Devil may cry ~Fleet Collection~ 作:縁(みどり)
「…案内…ですか?」
提督に事情を説明された電は、首をかしげながらその言葉に答えていた。ダンテはソファに再び座り、テーブルに足を組んでいた。大淀は先ほどから自分の仕事に戻っていた。ヘッドセットをつけて、大本営から何か打電がないかを確認しているのだ。
「頼まれてくれないか?ダンテさんにも、ここにある程度慣れてもらわなければならないからね。」
提督はそう言って、電に微笑みかける。電はそれに笑顔で、了解なのです!と答える。ダンテはその間に、執務室内を散策しており、ジュークボックスの前で何かつぶやいていた。
電はそんなダンテの方を向いて、笑顔を向ける。
「ダンテさん、それでは鎮守府を案内するのです。」
それを聞いたダンテは、すぐさまソファの脇に置いてあったギターケースを拾い上げ、背中に背負う。
「…OK、行こうぜ。」
「なのです!」
そう言いながら、二人は執務室から出ていこうとする。電はしっかりと提督に向けて敬礼をするのを怠らなかった。そして、先に外へ出る。ダンテは少しニヤニヤとした表情で大淀の方を見た。大淀は真面目に仕事をしていたためその視線に気が付くことはなかった。
「…アディオス、レディ。」
「っ…!?」
ダンテの言葉に、思わずヘッドセットを落としながら振り返る大淀。その顔は少し赤くなっており、少し狼狽したような表情であった。ダンテはそれを満足そうに見てから、電の後を追った。
「…彼が本当に、深海棲艦に対抗できる戦力なのだろうか?」
提督はそう呟きながら、執務机にならべられた書類を見ていた。大淀はムッとした表情で提督の方を見る。
「…少なくとも私はそんな風に見えませんでした。」
若干ふてくされているのか、そんな風に大淀はつぶやく。提督が少し苦笑いをしながらまあまあ、と大淀を落ち着かせる。
しかし、提督とて疑問に思っているのは事実である。今は、深海棲艦と人類、ともに戦力的に拮抗している。だからこそ、大本営は今回のように助力を頼んだのだ。
だが、その助力が機能しなければ意味がない。少なくとも、敵が来ていない以上判断はできないが、今の段階では、ダンテという男は変わった服装こそしている者の、普通の人間とは見た目も性格もあまり変わりがないように思える。大本営が、あの男について何か隠しているのは明白である。
「…まあ、情報がないのにこんなことを考えても仕方がない。」
提督はそう言って、ふぅ、と息をつく。それを見た大淀が、シンクの方へと歩き出した。
「お茶を淹れますね。」
「ありがとう。大淀。」
提督は大淀に、そう笑顔で答えた。チラッと時計を見ると、時刻は15:45を回ったところであった。
太陽はいまだ、地上を照らしている。
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「まずは、こちらのお部屋からなのです。」
そう言いながら、執務室の隣の部屋のドアを開けた電は、ダンテに優しそうな笑顔を浮かべつつ、中へ入っていった。ダンテはその部屋が何の部屋なのかわかっておらず、頭の中に疑問符を浮かべながら後に続いていく。
「…こちらが、ダンテさんのお部屋なのです!」
「…なかなかいい部屋だな。」
電の言葉を聞いて納得したダンテは、その中を見渡してそうつぶやく。床はフローリングで、奥に提督が使っている執務机のようなものが置いてあり、壁際にベッドが置いてある。脇にはシャワールームへ続く扉があり、この中だけでもある程度は生活できそうな作りになって居る。
「…Hah、ちょっとベッドの寝心地を確かめてもいいか。」
そう言いながら、ダンテは部屋の中に入ろうとした…靴のまま。それを見た電が、待つのです!と大きな声でダンテを引き留めた。
「ん?どうした?」
ダンテが少し不思議そうな表情でそう尋ねると、電は少し困った顔でこう言った。
「あの…靴は脱いでからじゃないとダメなのです…」
その言葉に、ダンテはさらに不思議そうな顔をしていた。部屋に入るときに靴を脱ぐ。それは、彼にとって馴染みのない文化だったからである。ダンテは考え込むように腕を組む。
「…日本ではそういうルールなのか。」
「…ま、まあ…そういうことなのです。」
電は少し苦笑いしながら、ダンテの言葉に返す。ダンテは少し考えてから、納得したような表情を浮かべた。そして、両手を広げながら、電に向き直る。
「…部屋は後でいつでも来れるわけだしな。先に案内を頼む。」
そう言って、部屋の外へ出ていく。電は少しほっとしたような表情を浮かべていた。
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次に二人が向かったのは、艦娘たちの寮である。艦種に合わせて寮が空母寮、駆逐寮、重巡寮、軽巡寮、戦艦寮、潜水艦寮(練習艦は軽巡寮、潜水空母は潜水艦寮に部屋がある。)と分かれており、電はとりあえず寮の位置だけでも、とダンテを連れてきたのだ。
しかし、電は連れてくるべきではなかったかもしれないと、頭を抱えた。
「すげえな、日本は美人が多いらしい。」
「…おい、電。この男は何者だ?」
今現在、ダンテは艤装をつけている武蔵と大和を見つけて、超ハイテンションだからである。
先ほどから、ダンテは手当たり次第に出会った艦娘に声をかけていく。例えば、北上と大井の二人組にはイチャイチャしているのをわかっていて話しかけて、主砲を向けられたり、長門と陸奥にはセクハラまがいの発言をして、二人から本気のトーンで窘められたり、挙句の果てに、訓練をしている赤城と加賀の目の前で「C’mon!!」と叫びながら自分を的にして弓を放つように挑発したり(加賀は無表情でスルーし、それを赤城が苦笑いで返した。)、と暴れまくっていた。電は武蔵の問いに少しため息交じりで答える。
「…今日から、一時的に協力してくださる、ダンテさんなのです。」
「今度一緒に、デートでもどうだい。一杯おごるぜ?」
ダンテは電の話している最中でも、大和と武蔵を口説いている。大和は苦笑いをしながら、武蔵の方をちらりと見ていた。武蔵はそれに対して、かなり苛立った表情でダンテを睨む。しかし、当の本人ダンテはまったく気にしていない様子で、武蔵の方をニヤニヤとした表情で見ていた。
「…馬鹿にしているのか?」
武蔵は、少しいら立ちを含めた声をあげながら、ダンテの方を見る。その表情は戦闘時のような、鋭い目線であった。その表情を見たダンテは、少し気のいい感じの笑顔を見せる。
「Hah、そんなクールな顔もできるんだな。」
「…そうか。馬鹿にしているんだな。」
ダンテの軽口に、武蔵は本気でパンチを繰り出そうと、右手を振りかぶっていた。それを見たダンテが、ニヤついた笑顔を浮かべながら、両手を横に広げた。
「…ふんっ!!」
その掛け声とともに、武蔵はパンチを繰り出す。艤装をつけているため、速度はボクサー並みで、それに比例して威力も申し分ないほどである。
だが、ダンテはその右手を凝視しながら、それを軽く体を翻すことで回避した。
「!…」
武蔵はそのダンテを見て、かなり驚いた表情を浮かべた。並の人間では、今のパンチを避けることはできないはずだ。せいぜい、ガードで受けるのが精いっぱいだろう。だが、それを繰り出された瞬間に見切り、回避することができるこの男は何者なのだろうか、と。
「…Ha-ha!手が早い女ってのも嫌いじゃないぜ?」
ダンテはそう言いながら、武蔵の方に楽しそうな笑顔を向けていた。武蔵はその表情を見て、しばらく呆気にとられていた。ダンテのいかにも余裕綽々といった表情を見て、その底知れぬ強さを感じ取っていたのだ。
「ダ、ダンテさん!!」
電が怒ったような口調で、ダンテをとがめる。ダンテはその電の言葉に軽い笑顔で答えた。武蔵は、未だダンテを警戒しており、気を張っていた。ダンテの性格が掴みづらいため、先ほどのパンチへの報復が来てもおかしくないと思ったからである。と、そこに大和の声が入る。
「武蔵!何を考えているのですか!」
大和の声に、ハッとなってそちらを見る。そこには少し怒った表情の大和が立っていた。武蔵は軽くため息をついて、ダンテの方に向き直る。対するダンテは、未だに楽しそうな笑顔のままであった。
「艦娘ってのは、みんなこんな感じに強いのか?」
ダンテはそう言いながら、電の方を見る。電はかなり怒っており、ダンテの質問に答えるか答えないかを迷っていたのだが、仕方ないという表情を浮かべながら、小さくため息をついた。
「…武蔵さんと、大和さんは別格なのです。でも、皆さんも艤装をつけたら、見た目以上には強くなるのです。」
「…ヤマト…か。」
ダンテは、その言葉を誰にも聞こえないほどの大きさでつぶやいた。かつて何度も剣を交えた兄弟と、フォルトナで出会った悪魔の右腕を持つ青年の顔が浮かんでいた。
その間に、電は武蔵と大和に謝罪の意を込めて、礼をした。
「すみません、ダンテさんには私からも言っておくのです。」
「こちらこそ、すみません。武蔵には強く言っておきますので…!」
大和はそう言いながら、そばに立っていた武蔵の頭をつかんで無理やり頭を下げさせた。武蔵は、ぬぐっ…!?と声をあげながら、大和の手を離そうとするが、大和の力の強さに観念したようで、そのまま抵抗をやめた。
「…はぁ…ダンテさん、次のところに行くのです。」
「…
ダンテは電と共に歩いてその場を離れていた。それを、大和は顔をあげて見送る。大和の手の力がなくなったのを察知して、武蔵も顔をあげてダンテの後姿を見る。
赤いコートに、ギターケースを背負った銀髪の男。武蔵はあの赤が頭から離れなくなっていたのであった。
と、思っていたら、隣の大和から本気のげんこつが降ってきた。ダンテに気を取られていたのか、痛みが頭に降り注いでから気づくことになった。
「…痛いじゃないか、大和。」
「当たり前です!生身の人間に、艤装をつけてパンチなどと!!」
大和に対しての武蔵の疑問は、完全に一蹴されてしまった。大和はしばらくガミガミと吠えていたが、その言葉は何一つ武蔵には届いていなかった。
あの男を打倒して、本当の意味で最強になる。それだけが武蔵の頭の中を駆け巡っていたのである。