Devil may cry ~Fleet Collection~ 作:縁(みどり)
「本当に、男の人が?」
時刻は変わって、15:15。鎮守府の食堂にて、テーブルをはさんで電の目の前の少女、雷がそう電に尋ねる。電はカレーを口に含んでいたので、少し口の中で咀嚼してからすぐに飲み込んだ。秘書艦としての仕事をしていると、他の艦娘よりも食事が遅れてしまうことがある。今日は、これから来ると言われている男の人のために準備をしており、その関係で遅い昼食を今取っているのだ。
「らしいのです。なんでも、深海棲艦に対抗できるみたいなのです。」
電の言葉に、隣に座っていた暁が目を輝かせていた。アイスクリームを食べていた暁は、口の周りにクリームをつけていた。
「それって、この鎮守府に提督以外の男の人が来るってこと!?」
「暁、口にものを入れたまま喋るのは行儀が悪いよ。」
響はそう言いながら、テーブルごしに暁の口元を自分の持っていたティッシュで拭く。その響も少し楽しみにしているようで、表情が生き生きとしている。今までで、男の人が鎮守府に来たことがあるのは、提督の着任時だけであった。なので、それ以外の男の人が来るのは珍しいことなのだ。
「へぇ!男の人が?どんな人なの?」
そう言いながら、鈴谷と熊野が電たちに近づいていく。電達は、みんな鈴谷と熊野に挨拶する。
「お疲れ様なのです。それが、どんな人が来るかは全く聞かされていないのです。」
電は少し残念そうにつぶやいていた。どうやら、電は鈴谷の質問に答えられないことに罪悪感を抱いてしまっているらしい。鈴谷はその電を見て、大丈夫大丈夫、と肩を軽くたたく。
「ただちょっとだけ気になってただけだから!そんなに気にしなくても大丈夫だよ!」
鈴谷はニコっと笑って電を元気づけていた。そんな表情を見たからか、電は少しほっとしたような表情を浮かべていた。
そこに、チャイムが鳴り響く。
『こちら執務室より連絡です。電さん、至急、執務室まで来てください。』
「はわわわっ!?」
電は少し焦った様子で立ち上がっていた。提督からは少しゆっくりしてきていいと言われたので、ついうっかり長居してしまっていた。今頃提督も、怒っているかもしれない。
「あ、あのっ!ごめんなのです!!すぐ行かなきゃ…」
電がそう言って食器を片付けようとしているのを見て、雷は少し呆れたような笑顔で止めた。
「ああ~いいのいいの!食器とかは片付けておくから、行ってきなさい!すぐ行くんでしょ?」
「でも…」
雷の言葉に電は少し申し訳なさそうにしているのを見て、暁がため息をつく。
「ほらっ!さっさと行かないと!提督を待たせたら、レディ失格なんだから。」
「そうだね。ここは私たちに任せて、電は早く行った方がいいよ。」
暁の言葉に続けるように、響がそう続ける。少し迷っていた電であったが、意を決したようで、頷いて走り出した。
「今度、埋め合わせするのです~!!」
「はぁ…そんなのいいのに。」
電の言葉に雷がそうつぶやく。それは、純粋に姉妹に対しての優しさがあふれ出ていた。それを見た熊野は、少し微笑んでいた。
「?…どうしたんだい?」」
響が熊野の方を見ながら不思議そうに首をかしげる。その言葉に、熊野に視線が一気に集まる。
「いえ、皆さまが本当に姉妹を大切にしているんだなぁと思っただけですわ。」
熊野はそう言いながら、微笑みを崩さずにそうつぶやく。それを聞いた雷は恥ずかしそうに顔を赤くして、暁はえっへんと胸を張る。響はその言葉に微笑みで返す。
「ずるーい!私だって熊野のこと大切に思ってるのにー!」
鈴谷がそう言って熊野に抱き着く。すると、熊野はあわあわと声をあげながら、顔を少しずつ赤くしていった。
「な、何の話ですの!ちょ、離れなさいな!!鈴谷!!」
その光景を、雷たちは笑いながら見ていた。
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「それで、ここまでの旅はどうでしたか?」
提督は、執務机に座りながら、ダンテにそう告げる。ダンテは来客用のソファに腰かけながら、かったるそうにテーブルの上に足を乗せる。それを見た大淀が、少し怪訝な顔を浮かべている。その理由としては、この赤いコートを着た白髪の人間が何者なのか、はっきりとわからないこともあげられる。
「…まあ、それなりに楽しかったさ。」
ダンテはそう言いながら、軽く面倒くさそうな顔をしていた。今の時刻は15:20である。スーツの男たちが、かなりスピードを上げてくれたので、予定よりも40分ほど早く到着したのであった。
大淀はシンクでお茶を淹れ、湯呑をダンテの足が載っているテーブルに置く。
「よう、大和撫子ってのはアンタのことを言うのか?」
ダンテは大淀のことを見ながらそうつぶやく。それと同時に、大淀の顔が少し赤くなっていくのが見えた。
「なっ…!」
いつもこういういじりに慣れていない大淀は、そのままテンパってしまったようで、少し焦りつつ咳払いをした。ダンテはその様子をニヤニヤと見ていた。ふと、自分の目の前の液体に興味がいったのか、ダンテは湯呑を持ち上げた。
「…こいつは何だ?」
ダンテはそう言いながら湯呑をじっくりと見る。大淀は、少し失念していたようで、ダンテが外国人だということを忘れていた。
「それは、緑茶です。お口に合えばいいんですが…」
「…hmm。」
ダンテは少し興味を持ったようで、そのまま口に含む。すると、口の中に、苦みとも甘味とも取れないような不気味な味が広がっていった。ダンテは少し黙ってそれを味わっていたが、飲み込んでから軽くため息をつく。
「…こいつは、なかなか。」
ダンテはそう言いながら、静かに湯呑を置いた。提督はそれを見ながら、少し苦笑いをする。
「やはり、海外の方には口に合わないか?」
「俺じゃなければ、気に入る奴もいるかもしれねえな。」
ダンテはそう言いながら、テーブルから立ち上がり、軽く息をつく。
「で、俺の仕事はいつ始まる?」
軽く両手で、コートのしわを伸ばすようにはたきながら、ダンテは提督にそう告げる。提督は少し呆れたように笑う。今しがた、秘書艦の電を呼んだことも関係しているのだが、この男は結構せっかちなのだと。
「まあ、待っていてくれ。今から、私の秘書艦がやってくる。その子にここの案内をしてもらうといい。」
提督はそう言って、ダンテの方を見る。彼は先ほどまでの面倒くさそうな顔から、少しだけ楽しそうな顔に変わっていた。
と、そんな風に話していると、廊下の方からパタパタと走る音が聞こえてきた。そのまま勢いよく扉を開けながら入ってきたのは、電であった。
電Side
「すみません!遅れてしまったのです!!」
そう言いながら、私はドアを勢い良く開けた。提督は怒っているのだろうか。もしかすると、しばらく秘書艦を解任されてしまうかもしれない。そんな風に考えながら慌てて入ってしまったので、私は気が付いていなかった。
「ん?」
そう言いながら、目の前にいた大きな背丈の赤いコートを着た銀髪の男の人が、私の方に視線を向けた。私は思わず、びっくりしてしまい、大声で叫んでしまった。
「はにゃああっ!?」
私の声に、目の前の男の人は、そんな私を見て意地悪そうに微笑んでいた。その顔は、私をいじろうとしているのか、何か私に気に入らないことがあったのか、なんて勘ぐったりもしたが、結局はよくわからなかった。大淀さんはこちらを見ながら、ぐっと親指を立てた。何かこの男の人にされたのだろうか。
「電、この人が今日からしばらく補佐をお願いした、ダンテさんだ。」
提督がそう言いながら、ダンテさんと並ぶ。そして、その隣に立った提督さんよりも一回りほど大きいダンテさんは、右手で人差し指と中指を立て、軽い敬礼のようなポーズをとった。
「この子がお前の秘書ってわけか。あと10年したらきっとスマートな女性になるぜ。」
ダンテさんという人はそんなことを言いながら、笑みを浮かべる。さっきまでとは違って、随分と楽しそうな笑顔であった。私は、少しばかりその大きさに見とれてしまった。街の人以外でこうしてお話しする男の人は、提督以外では初めてだし、さらに言えば、海外の人なんて出会ったことも少ない。
「あ、あのっ、よろしく…なのです!」
私は精一杯、ダンテさんに失礼のないようにそう挨拶をする。ただ、当の本人は楽しそうな笑みを浮かべ、私のことをじっと見ているだけであった。その目は、どこか掴みどころがなくて、でも少し子供のような純粋な目であった。
「よろしくな、『
ダンテさんはそう言いながら、軽く手を振るのであった。
今日はここまで。
次回の投稿は、翌週になるかと思います。