停車させられており、その周囲には車から降りてボンヤリと役所の方を見やっていた二人の女が何やら待ちぼうけているようだった。

 砂浜沿いに設立されているその役所の付近では今、例年にない浜風に煽られて辺り一帯に酷い砂塵が舞っていたのだが、そんな中にあっても立ち尽くして気を揉んでいる彼女らの様子からすると、小宮山なる仲間の一人が今、何かしらの重大な用事があって役所に赴いている最中であるらしい事が見て取れる。

 

「メンドくせぇな、ちょっくらあたしがガツンと言ってきてやるぞ」

「えーと、もうちょっと待ってた方がいいんじゃないかな……?」

 

 と、今度は首にタオルを掛けた金髪の女がジープの後部座席からそのしかめっ面をぬっと覗かせたかと思うと、やけに鋭い眼を光らせて些か過激な事を口にする。すると同じく後部座席に座っていたヘッドスカーフを被った黒髪おさげの女がそれをやんわり宥めるのだった。

 

「あっほら、来たよ!」

 

 すると間もなく役所の玄関から出てきた一人の女性が砂塵舞い散る強風の中を駆けてきたので、気づいたソバカス嬢が声を上げる。どうやら件の小宮山という仲間がようやく戻ってきたようだ。

 

「ごめんごめん、お待たせ……」

 

 やや息を切らせて仲間の下まで戻ってきた小宮山なる人物は、すっかり待ちくたびれていた仲間達に謝意を述べる。地味な色合いのパンツスーツを着た彼女は眼鏡を掛けており、その丸みを帯びた黒い髪型はどこかダンゴ虫を彷彿とさせた。

 

「おせーぞ、何してやがったんだ」

 

 先程からすっかり不機嫌な様子であった眼光鋭き金髪女は、自分達に駆け寄ってきた小宮山をやや非難めいた口調で詰問する。

 

「あーそれがね、ちょっとゴネられちゃって……でもどうにか許可は貰えたから、ほら」

 

 そう言って小宮山はポケットから取り出した物を皆の前に掲げてみせる。それは如何にも古風なデザインをしている、錆び付いた一つの鍵であった。

 

「ふーん、それが黒木邸の鍵なの?」

 

 小宮山の持つ古びた鍵を、己の帽子に付いた砂を払っていた淡白顔が興味深げにしげしげと眺める。

 

「でもよく許可が下りたよねぇ。あそこってガードがキツくて取材でも絶対入らせて貰えないって聞いたけど……」

「それは面白半分で行こうとする人達の話でしょ? 私達はどこぞの馬鹿みたいな番組の取材で来てるんじゃないんだし、これは日本が誇る稀代の天才の、未だ知られていないその功績を世に知らしめる為の真面目な取材なんだから一緒にされたら困るよ」

 

 そもそも今まで黒木邸に学術的調査の手が入らなかった事自体がおかしいんだよね、などと聞かれてもいない事までクドクドと語り始めた小宮山の様子はどこか誇らしげでもあった。どうやらこれから自分達の成す事に大きな社会的意義を感じているようで、その気負いから来る興奮が彼女を饒舌にさせていたようだ。

 

「おい! ダベってねーでさっさと乗れよ!」

 

 そんな小宮山の様子にいい加減シビレを切らしてしまった金髪女が、窓から伸ばした手で後部座席のドアをバシンと叩いたものだから、それに促される形で小宮山達は一目散に車へ乗り込んでいった。

 

「あ、じゃあ(うち)さん……ここから先はお願いね」

「はいはい」

 

 助手席にてシートベルトを締めた小宮山は、傍らの運転席に座る内と呼ばれた淡白顔にそう告げる。ここまでの道中は小宮山が運転していたのであるが、彼女らがこれから向かう先は碌に整備されていない荒れ果てた山道である為、その手の道に手馴れた内が交代する事になっていた。

 そうしてエンジンを始動させたジープは一行を乗せて出発する。

 

 彼女らが向かう目的地。それはかの高名なフレスコ画家、黒木智貴が終生まで住んでいたとされる屋敷であった。

 人里離れた山奥に建てられているその屋敷には、生前の画伯が描いた数多くのプライベート作品が残されているという事が当時画伯の下を訪れた人々の証言で明らかになっており、一行の目的もそうした秘蔵作品の所在を突き止めに行くというものだった。

 

 そもそも彼女らは一体何者なのかといえば、それはこれまでの会話の端々からも伺い知れるように、要は番組の取材の為にこの地を訪れたテレビ局の撮影班という事なのであった。

 そうした撮影班一行をまとめるリーダーとして同行した小宮山であったが、この取材を企画したのは他ならぬ彼女自身でもあった。局に勤める新米プロデューサーである彼女はまた、黒木画伯に心酔する熱烈なファンでもあった為、いつか機会があれば黒木邸への本格的な調査を決行したいと考えており、今回念願叶って此度の取材が実現した訳なのである。

 

 そんな小宮山が初めて画伯の作品と出会ったのは中学生の頃。当時、課外授業の一環としてクラスメイト達と共に千葉市内にある画伯の記念館を訪れていた小宮山は、そこで見た若き日の画伯の作品群にたちまち心を鷲掴みにされてしまったのだ。

 以来、まるで一目惚れを経験した乙女のように小宮山はその後の人生において、画伯に対する溢れんばかりの敬意と抑え難い程の強烈な憧憬を携えて生きていくようになる。「一度で良いから画伯にお会いしたかった」というのは、彼女が常日頃抱いている決して叶えられる事の無い切実な願いなのであった。

 

 ◆

 

「あのー小宮山さん……私は何をしたらいいんですか?」

 

 やがて一行を乗せたジープが黒木邸へと続く山道へと入り始めた頃、後部座席に座っていたソバカス嬢がふいに小宮山へそのような質問を投げ掛けた。

 

「え? あ……そうだね、真子(まこ)さんも一応それなりに手伝っては貰うけど……また現場についたら吉田(よしだ)さんから指示を貰って動いてくれたらいいよ」

 

 後ろを振り返った小宮山は、自身が真子と呼んだソバカス嬢にそう答えてみせる。

 

「そういう訳だから吉田さん、面倒見てあげてちょうだい」

 

 そう言って小宮山は同じく後部座席に乗っていた金髪女にも声を掛ける。先程小宮山らを怒鳴りつけていた彼女はどうやら吉田という名前らしい。

 

「おう、任せとけ……遊びで連れてってやるんじゃねーんだ、オメーにもキッチリ働いて貰うからな」

 

 話を振られた吉田はというと、自分の隣に座る真子を横目で睨みつけながら棘のある物言いで応じる。

 吉田はこの撮影班のディレクターを務めており現場の指揮を一手に担う立場にあったが、真子に対してこのようなつっけんどんな態度でいるのには理由があった。

 あたかもスタッフの一員としてこの一行に同行している真子であったが、実は彼女はテレビ局の人間ではなかったのだ。

 そんな彼女が何故この場に居るのかについては後述するとして、ともあれ吉田のその態度からは真子のような素人が物見遊山気分で現場に出しゃばってくる事をあまり快くは思っていないであろう様子が見て取れた。

 

「あ、はいっ、よ、よろしくお願いします……!」

 

 現場では人使いの荒さから鬼吉田の異名で恐れられる彼女の放つ威圧感を前にすっかり縮こまってしまった真子があたふたと頭を下げる。

 

「大丈夫だよ、そんなに難しい事させられる訳じゃないから」

「う、うん……ありがとう」

 

 真子と隣り合って窓側に座っていたおさげ髪の女が、些か不安げな様子を見せていた真子を安心させるように彼女の手の上にそっと自身の掌を被せて緊張をほぐしてやろうとする。

 

「ゆりの方も、お仕事頑張ってね」

「あーうん、まあぼちぼちやってみる」

 

 自分が励ました真子から返ってきたこのような言葉に対して、ゆりと呼ばれたおさげ髪はなんとなくやる気の感じられない曖昧な返事をしてみせる。

 元々ゆりは音声技術スタッフとして局に勤めていたのだが、その持ち前の涼やかな美貌を見出された結果、今ではリポーターとして活動するに至ったという経緯を持っており、今回の取材でも彼女はその役を務める事になっていた。

 

 ともあれこの真子とゆりはその様子からして随分と親しげな関係である事が伺えた。それもその筈で、彼女らは元々同じ高校に通う友人同士であり、それだけに留まらず二人して同じ大学に入学して以降はアパートを一部屋借りてそこで寝食を共にするようになった程の親密な間柄であり、社会人となった現在もその同居生活は続けられていたのだ。

 そもそも今回真子が部外者ながらも有給休暇を使ってまでこの取材に強引に同行した理由というのも、リポーターであるゆりが今回の取材の為に数日間出張せざるを得なかった事に端を発しており、真子曰く「夜に一人で部屋に居るのが怖いから」という、なんともな理由が背景にあった。

 

 と、それまで順調に進んでいたジープが徐々に速度を弛め始めたかと思うと、やがて完全に停止してしまう。

 

「うっちー、どうしたの?」

 

 急に止まってしまった事を訝しんだ真子がそのように内へ尋ねた。真子は内とも学生時代からの付き合いであり、この『うっちー』というのは真子が彼女を呼ぶ時の愛称である。

 

「ほらあれ、なんかバリケードみたいなのがあるの……」

 

 そのように言う内が差し示す方向には確かに一行の進路を阻むかのように見事な造りの鉄格子式の門が据えられており、狭い山道を塞いでしまっていた。

 

「ああ、役所の人が言ってた門だね……ちょっと待ってて、開けてくる」

 

 そう言ってジープを降りた小宮山は門の前までさっさと歩み寄っていくと、おもむろにその年季の入った錆びだらけの鉄格子をガシャガシャと前後に揺すってみる。見事な装飾が施されたその鉄格子には錆び付いたチェーンが幾重にも巻きつけられており、どうやらそれが閉じられた門を固定しているらしい事が見て取れた。

 チェーンをほどけないかと慎重に解きに掛かる小宮山であったが、随分と固く巻きつけられているそれはビクともしないようだ。どこかに仕掛けがあって、チェーン自体がそれで固定されているようにも思えた。

 

「ほら、あたしがやっからどいてろ」

「え? そ、そう?」

 

 と、開門に手間取っていた小宮山の後を追ってジープを降りてきたらしい吉田が彼女を脇に下がらせると、今度は自分がチェーンを外しに掛かる。

 

「っと、結構かてーな……」

 

 そうして腕に力を込めた吉田は、強引にそれを引きちぎらんとして門全体を揺さぶる勢いで力任せにオラオラとチェーンを引っ張り始める。

 

「ちょっと吉田さん、そんな風にしたら壊れ……」

 

 ──バキンッ

 

 あまりの乱暴さに小宮山が咎めようとした途端、何か金具らしきものが壊れるような音が辺りに響いたかと思うと、チェーンはあっけなくスルスルと解けていった。

 なるべく画伯の所有物であった屋敷に連なるものを傷付けてしまわないようにと気を使っていた小宮山とは違い、そうした遠慮が全く無い吉田の力技によって、固く閉ざされていた門はようやく開かれる事となったのだ。

 

「ほら、開いたぞ」

「ああ、うん、そうだね……」

 

 よくよく見れば鉄格子自体も今し方の狼藉によって些か歪んでしまっている事に気付いた小宮山は頭を抱えたくなった。

 自身が敬愛する文化人である黒木画伯。その画伯にゆかりのある貴重な文化財の一部がこのように無下に扱われた事に対して憤りとも呆れともつかぬ感情に捉われた彼女は、そのこめかみに怒り印の血管を浮かび上がらせつつも黙って車に戻る。

 ともあれ通行の妨げとなっていた障害を取り除いてみせた一行は再び移動を再開するのであった。

 

 ◆

 

「ああ、いよいよなのね……私、すっごいドキドキしてきたかも」

 

 そう口にしたのは、小宮山ではなく現在ハンドルを握ってジープを運転している内の方であった。

 

「あー、そういえば内さんも画伯の事、結構知ってるんだっけ?」

 

 助手席に座る小宮山は、どこか軽薄そうな感じのするこの部下が実は黒木画伯に関してそれなりの造詣を持っている事を聞かされて意外に思っていた。

 

「まあ一応はね。これでも結構調べたんだから……でも、私が気になるのはやっぱり何といってもアレね」

「アレって?」

「ほら、『智子(ともこ)』だよ。私、今日は屋敷に智子の絵が残されてないか徹底的に探してやろうと思うの」

 

 内が唐突に口にしてみせた『智子』という名前。何を隠そうこの『智子』というのは黒木画伯の実の姉の事であった。

 黒木智子(くろきともこ)なるこの女性は、終戦直前に両親を失って孤児となった画伯にとっての唯一の肉親なのであるが、実は彼女の存在は黒木画伯の作品を語る上で欠かせない存在でもあったのだ。

 

「私ね、ずっと前に記念館で智子を見た事があったんだけど、その時からなんか結構気に入っちゃってさー」

「……へーそうなんだ。あそこ、私もたまに行くけどあんまり智子の方は見に行かないかなぁ」

 

 内が見た智子というのは、要するに画伯が自身の姉をモデルとして描いたプライベート作品の事である。

 千葉市内にある画伯の記念館では彼が十代の頃までに制作した数々のフレスコ画を鑑賞する事が出来るのであるが、内はかつて学生の時分に友人らと遊びでここを訪れた際、どうやら館内に展示されていた智子の肖像画の数々をいたく気に入ってしまったようなのである。

 

 画伯は絵を習い始めた当初から自身の姉をモデルとして度々その筆を振るう事があったが、フレスコ画の技法を修得して以降は智子が誕生日を迎えるごとに彼女の肖像画を一つずつ自身の生家(現在の記念館)の壁に残していった。

 それ故に、そうして生み出された数々の智子絵を描かれた年月ごとに見ていけば、それは見事に智子自身の成長記録とでも言うべきものになっていた。

 黒木画伯の隠れたライフワークとも評されるこうした智子絵の制作は画伯自身が他界する年まで続けられていたと言われており、画伯の作品を研究する者や愛好家達の間では、彼が千葉市内の生家を離れて移り住んだ先の終の棲家にて未だ世に知られていない『智子』が多数残されているのではないかというのが定説になっていたのだった。

 

「まあでも、アレはちょっと初見の人にはキツいよね」

「そうそう! 確かにパッと見はマジでキモいしゾッとする絵なんだけどさ……でもほら、あれってじっと眺めてると何だか色んなものが見えてこない?」

 

 褒めているのか貶しているのかよく判らないその智子評であるが、これは何も彼女ら個人だけの偏見という訳でもない。

 絵のモデルとなったこの智子という女性はどうも相当に複雑な性格の持ち主であったようで、モデルの内面までをも見通し暴き出す類稀な画才を持った画伯の手によって描き出された智子の肖像は、見る者の心に様々な波紋を呼び起こす異様な迫力を備えており、それを目の当たりにした者は時に悪夢にうなされる事すらある劇薬的作品であるというのが世間一般からの評価でもあるのだ。

 

 かくいう内自身も初めてこうした智子の肖像に遭遇した際は三日三晩うなされてしまった口であったりするのだが、それが今では積極的に智子を求めてやまない愛好家へと変貌してしまったという事実は、この智子絵が単なる奇画に留まらない魔性の魅力をも携えている事を如実に物語っており、そうした点が益々それを生み出した画伯への評価を高める要因にもなっていた。

 

 尚、千葉県一の黒木画伯のファンを自認する小宮山としてもこの『智子』は現存している作品群を一通りその目で鑑賞してきた訳であるのだが、さりとてこの絵が好きであるかと問われれば、些か回答に困ってしまうというのが彼女の本音であった。

 それは単なる愛好家の域を通り越して最早画伯の熱狂的な信者と言える程の崇拝ぶりを見せていた小宮山にしては異例の事であり、本人としてもその点については悩んでしまう所ではあったが、やはり彼女としては智子絵よりも普段の画伯の作品の方が余程素晴らしく映ってしまう。

 小宮山は絵の中でじっとこちらを見つめてくる智子のその佇まいの中に、何故だか己自身の卑小な姿を見出してしまうようで、それが故にこれらの作品を手放しで評価する事が出来ないでいたからだ。

 

 また、余談ながら今も小宮山が付き合いを保っている中学以来からの親友は、そんな智子絵を見て「とても優しそうな子」であると感じていたく気に入ったという。

 

「画伯は毎年必ず智子をモデルにした作品を残してきた……きっと黒木邸にも智子の絵が沢山残されてるに違いないって私は信じてる」

 

 そう語る内は、運転そっちのけで早くも屋敷の中にあるかもしれない智子絵の事が気になって仕方ない様子であった。

 

「なんとしてもそれを撮ってやるんだから。公開したらきっと世界中が震えちゃうよ……」

「トモコさんの絵ってそんなに凄いんだ、私も見てみたいなー」

 

 カメラマンである内は此度の取材において屋敷に残された智子絵を必ずやそのレンズに収めてやると息巻いていたのだが、普段以上に饒舌な彼女の熱弁に興味をそそられたのか、後部座席の真子が興味ありげにそのような事を言ってみせる。

 真子がかつて通っていた学校ではカリキュラムの都合上、生徒らに記念館で画伯の作品に触れる機会を与えなかったが故に、自主的にそこを訪れる事のなかった真子は未だ持って智子絵を目にした経験が無かったからだ。

 

「あーダメダメ、まこっちなんかが見たら多分卒倒するよ? アレはほんと一般人には刺激が強すぎるんだから」

「えーホントに? なんか怖いなぁ」

 

 そんな真子が口にした興味本位の言葉に、なんとも事情通ぶった得意気な面持ちで釘を刺してみせる内。その如何にも勿体ぶった口ぶりはまさしく自身の好きなものを語る一部の愛好家特有の態度そのものであった。

 

「おおげさに吹いてんじゃねえよ、んなモンどーって事ねーだろ」

 

 と、智子に関するそんな彼女らのやりとりに聞き耳を立てていたのか、先程からだんまりとしていた吉田が内の脅すような言葉に強気な態度で反発してみせる。平面上で大人しくしているに過ぎない絵を相手に人間がそこまでの脅威を感じるなど、彼女としてはまったくお笑い草なのであった。

 

「いや、別にアンタには言ってないし……ってか何割り込んできてんの」

「あぁ?」

 

 途端、それまで上機嫌であった内の表情が曇る。

 それは単に己の好きなものに軽くケチをつけられただけにしてはやけに過敏な反応で、内のそんな態度に対する吉田の反応もまた刺々しいものであった。どうもこの二人は元々反りが合わない間柄なのかもしれない。

 

「ちょ、二人ともこれから撮影なんだから、少し落ち着いて……ね?」

 

 車内に流れ始めた険悪なムードを察した小宮山が慌てて二人の仲裁に入る。

 彼女としてはこのような人間関係の調整はまことに不得手であったのだが、これからスタッフ全員で協力して撮影に挑まねばならないのであるからして、それが始まる前から不和を起こされては堪らないのであった。

 すると、

 

「はぁ、もういいや」内がため息をつき、

「ちっ」吉田が舌打ちをする。

 

 小宮山の仲裁が一応ながら功を奏したのか、ひとまずは二人とも矛を収めたようだ。

 そうしてしばらくの間、車内には気まずい沈黙が流れる。

 

「……ねえゆり、トモコさんの絵ってちょっと見てみたくない?」

「え? あー、私は別にどうでもいいかな」

 

 そんな中にあってふいに真子が口を開くが、話題を振られたゆりはというと「興味ないし……」と、なんとも投げやりな言葉で返してみせる。

 これといって美術方面に関心がある訳でもないゆりとしては、世界的な巨匠が残した作品と言えども特に興味を惹かれる訳ではなかったからだ。

 

「何? 見に行きたいの?」

 

 が、傍らの友人が何を言いたいのか察していたゆりは、真子にそのように尋ねる。

 

「うん……」

「そっか、じゃあ内さんが見つけてくれたら一緒に行こっか?」

「ホント? ありがとう!」

 

 要するに真子は、一人で智子絵を鑑賞するのが怖いのでお供が欲しかったのだ。

 ただ単に絵を見るだけであれば智子絵にご執心な内にでも付き添って貰えば良いのであるが、怖いものを前にするならやはり親友であるゆりが傍に居て欲しいと思う真子なのであった。

 本当に存在するのかどうか確証もない黒木邸の智子絵ではあったが、内がどうにか見つけてくれるであろう事を期待して、ゆりは真子からの頼みを快諾してみせる。

 

「ねえ、うっちー」

「んー?」

 

 と、今度は内に対して声を掛ける真子。

 

「そのトモコさんって、画伯の奥さんだったの?」

 

 智子なる人物について何も知らなかった真子は、彼女の事情に詳しそうな内にそのような質問をしてみせる。

 

「ほー、なるほどねー、知らない人はやっぱりそう思っちゃうんだぁ」

 

 途端、先程までの不機嫌さはどこへやら、声のトーンを上げた内はまたしてもそのよく回る舌を動かし始める。

 

「え? じゃあ違うの?」

「違うよ、智子は画伯の実の姉なの。()()()はね」

 

 内が語ってみせたように実際智子は画伯の姉であったのだが、さりとて内の思わせぶりな説明からは、それだけに留まらない事情が智子にある事を伺わせた。

 

「表向きって?」

「ふふ……智子のアダ名を知ってる? 画伯のファンの間では彼女、『黒木夫人』って呼ばれてるんだけど」

「えっ? お姉さんなのに夫人なの?」

 

 これは何も現在のファンの間だけに留まらず、実は画伯が存命中の頃から既に周囲は智子を指して密かにそのような名で呼んでいた。

 

「要するにさ……この二人って実は『姉弟でデキてたんじゃないか』ってもっぱらの噂なの」

「えー……」

 

 内の口から突然飛び出したその背徳的な言葉に、声量を落とした真子の顔が赤くなる。

 黒木画伯は妻を娶らず生涯独身を貫き通した孤高の人物としても知られていたが、そんな彼の傍らには常に寄り添う姉の姿があった事から、周囲からのそのような詮索を招いてしまう事となった。

 

「あ、それはどうなんだろ……私はただの噂でしかないと思うけど」

「えーだっておかしいでしょ? 毎年姉の為に絵を描いてあげるなんて、どんだけシスコンなのよ」

 

 内が熱く語り始めた画伯のそのスキャンダラスな噂に何か思う所があったのか、助手席の小宮山が控えめな反論をしてみせる。

 だが内の言う通り、確かに画伯の姉に対する扱いには単なる身内に対するそれを超えた感情があったのではないかと識者の間で指摘されているのも事実である。その証拠として挙げられる一例の最たるものが、画伯が並々ならぬ情熱を持って描き続けてきた一連の智子絵なのであった。

 

「私、智子の絵を見てると確かに感じるの。『ああ、これを描いた人は智子の事を愛していたんだな』って……」

「ああ、そうなんだ……私、アレあんまり良く見た事無いからそういうの判らないけど……」

 

 内程の智子愛好家の観察眼を持ってすれば、智子絵に込められた描き手の思いを読み取る事はそう難しくはないのであった。

 

「ああ~、ほんとキモいよねぇ姉弟でデキちゃうなんて。智子ったら本当にキモいんだから……」

 

 キモいキモいと智子を口で貶しながらも、うっとりとした目でそう語る内の様子はまるでテレビの中のスターの色恋沙汰にはしゃぐ少女のようであった。

 

「ちょ、内さん! 前、まえっ!」

「え?」

 

 と、そんな内に小宮山が慌てて注意を促す。我に返った内が前方を見やれば、道を塞ぐ形で倒れ込んでいた木がジープの目前まで迫っていた。

 

「きゃあっ」

 

 咄嗟にブレーキを踏みつける内であったが、勢いは止まらずそのまま倒木をメキメキとなぎ倒してしまう。

 幸いそれは比較的小さな木であったから事から車体は無事であったが、内の不注意な運転のせいで冷や汗を流す一行であった。

 

「おいっ、ちゃんと前見ろやテメー!」

「ははは……へ、へーきへーき」

 

 堪らず吉田が声を張り上げて運転手を怒鳴りつける。

 彼女らの乗るジープは頑丈な作りをしているだけにこの程度ではビクともしないのだが、だからといってこのような乱暴運転では生きた心地がしない。

 智子の話題を前にしてうっかり心ここにあらずの状態になってしまった内も流石にそれを恥じたようで、誤魔化すように笑ってみせるのだった。

 

「ったくよー……」

 

 あわや衝突事故かと少しばかり肝を冷やした吉田であったが、すぐさま落ち着きを取り戻した彼女はなんとはなしに窓から覗く景色に目を向ける。

 と、そこで木々の間から垣間見えたものに彼女は思わず目を奪われてしまった。

 

「なあプロデューサー、黒木邸ってもしかしてあれの事か?」

「え? あ、そうだね。あれが画伯のお屋敷、かな」

「へー……なんかスゲーな」

 

 吉田からのその問い掛けに、窓の外へと目を向けた小宮山がまるで尊いものでも仰ぎ見るかのような表情で答える。今彼女らが走っている山道から若干遠い位置にあったそれは、なんとも古めかしい洋館であった。

 屋敷はたいへんに巨大な作りをしており、山林の中に隠れるようにしてそびえ立つそれはまるでヨーロッパのおとぎ話にで出てくる森の古城のようである。

 千葉県内にて数年前に開園された新感覚テーマパーク『東京ネズミーランド』の施設を思わせる屋敷の威容は、密かにその手のものが好きであった吉田の心の琴線に触れたようで、先程から興味津々にそちらを見やっている。

 

「うわぁ、すごいねぇ。なんかお化けとか出そうだけど……」

「んなモン気合だ気合。もし出やがったらこっちからブチかましてやりゃいいんだよ」

 

 つられて屋敷を見やる真子であったが、その威容を前に感嘆の声を上げながらも息を呑まずにはいられなかった。

 吉田は異国情緒溢れる屋敷の見た目から色鮮やかに飛び回る妖精達の姿でも想像していたのか、まるで屋敷を恐れていない様子であったが、一方の真子はその如何にもな廃墟ぶりから別のものを想像してしまったようだ。

 

「ねえゆり、見て。お屋敷すっごいボロボロだよ」

「え? あ、うん……」

 

 お化けが出る出ると怖がっている割にはどこかはしゃいだ様子を見せている真子は傍らの親友にも声を掛ける。

 

「なんだろう……あそこ、あんまり良くない場所のような気がする」

「えー? 怖い事言わないでよぉ」

 

 真子に促されて車窓から屋敷の方をじっと見据えていたゆりがふいに妙な事を呟いた。

 ゆりは遠目に見える件の屋敷から何か言い様のない不吉さを感じ取ったようで、楽しそうな様子の真子とは対照的にその表情には些か険しいものが浮かんでいた。

 

 ゆりが口にした直感、それは実際に正しかったのかもしれない。

 あと数分もすれば到着するであろう黒木邸でこれから彼女達が体験する出来事を考えればこの時点で何をおいても引き返すべきであったと、そう思える程には。

 

 彼女ら撮影班一行の長い長い取材はまだ始まったばかりであった。




END
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