Devil may cry ~Fleet Collection~   作:縁(みどり)

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お待たせしました!

これが、この章最後の話になると思います!!




艦娘

「…電…!」

 

妖精は、悔しそうな表情で呟く。本来ならば、人に話すべき内容ではないこと。それは、自らの罪の懺悔と共に、艦娘たちの存在の根幹へと大きく振れる話題。それを、一番聞いてほしくない人物に聞かれてしまったことへの焦り。

妖精たちは自分たちのうかつさを悔いることしかできなかった。

だが、ダンテはそんな妖精に微笑みを向ける。

 

「気にするなよ。俺が話をさせたのが悪い。」

「…」

 

妖精はただ無言でダンテの方を見る。

かつて、魔界を裏切り、人間界を救ったスパーダ。その息子であるダンテに、そんな言葉をかけてもらえる悪魔など、この世にいるだろうか。

自分たちがそれだけ恵まれた立場であることを、妖精たちは実感していた。

 

「…イナズマのことは俺に任せな。」

 

ダンテはそう言ってドラム缶から立ち上がり、そのまま工廠を出ようと歩き出す。

それを見た妖精は、慌てた様子でダンテを呼び止める。

 

「僕たちのことを咎めないのか?」

 

ダンテはその言葉に歩みを止めて、妖精の方へと軽く目線を向ける。

その表情は、随分と穏やかな笑みであった。

 

「正直、普通なら許せないほどの出来事だ。だが、今のお前らはその罪滅ぼしのために戦っているんだろう?少なくともそれが終わるまでは手を出すわけにいかないのさ。」

「!…はは…ダンテ…君は本当にすごいやつだな…」

 

妖精は、まるで呆れ返ったように、それでいて、ダンテに尊敬の念を抱いたように微笑む。

ダンテはそれを見て、満足そうに笑顔を見せる。

 

「あいつらを護ってやれるのは、お前らだけさ。これからも頼むぜ。」

「…ああ。約束する。全て終わったら君にこの命を預けるよ。」

 

妖精の言葉に、ダンテは何も答えずに歩み始める。

それを言えるほどの覚悟があれば、見逃しても大丈夫だろう。そう自分の心の中で呟きながら。

雲の切れ目に、少しだけ月明かりが差し込んでいた。

________________________

「はぁ…はぁ…!」

 

鎮守府から離れるように、電は息を切らして走る。鎮守府正門から街へと続くこの道は灯りが少なく、人通りはない。

そんな道を、電は涙をこぼしながら走り続ける。

今は、今だけは何も考えずにただ鎮守府から離れたい。その一心が、電を突き動かしていた。

延々と続くように見えるほどに暗い路地は、まるで電を知らない場所へといざなうかのようにも感じられる。

 

「!…」

 

だからこそ、電はそのわずかな段差に気がつかず、勢いよく転ぶ。全身に痛みを感じ、歯を食いしばる。

立ち上がろうとすると、右ひざに痛みが走る。電はすぐに、膝をすりむいたのだと理解した。

それだけでなく、左腕も軽くぶつけたようで、鈍い痛みが広がっていた。

 

「!…ッ!」

 

その痛みを、頭の中で反芻する。入渠してしまえば、すぐに治ってしまうその傷を。

自分の存在を、肯定することができる唯一の感覚。人間ではない、自分の存在を。

 

「…人間じゃない…」

 

電はゆっくりと立ち上がり、ガードレールの向こうへと広がる海原を見る。ただ、無限に広がるその海は、電を引き込もうとする。

電はそのガードレールを乗り越えて、浜辺へと降りる。砂が足をもつれさせるが、そんなことなど気にも留めない。

 

「…艦娘も…」

 

身体の痛みを受け入れながら、ただ海へと歩み続ける。電の足元に、波が押し寄せる。

靴の中に海水が入り込み、急激に冷える。電はそれでも歩みを止めない。

 

「…深海棲艦も…人間ジャ…ナイ…」

 

そう呟く電の目は、少しだけ赤く輝いた。それは、まるで深海棲艦、そして、悪魔のように。

電が、その足をさらに海へと進める。深い海の淵へと。

その右足首まで海水に浸った瞬間。

 

「おいおい、こんなに暗い中で海水浴か?」

「!…」

 

そんな声があたりに響く。

電は急いでその声がした方へと視線を向ける。その眼光は、先ほどまでの赤みを帯びたものではなくなり、いつもの電の瞳であった。

ダンテは、少しずつ電のほうへと歩み寄る。

 

「…何しに…来たのです…」

 

電は静かにそうつぶやく。その表情は、ひどく苛立っているような表情であった。

放っておいてほしかったと、そう思っていたのに。

そんな電のことなど気にも留めず、ダンテは歩み寄るのをやめ、にこやかな表情で電を見る。

 

「…さっさと帰ろうぜ。こんなところで何する気だ?」

 

ダンテは両手を軽く上げて天を仰ぐ。空には、少し雲がかかった月があるのみで、ただ静かに2人を照らす。

 

「…ダンテさんには関係ないのです…」

 

電は小さくつぶやく。それを聞いたダンテはその表情を崩さない。

しばらく、静寂が2人の間に流れる。

 

「…私は…この姿で生まれて…すぐに深海棲艦との戦いに駆り出されたのです…」

 

重い口を開いた電は、悲しい表情をしていた。

ダンテはそれを、黙って聞く。その表情は変えないものの、いつものような軽々しい態度は一切取ることなく。

 

「…ずっと自分の存在に疑問を持ってきたのです…あの得体のしれない機械から生み出されて、ただ深海棲艦を倒すためだけに戦う自分たちの存在を…」

 

そうつぶやく電の両手は強く握られていた。

ずっと戦いに明け暮れてきた苦悩。電を蝕んできた疑念と不安。

それら全てが司令官のためと自分に言い聞かせて、何度も死線をくぐり抜けてきた。

 

「…その結論が…これなのです…!」

 

電はそう力強く言い放つ。それと同時に、頬には一筋の涙が伝う。

 

「電は…何のために戦ってきたのですか!!」

 

その荒げたような叫びは、2人の間に響き渡る。

 

「深海棲艦も…艦娘も…同じ存在…!!」

 

今まで倒してきた深海棲艦が脳裏をよぎる。その怨念とも呼べる何かが、電の肩にのしかかる。

そのイメージを振り払って何とかその言葉を紡いでいく。

波が少しずつ、2人の足元を濡らす。

 

「…ダンテさんが狩らなければならない…悪魔…!!」

 

喉を焼き付くようなひりひりとした感触が、電を襲う。

深海棲艦と化した自分のイメージが、すぐに頭の中に浮かび上がる。無機質な表情で、仲間だったはずの艦娘達に牙を剥く。自分の姉妹艦である暁達にも、いつも優しい言葉をかけてくれる提督にも。

自覚したことのない悪魔の力。それが、今後永遠に自覚がないまま一生を終えるのか。

それとも明日にはその力に目覚めて、自分の意思とは無関係に殺戮と破壊を繰り返すか。

 

「私は…もう耐えられないのです!!」

 

必死に心の内を訴える。苦しみを、叫びを。

心の底からダンテに求める。救いを、助けを。

 

「自分が怖いのです…得体のしれない自分が…自分の力が…!!」

 

その表情をゆがませ、ダンテを見る。そのダンテの表情は、不敵な笑みであった。

だが、その雰囲気はいつもと全く違うように感じられた。

 

「…俺の仕事は、悪魔を狩ることだ。」

 

ダンテはそうつぶやいて、電をしっかりと見据える。その瞳の奥には、絶対的な悪魔への憎悪が含まれていた。

電はその言葉を聞いて息をのみ、その表情を、寂しそうな笑顔に変える。

それは、自分の心の中で、ある覚悟が芽生えたということ。

 

「…なるべく、苦しまないのが良いのです。」

 

何とか笑顔を作り、ダンテに向ける。突然こんな決断をしたことで、少しばかりいろんな人に迷惑をかけてしまうかもしれない。

それでも、これから先自分が望まない形で犠牲を出すことはないと考えると、少しだけ気が楽になった。

電は目をつぶって、全てを受け入れる体制をとり、死を覚悟して、その瞬間を待っていた。

 

「…おいおい、何を言ってるんだ?」

 

その人を馬鹿にしたような笑い声が聞こえるまでは。

 

「ダンテ…さん…?」

「俺の専門は悪魔だけだって言ってるだろ?人間は撃てないさ。」

 

ダンテは電を見ながら、ただそう笑いかける。

電は、その言葉の意味が理解ができなかった。

 

「話を聞いてなかったのですか…?」

 

慌てて電は、ダンテにまくしたてる。

 

「私たち艦娘も、深海棲艦も悪魔なのです!!このままだと…いつか人を襲うかもしれないのです…!!だから…!!」

 

電は語気を強めてそう言い放つ。

だが、それに対してダンテはただ笑顔を浮かべるだけであった。

 

「…お前は人間さ。間違いなくな。」

「そんな…何を根拠に…!」

 

ダンテの言葉に、うろたえながらそう返す電。その表情には、困惑の感情が含まれているのは明白であった。

だから、ダンテの口からこんな言葉が紡がれたとき、電は何も言い返せなかった。

 

悪魔は涙を流さない(Devils never cry)

「!…」

 

ダンテの表情は真剣そのものであり、それがダンテの本心から出た言葉だということを電は認識していた。

決して、冗談でそんなことを言っているわけではないということ。それが、電の心を揺さぶった。

 

「心を持つことができるのは、人間の特権さ。」

 

ダンテはそう呟きながら、今まで出会った悪魔を思い出す。本当に救いようのない悪魔もたくさんいたが、そんな中で人を助けようとした悪魔、人を愛した悪魔にも出会った。

その経験から、今目の前にいる電が、今まで葬り去ってきた悪魔なんかとは比にならないぐらいに、優しいことを理解していた。

電が、人間であることも。

 

「お前にはいくらでもやりようがある。悪魔の力なんかに負けない、人間の力があるんだ。だから、すべてを諦めるにはまだ早い。」

「…ダンテ…さん…」

 

電は、気がつくとその言葉を信じようとしていた。

先ほどまで苦しかった心が、ほんの数秒で暖かくなっていく。不思議なほどに安心感に包まれ、もう先ほどまでの不安な心は消え去っていた。

瞳から、また一筋の涙が溢れる。

 

「!…変なのです…もう悲しくなんかないのに…」

 

電は慌ててそれを拭うが、何度やっても止まることはない。

ダンテはそれを見て、楽しそうに笑いながら両手を軽くあげる。

 

「おいおい、そんな顔じゃ帰れないぜ。」

「!…えへへ…本当なのです…!」

 

電は涙を流しながら、笑顔でそれに答えるのであった。

雲はいつの間にか晴れ、綺麗な月が辺りを照らしていた。

 

 




次回予告

どうやら、きな臭いことになってきたな。人間が悪魔の力を利用するなんて、ロクなことが起きないに決まってる。大本営とやらの連中を少しばかり、調べさせてもらうぜ。化けの皮が剥がれるかもな。いや、悪魔の皮か?

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