Devil may cry ~Fleet Collection~ 作:縁(みどり)
新章開幕です…!
ここから、事態は急展開を迎える…!?
暗雲
大本営のある一室の中。
とてつもなく厳かな雰囲気に包まれながら、5人ほどの人物が円卓を囲む。その中には、元帥の姿もあった。
円卓には多くの書類が広げられ、作戦の会議をしているようにも見えるが、今回の議題はあまりにも異質なものであった。
「…納得がいかんな。」
元帥はその右手の書類を軽く握りつぶす。
それを見た、1人の短い茶髪でメガネをかけた男が、鬼の形相を浮かべて立ち上がり、声を荒げる。
その男は、髪をぴっちりとワックスで固め、オールバックにしている。
「なんてことを!!僕が一生懸命作ったレジュメを!!」
「技術局長。少し黙っていてくれ。」
元帥はその男、技術局長に対して高圧的な態度を向けつつ、1番奥に座る、白髪で年老いた男性に鋭い視線を向ける。
技術局長は怒りに震えながら、そのまま着席する。
「…総帥。今の戦局が動いたのは、彼のおかげです。その彼を何のために軟禁するのです。」
総帥と呼ばれた男は、困ったような表情を浮かべて、ふうむ…と呟く。
ヨボヨボの手を円卓につきながら、ゆっくりと立ち上がる。
「…しかし…その人物のことをよく知らないのでな…私も流石に無責任に首を縦に降るわけにはいかんのだよ。」
「資料ならば送ったはずです。それでもですか?」
元帥は、総帥に対して強気な声でそう返す。
もちろん、総帥の命令が絶対であるこの場において、反論の余地などない。だが、元帥にとって、こればかりはどうしても押し通したい話なのだ。
困ったような、悲しそうな表情を浮かべた総帥は、静かに首を左右に振る。
「…残念だが、それでもだ。この場に彼を連れてきて、見極めることができれば1番なのだがな。」
総帥の言葉に、元帥は少しばかり苛立った表情を浮かべるも、すぐにそれを消す。
そして、大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐く。
「でしたら、私の今までの功績に免じてもらえませんかな。常に前線に立ち続け、深海棲艦を退けてきた私に…」
「口を慎め。」
と、元帥の言葉を遮るように、総帥の隣に座る白髪の男が冷静な声でそう告げる。
全員の視線がそちらに集まる。
「総帥がいかんと言っているのだ。どうしようもあるまい。」
「…チッ。」
元帥は小さく舌を打ち、そっぽを向く。
それを見た技術局長が、満足気な表情で元帥を睨みつける。
「そうだ!大将の言う通り、総帥の命令は絶対!!」
「技術局長。少し黙っていてくれ。」
と、大将と呼ばれた男も技術局長に向けて鋭い目線を向けてそう言い放つ。
それを聞いた技術局長が机をバン、と叩き立ち上がる。
「お前ら!!僕をバカにするのか!!」
その言葉を言った直後、咳払いの音が辺りに響き渡る。
それを聞いた技術局長は、総帥の方へと視線を向ける。少しばかり困惑し、呆れるような表情を浮かべた総帥が、技術局長をじっと見ている。
「…ぐぬぬ…!」
技術局長はそのまま、やり場のない怒りに包まれながら席へと座り直す。
総帥がふうむ、と呟きつつ席に着き、全員を見る。
「…とにかく、その事項については決定だ。それでは、その対応についてだが…」
「そのことなら、私が。」
と、今まで一言も喋らなかった金髪の女が、その手をあげる。
その顔立ちは、日本人とはかけ離れており、西洋人のものである。身体は白い軍服に覆われているが、それでもその豊満なボディを隠し切ることはできておらず、制服のボタンを何個か外している。
「…頼めるかな?」
「仰せのままに。」
その女は、ゆっくりと席を立ち上がり、そのまま円卓から離れていく。
長い金髪をなびかせながら歩く様は、その場の全員を釘付けにすることは容易であった。
「…女狐め。」
技術局長は小さな声で呟きながら、苛立ったような表情を浮かべる。
そんなことなど全く気にも留めずに女は部屋を後にする。
「…あの女は何者だ。」
元帥はそう言いながら、大将の方へと視線を向ける。
大将は両手を軽くあげて、困ったように眉をひそめる。
「知らん。最近配属された人間だ。この円卓に座ると言うことは、そこそこの実績があるというのは確かだ。」
大将は両手を広げて、面倒臭そうにそう返す。
それに対して、総帥が軽く笑みを浮かべる。
「彼女には、主に裏方の仕事を頼んでいる。所謂、憲兵のような仕事だ。風紀の乱れを正す役割として動いてもらっているのでな。」
「あんな女狐に風紀の乱れを正せるか!!」
技術局長はそう声を荒げて、その表情をひどく歪める。
それを見た元帥も、それに関しては同意のようで少しため息をついていた。
「…とにかく、貴君らにはより一層励んでもらいたい。これにて、会議を終了とする。」
総帥はそう言って、軽く会釈をしながら席を立つ。
それに倣って、全員が席を立ち礼をする。
その会議は、重苦しい空気のまま終わるのであった。
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「提督、どうでしたか?」
元帥が部屋から出たと同時に、そんな声が辺りに響く。その声の方を向いて、元帥は軽くため息をつく。
そこにいたのは、セーラー服を着た少女、駆逐艦の吹雪であった。
「…さっぱりだな。どうやら、彼は軟禁されることになるらしい。」
「ええっ!?じゃあ、深海棲艦に対抗する手段は…」
その残念な報せに吹雪は少し表情を曇らせつつ、元帥の顔色を伺う。元帥は、少しばかり苛立った表情を浮かべつつ、ブツブツと文句を垂れる。
「全く。奴らは現場のことなど何1つ聞かずに、ただおのれの意見だけを通しおって…これでは、何百人といる提督がクーデターを起こすぞ。」
「あ、あはは…それは分からないですけど…」
吹雪は苦笑いを浮かべてそう返すと、すぐにその表情を真面目なものに変える。
「…では、すぐに連絡します。」
「…ああ。ダンテには、謝罪の言葉をかけねばならん。」
吹雪が敬礼をしてその場を離れていくのを見守り、元帥はフン、と鼻をならす。
今回の事態はあまりにも急であり、今までとは明らかにおかしい。
大規模作戦において、自分が作戦にない独断行動をしたことについての決定なら、いくらでもあり得る。
だが、独自で呼び込んだ外部の人物を、依頼キャンセルではなく大本営で事実上拘束するなど、普通に考えれば無理があるだろう。
「…何か裏がある。そう思っているな?」
「!…」
元帥はその声に驚き、そちらを見る。そこには、先ほど円卓に座っていた大将の姿があった。
元帥は明らかに面倒臭そうな表情を浮かべて、大将を睨みつける。
「フン、総帥の決定は絶対だ。それに逆らうつもりはない。」
「お前ならそう考えると思っただけだ。」
大将は、元帥の表情を伺いつつそう返す。
元帥は軽く頭を掻き、ため息をつく。大将と元帥は、かつて同じ鎮守府で切磋琢磨し合う有名なツートップであった。今でこそ階級は違うが、その当時から仲が良かった間柄なのだ。
「…お前のことだ。何か策は立てているんだろう?」
「…まあな。」
大将の言葉に、元帥はあまり乗り気ではないが頷く。
このままダンテが軟禁されるようでは、間違いなく終戦が遠のいてしまう。これから、ダンテに紹介された人物とコンタクトを取らなければならない。
「…はぁ…わしの貯金は吹っ飛ぶな…」
本当に小さい声でそう呟き、肩を落とす。元々、ダンテを雇ったときも、大本営名義でこそあったものの依頼料は自腹である。このまま、もう1人に依頼をすれば、その料金も2倍になることは必至である。
「お前の自腹で、戦争が終われば安いものさ。」
「そう思うなら、少しでも出さんかい。」
悪態をつき、元帥はその場を後にする。大将はその背中を見つめ、ただ微笑むだけであった。
「…戻ってきたな。『神の軍師』が。」
一言呟いて、大将は元帥に背中を向けて歩き出す。
空は澄み渡り、綺麗な青を広げていた。
ダンテの先行きに、暗雲が立ち込める…
一体、もう1人の人物とは…?