Devil may cry ~Fleet Collection~ 作:縁(みどり)
1週間空いてしまいました…
私用が色々ありまして…
続きをどうぞ!
鈴谷は、かなり焦っていた。
倒したと思ったそれが、まだたくさんいたとは思っておらず、油断した瞬間に右肩と左足に爪を突き刺されてしまったからである。
「ぐっ…ぁ…」
とめどなく血液が流れ、痛みが脳を駆け巡る。ただ立っているだけで体力を消耗させるほど、身体は限界が近かった。
メフィストは鈴谷の様子を見ながら、ただ辺りを飛び回る。それが、鈴谷に逃げるという選択肢を与えなかった。
背中を向ければ、確実に刺される。
「鈴谷!」
「!…」
鈴谷は声がした方を見る。そこには、熊野がスピードを上げてこちらに向かって来るのが見えた。
熊野は速やかに主砲を構え、そのまま放つ。メフィスト目掛けて砲弾が飛んでいく。
しかし、浮遊しているメフィスト達にその砲弾が当たることはなかった。
「!…何なんですの!?」
熊野は回避されたことへ軽く苛立ちを覚える。
鈴谷は、言葉を詰まらせながら、何とか声を出す。
「…どうして…来たの…?」
その言葉に、熊野は鈴谷をキッと睨みつけてこう言い放つ。
「大切な鈴谷が辛い時に、私はじっとしていられませんの!!」
「!…」
鈴谷は、心が熱くなるのを感じた。艦の時には感じたことのない、感情。
先ほど攻撃を喰らってしまった時は、沈むかもしれないという恐怖に支配され、身体は完全に動かなくなっていた。こんな得体の知れないものに、沈められてしまうのか、と。
だが、そんな不安を熊野が吹き飛ばしたのだ。
「…へへ…ありがとう…熊野。」
「…それをいうのは、これを切り抜けてからですわ。」
鈴谷の言葉に呆れながら熊野は辺りを見渡す。
メフィスト3体が、熊野と鈴谷を取り囲むように浮遊している。
熊野は、正直なところでいえば、焦っていた。
ざっと見て大破に近い状態の鈴谷を守りながら、この状況を切り抜けるのはかなり困難だと感じたからである。
だが、そこに一筋の光明が差し込む。
「Hey!大丈夫か?」
と、そんな声が響いたと思えば、2人の目の前に赤いコートが降り立つ。
熊野は、一瞬思考が停止したが、すぐにそれを見て微笑む。
鈴谷は笑みを浮かべて、その名を口にする。
「ダンテ…!」
「さっさと戻りな。その怪我じゃ、パーティーは無理だぜ。」
ダンテはそう言って、その両手にエボニーとアイボリーを構える。
熊野はその登場の仕方に呆れつつ、道理で鈴谷が惚れるわけだと納得していた。
「では、鈴谷を曳航しますわ。ダンテさん、殿はお任せしますの。」
「Ha-ha!そう来なくちゃな!」
ダンテはその瞬間に、引き金を何度もひく。その精密な射撃に、メフィスト達は次々と黒いガスを剥がされていく。
「鈴谷、たてますの?」
「何とかね。」
そのダンテの後ろで、熊野は鈴谷に肩を貸すように支える。
熊野は、一瞬ダンテの方を見る。高くジャンプして、その落ちてくるメフィストを切り刻む。
その芸術とも呼べる規格外の戦闘を、目に焼き付ける。
「こちら熊野!鈴谷が大破!これから曳航しますわ!」
通信機に向けてそう叫び、熊野はそのまま鎮守府へと視線を戻す。
今はとにかく、鈴谷を鎮守府へと返すのが先決だ。
そう思いながら、熊野はスピードを上げて鎮守府へと向かうのであった。
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「サンキュー熊野。さすがに危なかったわ〜。」
鈴谷は笑顔でそんな軽口を叩く。
傷の血は止まっておらず、本当はそんな余裕もないはずだが、熊野に心配をかけまいとまるで傷など気にしていないかのように振舞っているのだ。
熊野はそれを察していたものの、その鈴谷の思いを無駄にしないために、ため息をつきながら呆れた顔をする。
「…ヘッドセット型の通信機も、考えものですわね。」
今回の通信機は、警備任務用に用意されたものであり、通常の作戦では使用されない。本来は、1人が通信機を持ち、それによって鎮守府と交信を行うのだ。
「…まあ、こういう時には使いづらいかな…って思うけどね。」
「今日は警備ですし、仕方ありませんわ。分散しての警備では、個々に通信機が無ければ危険ですの。」
熊野はそう呟きながら、あたりを見渡す。
敵影はなく、穏やかな風だけが流れる。それが不気味に感じた熊野は、視線を鈴谷に向ける。
少し辛そうな表情を浮かべてはいるが、それでもしっかりと意識を保っている。
「…後もう少しですわ。」
「そっか…頑張らなきゃね。」
鈴谷は、その表情を不敵な笑みに変える。まるで、ダンテのように。
それを見た熊野は、微笑みを浮かべながら、心の中は少しだけ切なくなった。
今までの鈴谷から、少しずつ変わっている。それが、嬉しいことでもあるのに、少し寂しいことでもあるように思えたのだ。
「…鈴谷…」
と、熊野がそこまで言いかけたとき、その音が聞こえる。水中をかき分けて自身らに近づいてくる、その音が。
「!?…魚雷!?」
熊野はそう叫び舵を切る。魚雷の射線上から辛うじて退避するものの、魚雷は水中で爆発する。
磁気信管により、艦に魚雷が直撃せずとも、艦の金属を探知して爆発するためである。
「!!…」
熊野は自身の被害をも恐れず、その爆発に鈴谷が巻き込まれないように庇う。
熊野の艤装が、小破に追い込まれる。熊野はすかさず通信機に向かって声を張り上げる。
「こちら熊野!!敵の攻撃を受けておりますわ!!敵影はなし!!恐らく潜水艦だと思われますの!!」
『!…漣さんと朧さんはすぐに熊野さんのもとへと向かってください!赤城さんと加賀さんは空中から支援を!!すぐにこちらも増援を出します!!』
大淀が通信機の向こうで的確な指示を出す。
潜水艦。それが、重巡洋艦にとってどれだけ脅威になるか。
駆逐艦と軽巡洋艦は爆雷を持っており、潜水艦に対しての攻撃が出来る。重巡洋艦にはそれがない。
となれば、ただ潜水艦の攻撃を受け続け、そのまま沈むのがオチである。
『了解しました!!漣とともにすぐに向かいます!』
と、朧の声が通信機に帰ってくる。熊野はただ不安げな表情を浮かべる。
漣と朧の2人が来るまでに、果たして潜水艦は何度攻撃を仕掛けて来るだろうか。赤城と加賀の2人の艦上機は潜水艦には対応しておらず、空中支援はあまり期待はできないだろう。そして、ダンテは先ほどの化け物との戦闘の真っ最中である。
この状況を、どうやって切り抜けるか、それだけに意識を集中させていた。
だから、追加の攻撃に気がつかなかったのだ。
「熊野!!」
鈴谷がそう叫び、熊野を突き飛ばす。バランスを崩して、海面に倒れこむ。
「!?…」
その場で熊野はハッとなってすぐに振り返る。
そこには、少し寂しそうな笑顔を浮かべた鈴谷が立っていた。
「___」
鈴谷はその口をゆっくりと動かす。その声は聞き取れなかったものの、その口だけで何を言っているのかを感じ取る。
熊野は、目を見開いて鈴谷に手を伸ばす。
「!!…鈴…」
そこまで言いかけた瞬間、鈴谷のいた場所に大きな水柱が上がる。本当は熊野に直撃するはずだった魚雷。
それを鈴谷が1人で受けたのだ。それも、大破の状態で。
水柱が少しずつ収まり、視界が戻る。
しかし、そこに鈴谷の姿はなかった。あたりには、鈴谷のものであった艤装が、バラバラの部品となって海に浮いているだけである。
「…鈴…谷…?」
熊野は、静かに呟く。
その事実を受け入れられない熊野は、ただ名前を呼ぶことしかできない。
だが、その返事が返ってくることはなかった。
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朧と漣は、2人で並走しながら熊野達のもとへと向かう。
鈴谷のことを聞いているため、焦燥感と不安な気持ちが入り乱れる。
「いた!」
漣がそう言いながら指をさす。そこには、海面にへたり込んで座る熊野の姿があった。
「熊野さん!!」
朧はそう叫びながら、熊野のもとへと駆け寄る。
そして、その光景に言葉を失う。
海に浮かぶ艤装の破片。その1つを神に祈るように抱きしめながら涙を流す熊野。
漣と朧は言葉を失う。その状況が、1つの事実を示していたからである。
熊野は唇を強く噛む。
「…私が…護らなければならないのに…」
血が滲み、熊野の顎まで伝っていく。
「…っ…私が…!!」
熊野はその表情を悔しそうに歪める。
この状況を切り抜けなければならなかったはずなのに、自分のミスであろうことが鈴谷に助けてもらってしまった。その結果がこれだ。
熊野は、己の無力さを恨む。
「…Hey、どうした?」
そう言いながら、ダンテは熊野へ近づく。メフィスト達を一掃したダンテは、そのまま熊野と鈴谷に会いに来たのだ。
熊野はその顔を無言でうつむかせたまま、何も答えない。
朧と漣も、今はダンテの軽いそのノリに応えることはできなかった。
「…そうかよ。」
ダンテはそう呟いてあたりを見渡し、そのまま1つの破片を拾い上げる。
そしてマジマジと見つめたあと、ダンテはそれをコートのポケットの中へとしまう。
「…で、どうするんだ?」
ダンテはそう言って、熊野を見る。
熊野はその言葉に、身体の動きをピクリと止める。朧と漣もそれを感じ取り、少し不安げな表情を浮かべる。
「…どういう…意味ですの…」
「…huh、そんなところで神に祈って、スズヤが帰ってくるのか?」
ダンテはそう言って、熊野に背を向ける。
そんなことはわかりきっている。神に祈っても、鈴谷は帰ってこない。ダンテの言っていることは、事実。
熊野は言葉を返すことが出来なかった。絶望感に支配され、心が死にかける。
ダンテは軽く、ため息まじりに笑みを浮かべる。
「…そんなに祈るなら、相手を変えるのはどうだ?」
熊野は、えっ?と呟きながら、それを見た。ダンテの身体に、赤い電流のようなものが走り、みるみると姿が変わっていくのを。それはまるで、赤い魔人。
ダンテの声に、ノイズのような音が混じる。
『例えば、悪魔とかな。』
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(…あぁ…寒い…)
身体が沈んでいく。暗く深い海の底へと。
かつて、第二次世界大戦の時に感じた感覚を思い出す。ただ、もがくこともできずに沈む感覚。ただ海水の冷たさだけが自身を刺激する感覚。
やがてその感覚も、時間とともに失われていくのだろう。
(…怖い…)
目を開けると、まだ明るい陽の光がまっすぐ差しているのが見えた。海面に反射し、ゆらゆらと揺れるその光には、手を伸ばしても届かない。
(…あっけないなぁ…)
戦いの最中は、意地でも沈むものかと思っていたのに、いざこうなって見ると、あれだけ足掻いていたのがバカらしくなってくる。
(…でも…熊野を護れたし…良いかな…)
鈴谷は、無意識にその表情を微笑みに変える。
自分がしたことは無駄ではないと、心の奥底で確信できたからである。
目を閉じ、その最期のときを待つ。
海面についたら、どうなるのだろうか。海の中に溶けて、永遠に彷徨い続けるのだろうか。それとも、永遠に海面から動くこともできなくなるのだろうか。
(…あぁ…もう少し…生きたいな…)
そこまで考えて、鈴谷は涙を流す。それは海水に紛れて消えていく。その思いは、海が攫っていく。
鈴谷は、全てを諦めたのだ。
『Hey、こんなところで寝てると風邪引くぜ?』
その声が響くまでは。
「!…」
鈴谷は、ゆっくりと瞼を開ける。目の前に広がるのは、もう随分と見慣れた赤。
ただ1つ違うとすれば、その姿だけ。
「…ダン…テ…?」
鈴谷は、そう呟きながらその赤へと手を伸ばす。
決して人間には見えないその姿を見て、本当は驚くべきはずなのに。
それがダンテと確信できるほどに、鈴谷の心に不思議な安心感が広がっていた。
『Ha-ha!ほら、上がるぜ。』
その赤は、鈴谷を抱きとめて、すぐに海面へと上がっていく。
鈴谷はその腕の中で、ゆっくりと目を閉じる。
(ありがとう…ダンテ…)
そのまま、鈴谷は気を失う。
だが、その心の中は穏やかであった。
というわけで、ダンテ魔人化!
書いてる途中で、ダンテならまず轟沈させないのでは?とか思ったけど、変更せずにそのまま書きました笑